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今年最高のライヴ体験

今年最高のライヴ体験

黒田隆憲×小林祐介(THE NOVEMBERS)、“マイブラ”来日レポート対談

@ DOMMUNELIVE PREMIUM "NEW TRACKS"「my bloody valentine - World Premium Live with 相対性理論」東京国際フォーラムホールA

黒田隆憲、小林祐介  取材・構成:橋元優歩 Dec 25,2013 UP

キャリア総決算、そして新しい章へ

今回の公演が、言ってみれば「ラヴレス・ツアー」というか、90年代からやりたくてやれなかったことを、ようやくほぼ十全なかたちでやれるようになった、その総決算というようなものになったんじゃないかと感じますね。(黒田)

さて、つねにこの前のような環境でライヴができるわけではないと思いますが、たとえば90年代のマイブラはそういう設備の問題について不満に思ったりしていたんでしょうかね?

黒田:それはすごく言ってますね。当時はぜんぜん納得がいかなくて、ようやくよくなってきたと。再始動していちばんはじめについたエンジニアも、マイケル・ブレナンという、プライマル・スクリームとかザ・キュアーとかをやっている人なので、彼とだったらうまくいくだろうと思ったみたいですね。先ほどのアンプとかエフェクターを切り替えるシステムみたいなものについても、ああいうものを作れるマイク・ヒルというエンジニアがいて、その人にエフェクターのシステムを組んでもらったと言ってました。ギャラがすごい高額だそうですが。

では、スタイルは変わらないながらも、ひとつの理想のかたちへとどんどん近づいているということなんでしょうね。

黒田:たぶん90年代の時点で、ケヴィンには何をやりたいのかといったヴィジョンがはっきりあったんだと思います。ただ、技術もサウンド面もそこに追いついていなかったのが、ようやくいま納得のいくかたちが見えてくるようになったと。

小林:その理想のヴィジョンみたいなものが持てるということがすごいと思います。

小林さんは同じアーティストとしての視線で見ていらっしゃる部分もあるかと思いますが、いかがですか。

小林:もちろんです。単純に、畏敬の念を改めて抱いたと言うに尽きますね。音楽を作っている人、いない人に関わらず感じることだとは思うんですが、たとえば先ほどのキメの話。精度の高い音楽とされているものの条件として、リズム――どれだけそれが正確無比なものであるか、整えられているかというような価値観があるかと思うんですが、僕はそういうこととは別のところに美点を見たり、執念を燃やしたりしているんです。その意味で、音楽について自分たちなりの基準やセオリーは持っていたし、いい意味で時代に合うような部分もあったのですが、一回そこから洗い直そうかなというきっかけになったのがこのライヴでした。それが数値化できる良さ/悪さなのだったとしたら、いちど捨ててみようって。現象として、実際に目の前の空気を震わせること……メロディがいいから感動するとかって次元じゃないじゃないですか、マイブラって。イヤホンだとどうしても無理な体験だったし、CDとかの音源自体の価値が問われているときに、現場でできることっていうのは、そういう体験をどこまで特別にできるかってことだと思っていて。その特別さっていうことにおいては、昔からケヴィンのやっていることはずば抜けているわけだから、本当にすごいなって感じます。すごいな、というか、それは自分のためなんでしょうけれど。自分のためだからこそここまでできる。

黒田:そうですね。

近年のライヴのなかで比較すると、この間の公演をどのように位置づけておられますか?

黒田:まず今回は、新作をどのくらいやるのかというところをすごく楽しみにしていました。〈TOKYO ROCKS〉が中止になってしまいましたが、ケヴィンは2月の時点で、そこで新曲を5曲やりたいって言ってたんですね。それを心待ちにしていたので残念だったのですが、その分、DOMMUNEでは新曲をいくつかやってくれるんだろうなって思っていました。なので“フー・シーズ・ユー”が聴けたのはすごくよかったです。

ファンとしてのすごくリアルなご感想ですね!

黒田:(笑)もちろんファンとしてですよ、ことマイブラに関しては。「まっさらな新曲をやる」というアナウンスが事前にされていたようなんですが、ケヴィン自身はもともとそのつもりがなかったようなので、ファンがガッカリするんじゃないかと気にしていたみたいですね。
 ライヴの位置づけとしては、どうですかね。来月からの北米ツアーで、一旦ライヴは終わりになって、それからニュー・シングルを作るベクトルに向かうことになると思います。そういう意味では、今回の公演が、言ってみれば「ラヴレス・ツアー」というか、90年代からやりたくてやれなかったことを、ようやくほぼ十全なかたちでやれるようになった、その総決算というようなものになったんじゃないかと感じますね。次、本当にまっさらな新曲がでてきたときには、もしかしたらシステムとかを全部洗い直したまったく別のステージになったりしているかもしれませんよね。またまったく同じものかもしれませんけどね(笑)。

そうか、新作に対してはすごく意欲を燃やしてるってことですね。

黒田:すごいありますね。2、3ヶ月くらい前ですかね、ケヴィンがアイルランドへ引っ越したんです。牧場みたいなところで、鹿が住んでいるような環境なんですけど、そこの納屋を改造してスタジオを作って、録音をしようと思っているみたいです。

シガー・ロスもアヒルとか牛とかが悠々と歩いている森のなかにスタジオを構えているみたいですね。今年の新作はどのように聴かれました?


メロディ自体は96年くらいから頭にあったらしいです。(黒田)

小林:僕はフリーティング・ジョイズとかアストロ・ブライトとか、マイブラ・フォロワーの作品にも興味があって聴いていたんですけど、聴くたびに「研究してるなあ」って思っていました。だからマイブラがマイブラ・フォロワーみたいな新譜を作ったらちょっとがっかりしちゃうなあって。あと、妙にいまっぽい曲とかだったらいやだなあとも思っていました。けれど、実際には仙人というか、何も変わらなくて……いや、変わらないというよりは継続しているという感じでしょうか。それがすごいなあと思いました。

黒田:『ラヴレス』の延長で聴かれました?

小林:感じないこともないですけど、どちらかといえばソング寄りというか。

黒田:曲が際立っている感じがありましたよね。

小林:そうですね。それで言えば、ライヴでもヴォーカルの音量がすごく小さいのは意図的なものなのかなと思って。人って、人の声や歌に耳を向ける習性があると思うんですけど、小さければ小さいほど耳を澄ませますよね。僕は耳を澄まさないですむ音楽ほど人の注意をひかないものはないと思っているんです。その点、マイブラは轟音なんだけど、耳を澄まさなきゃいけない。

なるほど、轟音のパラドクスといいますか。

小林:何かが大きいということは、相対的に何かが小さいということとイコールなわけですよね。歌をどう捉えているかというのは本人じゃないからわからないんですけど、彼らの歌や音楽に対しては、どちらかというと僕はきちっと座って、きき耳を立てて聴く感じです。


マイブラは轟音なんだけど、耳を澄まさなきゃいけない。(小林)

黒田:メロディを大切にしているなというのは以前から感じていたし、今回も感じましたね。

新譜を出すにあたって、このタイミングというのは自然なものだったんでしょうかね。自分たちのなかで納得のいくかたちになったのがたまたまいまだったというような。

黒田:もともと作っていたのはかなり前からみたいですね。メロディ自体は96年くらいから頭にあったらしいです(笑)。

(一同笑)

黒田:ギターだけだったりとか、断片としては音源が存在していたということで、そのままボツになっていたんだけど、2006年にリマスターのプロジェクトがはじまって――あれ自体が10年ほどかかっているわけですよね――、当時のマルチ・テープとかを聴き直しているときに、その素材を久しぶりに見つけて、けっこういいなと感じたらしいです。それで、頭のなかにメロディも残っているし、この素材を使って何か新しいものができるなと思って作りはじめたのが2010年くらいということのようですね。ほんとに10年越しでようやくできた作品。

小林:へえー。

黒田:それを全部吐き出して、これから作るものが本当の意味で新しい書き下ろしになるっていう。

小林:そうなんですね!

黒田:ケヴィンの脳内の筋書きでは(笑)。


ペダル・フェティシズム

小林:“ユー・メイド・ミー・リアライズ”でゴーっと轟音が押し寄せた後に、もう一段階レンジが広がったなっていう瞬間があって、そのとき踏んだのがたぶんこれじゃないかな。ワーミー。低いドから高いドに上げるっていうような移動ができるものなんです。大気がひとつ動く。さっきまで耳のなかが中低域までで飽和していたのに、次の瞬間、急に高音域を感じるので、音量は変わらないけど「うわっ」ってなるんですよ。一段階上に上がったっていう感じ。

光量が一気に増したような瞬間がありましたね。ペダルへのこだわりというのはあると思いますが、必ずしもフェティシズムに結びつかない気もします。

黒田:でも相当なペダル・フェチですよ。来日するたびに御茶ノ水に行って、缶詰を買うようにペダルをカゴに入れているらしいです(笑)。

小林:ははは。写真の中にも(※)見たことないようなやつがいっぱいありますね。

   ※使用しているペダルの写真を見ながら

黒田:倍音みたいなことは相当考えているんでしょうね。トーン・ペダルっていうか、EQもいっぱい使っているし。

小林:これなんかもアナログ・ディレイだと思うんですけど……、あっ、しかも改造してますね。

黒田:そう、ピート・コーニッシュのやつもけっこう使ってますね。このへんはビッグ・マフの――

小林:トライアングルですね。あとはこのルーパーが気になるというか。何のあたりで使ってるんでしょうね。

黒田:何でしょうね? でも“オンリー・シャロウ”とかループっぽいことをけっこうやってるみたいなんですよね。そのへんかな。……それからこれ。「シューゲイザー」があります(笑)。

小林:このエフェクターもちょっと話題になりましたよね。ケヴィン本人が使っているというのがいいですね(笑)。示唆的というか。

“ユー・メイド・ミー・リアライズ”でゴーっと轟音が押し寄せた後に、もう一段階レンジが広がったなっていう瞬間があって、そのとき踏んだのがたぶんこれじゃないかな。ワーミー。(小林)

小林:ビリンダが使っているものも気になります。……彼女は本当に変わらないというか、ずっと美しいですよね。

黒田:ほんとにね(笑)。

小林:お客さんが「ビリンダー!」って叫んでましたよ。

黒田:ビリンダ・コールがすごかったですね。Tシャツも売ってましたよ、ビリンダの。……それで、これが彼女のセッティングなんですが。

小林:オクターバーありますね、やっぱり。

黒田:それから、マイブラはベースのエフェクターもいっぱい使ってるんですよ。

小林:あ、うちのベースが使ってるやつもありますね。

詳しくないんですが、ベースって一般的にそんなにエフェクターを使うものなんですか?

黒田:こんなに使うベースは珍しいですよね。しかもパッチが組んであって。

へえー。ベースの場合、耳でちゃんとその差がわかります?

黒田:ケヴィンはたぶん完全に聴き取れているんでしょうけど。でも、ライヴを観ていてよかったのは、デビーのベースが素晴らしかったことですね。

小林:デビー、いいですよね……。

黒田:かなドライヴ感があって、曲を引っ張っているのがわかりましたね。しかも、プライマル・スクリームに一回入ったじゃないですか。

小林:あ、そうですよね。

黒田:あれでまた一段階、グルーヴが増した気がします。

小林:デビーはデビーで、弦を弾く位置を変えたりとか、いろいろやってますよね。それによってより低音を出したりできるんですが、ケヴィンに合わせているのか曲に合わせているのか、とにかくいろんな工夫をしているのがわかりました。目からウロコというか、ますます「適当じゃない」ってことがわかりましたね。

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