Home > Columns > 今年最高のライヴ体験- 黒田隆憲×小林祐介(THE NOVEMBERS)、“マイブラ”来日レポート対談
黒田隆憲、小林祐介 取材・構成:橋元優歩 Dec 25,2013 UP
“オンリー・シャロウ”、カヴァー秘話
小林:バンドマン目線でいちばんグッときたのはじつはドラムで。ひとりだけちょっとハード・ロック臭がするというか(笑)、毎回同じ位置にタム回しが入ってシンバルが入って……って、ほんと一発芸みたいな感じもあるんですけど、すごく一生懸命。見ていてすごく上がるというか、無気力なふたりのルックスとの対比が凄まじいんです(笑)。
黒田:はははは。
小林:いちばんがんばっているというか。
黒田:あと、フジロックからはサポートの女の子を連れて来日してますが、ジェーン・マルコという人で、グレアム・コクソンのツアーのサポートとかもやっていた子なんです。彼女が入ったことで、ほんとにギターの厚みが出せるようになりましたね。
以前はテープの音に重ねたりもしていたんですよ。たとえば“オンリー・シャロウ”なんてギターが相当重なっているので、ケヴィンとビリンダだけでは出せなくて、テープでギターの音を出したりしていたようなんです。それがケヴィンは相当嫌だったらしくて。ジェーン・マルコが入ったことで、そのあたりのパフォーマンスがすごく上がったんじゃないかな。
■サポートというだけなら、これまでにも入れられそうなものですが……?
黒田:97年のときには、「♪テーレーレッ、テーレーレー……」っていうところ(“アイ・オンリー・セッド”)や“ホエン・ユー・スリープ”のシンセなんかはフルート奏者が吹いてたんですよ。
小林:ええー、それもすごい(笑)。
黒田:なんか、違和感がありまくりでした(笑)。
の音に重ねたりもしていたんですよ。たとえば“オンリー・シャロウ”なんてギターが相当重なっているので、ケヴィンとビリンダだけでは出せなくて、テープでギターの音を出したりしていたようなんです。(黒田)
小林:僕、“オンリー・シャロウ”は、〈ジャパン・ジャム〉っていうイヴェントでプラスティック・トゥリーの有村(竜太朗)さんと、ディップのヤマジ(カズヒデ)さんを招いて、ノーヴェンバーズでカヴァーしたことがあるんですよ。
黒田:へえー。
小林:やっぱりギターが4人になったおかげで、あの曲がわりと再現できたんじゃないかなと思うんです。エフェクトとかも工夫して。あの曲の代名詞になっているともいえる、「ギュイーン」っていう音がありますよね? あれって逆再生のリヴァーヴで、自分としては必要不可欠な要素だと思って聴いていたんですよ。それが、この前のライヴではその逆再生要素がなかった。「ギュイーン」っていうのを2~3パターン使い分けて弾いていただけだったんです。僕はそれが本当に衝撃でした。それでショボくなっていなくて。むしろ、まさに倍音というか、鋼の音がヒリヒリいいながら立ち上がってくるような感じを生で出す凄みがあったんですね。だから、そういうイメージをCDとしてパッケージングするにあたって逆再生のようなギミックが必要だったというだけで、本来のイメージはあのライヴのようなかたちだったのかなと思いました。歪んだギターで「ギュイーン」ってやるだけなら、ふつうに高校生でもできることなんですけど、音像がああいうふうになっただけでまったく感じ方が違うというか。あれはすごいことです。僕たちもただ歪ませただけのパターンもやってみたんですが、それだとほんとにショボいというか、ただの「熱いロック」になって終わってしまうんですよね。そのへんの塩梅が、彼らはとにかく素晴らしいということを実感しました。
あの曲の代名詞になっているともいえる、「ギュイーン」っていう音がありますよね? あれって逆再生のリヴァーヴで、自分としては必要不可欠な要素だと思って聴いていたんですよ。(小林)
小林:あとはアコギの使い方が常軌を逸してますよね。なんでアコギなんか持つんだろう? っていう感じなんですけど、ああ、なるほど、これがあの独特の倍音感を生むのかって納得させられることがすごく多かったです。アコギを繊細に鳴らしたり、フォーキーに用いる人はいくらでも知ってるんですけど、ああいう音像にする人というのはちょっと……。だから無国籍な感じがするというか、非民族的なものに感じる瞬間がありました。
黒田:変則チューニングのせいもありますかね。
小林:あ、そうですね。やたら持ち替えてましたしね、ギター。
黒田:1曲ごとにね(笑)。
■4人でカヴァーされたときは、音のつくり方については耳だけで研究吟味したわけですか?
小林:最初は安直な感じで、ネットで誰か再現していないか探したんです。けっこう動画が上がってたんですけど、でもみんなバックのコード弾きだけで、「ギュイーン」を誰もやっていないんですよ。譜面もいろいろ探したんですけど、結局エフェクターが決まってないと、探したって仕方ないよってことになりまして。それでさんざん調整した挙句に行き着いたのが、逆再生のリヴァーブにオクターブを足したりっていうやり方だったんです。でもさっき言ったように、この間のライヴを観るとイメージしていたものがむしろ逆だったので、CDに限界があっただけなのかもしれません。
黒田:真似をするにも、「ああでもないこうでもない」ってやりがいがあるわけですね。
小林:ほんとにそうですよね。
黒田:忠実に再現できなかったとしても、そうやっている過程自体が楽しそうですよね。そのうちに、自分たちで新しい音を見つけちゃったりするかもしれないですし。そのへんがやっぱり、たくさんのアーティストに影響を与えたり、インスパイアさせる要因になっているんじゃないですかね。
■大きななぞかけですね。それを解いていくことが新たな創作にもつながるというような。たしかに消費されるバンドという感じがまったくしてこないですからね。
小林:消費しようにもしきれないですね(笑)。
黒田:本人はぜんぜん秘密主義でもなんでもなくて、写真もたくさん撮らせてくれました。だけど、同じものを揃えてやってみても、絶対に同じ音は出せないと思っているのかもしれませんね。秘密主義ではないけれどミステリアスなことが多すぎるから、いろんな解釈ができます。
■だから、「歳とっちゃったけどがんばってやってるね」って感じにはぜんぜんならないですよね。
小林:そうですね。
人はなぜ轟音に惹かれるのか
もしかしたら子宮の中っていうのはこんな感じなのかな、とか。(黒田)
■そして、たくさんのフォロワーがそこから生まれてもくるわけですが、いまなお「シューゲイザー」なるジャンルは強固に存在して、新しい才能を生んだりもしていますね。脈々と絶えることなく存在している印象もありますが、大きなリヴァイヴァルがどこかのタイミングであったと認識されていますか?
小林:ニューゲイザーっていう言葉が一時期ありましたね。
■ありましたね(笑)。無理くりですけども。ただ、それはかなり近年のことになります。その根元にあたるような動き・タイミングとしては、何か記憶されていますか?
黒田:そうですね、〈モール・ミュージック〉からスロウダイヴのトリビュート・アルバム『ブルー・スカイド・アン・クリア(Blue Skied an Clear)』が出たのが02年で、そのあたりはひとつ考えられますね。ウルリッヒ・シュナウスとかマニュアルとかが参加していて、エレクトロニカ周辺の人たちが、音響的にシューゲイザーを見直すみたいな流れがあったと思います。そのあたりから「ニューゲイザー」と呼ばれるようなものが出てきたんじゃないでしょうか。マイブラが再始動した2008年くらいには、ディアハンターとかTV・オン・ザ・レディオとか、ザ・ナショナルとかが、マイブラやシューゲイザーから影響を受けたということをすごく言ってましたね。そういう流れもある。あとは、ペインズ・オブ・ビーイング・ピュア・アット・ハートも初期マイブラの影響を受けていますよね。
〈モール・ミュージック〉からスロウダイヴのトリビュート・アルバム出たのが02年で、ウルリッヒ・シュナウスとかマニュアルとかが参加していて、エレクトロニカ周辺の人たちが、音響的にシューゲイザーを見直すみたいな流れがあったと思います。(黒田)
■ああ、ギター・ポップ解釈というか。なるほど、たしかに流れはいくつかありますよね。エレクトロニカとの接点というのは、スロウダイヴに鍵があったんですね。
黒田:そうそう。スロウダイヴ自体が、ブライアン・イーノも参加した『ソウヴラキ(SOUVLAKI)』でアンビエントの方向に行ったりとかっていう性格も持っていたので、エレクトロニカ勢も入りやすかったというか、親和性はあったと思います。
■ああ、なるほど。マニュアルがシューゲイザーの棚に入っていたりするのは、一見謎だったりもするんですけどね。
黒田:でもボーズ・オブ・カナダにもマイブラを感じたりしますよ。シンセをレイヤードしていって、空間をぐにゃっと歪めるようなやり方は、すごくマイブラっぽいなと当時から思っていました。
小林:日本だとコールター・オブ・ザ・ディーパーズとかも明言していましたよね。マイブラやりたいとかって。あと、僕は裸のラリーズにも似たようなものを感じるんです。あの人たちも徹底的な轟音のなかでサイケデリックな歌を歌って。
黒田:へえー、なるほどね。
小林:あとはアリエルとかもエレクトロニックとシューゲイザーの接点というところではひとつの価値観を提示していると思います。
■ああ、アリエル。『ザ・バトル・オブ・シーランド』ですかね。
小林:ああ、そうですね。あとはノー・ジョイ。セカンドとかはけっこう好きでした。
■ちょっとドゥーミーな感じが入ってきますね。あっさり括ることはできないんですが、轟音という音や概念そのものに、人々は尽きせぬ興味を抱きつづけていますよね。そういう興味のコアには何があるんだと思いますか?
黒田:何でしょうね。僕もなぜ轟音に惹かれるんだろう、って考えるんですよ。アストロ・ブライトって、“ユー・メイド・ミー・リアライズ”なんかの音像をそのまま引き延ばしたようなバンドなんですけれども、あれを聴いていて思うのは「このなかにいると落ち着くな」ということなんですね。もしかしたら子宮の中っていうのはこんな感じなのかな、とか。
■ああー。『ラヴレス』のジャケットとかだと、赤ちゃんのエコー写真と似ている気もしなくはないですね。
経験がどれだけ豊富になっていったとしても、轟音って知識の寡多に関係がないというか。(小林)
小林:たしかに、とてもプリミティヴなものだと言われればそうであるような気もします。赤ちゃんって、まだ感覚が未分化で、知識や経験がない状態ですよね。で、経験がどれだけ豊富になっていったとしても、轟音って知識の寡多に関係がないというか。浴びせられるものはみな同じで、同じようにそれを感じると思うんです。メロディとかは経験や知識によるけれど。
黒田:たしかに、「いいメロディ」を感じさせるのはある程度教育によるものでしょうね。
小林:民族によってはメロディの概念がないと言いますし、ドレミもないわけじゃないですか。太鼓の音とピアノの音がいっしょに聴こえるというふうな話を聞いたことがありますね。でも轟音っていうようなことに対しては、もう先天的なものとして人間のなかに感度があるんじゃないかって思います。だから子宮の中というイメージは腑に落ちますね。
黒田:アートスクールの木下(理樹)くんが言っていたんですが、シューゲイザーというのは「どこが終わりで始まりなのかわからない、泥の海に呑まれていくような、時間が麻痺した感覚」だと。そこに人間の死と近いものを感じると。たしかに、轟音が鳴っているという状態はそこにイントロもアウトロも必要としない場所が生まれているということでもあって、そのなかにいると時間の感覚なんかも奪われていくと思うんです。その気持ちよさもあるのかと思いました。
小林:ああ、わかります。まさに忘我というか。ゴーってうるさいはずなのに、聴いているうちにむしろ静かに感じられたりしますよね。
黒田:落ち着いてきたりする感じはありますよね。
小林:それで、鳴りやんで人の声が聞こえ出すと、何か鳴ってるなって初めて気づくんです。
■あの日、ラストのあたりはほとんど無音に感じられる時間がありましたよね。極点を通過しちゃって。
マイブラという規格外のサイズ感
一貫してるんですけど、自然体というか。変に神話に近づこうと意識するわけでもなくて、そこがいいですよね。(小林)
■他に気のつかれた点はありますか?
黒田:映像が少しアップデートされてましたね。CGが付いたりして。より抽象的になって、とてもいいと思いました。前は雲とか木の映像なんかを使っていたんですが、そういう具象性が崩れていて、それがサウンドに合っているなと感じました。いくつかの映像はコルムが自分でHi8のカメラを回して作っているようですね。
■映像面でのこだわりというか、とくに制作を任せているような監督やクリエイターがいるわけでもなさそうですよね。有名映画監督と絡むとかってこともなく。
黒田:スタッフとコルムでやっているみたいですよ。本当に、ケヴィンってD.I.Y.というか。
■小林さんはいかがでした?
小林:映像は……ポケモン・ショックみたいな感じで(笑)。
(一同笑)
黒田:照明もすごかったですからね。
小林:すごかったですね。僕はマイブラを生で観るのが初めてだったんです。しかもいちばん前で。
黒田:いいですね。初めての体験というのはすごく大事ですからね。
小林:自分が感動しているのを自分が置いてけぼりにしているというか。初めて観たという意味での感動というひいき目も入ると思うんですが、あの日に関しては圧倒的に打ちのめされるというか。本当にやばかったです。帰り道、乗り換えがうまくできなかったりとか(笑)。
黒田:はははは。ぼーっとしちゃって。
小林:本当に。モチヴェーションはすごく上がっているのに、何も手につかないというか。曲も手をつけられないし、「今日はまあ寝るか」みたいな日がつづいて……。
■けっこうな体験でしたよねえ。さて、音楽以外のところでもうちょっと素朴な感想もうかがってみたいと思います。今日は彼らの「変わらなさ」についての話にひとつ焦点がありましたが、黒田さんはずーっと観てこられて、年月が経ったと感じられたところはありますか。
黒田:ケヴィンが太ったっていうことですかね。しばらく前に一回痩せてましたけど、ちょっとリバウンドしてますね。ギターがお腹の上に乗っかっちゃってた(笑)。それ以外は全部昔のままだと思います。ビリンダもきれいだし。
小林:あはは。僕は、アー写がずっと更新されていないので、わりとそのままのイメージを持っていました(笑)。ビリンダは変わらないですけど、ケヴィンは週末のお父さんみたいな雰囲気がありましたね。自分の中では、ロバート・スミスとの対比でもおもしろく感じました。(ザ・)キュアーも好きなんです。いくら歳をとってもスタイルとしてブレないロバート・スミス……。ケヴィンも一貫してるんですけど、自然体というか。変に神話に近づこうと意識するわけでもなくて、そこがいいですよね。
黒田:そうですね。
なんというか、時間の感覚がほんとにおかしいっていうだけで。(黒田)
■小林さんは、ライヴは初めてだけれど、いちど彼らを間近に見ているんですよね?
小林:はい、渋谷の〈TRUMP ROOM〉っていうところのイヴェントに、新木場の公演(2013年2月)を終えた一行が現れて。僕もそのとき遊びに行っていたので、うわーっ! て感激しました。でも、きっとケヴィンとすれ違ったりしていたと思うんですけど、何しろアー写のイメージなので、気づいていなかったかもしれないですね。
黒田:はははは。あのときは本当にもみくちゃになってましたね。
小林:写真撮って! って殺到していましたね。
黒田:でも、そういうのをぜんぜん断らないですよね、ケヴィンって。新木場のライヴが終わった後、出待ちの人が30人くらいいたのかな。寒いなかみんな待っていたからという事情もあったとは思いますけど、ちゃんと車を停めさせて、全員にサインをしてましたね。ライヴで疲れてはいたでしょうけど、ぜんぜんそういうことを気にしない。
■なんとなく、狷介なのかなという先入観がありましたけれど。
黒田:ねえ? ちょっと気難しいのかなというようなイメージはありますよね。
小林:僕もそんなイメージでしたね。
■「スーン」としか言わない、みたいな(笑)。
小林:新譜も、出す出す詐欺みたいな(笑)。
黒田:ははは。そうですよね、なんというか、時間の感覚がほんとにおかしいっていうだけで。締切の概念が一切ないとか。
小林:なるほど。
■ははは。時間の感覚ということになると、今日お話されていたような音の奥の空間性というトピックと重なるところがありますね。
黒田:はじまりと終わりがないという(笑)。
小林:彼に比べたら、僕らは日々の生活を秒針を見守るように生きているのかもしれませんね。
黒田さんのマイブラ本が2月に!
続報を待とう!