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Columns

“玉之丞ウィンク”に気をつけろ!

“玉之丞ウィンク”に気をつけろ!

──ドラマ『猫侍』によせた、漫画家岡田屋鉄蔵からの熱いイラスト・レヴュー

文、イラスト:岡田屋鉄蔵 Mar 07,2014 UP

劇場版も絶賛公開中。ドラマ『猫侍』に惚れ込んだ岡田屋鉄蔵が、“浪人斑目久太郎(北村一輝)”と“怪猫玉之丞”を活写する! 猫好きの目と筆は本作をどうとらえるのか。そして、この北村一輝が……すごい!

岡田屋鉄蔵
2007年「タンゴの男」(宙出版)でデビュー。2010年奇譚時代劇『千』(白泉社)発表後、時代劇ジャンルに活動の場を広げる。2011年、歌川国芳一門を題材にした『ひらひら国芳一門浮世譚』(太田出版)を発表、文化庁メディア芸術祭推薦作品に選出され評判を得る。現在『口入屋兇次』(集英社)『無尽-伊庭八郎伝』(少年画報社)『むつのはな』(太田出版)を同時連載中

 幕末の江戸、主人公である元加賀藩剣術指南役斑目久太郎は、剣の道をひたすら追い求め、その凄まじい太刀筋から「まだら鬼」の異名を取る剣豪であった。ゆえあって役を解かれ、いまは浪人となり江戸で仕官先を探す毎日。しかし戦国時代ならいざ知らず、泰平の世にあって剣の腕だけで雇い入れる藩もなく。ツテもコネもない上に愛想笑いの一つもできない愚直で無骨ですこぶる強面な斑目久太郎。必死の就職活動も空しく、気づけば絵に描いたような貧乏浪人に。内職でもして当座をしのげばよいものの元剣術指南役のプライドが邪魔をする。まるでリストラされた潰しの利かないサラリーマン。ああ生きるのに不器用な男の悲哀はいつの世でも変わらない。

 さて、斑目は困っていた。半年溜めた家賃を今月中に払わなければ長屋を出て行ってもらうと大家から宣告されていたのだ。いよいよ住む家すら無くなる危機に。無宿人となっては洒落にならん、なんとか金を調達しなければと焦る斑目。そこへ奇妙な依頼が舞い込む。依頼人は大店の番頭佐吉と名乗る男。店の主人与左衛門が玉之丞と言う魔性の猫に取り付かれ魂を抜き取られている、主人を助けるためにこの猫を成敗してほしいと言うのだ。猫を斬るなど侍のやることではないと断る斑目に、相手は化猫、ただの猫にあらず、立派な侍の仕事だと佐吉は必死に食い下がる。尋常ではない佐吉の様子、加えて報酬は金三両。気乗りはしないが金のためと斑目は化猫退治を引き受ける。佐吉の手引きで深夜の大店に忍び込み、化猫玉之丞の部屋へと向かう。豪奢な部屋の真ん中に絹の座布団で鎮座まします玉之丞、後ろからエイと斬り込むその瞬間、玉之丞が振り向いた。

 大きく愛らしい目が斑目を捉え、鈴のように軽やかにニャーンと一声。
 斑目の動きが止まる。

©岡田屋鉄蔵

 ……というところまでをYoutubeの予告動画で観た。昨今珍しい娯楽時代劇。加えて北村一輝の浪人姿。とどめは主演の玉之丞。これは観なければならんドラマだ、とゴーストが囁いた。直感とも言う。第六感か。何でもいい。ともかく時代劇&猫好きのアンテナにビンビンと引っ掛かったのだ。だがまだ油断はならない。「萌え」とか言うてるしな。猫が歩く度に「ぷきゅっぷきゅっ」とか妙な効果音ついたりしないとも限らん。甲高い声で人語喋るやも知れん。おまけに語尾が「~にゃん」だったりしたら目も当てられん。正直わたしはその手の動物ドラマが苦手なのだ。とくに猫はいかん。猫は猫のままでいい。愛らしさを強調する必要などないのだ。すでに完璧なものに何かを足すのは蛇足というものだ。猫の考えていることなど人にゃ分からんし分からなくていいのだ。妙な効果で可愛いアピールされたらいっそ白ける。どうかそれだけは止めてくれ。重度の猫好きなら誰もが思うであろうが普通の人にはどうでもいい期待と不安を抱いて第一話放映を待った。

 放映初日、まずオープニングで「おお!」と思った。格好いい。歌詞の土臭さ、そしてイントロに使われているズルナ(なのだろうか?)の独特な響きが、現代的でありながら地に足のついた演出を感じさせ時代劇とうまく噛み合っている。これぞ娯楽時代劇! という感じだ。そして途中途中で挟まれる玉之丞&斑目画像の犯罪的な愛らしさ。この時点で床を転げまわった。期待が高まる。高まり、高まって、そのままエンディングまで一気に視聴。そして確信した。これは猫好きによる猫好きのためのドラマだ。

©岡田屋鉄蔵

 懸念材料だったアテレコも効果音もなく、画面の玉之丞は気侭にフリーダム。自然体でありながらどのシーンもこれでもかと猫好きのツボを突いてくる。昔、サーカスの調教師から猫を調教するのは相当難しいと聞いたことがある。とすると、さらっと流しているあのカットもこのカットも現場の努力と忍耐のたまものか。特筆したいのはオープニングと第2話に出てくる玉之丞ウィンク。抱き上げた斑目と目があった時に玉之丞がゆっくりとウィンクするこのカット。一体どうやって撮ったのか。奇跡としか言いようがない。画面の前で魂を抜かれ与左衛門化した視聴者はわたしだけではないはずだ。たまらぬ。

 全話を通して、猫飼いなら頷かずにはいられない猫あるある満載なのも制作側の猫愛を感じ「分かってらっしゃる…!」と言わざるを得ない。布団で小便、留守中の悪戯、蚤の洗礼、口に合わなければ腹ペコでも食わないグルメ舌……などなど、斑目が玉之丞に翻弄される姿にいちいち「あるある」と頬が緩む。ちなみに玉之丞は三猫一役で撮っているそうで、あなご(メイン、くりくりの大きなブルー・グリーンの瞳)、さくら(鼻筋が通ったゴールドの瞳)、大人さくら(最年長、動じない貫禄演技とまろやかボディ)がそれぞれ場面にあった役をこなしているとか。どの場面がどの猫なのかを当てるという楽しみ方もできる。

©岡田屋鉄蔵

 さて、ココまで書いて猫語りしかしていないことに気づいた。内容についても触れておこう。コメディベースではあるが、コメディだからという甘えはなく至極真面目に作られた作品だ。何より制作側の熱意と情熱を感じさせ観ていてわくわくする。「萌え」が売りの作品は少しでも制作側の「こういうの好きなんだろ? ほらヨ」的な傲慢さが見えると萎えてしまうのだが、猫侍は最後まで楽しめた。面白いものを作ろう、楽しませようという制作側の熱気と遊び心が、オープニング、エンディング、予告、アイキャッチにいたるまで行き渡っている。

 時折差し込まれる現代的要素や横文字は計算されたギャグなので素直にクスリと笑えるし、そもそも娯楽時代劇に「時代考証ガー」などと突っ込みを入れるのは野暮というもの。視聴者に斑目の心の声が聞こえるという手法は漫画的だが嫌いではない。時代劇では珍しいので最初は驚いたが慣れると斑目の意外と怖がりで俗っぽい心の声が楽しくなる。同時に、元剣術指南役の凄腕剣豪という遠い存在が、「うちの駄目なお父さん」くらい身近な存在になりぐっと感情移入しやすくなるのだ。悪を裁く闇のヒーローがいるでもなく、将軍のご落胤が暴れるわけでも陰謀渦巻くわけでもなく、極悪人も聖人君子も出てこない。登場するキャラクターは誰もが人間的で当たり前で、地に足がついている。「基本的にみな根はいい奴」というファンタジーを嫌味なく描いているのは素晴らしいと思う。最終的にはどのキャラクターも嫌いになれないのだ。斑目を執拗に狙う水責めの政や、仕官の道を故意に閉ざしたかつてのライバル内藤勘兵衛、さらには不良武士蜂谷孫三郎ですら、最後はなんだか憎めない。トラブルを巻き起こした番頭佐吉も気持ち悪い男だな……だったのが「お前、しっかり幸せになれよ!」とエールを送りたい相手になっている(ところでこの佐吉役水澤紳吾の演技がべらぼうに上手い、視聴時にはぜひ注目していただきたい。最終3話はその迫真の演技にぐいぐい引き込まれるだろう)。

©岡田屋鉄蔵

 気侭な玉之丞と生活するうちに、武士として父として男して「あらねば」「あるべきだ」にがんじがらめだった斑目が、憑き物が落ちたようにホッと肩の力を抜けるようになった。観る人にも同じように心地よい脱力と爽やかな癒しを与えてくれる、それが猫侍ワールドだ。1話20分程度という長さもいい。現代社会の荒波を泳ぎ疲れた夜はちょっとだけ夜更かしして猫侍の世界に癒されてみてはどうだろう。第1話で嵌った人はその週末は空けておくといいかもしれない。我慢できず全話一気視聴からのリピート再生ルートをたどると思われる。

©岡田屋鉄蔵

 放映終了からペットロスならぬ玉之丞ロスに悩まされた人にとっては、待ちに待ったDVD発売。(BDが出なかったのが返す返すも残念だがDVDの売り上げ次第ではまだ出るチャンスが残っていると信じている)玉之丞関連書籍も続々発売。猫好きならば手に入れて損はない。いますぐ本屋へGOだ。そして今月ついに劇場版も公開された。ドラマ版に負けない素晴らしいキャスト、音楽、そして大画面の玉之丞&斑目! 萌えるもよし、癒されるもよし。こちらもリピート間違いないので手前の懐が少々不安だが気にしない!


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劇場版も現在公開中

全国15局ネット、BSフジ、ひかりTV、スターキャットなどで放送中の、猫好き、動物好きの枠を超えて評判を呼んでいる連続ドラマ『猫侍』が、全編撮り下ろしのオリジナル・ストーリーで映画化。絶賛公開中だ。
主演は、たしかな演技力と強烈な個性を併せ持つ実力派・北村一輝。映画版オリジナルのキャストとしてヒロインに蓮佛美沙子、敵役に寺脇康文を配し、〈EDO WONDERLAND日光江戸村〉の全面協力によりリアリティ溢れる日本最大級の江戸の街並みの中で全編を撮影。『ねこタクシー』『幼獣マメシバ』『くろねこルーシー』の製作チームが“笑い”と“癒し”で贈る剣客ムービー。

公式サイト 
http://nekozamurai.info/


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