ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. interview with Larry Heard 社会にはつねに問題がある、だから私は音楽に美を吹き込む | ラリー・ハード、来日直前インタヴュー
  2. The Jesus And Mary Chain - Glasgow Eyes | ジーザス・アンド・メリー・チェイン
  3. 橋元優歩
  4. Beyoncé - Cowboy Carter | ビヨンセ
  5. interview with Keiji Haino 灰野敬二 インタヴュー抜粋シリーズ 第2回
  6. CAN ——お次はバンドの後期、1977年のライヴをパッケージ!
  7. interview with Martin Terefe (London Brew) 『ビッチェズ・ブリュー』50周年を祝福するセッション | シャバカ・ハッチングス、ヌバイア・ガルシアら12名による白熱の再解釈
  8. Free Soul ──コンピ・シリーズ30周年を記念し30種類のTシャツが発売
  9. interview with Keiji Haino 灰野敬二 インタヴュー抜粋シリーズ 第1回  | 「エレクトリック・ピュアランドと水谷孝」そして「ダムハウス」について
  10. Columns ♯5:いまブルース・スプリングスティーンを聴く
  11. claire rousay ──近年のアンビエントにおける注目株のひとり、クレア・ラウジーの新作は〈スリル・ジョッキー〉から
  12. 壊れかけのテープレコーダーズ - 楽園から遠く離れて | HALF-BROKEN TAPERECORDS
  13. まだ名前のない、日本のポスト・クラウド・ラップの現在地 -
  14. Larry Heard ——シカゴ・ディープ・ハウスの伝説、ラリー・ハード13年ぶりに来日
  15. Jlin - Akoma | ジェイリン
  16. tofubeats ──ハウスに振り切ったEP「NOBODY」がリリース
  17. 『成功したオタク』 -
  18. interview with agraph その“グラフ”は、ミニマル・ミュージックをひらいていく  | アグラフ、牛尾憲輔、電気グルーヴ
  19. Bingo Fury - Bats Feet For A Widow | ビンゴ・フューリー
  20. ソルトバーン -

Home >  Columns > このリミックス・アルバムの印象? 「自分対他」だね- ──砂原良徳、『First Album Remixes』全曲コメント

Special Columns

このリミックス・アルバムの印象? 「自分対他」だね

このリミックス・アルバムの印象? 「自分対他」だね

──砂原良徳、『First Album Remixes』全曲コメント

取材:野田努  写真:小原泰広 Feb 24,2015 UP

 大反響を呼んだ、「対談:トーフビーツ×砂原良徳」に続いて、砂原良徳がリミックス・アルバムの全曲についてコメントしてくれた。90年代世代のヴェテランの耳に、新世代の音響はどのように聴こえているのか。どうぞ、お楽しみ下さい。

アルバムの1曲目は自分(まりん)のリミックスだから、2曲目からいきましょう。

2.populuxe  ― RAMZA Remix


tofubeats
First Album Remixes

WARNER MUSIC JAPAN INC.

J-PopTechnoHouseEDMExperimental

Amazon iTunes

砂原:このひとは日本人なのね?

このひとは日本人だね。

砂原:僕以外は全員が日本人?

spazzkidはフィリピン出身でロサンゼルス在住のひと、ほかは日本人だと思う。で、このRAMZAさんはヒップホップ・シーンのひとですよ。Campanellaとか、日本のアンダーグラウンドのヒップホップ・シーンでは注目されているひとりですね。

砂原:へぇー! ヒップホップなんだ。僕はヒップホップというよりは、それこそ2000年代初頭に話題になっていた、エレクトロニカとかノイズっぽい印象を受けたんだよね。へー、ヒップホップだとは思わなかった。ノイズっぽいなと思ったほどだから。

トーフビーツは、わりとアンダーグラウンドなヒップホップ・シーンのひとにリミックスを依頼しているんだよね。アナログ盤にはブッシュマインドのリミックスが入っているし。

砂原:細かく切り刻んでやっている感じはあるけど、とにかくヒップホップには全然聴こえなかったな。どっちかっていうと、ノイズとテクノな感じ。で、僕は本当に情報がないんだけれども、このなかでは一番日本人っぽくはなかった。海外の同じ世代に頼んだのかな、みたいな。そういう感じがしたかな。で、ヒップホップをやっていてこの音になっているんだったら、自由度は高いと思うな。

実際そうだと思うよ。

砂原:とにかく、僕はこれ(このリミックス)を聴いた瞬間に、自分はドレスコードがあると思ってスーツを着ていったら間違いだったって思った。「スーツ着ていかなくてよかったじゃん!」みたいな(笑)。僕のリミックスがわりとまっとうにやっているからさ。そういう風に思ったことを憶えている(笑)。


3.Come On Honey! feat.新井ひとみ(東京女子流)― spazzkid Remix

砂原:これね! これはやっぱり日本人っぽい。日本人に聴こえたかな。日本のカルチャーをけっこうかじっているのかなって。

ところが、これはさっき言った、LA在住のフィリピン系のspazzkidっていうひとなんだよ。

砂原:へー! でも、どういうのを聴いてどういうことをやってるんだろうね。フィリピン系ってまったく想像がつかないよね。とくにネットにとって国境はよりないものになっているんだろうね。だって僕、これは日本人に聴こえたもん。「こいつは部屋が狭いね」って(笑)。

それはどういうこと? イメージ的に?

砂原:うん。日本人のクリエーターってすっごい狭い部屋に住んでいるイメージがあって、これを聴いたときも全体的なイメージとして、「部屋が狭い」っていうことが一番感じたこと。そういうひとたちってさ、スピーカーが近くにあるんだよね。

なるほどね。

砂原:スピーカーってある程度離して、自分を頂点に三角にして聴かないと音の全体がわからないんだけど、日本人のクリエーターってそこそこ有名なひとでも、スピーカーがめちゃくちゃ近かったりするからね。「そんなにモデルに接近してデッサンができるのかな」って僕は思うんだけど。だから、ヌード・モデルに接近して描いている状態だよね(笑)。

接写している感じ?

砂原:いや、接写っていうか、全体を描くために対象に近づいている感じがして。それは自分以外のリミックス全部に思った。どういう環境でどういうふうにやっているかは全然想像がつかないんだけど、とにかく2曲目、3曲目を聴いて思うのは、僕ら以上に国境や地域性がないんだなっていうこと。あと、カテゴライズも僕らの頃よりも曖昧になってきているんだなって感じる。


4.朝が来るまで終わることのないダンスを ― banvox Remix

先日も話したけど、このひとはEDMでブレイクしてて、UKでも名前が知れてるひとですね。トーフビーツ曰く、もともとヒップホップをやりたい子が、流れでEDMを作るようになったらそれがバカうけしちゃったっていう。

砂原:なるほどね。これも部屋が狭くて、日本人っぽいかなと。日本のオタクだから、クラブじゃなくてネットの方が濃いよね。

ベッドルーム感?

砂原:ベッドルームというか、パソコンのスピーカーとヘッドフォンだね。

まりんの世代でも、みんな最初はスピーカーが近くなかった?

砂原:でも極力離そうと頑張ってやってたけどね。いまのひとよりは遠かったと思う。そういう意識はあったから。僕も最初は自分の部屋でやっていたけど、距離はある程度取っていたよ。でも、いまはすごく近いひとが普通にいるからね。それじゃ音がわからないって僕は思うけど。

なるほど。

砂原:最近の音楽の特徴というか、リスナーの50パーセントがヘッドフォンもしくはイヤフォンかパソコンのスピーカーだよね。普通のスピーカーで聴くことが珍しくなっているし、場所もないし、かつ音楽を聴く時間なんてないのかもね。通勤時間を、よく言えば効率的に使った結果、それがこういうふうになったというか。

なるほどー、環境に応じてミキシングも変化してっていう?

砂原:僕はスピーカーで聴く方が好きなんだよね。ヘッドフォンで聴いていると違う感じになっちゃわないかな。

俺も個人的にはまったくそうなんだよね。

砂原:この間も、エンジニアの益子(樹)さんと話していたんだけど、ここ(耳)にものを入れて聴くことが、人間USBに限りなく近いというか。ファイヤー・ワイヤーとかUSBっていう、それがもう入り口な感じがちょっとしちゃうよね。奇妙だなって思う。

なるほどね。

砂原:僕もしなきゃいけないこともあるんだけどね。クリックが必要なときもあるから。

曲には勢いがあるよね。で、僕が普段聴いている音楽とくらべると、ベースがすごい控え目というか、耳に入ってこないんだよね。

砂原:音の広さがあまりないからね。ベースの周波数は低いから、ある程度の空間がないと効果的に響かないんだよ。エコーにも空間が必要なんだけど、その感じが全然ないな。すごく近くて、狭くて、ちっちゃくて、詰まってて。でもね、それがダメっていうわけじゃないんだよ。このリミックスの全部がそうだよなって感じがする。


5.CAND¥¥¥LAND feat. LIZ ― Pa’s Lam System Remix

神奈川県在住の3人組トラックメイカー。トーフビーツのネット・レーベル仲間だね。彼はこういう人たちをみんなに紹介したいんだよ。

砂原:もとは90年代に流行っていたR&Bとかに近いかったり、あとはドラムンベースっぽかったりとか……。ドラムンベースってなんだかんだ言って残ってるね。ドラムンベースも、もともとはレゲエとかダブからだもんね。

ブレイクビーツだし。

砂原:そういうものもあって、いまだにドラムンベースっぽい独特のテンポの取り方が残っているなって感じがするよ。あとは編集で切り刻んでる。この間思い出したんだけど、アクフェンとかがわりと近かったかな。切り刻んでポピュラーなものにするというか。

でもアクフェンはもっとポップ・アートでしょう?

砂原:そうなんだけど、切り刻んだ形をわっと広げて認知されたのって
あれが大きかったかなって、この前にふと思ったんだけど。

いまのチョップの仕方ってさ、というか近年では「エディット」じゃなくて「チョップ」って言うじゃない?

砂原:うん、言うね。

チョップという言葉で表現される感覚もソフトウェアと関係しているのかな?

砂原:すごく関係あるよ。昔は全部を手でやらなきゃいけなかったんだけど、いまは音量のレベルとかを見て本当にスパって切れるんだよね。だから昔は3、4日かかっていた作業がいまは一瞬でできるようになったから、こんな形でできるようになったというのがあると思うんだよ。

ドラムンベースだけど、やっぱりベースがあっさりしているね。逆にこれが個性というか、UKやアメリカから見たらこれは日本っぽい感じに聴こえるのかもね。そのへんも確信犯としてやっているのかな。それはそれで、ひとつの戦略としてありなのかなって気もしなくはない。

砂原:どうなんだろうね……やっぱ非情に日本っぽいかな。アメリカンな感じはないね。原曲にはR&Bというか黒人音楽の要素があるかもしれないけど。

12

COLUMNS