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Columns

英国総選挙、その内側に見える変わりゆくもの

──あるいはキャプテン・スカとは何だったのか?

文:坂本麻里子 Jun 12,2017 UP

 与党の保守党が過半数割れになったことで、政権をとるまでには至らなかったものの労働党が一矢報いた=久々の左派の巻き返しという印象を強く残して英国総選挙は幕を閉じた。勝敗要因の分析は様々だろうが、選挙キャンペーン中に話題になったトピックのひとつにキャプテン・スカの“Liar Liar”のヒットがあった。

 キャプテン・スカはロンドンのセッション・ミュージシャンを中心とする「アンチ緊縮政策バンド」で、ポリティカルなメッセージをレゲエ/スカのビートに乗せ歌ってきた。“Liar Liar”は元々は2010年にリリースされたトラックで、自由民主党との合意によって連立政権を確立した英元首相デイヴィッド・キャメロンを「嘘つき」と糾弾する内容。この時点でもUKレゲエ・チャートで1位を達成したそうだが、歌詞の一部を変更しテリーザ・メイ首相の演説をサンプリング、「彼女は信じられない」と歌いヴィデオに「Tories Out(保守党は出て行け)」のテロップも流れる再発「2017年総選挙ヴァージョン」は、5月26日にリリースされるやアマゾン、iTunes他のダウンロード・チャートで上位にランク・インし、YouTubeのヴュー数も250万回以上にのぼるヴァイラル・ヒットと化した。
 ──と、それだけだったら一種のノベルティ・ヒット、もしくは現英政権や保守党に不満を抱く層の「うさばらしソング」で終わっていたかもしれない。しかし全英シングル・チャート最高位4位にまで上昇したこの曲を、公式ウィークリー・チャートを発表するBBC最大のラジオ局BBC1がオンエア自粛したことで逆に火の手は広がっていった。
 BBC側の言い分は「政治的に中立・公平な立場をとる公共放送団体」というメディアとしての立ち位置ゆえ、明らかに反保守党/反テリーザ・メイなこの曲を選挙期間中に放送するわけにはいかない、というものだった。とはいえ一般人からすれば、これは単純に「体制やお上を攻撃し批判すると、放送禁止を食らうの図」と映る。そうやって圧力がかかると、曲の歌詞やメッセージに共鳴した人々の反骨マインドはもちろん、「観てはダメ」「聴いちゃいけません」と言われれば言われるほど盛り上がるヤング心理は刺激され、SNS他での拡散に繫がる。
クサいものに蓋をしたつもりだったBBCは、逆に保守党との癒着体質──キャプテン・スカの主格であるジェイク・ペインターがBBCのテレビ番組で取材を受けた際、彼は本番中に「この番組スタッフから、前もって“保守党に対する批判発言は、どうかお手柔らかに”と注意されたんだよね」と暴露し、笑いを呼んだ──を指摘されるなど、馬脚を現す形になった。

 ちなみに、これはなにも「ひとつの歌が、音楽が民意を大きく変えた」というヒロイックな話ではないと思う。もちろん、それが本当だったらかっこいい話だ。しかしブレクシットの動向や公共サーヴィス予算カットのかかった今回の選挙はイギリス国民にとって「内戦」とすら言っていい非常に重要なポイントであり、その重さが大小の幅広い層を動かした結果だろう。
 日本では、労働党党首ジェレミー・コービン支持を表明したセレブやミュージシャンが目につくかもしれない。グライム勢に愛されるコービンは『NME』だけではなくメタル&ラウド・ミュージック専門雑誌『KERRANG!』でも表紙を飾ったし、テレビ討論会他のメディア・パフォーマンスでも善戦した。だが、それは米大統領選同様、基本的に左派/リベラル寄りである芸能人のデフォルトな動きだろう。彼のマニフェストの現実性を問う声やリーダーとしての資質を疑問視する声はいまだイギリス国内のあちこちで根強いし、先述のキャプテン・スカにしても労働党を支持しているわけではない。
 むしろ今回は、「投票しよう」「保守党を阻め」の思いが社会主義から中道、エコなど様々な党派やイデオロギー、政策の違いを越えて合流したことで、「楽勝」と高をくくっていた保守党政権のおごった足下をすくってみせた構図、というのに近い。結果として、敗者ははっきりしたもののかといって明確な勝者がいるわけでもない、ハング・パーラメント(宙ぶらりん議会)こと少数派議会が発足することになった。これを二大政党システムと「勝ち負けレース」に嫌気を感じている国民感情の表れ、と解釈することも可能だろう。

 選挙結果の分析には、「ネットやSNSを通じた草の根の政治活動はバカにできない」というコンセンサスも含まれていた。若者の政治に対するアパシーを嘆く声はこちらでもよく聞くし、Youtubeやトウィッター、インスタグラム他のメッセージと「いいね!」にいかほどの価値があるのか?と嘲笑する人間は多い。実際、自分が“Liar Liar”を初めて聴いた時も、その楽曲としてのシンプルさにある意味ずっこけさせられた。「これって、小中学生が遊び場で“◎□ちゃんは嘘つきだ〜〜”とはやしたてて指差すのと、あんま変わんないじゃん?」と。
 昔よく言われたことだけど、ネットでのヴァイラル人気やトレンドはトイレの落書きやグラフィティみたいなもの=おっ、いいこと言うね〜!とか、派手で目について気を惹いたとしても、いったんペンキ他で塗りつぶされたらそこで終わり、な一過性のものとされてきた。いわば、アングラ・メディアの取るに足らない存在、ということ。
 しかし、これまで「主流」とされてきた電波や紙メディアの昨今の動き──BBCがこの“Liar Liar”を流さなかったのは大人げないし、『The Sun』や『Daily Mail』といった大手右派タブロイド紙が「道化」「アカ」「テロの擁護者」他の見出しで繰り広げたジェレミー・コービンへの攻撃は、センセーショナリズム主体の新聞とはいえヒステリックと映った――を考えれば、これくらいストレートで分かりやすくて老若男女にバシッと伝わり、知り合いに「笑えるから、観てみなよ」程度でもいいから紹介したくなるメッセージに転じるのはありなんだな、と思い返すことにもなった。
 プロテスト・ソングというと、たとえば1963年のワシントン大行進でのボブ・ディランといったフォーク勢のイメージがいまだに根強いと思う。ウッディ・ガスリーのように「ギター一本でシステムと体制に立ち向かう」、の図だ。しかし、世相や社会の変化と共に様々に形を変えて進化・変化したプロテスト音楽とミュージシャンの政治的なスタンスは、イギリスでは80年代にひとつのピークを迎えた。マーガレット・サッチャーという強敵の存在が、多くの名曲を生み出したゆえだ。
その意味で、キャプテン・スカの“Liar Liar”は、音楽的にも80年代勢=ザ・スペシャルズや初期UB40の系譜を汲む、「踊れる、でも考えさせられる」レゲエやスカ、引いて言えばダンス音楽に多かれ少なかれ内在するレジスタンス姿勢を備えている。この系譜の中にあるザ・ビートの曲“Stand Down, Margaret”(1980)は、タイトルの通り「マーガレット(・サッチャー)、頼むからもう身を引いて」という内容。ありていに言えばサッチャー首相に「辞職して引っ込め」と言っている曲だが、曲を書いたデイヴ・ウェイクリングはただ悲観的な嘆願だけではなく、そこにユーモアもこめたという。
 サッチャーは英中部の出身で、雑貨店を営んでいた労働者階級の出自。そんな彼女が、政界に進出しトップに上っていく過程で地方訛りを捨て、上品な言葉使い/標準語を会得して権力者=王族、貴族、金持ちetcにおもねるようになった様は同じく英中部バーミンガム出身のデイヴ・ウェイクリングには滑稽に映ったようで、この曲での「引っ込んでくれ」には、「同じ地方出身の人間として恥ずかしいから、無理にロンドンに合わせるのはやめてくれ」というニュアンスも含んでいる。
 こうした細かい意趣は、「Stand down」といったパワフルなフレーズ、スローガン性の前には掻き消えたのかもしれない。だが、“Stand Down, Margaret”と、その37年後に登場したもっとエグい“Liar Liar”は、スカの軽妙なビートを通じて権力を握ったパワフルな存在が抱く「おごり」を牽制し批判している。そのどちらも、女性党首に向けてのものだったのは偶然?それとも?――というジェンダー論は、ここでは長くなる&キリがないので差し控える。だが、今回感じたのは、ザ・スペシャルズやザ・ビート、更に広げればコステロやザ・スミス、ビリー・ブラッグ、ポール・ウェラーといった「反サッチャー」のしみついた英世代=40〜50代の中年たちが、2010年世代のヤングたちと先祖帰り的にリコネクトしたのかもしれない、という点だった。
 この総選挙はイギリス政界の混沌とした現状をフラットに明かしたものであり、言い換えれば白紙に戻った状態。ゆえにこれからが本当の意味での「正念場」になるだろうが、しょっちゅう指摘されてきた「90年代から00年代の英音楽シーンにおける政治に対する興味の欠如、無関心」は必ずしも事実ではなく、状況はシフトしている。10年代は再び目覚めているのかもしれない。 

坂本麻里子/Mariko Sakamoto
音楽ライター。『ROCKIN'ON』誌での執筆他。ロンドン在住。

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