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Columns

万華鏡のような真夏の夜の夢

万華鏡のような真夏の夜の夢

──風車(かじまやー)の便り 戦場ぬ止み(いくさばぬとぅどぅみ)音楽祭2019

7月12・13日、辺野古と那覇で開催された音楽フェスの様子をレポート

文・写真:土田修 Aug 22,2019 UP

■政治に踏みにじられた沖縄の民意

 日本政府による暴力的な土砂搬入が続く沖縄県辺野古の米軍海兵隊基地キャンプ・シュワブ。同基地の正面ゲート前に設置された仮設テントでは、連日、「辺野古新基地」建設に抗議する市民らが「沖縄に基地はいらない」とシュプレヒコールを上げている。真夏の太陽の下、仮設テント内では「美ら海埋めるな」「ウチナーの未来はウチナーンチュが決める」の横断幕がはためき、汗を流しながら「ジュゴン解放戦線」のプラカードを胸に掲げる女性の姿も目に付いた。

 大型車両が出入りする搬入ゲートからは1日に何回かコンクリートミキサー車が長蛇の列をなし、轟音と排気ガスを撒き散らしながら基地の中に吸い込まれていく。それを阻止しようと搬入が始まる時間になると反対派の市民らがゲート前に腕を組みながらみっちり座り込むのだが、機動隊員に抱え上げられ次々に排除されていく。数分でも数秒でも資材や生コンの搬入を手間取らせることで工事そのものの進捗を遅らせようとするささやかな抵抗はこうして国家権力のむき出しの暴力によって根こそぎ摘み取られていった。

 7月12日。辺野古新基地建設に反対する「オール沖縄」闘争はこの日、1832日目を迎えていた。実に5年あまり沖縄県民と支援者が反対運動を続けてきたことになる。それは、たび重なる選挙や県民投票で示されたはずの沖縄の「民意」が安倍「独裁」政権によって踏みにじられてきた歴史でもある。


搬入ゲート前に座り込む《風車の便り》発起人の翠羅臼ほか

■辺野古にホーンが炸裂

 午前10時、フリー・ジャズ・バンド「渋さ知らズオーケストラ」の小編成楽団が仮設テント前をズンチャカズンチャカ練り歩いた。先頭で両手を振って楽団を指揮するのはベーシストでリーダーの不破大輔。ふたりの女性ダンサー、ペロとすがこが演奏に乗って、サルサ、サンバ、アラビアン風に気ままに踊りまくり、北陽一郎のトランペットと高岡大祐のチューバが青空を突き抜けるように炸裂すると、ゲート内の米兵と警備員たちが何ごとかとこちら側をうかがうのが見える。


渋さ知らズ、仮設テント前

 50年代に誕生したフリー・ジャズは、それまでのビバップやハードバップのコード(和音)進行を否定したジャズの新しい革新的ムーヴメントだ。オーネット・コールマンがドン・チェリー、チャーリー・ヘイデンらとともにニューヨークのファイヴ・スポットで演奏し始め、ジャズ界に一大センセーションを巻き起こした。フリー・ジャズ誕生を告げた歴史的なアルバム『ジャズ来たるべきもの』はそのタイトルからして挑発的だ。コールマンは後にローリング・ストーンズのブライアン・ジョーンズ同様、モロッコ・ジャジューカ村の音楽集団の影響を受けてもいる。渋さのエンドレス奏法にジャジューカ風トランス・ミュージックの片鱗を感じるはそのせいだろうか。

■南と北の鬼神が競演

 そこへいきなり登場したのは、なまはげとトシドンとパーントゥ。それぞれ、秋田の男鹿半島、鹿児島の甑島、沖縄の宮古島に伝わる鬼神、来訪神だ。昨年、ユネスコの無形文化遺産への登録が決定した。包丁を手に鬼の面をかぶって子供を脅すなまはげはよく知られているが、甑島のトシドンもまた大晦日に鬼の顔をして悪い子供を懲らしめる。宮古島のパーントゥは体につる草をまとい、ンマリガー(産まれ泉)の井戸の底に溜まった泥を全身に塗りたくり、集落を巡回して厄払いする。

 3人の来訪神は仮設テントの奥からドラを打ち鳴らしながら乱入。「獅子の星座に散る火の雨の、消えてあとない天野がはら、打つも果てるもひとつのいのち……ダーダーダーダー、スコダダー……」とヒップホップ調のリズムに乗った後、「運玉義留(うんたまぎるー)はどこだ! 運玉義留を探せ!」と叫び、仮設テントの袖へと消えた。野外天幕劇団「水族館劇場」の主演女優・千代次が率いる路上芝居ユニット「さすらい姉妹」の芝居『陸奥の運玉義留』(辺野古版)はこうしてスタートした。


さすらい姉妹・3来訪神

 運玉義留は18世紀に琉球で活躍したとされる農民出身の義賊。運玉の森に住み王族や士族の家を狙って盗みに入り、奪った金品は貧民に分け与えた。18世紀の琉球は大飢饉の発生などで民衆が苦しんだ時代だ。目に余る収奪に抗して闘った反権力の象徴的存在として語り継がれ、明治時代には沖縄演劇のヒーローになった。劇作家の翠羅臼は運玉義務留を熊襲や蝦夷という“鬼の棲む”辺境地と結びつけ、「南と北の鬼」が競演する時空を超えた抵抗の芝居を辺野古に持ち込んだ。

■「タックルせ」の叫び、再び沖縄へ

 翠羅臼は70年代、テントで公演する反体制的なアングラ劇団「曲馬舘」を主宰した演劇人だ。83年に劇団「夢一族」を立ち上げ、山谷や横浜寿町、名古屋笹島など寄場での興行を続けてきた。88年に夢一族を脱退しフリーの演出家になり、辺野古新基地反対を訴える一方、パレスチナでの演劇プロジェクトでも芝居を演出した。今回の沖縄公演には劇団「唐組」の“伝説の怪優”大久保鷹が友情出演している。大久保は翠の盟友でパレスチナの演劇プロジェクトにも参加している。

 実は翠は1978年にコザと首里で公演した曲馬舘の芝居『地獄の天使──昭和群盗伝』で沖縄を旅したことがある。1970年のコザ暴動をモチーフにしたこの芝居の大団円で、出演者はたいまつを掲げたオートバイ十数台で天幕の内外を爆走し、コザ暴動の民衆の合い言葉「タックルせ、クルせ、クルさんけ(たたき殺せ、黒人は殺すな)」を絶叫、「灼熱の炎に身を焦がし/廃墟の街を駆ける……だから地獄の天使たちよ、箱船の羅針を帝都へと向けろ」と歌った。それから40年以上がたち、翠の航路は再び沖縄へと向かった。

 辺野古と高江の闘争に共感する翠は「渋さ知らズ」の不破と「水族館劇場」を主宰する桃山邑に相談した。桃山は日雇い労働者として働きながら翠が主宰した曲馬舘で役者デビューし、1987年に主演女優の千代次とともに水族館劇場を立ち上げた。その千代次はさすらい姉妹を率い、毎年正月には寄せ場で路上演劇を披露してきた。

■理想を幻視する芸能の力

 「下層で暮らしている人たちと連帯し、旅と生活と芝居を同時にやってきた」と桃山は振り返る。布川徹郎監督の映画『沖縄エロス外伝 モトシンカカランヌー』に登場するしぶとく生き抜く最下層の娼婦たちの姿に感銘を受けたという桃山は「音楽祭は沖縄の現実を変えないかもしれないが、リアリズムを生きる底辺の人たちは変わらない日常に閉塞感を覚えている。現実よりも理想を幻視するという芸能の法則を信じて沖縄の舞台に立ちます」

 音楽祭開催の中心メンバーのひとりとなった不破大輔は翠の提案に乗り、沖縄公演を決めた。実は渋さはアングラ演劇の“劇伴”としてスタートした楽団だ。劇伴とは映画や演劇の伴奏音楽のことだ。あるアングラ劇団の入りが少なかったことから、客席を埋めるため知り合いのミュージシャンに声を掛けたのがオーケストラ結成のきっかけだったという。

■キーワードは暴動と自由

 翠との出会いもやはり劇伴だった。1991年、翠が演出し上野の水上音楽堂で上演された芝居『暗闇の漂泊者』の劇伴を担当し、「本多工務店のテーマ」という曲をつくった。必ずといっていいほどライヴのラストで演奏される不朽の名曲だ。この曲の冒頭、朗読される詩は「この曲を聴いて鳥肌が立った」という翠によって書かれた。キーワードの「暴動」と「自由」は、従来のジャズ演奏につきまとう予定調和をぶっ壊し、アドリブ演奏がつくりだす渋さ特有のフレキシブルな演奏スタイルを物語っている。

 こうして音楽と演劇による沖縄公演に向けて「風車の便り 戦場ぬ止み音楽祭」の実行委員会が結成された。沖縄では97歳になると子供に返るという言い伝えがあり、この年齢のお祝いのことを「風車祭」という。「路地でくるくる回る風車、空が哭いている、海が哭いている……」と翠は夢想する。美ら海を埋め立て、沖縄の人びとの心を埋め立てようとする悪政に抗して、夢の風車をかざそうと翠たちは辺野古にやって来た。

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Profile

土田修/Osamu Tsuchida土田修/Osamu Tsuchida
ジャーナリスト、ル・モンド・ディプロマティーク日本語版編集委員。著書は、『調査報道 公共するジャーナリズムをめざして』(緑風出版)、『南海の真珠カモテス 元学徒兵のフィリピン医療奉仕』(邂逅社)など。

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