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都知事選直前座談会

都知事選直前座談会

「今回の都知事選、どう見ればいいか」

2020年6月30日(火曜)12時~

望月衣塑子(東京新聞記者)
水越真紀(ライター)
野田努(ele-king編集長)
土田修(ジャーナリスト)
Jul 03,2020 UP

■「ロスジェネ世代」へのアピール

土田 山本さんは災害対策基本法に基づいて国がコロナ禍を災害指定にすべきだったとも主張しています。そうすれば台風や地震など自然災害の被災者と同じように仕事や住居を失った人たちを救済できたということです。ただ、都には権限がないので全国の知事に呼びかけて災害指定を国に強く求めるとのことでした。これに対して宇都宮さん側はコロナ禍は災害指定の適用要件に当たらないとし、特措法があるので国は応じないだろうと説明していました。こういう議論が起きているのも山本さんの出馬のおかげですね。

野田 それに山本さんは「ロスジェネ世代」を口にしています。YouTubeを見ている人がその世代に多いので戦略的に言っているのかもしれませんが、多くが非正規雇用など不安定な状態にあるロスジェネ世代を含めて、今一番、皆が不安に思っているのは自分たちの生活がこれからどうなっていくのかということではないでしょうか。それだけに山本さんの発言は説得力があるように思えます。

望月 山本さんはかつて街頭で原発被災の話をしていると、聴衆から「自分がいる非正規雇用やブラック企業の状況を知ってほしい」と言われ、そこから不安定な非正規雇用の実態などについても調べ始めたそうです。事前告知のない飛び込みの街頭で話すとたくさんの人が足を止めてくれることが分かった。そういうことが血肉化されて彼の今の演説につながっていると思います。山本さんは路上生活者らへの炊き出しなどの支援の現場にも足を運び、その人たちから直接、話を聞き、その声を体の中に吸収してため込んだ思いや言葉を発信しています。
 長年、たくさんの政治家を見てきた政治部のベテラン記者は「(山本さんは)10年に1人いるかいないかの逸材だ。言葉に力があるし、発信力がある。あのセンスは持って生まれた才能と努力の賜物としか言いようがない」と言っていました。誰に向かって何を伝えたら一番響くのかを候補者の中で徹底して分かっているのが山本さんだと思います。それが彼の演説力と発信力につながっています。

土田 山本さんは知事になったらロスジェネ世代とコロナ失業者計3000人を、都の正規職として雇用すると言っています。非正規雇用が全労働者の4割近くに上っているといわれる「貧困と格差」の時代に、非常に重要な政策だと思います。この政策はロスジェネ世代にはアピールしているのでしょうか?

望月 つい最近、政府が毎年150人、3年で450人、ロスジェネ世代に向けた国家公務員の中途採用を行う方針を発表しました。都知事選の動向を見て、ロスジェネ世代や非正規労働者をターゲットにした政策を取り入れていかないとまずいと判断したのか、これからも正規雇用を増やしていくと言っています。

■都立病院の “実質” 民営化の問題

水越 維新は公務員の削減を主張していますが、検査をはじめコロナ対策が遅れるなか、実は日本は公務員をすでに減らしすぎてきたのではないかという現実が見えてきました。そうした意識は世論調査でも浸透していると感じられますか?

望月 東京新聞で掲載した世論調査では、都に望むコロナ対策で押して「PCR検査や保健所のなどの態勢強化」を求める声が全体の3割と最も多く、60代では4割を超えています。小池都政が進めている都立病院と公社病院の地方独立行政法人(独法)化の問題も議論すべき争点のひとつです。大阪府では府立病院の独法化で医療現場が弱体化したためコロナ災害で医療現場が混迷したと言われています。都立病院の独法化に反対する宇都宮さんや山本さんの主張には、コロナ禍を受けて、もう一度、立ち止まって考えてみなければいけないものがあると思います。

水越 たとえば都立病院の独法化と言われても、具体的になにがどう変わるのかよく分かっていない人も多いんじゃないでしょうか? 特に都内では公立病院のありがたみは今回のコロナ危機でこそ言われるようになったけれど、これまで新聞でもあまり解説記事を目にした記憶がありません。現実には公立でも私立でも、病院はわずかな想定外の出来事でシステム崩壊しかねないくらい綱渡りの経営をしているのかもしれないと、この数ヶ月で知ったこともあるので、もっとその先を知りたいです。

望月 その通りですね。まだまだ有権者に独法化についてのメリット・デメリットをメディアがきちんと説明できていないようにも見えます。

土田 東京都が8つの都立病院と7つの公社病院・癌検診センターの2022年度内をめどにした独法化の方針を打ち出したのは今年3月のことです。独法化は都の財政負担の軽減が目的ですが、法人側が自前で運営資金を調達しなければならないので実質的な民営化といえます。
 大阪府では2006年に5つの府立病院を独法化することで17億円の収支改善があったそうですが、これは人件費のカットによるものです。都立病院などの独法化はコロナ禍で疲弊し切った医療現場を今後さらに人件費の削減などで痛め付けることになると思いますが、まさに新自由主義的政策による福祉・医療の切り捨てでしかありません。コロナ災害の第2波が予想される中、どうして都立病院の実質民営化が都民の怒りを買わないのか不思議でなりません。

水越 病院の民営化でなにが起きるか、よく分かっていないんです。私はずっと都内で生活していますが、公立病院にはほとんど行ってません。気づいたらなくなったり、普通外来をしなくなっていたんですね。でもそれで今まで困らなかった。コロナで久しぶりに公立病院のことを考えました。
 それから小池知事のコロナ対策の評価についてももっと報道してほしいですね。このところの感染者増加にも関わらず、小池さんの言動はちょっと不可解なほどそっけない。病床を確保されていても、後遺症のこと、公共トイレが感染源として危険なことなど、4月には分かっていなかったこの病気の知見は増えているのに小池知事は4月の感覚で話しているように私には見えます。そのあたりを、科学的視点で評価してほしいです

■民主主義を形成する政策論議

土田 他にも都知事選の争点となる問題がたくさんあると思いますが、カジノ誘致について小池さんは「メリット・デメリットがある」と明確な回答をしていません。実際には臨界副都心の青海地区(江東区)が候補地と言われ、3月に開始された羽田空港の新飛行ルートによる増便問題とも絡んで、米企業が東京を最有力候補地として狙っているとも言われています。「稼ぐ東京」をキャッチフレーズにしている小池さんも実は前向きなのではないでしょうか?

望月 大手カジノメーカーからするとカジノ誘致は横浜より東京がなんと言っても魅力的です。横浜市の林文子市長は、候補地で手を上げていますが、海外からみたらその魅力は、集客力や外国人観光客も多い東京になるのでしょう。それもあり、宇都宮さんが指摘していますが、江東区が都の候補地になっているのではないかという話があります。あまり争点化されていないのですが、選挙が終わって、コロナが落ち着いた来年の夏以降くらいに、東京が候補地として手を上げる可能性は十分ありうると思います。この問題ももっと注目されてもいいのではないでしょうか。

水越 2人の左派、リベラル寄りの候補が出てうれしい反面、有権者として考えると、山本さんと宇都宮さんという甲乙付け難い2人の候補者が目の前にいるわけです。反ネオリベ経済、反ヘイト、弱者のための都政を望む有権者にはどちらに投票しようか迷っている人も多いのではないでしょうか? 私もすごく迷っています。望月さんはこの葛藤についてどう考えていますか?

望月 政治をずっと見てきた人たちは、山本さんが、あれだけ演説で人を虜にする力を改めてすごいと思う一方で、都議会を傍聴して地道に都政をよくするための活動を続けてきた宇都宮さんのぶれない姿勢や、ジェンダー問題に対する意識、学校給食の無償化といった政策に心を動かされている人もたくさんいます。全体として、リベラル派の人たちの中でさまざまな政策について具体的に議論を深める良い契機になっているように感じます。考え方を深めているなという印象を持っています。“百合子山” が高いにしても、山本さんや宇都宮さんの陣営が選挙戦を展開する中で、独自に考えている政策が、選挙戦の中で論戦を繰り広げ、よりブラッシュアップされていくことで、有権者に伝わり、広がっていることは良いことだと思います。選挙後に、一定の評価があった野党の政策を、与党や都知事が取り入れるということはよくあることです。例えば地方債の発行にしてもこれだけ注目されると、都の財政調整基金が500億円ほどしかない中で、都債の発行は、債務負担を考慮しつつ、総務省との間で検討されるべきではという認識が生まれたのではないでしょうか。どの候補が勝ったとしても、負けた側の主張も含めて、何かしらの相互作用は必ずあるはずですし、結果としてそういうことが、最後には民主主義を形作っていくのではないでしょうか。有権者の方々が、それぞれの頭で政策を考え、自分の考えや思いに近い候補者に一票を投じていってほしいと思います。

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