ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. interview with Keiji Haino 灰野敬二 インタヴュー抜粋シリーズ 第2回
  2. Beyoncé - Cowboy Carter | ビヨンセ
  3. Columns ♯5:いまブルース・スプリングスティーンを聴く
  4. interview with Keiji Haino 灰野敬二 インタヴュー抜粋シリーズ 第1回  | 「エレクトリック・ピュアランドと水谷孝」そして「ダムハウス」について
  5. 壊れかけのテープレコーダーズ - 楽園から遠く離れて | HALF-BROKEN TAPERECORDS
  6. interview with Martin Terefe (London Brew) 『ビッチェズ・ブリュー』50周年を祝福するセッション | シャバカ・ハッチングス、ヌバイア・ガルシアら12名による白熱の再解釈
  7. Brian Eno, Holger Czukay & J. Peter Schwalm ──ブライアン・イーノ、ホルガー・シューカイ、J・ペーター・シュヴァルムによるコラボ音源がCD化
  8. interview with Mount Kimbie ロック・バンドになったマウント・キンビーが踏み出す新たな一歩
  9. Bingo Fury - Bats Feet For A Widow | ビンゴ・フューリー
  10. tofubeats ──ハウスに振り切ったEP「NOBODY」がリリース
  11. 三田 格
  12. Beyoncé - Renaissance
  13. Jlin - Akoma | ジェイリン
  14. HAINO KEIJI & THE HARDY ROCKS - きみはぼくの めの「前」にいるのか すぐ「隣」にいるのか
  15. 『成功したオタク』 -
  16. まだ名前のない、日本のポスト・クラウド・ラップの現在地 -
  17. KRM & KMRU ──ザ・バグことケヴィン・リチャード・マーティンとカマルの共作が登場
  18. Beyoncé - Lemonade
  19. Politics なぜブラック・ライヴズ・マターを批判するのか?
  20. R.I.P. Damo Suzuki 追悼:ダモ鈴木

Home >  Interviews > intervew with S.L.A.C.K. - ラッパーズ・デライト・アゲイン

intervew with S.L.A.C.K.

intervew with S.L.A.C.K.

ラッパーズ・デライト・アゲイン

――彼は間違いなく、2009年のブライテスト・ホープである!

二木 信    photo by Yasuhiro Ohara   Dec 16,2009 UP

バイトとかは?

スラック:最近、バイト辞めちゃって。やっといた方がよかったかなーって。そういう生活のリズムみたいのがあって、それがむちゃくちゃになると怖くなりますね。地に足着いてない感じになって。

アルバムを出す前からライヴはしてました?

スラック:ライヴはかなりやってましたね。音楽のことばっかでしたからね。かっこ悪りーものはかっこ悪いだろって感じで、くそ生意気な少年でしたね。

ところで、「slack」という言葉には「ゆるい」とか「いい加減な」とかいう意味があるわけだけど、この名前にした理由はなんですか?

スラック:辞書で言葉を探してて、「ゆるい」とか、そういう意味があったから選びました。適当に名前の響きもいい気がするって感じだった。後々、外国人の友だちに「スラックって名前をよく見つけたな。ホントお前そのものだよ」って言われて。後から気に入り出した感じですね。最近、雑誌とかでも「ゆるキャラ」とか「適当」とかが使われ過ぎてて、逆にちょっと使いたくなくなってきたけど(笑)。


S.L.A.C.K.
Whalabout?

DOGEAR RECORDS

AmazoniTunes

『WHALABOUT』には"適当"って曲があって、「適当に敬意を」ってラップしてますしね。

スラック:適当は口癖なんですよ。それを意識して使ってるんじゃないかって思われるのは、めんどくせぇなって(笑)。

デビュー・アルバムを出すときは、自分のことを誰も知らないわけじゃないですか。緊張感や力みみたいのはありました?

スラック:ないっすね。小6ぐらいからアルバムを作ることばっかやってたんですよ。通算どんだけ作ってるんだぐらいアルバムありますよ。実際、いまから『My Space』と『WHALABOUT』よりもヤバいのを作れって言われたら、1ヶ月で作る自信ありますね(笑)。『My Space』を出すときは、赤(字)にならないかなって心配はあったけど。最初は自主で刷って売ろうとしてたんですよ。全部手続きが終わって、8万円、母ちゃんに借りて、それを振り込みに行く途中に落としたんですよ。神隠しなんですよ。「へ?!」って(笑)。そしたら、〈DOGEAR RECORDS〉から出さないかってモンジュ(ダウン・ノース・キャンプ)に言われて、一か八かで、ここ(〈ウルトラ・ヴァイヴ〉)で審査通って出せたからラッキーかなって。

初回は何枚?

スラック:100とか300ぐらいですね。完全なる無名だったから。兄貴はマスタリングみたいのはやってくれましたけど、兄貴のフックアップで出せたわけでもないし。

『WHALABOUT』は?

スラック:PSGのアルバムを出して得た兄貴サイドのリスナーもいるから。

PSGはひとりでやるのとはまったく違う?

スラック:全然違いますね。俺の音楽を超聴いてる人は、PSGのアルバムは「なんでやったんだろう?」ぐらいの感じだと思いますね。そういう人もいました。音楽自体は優れてると思うけど、俺の趣味じゃないものもあって。あれは兄貴の趣味ですね。でも兄貴のセンスは信じてます。やりたくない曲はリリックでもやりたくないって言うし、実際"Yes."って曲でこのトラック大嫌いだって言ってる。俺のビートも兄貴が選んで、曲順を決めたのも兄貴ですね。でも最終的にはいいアルバムなんじゃないかって思ってます。

でも、ソロもPSGも楽しんでるのが伝わってきますよ。とくにサンプリングを本当に楽しんでるなーって。ソウルやジャズやブルースをサンプリングして新しい音楽を創造する感覚は、〈ストーンズ・スロウ〉のセンスに近いものを感じますね。

スラック:〈ストーンズ・スロウ〉から出すのは夢っすね。それはずっと昔から言ってる。ダム・ファンクが来日したときに、Budamunkyと一緒に声をかけたら、Budamunkyが〈ジャジー・スポート〉から出してるレコードをLAでかけてて超調子良いよって言われて。

いい話ですねぇ。〈ストーンズ・スロウ〉から出すのが夢ということだけど、アーティストとしての目標みたいなのはありますか?

スラック:ちゃんとヒップホップのかっこ良さがわかっている人に評価されたいっすね。

曲ごとにテーマは決めてから作るんですか?

スラック:あったりなかったり。意味なんてない曲はいっぱいありますね。"適当"とかは意味はないですし。

『WHALABOUT』には"意味なんてないさ"って曲がありますよね。でも僕は逆にそこに主張を感じたんです。"That's Me"の「Musicのみ」という言葉にも強い決意を感じるし、『My Space』のちょっとハウスっぽい"Think So"の「普通の生活して楽しくできればいいと思うんだよ」ってリリックにも「意味なんてない」っていう言葉の裏側にある信念が垣間見える。

スラック:ヒップホップはもっとお手軽な遊びの延長線上じゃないですか。それなのに日本のシーンはアメリカのヒップホップのビジネス化に影響を受けて、なんか知らないけど、良くない部分で目立つことを真似してる奴も多い気がする。贅沢は別にしなくていいんで、ただ最低限の金と良い音楽を作るための環境が欲しいだけなんですよ。旨い飯は食いたいけど、その分働かなくちゃいけないならいいよって(笑)。

「その分働かなくちゃいけないならいいよって」のは僕もよくわかるんだけど、それは......世代的な感覚だと思います? 2001年に小泉純一郎が出てきて、まあ、たぶん板橋も格差社会の餌食になっただろうし(笑)。

スラック:うちのマンションとか中流階級ぐらいの感じなんですけど、ベンツとかBMWとか多かったりして......、う~ん、でも、みんなビビって大学無理やり入って後悔したりして、俺はそういうのが嫌で。

ビビって入るっていうのは?

スラック:就職とか時間稼ぎっすね。俺らはぎりぎりゆとり教育触れたぐらいなんですよ(笑)。

というと?

スラック:好きなことを完全にやり切りたいなって。ビビっちゃって時 間を無駄にしてる友達を見て苛立ってリリック書いたりはしますね。もっと動いて言いたいことも言ったほうがいいと思うんですけどね。

何にビビってるんだろう?

スラック:わかんない(笑)。環境っすかね。友だちを失うのが怖かったりとか。

ということは、スラックくんはやはり異端ということだ。

スラック:でもPSGでよく話すんですけど、俺らがど真ん中だと思ってやってたことが、いろんなリスナーから変わってるとか癖があるとか言われて、それにいままで気づいてなかった。ちょっと変わったことをやるのは好きだったんですけど、いちばんかっこいいと思うことをやって来たつもりなんで。

サウンド的にはアメリカのメインストリームのヒップホップからの影響も強いですよね。

スラック:けっこう聴きますね。アメリカのメインストリームのヒップホップを俺らなりに舐めた感じでやってる。でも、最近はどちらかと言えば嫌いっすね。なんか音が高い。車で自分のアルバムを聴いた後に、向こうの新譜を聴くとシャリシャリしてて。低音なしで聴くとホントにひどくて。

MP3で聴くのを想定した音になってますよね。アナログへの拘りがあったりはする?

スラック:パソコンのなかに曲がたくさんありますよ。友たちがくれたりするから。アナログはサンプリング・ネタばっかり買ってますね。レコードプレーヤーは生まれたときからあるから、逆に執着心がないですね。

なるほど。ちなみに歌詞カードを付けないのには理由があるんですか?

スラック:歌詞を付けちゃうとラップのやり方がわかっちゃうかなって。こういう日本語をこういうフロウでラップすればいいんだって。英語に聴こえるけど、実は日本語だって部分がかなりあると思うんですよ。聴き取れるところだけ聴いて欲しい。ベスくんとかシーダくんとかもそうだけど、リリックは何回も聴いてればわかってくるから。

文:二木 信(2009年12月16日)

1234

Profile

二木 信二木 信/Shin Futatsugi
1981年生まれ。音楽ライター。共編著に『素人の乱』、共著に『ゼロ年代の音楽』(共に河出書房新社)など。2013年、ゼロ年代以降の日本のヒップホップ/ラップをドキュメントした単行本『しくじるなよ、ルーディ』を刊行。漢 a.k.a. GAMI著『ヒップホップ・ドリーム』(河出書房新社/2015年)の企画・構成を担当。

INTERVIEWS