Home > Interviews > interview with あるぱちかぶと - 政治性もないし、そういう“戦い”のようなものが僕にはないから平々凡々とした日常を描写するしかないんです。
あるぱちかぶと ◎≠(マルカイキ) Slye |
■なるほど。それはまさに勝負どころですね。ところでバックトラックについてどう考えているの?
自分から声をかけました。まず僕のなかに曲のイメージがあって、それを(トラックメイカーに)説明して、トラックができたら言葉を詰めていくって感じです。
■けっこういろんな人たちが作っているよね。結局、何人のトラックメイカーが参加しているんですか?
7人ですね。実際に会ったことがない人がひとりいます。my space上でやりとりしたっていう人が。でも、アルバム全体はそれなりにまとまりのある音になったと思います。
■たしかにそうだね。エクシーとはどういう出会いだったんですか?
大学に入ったときにラップしたいと思っても、まわりにラップがわかる友だちがいなかったんです。そうしたら僕の従兄弟が同じ年に大学に入って、彼が友だちにひとりいるよと。それがエクシーだったんです。当時彼は成城大学だったんですけど、そこの学際で初めてのライヴをやりました。曲ができたのが本番の前日で(笑)。いま考えるととんでもない。
■彼とは気があったんだね。
そうですね。彼が学生の......例えば早稲田のギャラクシーというサークルを紹介してくれたり、そこで知り合った人たちと一緒にイヴェントをやったりしてたのもエクシーで、そこに出してもらったり......、だから最初の頃は、彼におんぶにだっこでついていった感じでしたね。
■たとえばゼロ年代のラップ......MSCやシーダは聴かなかった?
聴きませんでした。
■まわりの友だちは聴いていたでしょう?
聴いていました。
■みんな「すげー」って言ってたでしょ? 興味は持たなかったの?
僕は持たなかったんですよ。
■自分の表現の目指すモノとは違うって感じだったんですか?
そうなんです。違うと思ってました。
■では、共感できる人はいた?
うーん......。
■レディオヘッドは?
好きですけど......、あれもまた僕とは違うし。
■あれは社会派でもあるからね。
そうなんです。ラップでポエトリー・リーディングみたいなことをしている人たちもいると思うんですけど、そういうのも熱心に聴かなかったし......、うーん、なかなか名前が出てこないですね。
■海外にもいない?
中学のときはナズが好きで自分で訳したりしてたけど、彼のパンチラインに惹かれたり......、でも、うーん......、日本語ラップって、僕は独自の文化になっていると思うんです。音楽というよりも、もっと幅が広いものになっていると思うんです。
■ちなみにアルバムに対するまわりの反応はどうだったんですか?
やっぱ「ラップが早いね」とか、「言葉が多いね」って言われますね。ただ、それは僕にとって意外なんです。ラップはそもそも言葉が詰まっているものだと思っているから。こないだiTunesで"完璧な一日"を無料配信したんですけど、「息苦しい」という感想が多くて、「ラップってそもそも息苦しいでしょう」と思ったんですよね(笑)。
■そんなことはないよ(笑)。でも、「息苦しい」という気持ちもわかる。ていうか、考えるスキを与えない早さでラップするじゃない? なんでそんな早口なの?
それは落語の影響ですね。ブレイクなしでたたみかけるような感じを出したいと思ったんです。隙間がもどかしいと思って。
最後に、不思議な響きのアルバム・タイトルについて。「回」がまるくなって「まるかい(◎)」、もうひとつが「キ」、それで「マルカイキ」となる。ふたつの記号が自己矛盾や対立を表しているとのこと。
最後の最後にもうひとつ、"トーキョー難民"には松尾芭蕉の頃の「偲ぶ都」の感覚をいまの時代に照射したとのことで、曲において早口で連射される地名は「移動」を表しているとのこと、「移動」が自分の「ホーム」であると、あの曲はそういう、本人の言葉で言えば「前向きな」コンセプトであると――。
文:野田 努(2010年2月23日)