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Hard Talk

Hard Talk

― 対談:環ROY × 二木 信 ―

二木 信    Apr 08,2010 UP

だから、「ヒップホップをリスペクト」みたいな原理主義の右翼よりは俺のほうがわかっているぞっていうのがあるから。――環ロイ


環ROY
Break Boy

Popgroup

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自分が影響を受けて来た人たちに振り向かれない悲しさもあったと。それがコンプレックスってことなのかな。

環ロイ:そうかな?! K・ダブ・シャインは大好きだからね。

ヒップホップってもっと自由だろって伝えたい?

環ロイ:うん。いまなら、ダブステップがいちばん先鋭的なヒップホップの概念を継承している音楽だよって俺は思う。でもみんなわかんないんじゃん? 「ズッツーター、ズッツーター」って汚い音でビートが鳴っていて、ファンクからのサンプリングを乗っけてたり、最新のハイファイなUSのラップとか、そういうのしかヒップホップじゃねぇと思ってるから。

まぁね。でも、それをみんなに求めるのは酷だと思うな。幅広く音楽を聴いていればわかることだけど。

環ロイ:「音楽やってんなら音楽を聴けよ」って思うじゃん。

もちろんそうだけど、でも、仕方ないと思うんだよね。

環ロイ:仕方ない奴は仕方ない奴でいいけどさ、自分の食い扶持を広げていくことができないだけだから。でも、「俺はヒップホップを愛しているからシーンをでかくしたい」とか、そんな絵空事を言ってるんだったら、そっから考え方変えて行けよと思う。

多くの人に理解されたいと言いながら、ヒップホップ以外の音楽をあまり聴かなそうだしね。

環ロイ:うん。そのクセにシーンのなかで近親相姦して、「これが俺らのヒップホップだ!」って言っていて、それじゃ何も変わらないじゃん。パラダイム・シフトしたいじゃん。だから、ゴタクを言ったんだよね。フラグメントのレーベル(術ノ穴)のコンピに、フィッシュマンズの"マジック・ラブ"にダブステップのリディムをバコンと入れてるだけの曲があって、超カッコイイの。それって超ヒップホップじゃん。ベースをボンボン入れて、ハイ終わりみたいな。あんまりダブステップを知らないけど、エクシーにいっぱい吹き込まれて聴いている限りは、ヒップホップの曾孫ぐらいの場所で概念を相当継承している音楽だなと思った。

同じようにヒップホップ聴いて来た人たちにはそういうことをわかって欲しいと。

環ロイ:うん。

なるほど。それが責任感なのかなぁ。

環ロイ:わかんない。そうかも。

みんな責任感を持ってるの?

環ロイ:俺の世代はそうだよ。スラックはそういうのないから、ああいう風にできる。

ああ。

環ロイ:責任感が芽生える必要もなかったっていうか。でも、俺の年代は違う。26ぐらいから上は、何かしらあると思う。コマチにも感じるしね。ライヴのときにヒップホップの裾野を拡げるためにやっているって強調してたから。

俺、コマチはユニークだと思うよ。タロウ・ソウルやケン・ザ・390もヒップホップの裾野を広げたいみたいなことを言うよね。でも、俺にはディープな音楽性を譲る時の言い訳に聞こえちゃう。

環ロイ:って思うじゃん。俺もそう思ってた。でもなんか俺に似たものがあるんだよ。たぶん。

裾野を広げる使命感のためにこの音楽性なんですって言われたら、こっちとしたら何も言えなくなっちゃうよね。それはずるくないかって。言った瞬間に台無しじゃない。

環ロイ:ずるくねーよ。ケン・ザ・390と話したら、俺と似たようなことを考えてた。表現された音楽の形は違えど、俺と似たコンプレックスがあるなって。ヒップホップの裾野を広げるって本気で思ってるんだよ。

彼らは本気だと思うし、音楽を真剣にやっているのもわかるよ。でも、俺はタロウ・ソウルとケン・ザ・390の音楽にセルアウターとしての説得力を感じない。

環ロイ:でも、言い訳ではないんだよ。音楽がたいしたことないねっていう二木の論理は別に自由だけど、それを言い訳にして、ああいうものを作ってるんだろっていうのは邪推だよ。

Y氏:そういう風に聴こえてしまうのは邪推じゃないよね。

そう、邪推ではない。だって、彼らの過去の活動も知った上で、いまのメジャーでの音を聴いて、裾野を広げたいって発言が言い訳に聞こえちゃうんだから。

環ロイ:それはしょうがないね、まぁね。そこはもうわかった。それでいいです。

ところで、あの原稿で言いたかったことはわかってもらえました。

環ロイ:俺の反論は何だったの? 意味あったの?

"任務遂行"や"J-RAP"に辿り着くまでの道程はよくわかったし、わざわざなんでああいうことを言うのかもわかった。

環ロイ:そう思うのは自由だから、しょうがないじゃんってことだよね。

自由だからしょうがないじゃんっていうか......。

環ロイ:意外とそこにはドラマがあったんだねってこと?

だいたいわかっていたけど、発見もあった。

Y氏:こういう反応があるのが正しいんじゃないの、ロイくんの狙いとしては。

環ロイ:そうなのかな? 反応せざるを得ないように作ったんだもん。

だから反応しているわけですよ。

環ロイ:俺のやっていることをシーンの価値観のなかにいる人たちにもガッツリ伝えたいなっていう。

それならば、アルバム全体で徹底的に啓蒙するべきだったかもね。

環ロイ:それをアルバム全部でやったら、うるせぇじゃんって思うんだよね。汎用性ないし。

でも、そこまでやったらすごいインパクトがあったと思う。

環ロイ:それはちょっと無理だわ。それはライターとして面白がって言ってるんだろうけど、そんなの売れなそうじゃん。

ビートとラップがカッコ良ければ売れると思うし、シーンの外の人から見てもヘンな奴がいるなーって見られるかもしれない。

環ロイ:スキャンダラスではあるけど、それは無理だね。やりたくない。企画盤としてミニアルバムを作るのはやぶさかじゃなかったけど、今回は徹底的に啓蒙するほど手間は使いたくなかった。でも、2、3曲はやりてぇなみたいな。もうやりたくないよ。

啓蒙って上から目線に聞こえるけど、クレバがライヴでやっていることも啓蒙だと思うし。

環ロイ:啓蒙ねぇ。

ヒップホップってやっぱりそういう要素がある音楽だと思う。

環ロイ:「そういう音楽でもありますね」感が嫌なんだよね。

でも、実際にそうだから。

環ロイ:でもさ、リスペクトがヒップホップだとか、ヒップホップで救われたとか、みんなそういうことを言いたがるじゃん。それが嫌で。

嫌なの?

環ロイ:くだらねぇなって。ヒップホップなんて、ただのツールでしかないじゃん。ヒップホップをリスペクトとか言っているんだったら、電車リスペクトとか、i-podリスペクトとか、ビル・ゲイツリスペクトみたいになるじゃん。それは、ただの言語だから。別の方法でリスペクトを示せばいいじゃん。俺はそうしたいよ。

環くんがヒップホップ・カルチャーから受けたいちばんのインパクトは何?

環ロイ:わかんない。

何かあるでしょ。

環ロイ:俺はけっこう間違っちゃった感があるから。ヒップホップを間違ってチョイスしちゃったかなって。俺は坊ちゃんだったなぁ、みたいな。

それはヒップホップのゲットー至上主義的な考え方に引っ張られ過ぎだよ。別にそんなものは関係なくない。

環ロイ:その通りだけど、そう思っちゃうよね。

ヒップホップにしろ、テクノにしろ、ダンス・ミュージックにしろ、レイヴにしろ、一般的な社会で好ましいとされる生き方から道を踏み外させる力のある文化でもあるわけじゃない。そういう意味で、どうなのかなって。

環ロイ:見た目とか雰囲気。田舎のヤンキーが暴走族に憧れるみたいな感じ。で、俺はセンス良かったからヒップホップになった。

センスの問題なのか、それ(笑)。

環ロイ:だから、「ヒップホップをリスペクト」みたいな原理主義の右翼よりは俺のほうがわかっているぞっていうのがあるから。

じゃあ、環くんが音楽を作る上で、ヒップホップや音楽以外に影響を受けているものって何かある?

環ロイ:あんまり考えたことない。やっぱ音楽じゃん。

音楽以外では?

環ロイ:手塚治虫が「漫画家はマンガを読んで漫画を描くな」って言ってて。それをそのまま置き換えると、「ヒップホッパーは、ヒップホップを聴いてヒップホップを作るな」になる。さっきも言ったけど、ヒップホップでしかヒップホップを表現できないのはヤダ。近親相姦だなって。そこにいて安心している感じもするし。アメリカの最新のハイファイな音を真似したり、外国のファンクとかソウルばっかりサンプリングしてさ。

あと、ジャズのサンプリングとかね。それは、90年代の東海岸ヒップホップが日本で異常に影響力を持ってるからね。

環ロイ:『FRONT』と『BLAST』のせいでしょ。

それはたしかにあるかもね。

環ロイ:そこから細分化されたからね。

90年代中盤のヒップホップばかりかけるパーティにたまに出くわすことがあって、ああいうのはつまらないと思う。いろんな新しい音楽があるのに。

環ロイ:聴いている方は、『FRONT』や『BLAST』を読み込んで来た世代がやってるってわかってないよ。事務所に古い『BLAST』があるから、たまに読むの。昔、メイスってラッパーがいたでしょ?

いたいた。

環ロイ:あいつのことをボロクソ書いてんの。「ダセー」って。50セントのラップなんて、あいつ以降なわけじゃん。

ああ、なるほど。

環ロイ:シーダくんのラップは勿論すげぇんだけど、彼がやる前に、ああいったフロウはドーベルマンインクがバック・ロジックのプロデュースでトライしてるからね。ヒップホップのライターってそこはスルーしてたでしょ? 意味わかんねーから。

90年代のヒップホップの話は、青春時代に聴いたものから逃れられてないってことだよね。常に新しいものを追う気持ちになれてないってことだと思う。

環ロイ:懐メロ大会だよ。

そうね。

環ロイ:懐メロで良しとしているのはセンス悪いよ。そこをわかってないじゃん。

センスが悪いっていうか、新しい音楽も面白いのにって素朴に思う。

環ロイ:うん。

やっぱクラブ行って、新鮮な音楽を爆音で聴きたいじゃん。それが、90年代に聴き飽きた音だったりするとがっくし、みたいな。

環ロイ:でも、なんでそうなってるのかを考えたら答が出るように思う。

どういうこと?

環ロイ:俺は新しいのを作んないと気持ち悪いから作るけどさ。同じことを繰り返して楽しい人もいるってことでしょ。そこはなんとも言えないけど。

青春時代のインパクトが強いってことじゃない。

環ロイ:それは俺のなかで、音楽好きじゃなくてヒップホップが好きなんだっていう話につながる。

新しい音楽を追うのは体力の要ることだしね。

構成:二木信(2010年4月08日)

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Profile

二木 信二木 信/Shin Futatsugi
1981年生まれ。音楽ライター。共編著に『素人の乱』、共著に『ゼロ年代の音楽』(共に河出書房新社)など。2013年、ゼロ年代以降の日本のヒップホップ/ラップをドキュメントした単行本『しくじるなよ、ルーディ』を刊行。漢 a.k.a. GAMI著『ヒップホップ・ドリーム』(河出書房新社/2015年)の企画・構成を担当。

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