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Hard Talk

Hard Talk

― 対談:環ROY × 二木 信 ―

二木 信    Apr 08,2010 UP

売れているとか売れていないとかはどうでもいい。そういう評価基準で音を聴いてないから。 ――二木信


環ROY
Break Boy

Popgroup

Amazon iTunes

Y氏:いずれにせよ、"任務遂行"と"J-RAP"はロイくんの狙いどおりだったと思うんだけど。

環ロイ:そうなんですか?

Y氏:だって、Jラップのフィールドの人の反応を待ってましたっていう感じでしょ。そのフィールドにいる人だからこその今回の反応なんだから。俺からしてみれば、全く気にしてなかったから。でも、あえて言ったことで響いてる。

環ロイ:だから、もっとよく書いてよって話だよ。

Y氏:でも、それをよく書いたらダメでしょ。話がつながっていくことで気づく人も絶対多いよ。

何? また売り上げの話?

環ロイ:よくわかったね。

Y氏:俺がJラップ好きだったら、これ買ってみようかなって思うよ。

レヴューがあって、この記事がアップされれば、どんな曲なんだろうって思うよ。

環ロイ:こんだけ言ってたらね。

でも、逆に言うとハードル上げてるよ。

環ロイ:上げてるね。なんだたいして過激じゃねぇじゃんってなるよね。

そんなに過激じゃないってことは言っといたほうがいい。

環ロイ:そこまで過激ではない。"任務遂行"でゴチャゴチャ言ってわかりやすくして、後半はもっと広い世界があるよって示唆してる。で、(七尾)旅人くんとやったケツの曲で次につながるっていう感じなの。意外とそうやってコンプレックスを浄化していく作業でもある。まあ、いろんな奴が聴いてくれたら、それでいいのかもね。しかも、あのジャケでさ。

あのジャケっていうのは?

環ロイ:曽我部恵一さんみたいな。

これは自分で提案したんだ。

環ロイ:してない。ああなっちゃった。「おめぇらできねぇだろ」ぐらいやったほうがいいんじゃねぇみたいな。

その対抗心、わかりにくいなぁ。

環ロイ:(坂井田)裕紀くん(ポップグループのオーナー)が俺を説得するために言っていたことだけどね。アンダーグラウンドのラッパーはジェケで顔を隠した写真を使ったりするから。

現実問題として顔を撮られたくないんだろうね。

環ロイ:そうだね。そっちのほうがでかいかもね。

そっちのほうがでかいと思う。

環ロイ:じゃあ、顔写真をジャケにすんなよってなるじゃん。

あれは「俺は顔を出せない」ってアピールなんじゃない。たぶん。

環ロイ:ああ、不良アティテュードなんだ。

だと思うよ。

環ロイ:へぇー。あんまり意識してなかった。それ、カッコイイな。でも、キッズ的にはカッコイイけど、資本主義社会システムのなかだとただのはぐれ者でしかないじゃん。

ヒップホップははぐれ者が生きられる世界でもあるんだから。

環ロイ:全然生きられてないよ。それができてないのは......。

そういう人たちだけの責任だとは思わないけどね。

環ロイ:それ、さっき俺が言ったじゃん。

言ったっけ?

環ロイ:言ったよ。システムは俺ら全員で作っているからさ。アメリカに戦争で負けたからって話につながるじゃん。

戦争の話はよくわからないけど、MSCやベスやシーダの音楽はこのままの社会システムでいいのか?って注意を喚起したよね、結果的に。

環ロイ:俺はそういう考え方があまりなかったから。

前に環くんにインタヴューしたとき、彼らと違うリアリティを表現したいと思わない?って訊いたの覚えてる?

環ロイ:覚えてない。そしたら?

「金持ちを相手にしたいなー」って(笑)。

環ロイ:それは、ああいう人たちより育ちがいいから、できないんだよ。

育ちが良くても社会との軋轢は生じるでしょ。

環ロイ:あるね。でも俺はシステムに順応したフリをしてハッキングしたほうがカッコイイって思うんだよ。そのほうが訴える絶対数も増えると思うし。だから、俺のほうがカッコイイじゃんって思ってるよ。それしかできないんだけどさ。

体制に忍び込んで反体制的なことを表現していると。

環ロイ:そういうつもりでやってるよ。

そこまではわかんなかった。

環ロイ:アウトロー文脈じゃ、やっぱ勝ち目ねぇしさ。そういう人間でもないし。むしろ溶け込む。バイトしてた時、普通にしてても明らかに浮いてたけどね。

溶け込めなさそうだよね。

環ロイ:溶け込んでいる風にできるから。クレバもハッカーだと思うし。

どこらへんが?

環ロイ:USのヒップホップの手法を織り混ぜていく感じとか。

また話が戻って来ちゃった。

環ロイ:〈横浜アリーナ〉のライヴでエフェクターの説明してたじゃん。あんなの普通に生きていたら、なかなか聞けないよ。2万ぐらいで買える機材でこんなに楽しいことができるって教えるのは、あの人じゃないとできない。

なるほど。それなら音楽に合わせてそれぞれがもっと自由に踊っていいんだよっていうメッセージのほうが重要だと思った。みんなが同じように手を振る一体感はやっぱり違和感あったよ。

環ロイ:クレバの判断上、それをやっても効果はそんなに望めないって思ったんじゃねぇかな。よりポップな選択をしたんだよ。二木が言うような啓蒙はクリティカルだけど、クレバは自由に動いていいよって言われてもわかんねぇっていう奴のほうが多いと思ったんでしょ。より多くの人に伝わる選択をしたんだよ。そこは急に求めんなよってことだよ。みんな、じょじょに頑張ってるんですよ。だって、パラパラがこの間まで流行ってたんだぞ。そういう現実があるよ。あんな大勢の人間にコミットできるクレバは二木より考えてるんだよ。

多くの人にコミットできているのはすごいことだと思う。

環ロイ:考えの賜物だと思うから。

でも、多くの人にコミットできている人がすごいって論理でいくと、売れている人がいちばんって話になっちゃうから。

環ロイ:っていう論理もあるじゃん。

それは資本主義の論理だから。

環ロイ:だって資本主義の社会じゃん。それは学歴社会みたいなもんで、ひとつの評価軸になることは否めない。

否めないとは思うよ。

環ロイ:それでいいじゃん。

だから、資本主義は絶対じゃないから。

環ロイ:もちろんそうだよ。

そもそも俺は売れているとか売れていないとかはどうでもいい。そういう評価基準で音を聴いてないから。売れている云々とは別のところで俺なりにクレバの音楽に思うところがあるというだけの話だよ。

環ロイ:ムカつくな。俺の大好きなクレバに対して。俺にとっては唯一ヘッズに戻させてくれるラッパーだから。

『心臓』はかなり聴いたし、大好きだよ。でも、ライヴには素直に乗れなかった。環くんはあの場にいて、心底燃えた?

環ロイ:楽しいよ。多くの人間にコミットできているラッパーの数が少ないからっていう、さっきの評価軸による力が大きいとは思う。それでいて、ラップの内容はハードコア・ラップじゃん。ファンキー・モンキー・ベイビーズに比べたら、ヒップホップっていう文脈のなかから出て来た人のラップだよ、やっぱ。音楽やってる人はみんなクレバ好きだよ。簡単に言っちゃうと、あの人はセンスいいんだよね。国内で音楽やっている人がぶつかる何かしらの壁に対しての壊し方なのか、いなし方なのか、その手法のセンスがいい。ハッカーってそういうことだよ。あの人こそ言わないだけで、日本語ラップ・シーンを超意識しているよね。ヒップホップであるっていうことにも超意識的だしね。

 今回の取材にはここには書き切れない長い後日談がある。が、それについていまは言うまい。僕が環ロイの音楽を聴いて何を言おうが書こうが自由だし、環ロイがそれに対して異議を唱えるのももちろん自由だ。また、当然のことながら、読者の方々がこの記事を読んでどんな意見を持ち、発言しようとまったくの自由なのである。そして、当たり障りない提灯記事を読みたいか、正直な意見や感想が記された記事を読みたいか、その判断は最終的に読者に委ねられている。僕が環ロイの取材を通して、いま、最後に言いたいのはそれだけだ。

構成:二木信(2010年4月08日)

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Profile

二木 信二木 信/Shin Futatsugi
1981年生まれ。音楽ライター。共編著に『素人の乱』、共著に『ゼロ年代の音楽』(共に河出書房新社)など。2013年、ゼロ年代以降の日本のヒップホップ/ラップをドキュメントした単行本『しくじるなよ、ルーディ』を刊行。漢 a.k.a. GAMI著『ヒップホップ・ドリーム』(河出書房新社/2015年)の企画・構成を担当。

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