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interview with Seiichi Yamamoto

interview with Seiichi Yamamoto

半径500メートルの永遠のうた

――山本精一へのインタヴュー

松村正人    Jul 14,2010 UP

でも僕、ボアダムスをやる前はずっと歌っていたんで、個人的にはそっちの方がイメージですよ。羅針盤にしても87年、ほとんどボアダムスと同じ時期に結成しているから。

今回はベースを弾かれていますが、このアルバムではベースがすごくポイントだと思うんですね。間をとるようなベースが全体のムードを作っていると思いました。

山本:ちょっとズレてね。全体の印象はすごくチープなんですけどね。

山本さんがドラムまで叩いた方がよいと思った理由はそこにあります。

山本:千住は上手いからね。

表題曲の"Playground"は譜面に書けるリズムではないですよね。

山本:そうね、このズレは譜面では表せないね。

この曲を千住くんにどう説明するんですか?

山本:「遊んでいるみたいに叩いてくれ」とか、そんな感じですよ。それで一発録り。まちがっていても全然オーケー。ワンテイクの方が勢いがあるし、「遊んでいる感じ」では2回はできない。歌は入れ直した曲はあるけど、演奏は全部テイクワン、弾きながら、歌いながらドラムといっしょに録音しました。だからライヴといっしょです。

曲をカチッと作るよりナマのままの歌を録音するという狙いだったんでしょうか?

山本:なんにも考えてないんですよ。「なんか今日レコーディングがあるな」という感じでスタジオに入ってなんとなくやっている、そのスタジオはお弁当が出るんですよ。エンジニアの方のお母さんがお弁当作ってくれるんですよ。だからマザーシップ・スタジオなんですが。大友(良英)くんとかふちがみとふなととかもそこで録ってますよ。ポコッといってポコッと録るにはいいんですよ。だからなんにもないんですよ。宅録みたいにね。

『なぞなぞ』と『幸福のすみか』の間の感じじゃないですか?

山本:そうですかね? 『なぞなぞ』は宅録以下やからね。僕はね、もう凝りはじめたらとめどないですからね。はっきりいって5年はかかります。このアルバムはそんなことはない。それがコンセプトといえばコンセプトかもしれない。

作りこまないアルバム。

山本:そう。粗い感じでやりたいようにやる作品。まちがってもそれはしょうがないというかね。完璧主義はもちだしませんでした。

羅針盤とはまるでちがう?

山本:羅針盤もディテールにはそれほどこだわってないですよ。羅針盤はポップスのつもりだったから。あれは一般のひとにも聴いてほしいと思ったから。

一般に届けるためのポイントはなんですか? 作曲ですか? アレンジですか?

山本:普通にラジオで聴いていても、そんなに違和感ないもの......ですかね。まあ違和感がないとはいいきれないけど(笑)。僕は歌がヘタなんで、極限まで普通に聴ける状態に近づけようと、一小節を100回くらい歌い直したこともあります。とくにシングル・カット曲では極限まで普通のポップスをやろうとしました。

"永遠のうた"(羅針盤のファースト・シングル)から山本さんの音楽を聴きはじめたというひとも多いでしょうね。

山本:入り口が広がったとは思いますね。

あの曲で歌に開眼したところはないですか?

山本:そんなことはない。普通のポップスをどこまでできるかということですよ。最終的には普通ではなくなったけど(笑)。

あれだけ作品を出しているということは、やっているなかに発見があったということですよね。

山本:それもあったし、元々ポップスは好きですからね。

羅針盤からそういった山本精一像はできた気がします。

山本:でも僕、ボアダムスをやる前はずっと歌っていたんで、個人的にはそっちの方がイメージですよ。羅針盤にしても87年、ほとんどボアダムスと同じ時期に結成しているから。

羅針盤の方が後発のイメージがありますね。

山本:ほとんど同じ。ズレていても一年か半年ですね。ボアダムスとかあの辺のバンドには僕はギター(と作曲)で入っているから参加している意識だったんです。ボアダムスに入ったのも田畑(満)が抜けたからだし。

そういはいってもボアダムスの在籍も結構長かったと思いますが、自分のバンドではないという意識だったんでしょうか?

山本:僕のなかのひとつの要素ではありましたけど、本来の僕のやりたいことではなかった。

歌とボア的な要素をミックスすると想い出波止場になる?

山本:想い出波止場はまたちがう。想い出は......説明しにくい(笑)。あれに類するバンドはあんまり思いつかない。ファウストとか。

想い出波止場も去年ライヴしましたね。

山本:まあでも当分やらないですね。

どうしてですか?

山本:やるモチベーションがない。あのときは旧譜が再発されたからね。

新譜は出さないですか?

山本:出さないです。

それは残念ですね。音楽が進化しない限り出す意味がない?

山本:基本は......想い出の話は止めましょうか。あのバンドはむずかしいんですよ。言葉にしにくい

わかりました(笑)。では『Playground』に戻りましょう。3曲目がタイトル曲になっていますが、その意図はどういったものでしょう?

山本:その曲は別な名前がついていたんです。タイトルが先にあって、それをつける曲を探していて、3曲目が一番いいと思った。3曲目は元は"めざめのバラッド"。名前を変えたんです。

この曲が全体を象徴していると思った?

山本:変えるのはそこしかなかった。"めざめのバラッド"は......あれ入ってるわ。元は"メール"って曲だったかもしれない。

曲名は気にしてなさそうですね。

山本:適当です。

歌詞はどうやって作るんですか?

山本:......適当(笑)。

このアルバムでは生活のなかから出てくる言葉が使われているんですよね?

山本:なんとなく出てくる言葉を書いているだけですよ。

曲が先にあって、そこに言葉の断片をあてはめていくということですか?

山本:そうです。だから自分の歌詞を全然憶えられないんですよ。考えてできたようなものじゃないし、ドラマになってないし、ツジツマが合わないから憶えられない。厳密にいうと僕のなかから出てきているとけど頭は通過してないんですよ。昔からいうんですけど、「落ち穂ひろい」というかね。地面に落ちている木の枝のたき火になりそうなものだけをひろう、その感じ。僕のなかにそれを選び分けるなにか、装置みたいなものは働いているけど、自覚的に自分が言葉をつなぎ合わせるというかね、創造的に言葉を選ぶ感じはない。ひろいあげていっている。

言葉の組み合わせには流れがいりますよね。歌詞もひとつの文章だから。

山本:そうかな?

すくなくとも言葉の連なりではありますよね?

山本:でもね、それは音素というか言葉がスケール(音階)やメロディラインに乗っかっていくと、言葉が耕されていくというかね。音楽に言葉をうまいこと乗っていくわけです。それは自動的な選択、エンター・キーが押される感じです。

たとえば2曲目の"待ち合わせ"のサビのあたりで、「孤独」「闇」「深い朝」と連なる流れにはイメージの起伏があると思うんですよ。これって意図しないと作れないフレーズだと思いますが。

山本:そこは意図しました。そこくらいはツジツマがあっていた方がいいと思ったから。

そういった落ち穂ひろい的な断片のなかにイメージを繋げられる言葉が入りこむから印象を残すのかもしれないですね。

山本:最初にある意味、自動筆記的に歌詞を書きはじめるんですよね。そうすると、俯瞰すると、意味が合う場所ができる。それをあとでまとめることはありますね。

出口ナオみたいな?

山本:お筆先? ちがう......いや、ちかいかもしれんな。出口王仁三郎があとでそれをまとめるというかね。

山本さんは王仁三郎の役割ですね(笑)。

山本:いや、僕はナオと王仁三郎がいっしょになってるのかも(笑)。勝手に出てくるものがあって、それをリライトする自分がいる。作るときはナオしかない。

山本さんは自分をものすごく客観視するところはありますよね。

山本:僕は批評性からは逃れられない。もともと僕、批評から音楽に入っているわけだし。だけど、批評臭さはでないようにしたようと思ってます。

私は『Playground』も1曲ごとに批評性はあると思いますよ。たとえば、1曲目なんかはシューゲーザーへの批評とも思いました。

山本:そんなことないよ。マイブラ、僕大好きやもん。1曲目はマイブラですよ。

『ラブレス』の1曲目("オンリー・シャロー")が元ネタですね。でもそれを山本さんがやるのは批評的なニュアンスがあるとも思います。

山本:批評には僕、否定的な意味合いがあると思うのよ、ちがう?

うーん。そうは思わないですね。

山本:僕はでも、否定的なところはないですよ。好きだからやったというだけでね。マネしてみました、みたいな。この感じが大好きなんやね。

それだけプライベートな作品だということですよね。それはたしかだと思いますけど、山本精一の名前で出ると批評的な色合いを帯びてくるとも思うんですね。

山本:因果なことですよ。

作っていくなかで、参照したものは本当にないですか?

山本:とりたててなにかを参照したというのはやっぱりないですよ。自分のなかには、いままで聴いてきた何十万枚という音楽が入っていて、そこからのアウトアップは意識的にも無意識的にも当然あります。それを影響といえばそうなるでしょうが、その意味で影響がない人間はいないということでもある。でも僕はもう、どこからそれがきたのはもうわからない。膨大な量があって、それはもう土壌のようなものですよ。そこから生えてくるキノコみたいなものでね。それはもちろん音楽だけじゃなくてね。

経験を土壌にできるかどうかでもあるとは思いますけどね。

山本:まあね。いい忘れたけど、今回もうひとつコンセプト的なものがあるとしたら質感ですね。

文 : 松村正人(2010年7月14日)

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