Home > Interviews > inteview with Satomi Matsuzaki (Deerhoof) - ディアフーフの10作目と彼女の記号性
その頃のヒッピーたちがサンフランシスコにはまだたくさん残っています。それかすごい若いヒップスターたち。かわいい服来てバーに飲みに行くっていう感じの。ヤッピーとかまわりではひとりも知らないけど、たぶんヤッピーが80パーセント。いまニューヨークとサンフランシスコって家賃が同じくらいの相場です。そのヤッピー化がすごい深刻で、もう引っ越そうって。
ディアフーフ ディアフーフ vs イーヴィル Pヴァイン・レコード |
■はい。仕事もそうなんですが、サトミさんご自身にとってこの10年の空気ってどんな感じだったんでしょう。たとえばこんなバンドが印象深かったとか、映画でもなんでもいいですし。
サトミ:一緒にツアーしたバンドのことはよくわかるんですけど、私すごい疎いんです。だって、この前初めてジャスティン・ビーバー知ったんです、1週間くらい前。
■(一同笑)まあ、私もちゃんと聴いたことないですけどね。
サトミ:みんなにすごい驚かれました。ココロージーの人にもこのあいだ東京でばったり会ったんですけど、名前は知ってたんですけど、音楽は知らなくて。
■(笑)ココロージーはけっこう活動長いんですけどね。〈タッチ・アンド・ゴー〉ですよ。
サトミ:そう、すごい疎いんですよ。あんまり自分でサーチとかしなくて、人からもらったりするミックスCDとか聴いて、ああこれいいなあとか思ったり。でも「コンゴトロニクス」は好きで、コノノNO.1とか、友だちと踊りに行ったりしてました。そしたら、偶然、「コンゴトロニクス」のクラムドディスクの方から声がかかって、リミックスをしたりしました。
■あ、そうですよね! セールスやツアーとかでは、とくに相性がいい国とかはありますか? やっぱりヨーロッパとか日本になるんでしょうか?
サトミ:この前、初めて東ヨーロッパをツアーしたんですが、それはすごい盛り上がりました。ロシアとかもけっこう行ってて。どうなんだろう。ディアフーフがいちばん受け入れられないなって感じるのは、イタリアですね。
■はははは! そうなんですか?
サトミ:それはメンバー全員一致でそう。受けないんですよね。なんかポスト・ロックとかが好きな土地みたいで、すごくかっちりしたバンドが受けるみたいなんですね。すごくテクニカルなものが。ディアフーフって、全部がゆるく流れるような大っきい動きだから。あと、なんか冗談とかもたぶんちょっと違うんだと思う。国民性っていうかツボみたいなものが。ちょっと残念なんですけどね、イタリア大好きなのに!
■それはオーディエンスの感じから伝わるんですか。
サトミ:そうですね。熱いお客さんはいるんですけど、もう行くことないかも。
■へえー。サトミさんの、そういう佇まいというか、サトミさんというモデルの影響力はすごく大きいと思うんです。ノイズ・ロックと日本人女性の平板な感じのヴォーカル、っていう。起伏の少ないすごく特徴的なヴォーカル・スタイルで、サトミさんひとりで日本人女性アーティストの対外的なイメージすべてを担っているというくらいの影響力があると思うんですが、そういうものが受け入れられる国とそうでない国、ということですかね。あ、でもブロンド・レッドヘッドとかは......
サトミ:イタリア人ですよね!
■そうですよね、イタリア人兄弟+日本人女性ですよね。サトミさん自身は、サトミさんご自身へのオーディエンスからのリスペクトや支持・人気を感じますか?
サトミ:そうでもないです。ロックスター・スタイルがぜんぜんなくて。べつに日本人を意識してなくて、普通ですよ。アメリカってほんとに人種がいっぱいいる国で、日本人だからって持ち上げられることもないです。ディアフーフの音楽がほんとに好きって言ってくれる人がいるだけですね。けっこう日本人ヴォーカルだって知ってる人も多いし、ディアフーフを好いてくれる人ってオープン・マインドな人が多いんです。だから、アメリカだけに引きこもってる人たちじゃなくて、インターナショナルな音楽に興味がある人たちが多いんで、とくにいまの時代はそういう(人種に線引きをする)若い人たちって少ないと思います。
■ヴォーカルについてのお話をもう少しお聞きしたいです。「平板」と先ほど申し上げましたが、チャイルディッシュで神秘的で、でもとっても知的で。歌詞もそうだと思うんですが、そういう要素がマッチョなものに対する批評として働いていて、ディアフーフの音楽自体と同様に、それはひとつの革命だったと思います。ライオット・ガール的な問題をライオット・ガールとは逆の方法論で提示している。〈キル・ロック・スターズ〉ってライオット・ガールのイメージが強いですよね。
サトミ:うんうん。90年代初頭、って感じですね。
■はい。そういうマッチョイズムに対する批評として、サトミさんのヴォーカル・スタイルにはすごい影響力があると思いますが、どうでしょうか?
野田:今のは、あれだよね。橋元さんのディアフーフ論で。結局、あえて抑揚をつけないことの意味って何なのかってことでしょう?
サトミ:ああー。ディアフーフはヴォーカルと楽器を同じように扱ってて、たとえばレディー・ガガだったらヴォーカルをすごく強調してたりするけど、ディアフーフはトランペットとかとヴォーカルの扱いは一緒で。だから逆に、こぶし?(ヴィブラート)とかつけないでって言われるんですよね。音としてとらえて、ヴォーカルとしてとらえない。だからおもしろいダイナミクスがあるんですね。モヘアみたいな。どこかが飛び出てるけど、必ずしもヴォーカルでない。ライヴでもギター(のレヴェル)を上げます。ヴォーカル上からかぶせないで。そういうコンセプトはあります。でも、それ当たってるかも。マッチョなものが嫌いで。ジャズやクラシックとか好きです。マッチョな音作りは避けます。ベースとかもミュートしたり、リズミカルにして、そういうところには気を遣っているつもりです。
■面白いのが、ギター・バンドとしてのプライドというか美学もすごくあると思うんですよ。それなのに全然マッチョじゃないのは、バンドとしてのまとまりや音楽性がすごく完成されているからだと感じます。ご自身のスタイルはずっと、最初からあったものなんですか?
サトミ:そうですね。オペラティックや演歌っぽいスタイルはたぶん自分にないものです。自分にそのカードがない。あとヴィブラートとかはあんまり音に合わないと思います。合えばやってもいいんですけど。ほんと、だからブラス・バンドみたいにこう「ボー」っとした、音みたいな声、そういうのが合うと思ってて。
■でも、すごくフォロワーを生んだんじゃないでしょうか。あまりにオリジナリティがあるから真似は難しいですけど、意識や雰囲気としては。
サトミ:あ、でもこの前ライヴに来てくれたグループが「カヴァーやってます」って言ってて。ディアフーフのカヴァー・バンド。だからどんなんだろうなって思ってユーチューブで観てみたら、すっごいヴィブラートつけて歌ってたの。
■(一同笑)それ違うじゃんっていう!
サトミ:歌い方が全然違うっていう。しかもすごい叫んで歌ってて。それであれをディアフーフがやったら、違うかなーって思いました。自分でやってみたことないから、人がやってるのを観てすごい勉強になる(笑)。それからユーチューブでいろいろ探してみたら他にもけっこうカヴァー・バンドがいて、面白いんですよ。
■新解釈だったかもしれませんね(笑)。
サトミ:けっこうリンクでいろいろなカヴァーを観れて、面白いです。いろいろな国にいて。スウェーデン人の男の子がファルセットで歌ってたりして。
■ははは! カヴァー・バンドばっかり10組とかで面白いアルバムができそうですね。
野田:ヴォーカリストとしてインスピレーションを受けた人っているんですか?
サトミ:前にもインタヴューで言ったことあるんですけど、スウィングル・シンガーズとか好きです。あの、女の人4~5人でラララッーって歌う感じの。
■コーラス・グループみたいな人たちですか?
サトミ:そうですね。あとは......なんでも聴くんですけど、そんなに自分のヴォーカルを研究したことがなくって、歌ってたら「そんな感じがいいんだよ」ってまわりに言われて。で、みんなも「それでそれで」ってリクエスト受けてます。
取材:橋元優歩(2011年1月24日)