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interview with Haiiro De Rossi

interview with Haiiro De Rossi

ヒップホップ・アゲインスト・レイシズム

――ハイイロ・デ・ロッシ、インタヴュー

二木 信    photos by 椿 祐輔   Feb 08,2011 UP

テレビやYouTubeを観て危険だって感じることもあるけど、オレたちの場合は横浜が近いし、中華街があるじゃないですか。タクマの家はモロその辺りなんですよ。オレはヤツのお母さんとも普通に仲良いし。やっぱり危険は感じていましたよ。だから、オレらに何かできることはねーかって考えた。


Haiiro De Rossi
Same Same But Different

Slye Records

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これまで僕は、ハイイロくんのラップはどちらかと言えば文学性に重きがあると思っていたから、「WE'RE THE SAME ASIAN」のような曲をああいう形で出したことに驚いたんです。タクマくんたちとの出会いが大きかったんですか?

ハイイロ・デ・ロッシ:もともとそういう考えはありましたね。うちの母親が養護学校の先生なんですよ。そういうことを小学校の先生とかは知っているじゃないですか。だから、特別学級の子が運動会で走る横でいっしょに走る役をお願いされたりとかしていた。オレは良いことをしている気も、悪いことしている気もなかった。だから、友だちの親とかに「すごいね」って言われることに違和感があった。その時点で差別的じゃないですか。家庭内で「差別はまじで止めろ」って言われていた。最初は人種とかじゃなくて、障害に関して親から言われたことが大きかったのかもしれない。

右翼のデモの熱量も凄いじゃないですか。そういう時代の風向きも肌で感じていました?

ハイイロ・デ・ロッシ:やっぱり危険っすもんね。

テレビを観ると、戦争を煽るような報道が平気であるわけじゃないですか。

ハイイロ・デ・ロッシ:テレビやYouTubeを観て危険だって感じることもあるけど、オレたちの場合は横浜が近いし、中華街があるじゃないですか。タクマの家はモロその辺りなんですよ。オレはヤツのお母さんとも普通に仲良いし。やっぱり危険は感じていましたよ。だから、オレらに何かできることはねーかって考えた。なんだかんだ批判のコメントが目立つけど、評価も注目もされているし、議論もされているから、狙い通りじゃないですか。モス・デフがブラックスターの歌詞で、「なんでオレがハスリングもしてないし、ストリート・ファイトもできないのにストリートからプロップスを得ているかわかるか? それはお前らよりラップができるからだよ」というようなことをラップしているんです。オレが音楽やヒップホップに求めているのはそういうことです。たとえば、右翼が絡んできたとしても、オレはラップが上手いからラップで返す。show-kさんとのビーフに関しても、あれはタクマが出るべきじゃない。ふたりで返すのが筋だけど、あれ以上はあいつ以外も傷つける可能性があるじゃないですか。だから、オレがひとりで出たんです。あそこでダサいラップをしたらおじゃんだったし、リスクがあったぶん、返って来たものも大きかった。

あそこでタクマくんを出さなかったことを考えると、今回の曲についてかなり慎重に考えていたってことだよね。

ハイイロ・デ・ロッシ:そうですね。そこを考えないで行ったら、ただの喧嘩ですからね。

なるほど。ハイイロくんのこれまでのキャリアについて少し教えてもらえますか。

ハイイロ・デ・ロッシ:17歳のときにラップをはじめたんですけど、最初は芽が出る雰囲気がゼロでしたね。20歳のときに活動の場所を地元の湘南から都内に移したんです。ノルマを払うしかない状況を一回作ってみた。そこでエクシーと知り合って、エクシー周りのイヴェントに出はじめました。で、1年ぐらいして〈スライ・レコーズ〉に入った。そこからはとんとんと進みました。去年、セカンドを出して、メンタル的にも身体的にも一度湘南に戻っていますね。湘南でやっていた人も上がってきているし、わりとオレの状態も湘南にフィットしています。

最初に影響を受けた音楽は?

ハイイロ・デ・ロッシ:いちばん最初はコーンやリンプ・ビズキットを聴いていて、そこからエミネムに行きました。で、コモンの『レザレクション』を聴いて、「これもエミネムと同じジャンルの音楽なんだ!」ってことに驚いた。それからいわゆるネイティヴ・タンやソウルクエリアンズ周りを聴くようになった。いわゆる向こうでナードって捉えられているラッパーもアルバムのなかに一曲はバトル・ライムが入っているじゃないですか。そういうところには忠実でいたいですね。

ハイイロくんのアルバムを聴き直して、〈ロウカス〉にもかなり影響を受けているのかなって感じました。どうですか?

ハイイロ・デ・ロッシ:そこはほんとにありますね。僕自身がモス・デフにむちゃくちゃ影響されている。モス・デフとQ・ティップが大きいですね。モス・デフはブルックリンだけど、ボヘミアニズムがあるじゃないですか。ああいう風にありたいと思います。Q・ティップのJ・ディラを発掘したりする、人を見つける力、プロデューサーの力をすごく尊敬してますね。タクマはタリブ・クウェリの超信者なんですよ。

ブラックスターじゃん!(笑)

ハイイロ・デ・ロッシ:そうそう(笑)。あいつと出会って、曲を作るミーティングをしようってなったときに、けっきょく車のなかでタリブのアルバムについて10時間ぐらい話したんです。オレらはタリブのラップに関して超研究していますね。とくにラップの拍の取り方ですね。

タクマ・ザ・グレイトと知り合ったのは去年?

ハイイロ・デ・ロッシ:17歳ぐらいからお互いクラブで見たりして知っていたけど、その頃はみんな尖っているから、タメとは絡みたくないという気持ちがあるじゃないですか。負けたくないというのもあるし。

湘南はどんな町ですか?

ハイイロ・デ・ロッシ:アレステッド・ディベロップメントとか合いますね(笑)。

ゆったりとしている?

ハイイロ・デ・ロッシ:そうですね。良いことかはわからないけど、夢を見て育てる場所ですね。

以前、インタヴューしたときに話していたけど、ギャングスタ系のラップをしようとしていた時期もあったんだよね?

ハイイロ・デ・ロッシ:それがちょうどエミネムを聴いている時期ですね。スリップノットとかも聴いていたから。破壊したかったんですよね。でも、やっぱり違うということに気づいた。

破壊というのはどういうこと?

ハイイロ・デ・ロッシ:すべてをぶっ壊す音楽をやりたかったんです。そういう時期だったんでしょうね。でも、コモンや〈ロウカス〉を聴くようになって変わりました。バイオレンスやイリーガルさを出しても、けっきょくラップが下手だったら、意味がないと思った。クラックだらけのジャケットにしても、そいつからその匂いがしなかったらおかしいじゃないですか。匂いがいちばん大事だと思います。その時期にジャズもスゲェ聴くようになった。オレにとってジャズは匂いがすごく強かった。

どんなジャズを聴いていたの?

ハイイロ・デ・ロッシ:マイルス・デイヴィスの『カインド・オブ・ブルー』をいちばん聴きました。あと、『サムシング・エルス』ですね。いわゆる有名盤を聴いていました。マイルスは白人のビル・エヴァンスをバンド・メンバーに入れたことで叩かれたじゃないですか。マイルスの自伝も読みましたけど、「いいプレイをする奴なら、肌の色が緑色の奴でも雇うぜ」って言っている。その気持ちはオレらも持っていますね。ファーストを作っている頃は、ジャズのネタでラップをすれば、オレが思うジャズ・ラップになると思っていたけど、それは違うんじゃないかなって。トラックがどういうトラックでもオレがジャズなラップをしとけばいいと思った。だから、いまはジャズにそこまで固執しなくなりましたね。

たとえば、ジェイ・Zのラップを音符にすればジャズに置き換えられるという説もあるけど、そういうのも意識している?

ハイイロ・デ・ロッシ:そうですね。レコーディングのとき、歌詞を読みながらラップするじゃないですか。いくつものヴァージョンを録ってみて、どれがいちばんいいのか、その瞬間生まれるものがある。エンジニアとちゃんと話したほうがいいのか、ひとりで高めてブースに入りっぱなしがいいのか。そのモチヴェーションの作り方はいま現在も研究しています。

ジャズ・バンドを従えてライヴしたいという気持ちなんかもある?

ハイイロ・デ・ロッシ:いずれはやりたいですね。オレが最終的に目指しているのは、日本人がワンマンで〈ブルーノート〉や〈ビルボード〉でやることなんです。武道館とかじゃないんですよ。

取材:二木 信 (協力:野田努)(2011年2月08日)

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Profile

二木 信二木 信/Shin Futatsugi
1981年生まれ。音楽ライター。共編著に『素人の乱』、共著に『ゼロ年代の音楽』(共に河出書房新社)など。2013年、ゼロ年代以降の日本のヒップホップ/ラップをドキュメントした単行本『しくじるなよ、ルーディ』を刊行。漢 a.k.a. GAMI著『ヒップホップ・ドリーム』(河出書房新社/2015年)の企画・構成を担当。

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