Home > Interviews > interview with Goth-Trad - 真打ち登場
初期のダブステップの面白かった部分や新しさ、「何でも自由がきくんだよ」っていうような音----まあだからこそファンキーとかポスト・ダブステップが生まれたものかもしれないけど、でも俺からすると、それは違うんですよね。いわゆるダブステップ、でもそのなかから進化させたいっていう気持ちはずっと持ってやってるので。
Goth-Trad New Epoch Deep Medi Musik/Pヴァイン |
■なるほどね。じゃあ今回のアルバムっていうのはDJツアーしながら曲を作り溜めていって、それで揃ったから出たって感じ? それとも、もうちょっと全体のコンセプトっていうか、----僕はすごく今回のアルバムを聴いて、いままでのゴス・トラッドとは別の、グルーヴィーというか、ある種の開放感みたいなものを感じたんだけど----自分の新しいステップというか方向性というものがはっきりしたから出そうっていうことになったの?
GT:それもあると思います。実は俺はこの2年ぐらいですね、さっき言ったダブプレート文化っていうのがダブステップ・シーンの良い部分ではあるには違いないですけども、それをやりすぎちゃうと怖いなっていう風に思いはじめたんですよ。2年ちょい前ぐらいから。だから、そういう(いかにもダブステップ流の)ことから距離を置きはじめたんですよね。
■え、なんでですか?
GT:もっと自分の音楽にフォーカスしようと思ったんですよ。たとえばさっき言ったような「DJのネタがない」って思うのがイヤだったので。「じゃあ自分で作ろうよ」って感覚になったんですよね。DJにしてもライヴ・セットにしても、自分に足りないものは自分で作っていこうっていう。もっとそっちにフォーカスしようと思って。ひとの音楽とちょっと距離を置こうかなっていうのがあって。そういう感覚でこの2年間ぐらいやってたと思うんですよね。もちろんひとの音楽も聴くんですけどね。何曲かはダブプレートであげたりもしてるんですけど。流行りとか、そういうところからちょっと距離を置くというか。
■なるほど。
GT:とくにこの3縲怩S年、スタイルというかテクニカルな部分がすごくフォーカスされたと思うんですよ。ブリアル的な音だったりとか、フライング・ロータス的な音だったりとか、そこが逆にトゥー・マッチで。俺、デモとかもらっても、「真似ばっかじゃん」みたいな。そういうのをすごく感じたときもあったし。若い子たちにもそういうの感じるし。逆にそういうのを完全無視でやってもいいんじゃねえかって思うし、それでいい曲作ったほうが10年経っても良い曲なんじゃないかなって思ったり(笑)
■ゴス・トラッドも最初はどこのシーンにも属してなかったと思うからね。
GT:テクニカルな部分って、たしかに知らなきゃいけないと思うんですよね。上手く使いたいし。そういうのも勉強するんですけど、でもトゥー・マッチになるのはイヤだと思ったりしたし。
■ジェームズ・ブレイクは2011年に日本でヒットしたけど、どう思った?
GT:俺は曲によってはすごくカッコいいと思いますよ。俺は何回かいっしょにプレイしたこともあって、向こうで。で、DJプレイもすごくいいんですよ。去年ドイツのベルリンでいっしょになって、DJプレイを観たらノリいいんですよ、すごく。トラックを聴くとディープなイメージで----まあアルバムの前の〈R&S〉から出てるのはもうちょっとグルーヴィーな感じで、DJはけっこうあの路線ですよね。
■へー、DJもやるんだね。
GT:だから俺は今回日本来たとき、どうしてDJやんないのかなと思ったりしましたけどね。
■彼はそれこそアンコールの1曲目にマーラの曲を歌って。
GT:あー、"アンチ・ウォー・ダブ"ですよね。あれ微妙ですよねー......(笑) はははは!
■もちろんオリジナルのほうがいいからね(笑)。
GT:俺はあれは何かなー。「カヴァーばっかやってんなー」と思いますけどね。
■それはでもリスペクトなんじゃない? 彼自身に全然罪はないんだけど、彼個人だけが悪い感じでハイプになっちゃったから。一般紙に書いてるジャーナリストが「クラブ・ミュージックもやってるらしい」って書いたり、文化人から「ダブの影響を受けているらしい」とか書かれたり、おいおい少しぐらいは調べてくれよって、そんなレヴェルのものだからさ。だから日本ではゴス・トラッドにかかる期待は大きなものになっていくと思うんだけどね(笑)。
GT:そうですか(笑)?
■ジェームズ・ブレイクがきっかけでダブステップを聴きはじめた若い世代も少なくないわけだから。ただ、ゴス・トラッドのインターナショナルな活動歴を考えれば、2009年ぐらいに出しといたほうが良かったんじゃないかぐらいの感じもするんだけどね。
GT:そうかもしれないですね。でも、2009年縲鰀10年ってポップなダブステップがフィーチャーされてた時期だったと思うんですよね。
■ポップってブリトニー・スピアーズみたいな......あ、ディプロみたいなの?
GT:そうですね。そういうのもそうだし、マグネティック・マンだったり、スクリレックスだったりとか、ああいう。
■ああ、ブローステップっていうやつね。※紙『エレキングvol.4』参照。
GT:はい。そういうのがゴーンと来た時期で。俺はシーン見てきて、まあ場所によるんですけど、ああいうのに飽き飽きしてたひとって多いんですよね。
■そりゃそうだよ。
GT:で、戻ってきてるんですよ。
■だって空しくなるもん、ああいうのでいくら踊っても(笑)。
GT:何も残らないっていう(笑)。
■その瞬間は楽しいけど、そう、残らないからね(笑)。
GT:でも、「バビロン・フォールEP」をこのあいだ10月に出して、それでアルバムが来年に出てっていうタイミングはすごく良かったと思いますね。
■"バビロン・フォール"は昔出してる曲じゃないの?
GT:〈レベル・ファミリア〉で出してる曲のダブステップ・リミックスで、それは2008年ぐらいにもう作ってるんです。それはリリースするとか考えずに、自分のプレイのためにダブプレート切ってたんですよ。そしたらファンも「いつ出るの?」とか、レーベル側も「出そう」って話になって。2年前ぐらいからコンタクト取ってて、マックス・ロメオに(笑)。まだ彼が曲の権利持ってたんですよね。そしたらやっと取れたんです。
■あの曲は間違いなくアルバムのなかでもクライマックスになっているよね。
GT:あと、EPには"フォーリング・リーフ"って曲があるんですけど、あれも評判も良いですよね。UKの20歳の若くていいプロデューサーがいるんですけど、そいつと喋ったら「僕はあのEPのなかで"フォーリング・リーフ"って曲が大好きなんだよね! あれはやばいよ! あれいつ作ったの?」って言われて、「2006年だ」って言ったら「ええー!?」みたいな。それってやっぱ、ああいうものがいま、逆に新鮮だったりすんのかなって。他の曲のほうが新しいんですけど、2006年のもっとも古いあの曲を、そういう意味で入れたんですよ。
■ああ、なるほどね。バック・トゥ・ベーシックな感じなんだろうね。
GT:だからシーンの流れ的には----まあいち部の国とかシーンだけかもしれないですけど----そういうのに飽き飽きして、昔のいわゆるダブステップっていうか、オールドスクールが新鮮なんじゃないかなっていうのを最近ちょっと感じますね。
■そういうぶり返しというかね。アメリカに関して言うと、ブローステップみたいに肥大化したレイヴ・シーンみたいなものがあるんでね、そういう話がリアリティあると思うんだけど、日本はまあたぶん、これからだなという気がするんです。それとは別の話で、『ニュー・エポック』は以前の作品に比べるとずいぶんダンス・ミュージックということに意識的なアルバムかなという気がしたんだけど。寄ってくる者を拒まないっていうかね。2曲目の"ディパーチャー"縲怩R曲目の"コスモス"の流れなんかはとても滑らかだし、暗闇のなかの艶っていうかね、録音はすごく繊細だけど音は太いし。"エアブレイカー"みたいなそれまでのゴス・トラッド色を引き継いでいる曲もあるし。"ウォーキング・トゥゲザー"や"アンチ・グリッド"もビート・ミュージックなんだけどグッと来るようなメロディがあるでしょ。"ストレンジャー"なんかはアンビエント・テイストだし、ある意味いままででいちばん聴きやすいんじゃないかなとも思うんですけど、自分自身のなかではどういう方向性があったんですか?
GT:やっぱりこの4年縲怩T年はダブステップ・シーンでやってきたんで、ヨーロッパ行ったときもやっぱりダブステップDJ/プロデューサーのゴス・トラッドっていう認識なんですよね。
日本、オーストラリア、中国、アジアでもやって。で、たくさんのパイオニアもファンキーに行ったり、ポスト・ダブステップって言われるようなテクノっぽいものになったり。たぶん、現在はパイオニアがパイオニアのやるべきことをやってないっていう状況ではあると思うんですよね。それは進化ではあると思うし。でも何て言うかな、俺は初期のダブステップの面白かった部分や新しさ、「何でも自由がきくんだよ」っていうような音----まあだからこそファンキーとかポスト・ダブステップが生まれたものかもしれないけど、でも俺からすると、それは違うんですよね。いわゆるダブステップ、でもそのなかから進化させたいっていう気持ちはずっと持ってやってるので。
■ダークじゃなくなったしね(笑)。
GT:そうですか(笑)?
■そういうポスト・ダブステップになってくるとね。
GT:あ、そうですね。そうだから、敢えてここに留まってるから、5年縲怩U年経って、「日本から来たダブステップのパイオニア」ってやっと言ってもらえる部分もあるし。そういう意味で、ダブステップとしての新しいアプローチを見せたいなというか。
取材:野田 努(2011年12月30日)