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interview with Sharon Van Etten

interview with Sharon Van Etten

彼女のラヴ・ソング

――シャロン・ヴァン・エッテン、インタヴュー

木津 毅    Apr 18,2012 UP

もっとも聴いたのは、パティ・スミスやジョン・ケイル、イギー・ポップとか。そういったニュー・ヨークのバンドとか......。そういう影響って、無意識のなかにはすごく大きく影響しているものだと思う。


Sharon Van Etten
Tramp

Jagjaguwar/ホステス

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"ウィ・アー・ファイン"、"マジック・コーズ"ではベイルートのザック・コンドンとデュエットしていますが、曲のヴォーカルを男女のパートにわけるアイディアはどこから出てきたんでしょうか? また、デュエット曲にザックの歌声を選んだ理由は?

シャロン:ザックとは前にいっしょにプレイしたことがあって、いろんなものの考え方や感じ方で意気投合してたの。社会的な期待にどうやって応えるかとか、それにともなうストレスや不安、みたいなものについて話し合ったりして。もともと、"ウィ・アー・ファイン"を作りはじめたころは、私がひとりでハーモニーを入れて歌っただけで、他のヴォーカルは入れてなかったの。でも何かが足りない気がした。他の楽器を入れてみたり、いろんなことを試してみたりしたんだけど、何か違うって気がしていたのよ。そんなある日、ふと気づいたの。この曲はもともと、ふたりの人が会話しているっていう内容の曲。だから、もうひとり別のヴォーカルに入ってもらって、本当の会話をするように歌えばいいんだって。それで彼のことが真っ先に頭に浮かんで、頼んだら快く歌ってくれることになったのよ。

"ケヴィンズ"、"レナード"と男性の固有名詞がタイトルに入った曲が続きますが、それぞれの曲で歌われている男性のイメージというのは別のものですか?

シャロン:ああ、あの曲ね(笑)。曲を書いていたころは、いろんなところを放浪してたんだけど、一時期、ケヴィンズ・ハウスっていうところに滞在して、デモを作っていた時期があったのよ。それで、当時作っていたデモに、ケヴィンズ1、ケヴィンズ2、ケヴィンズ3って仮タイトルをつけてたの。アルバムに入った"ケヴィンズ"は、デモの"ケヴィンズ1"で、"レナード"は"ケヴィンズ2"だった。でも、1枚のアルバムに、"ケヴィンズ"ってつく曲が2曲あるのは嫌だな、って思って。そのころちょうど、レナード・コーエンの曲をたくさん聴いていて、彼のサウンドにインスパイアされたような部分があったから、"レナード"ってタイトルにすることにしたの。"ケヴィンズ2"より、いいでしょう?(笑)

あなたの書く歌詞では、恋愛関係におけるコミュニケーションの齟齬がよく描かれていて、これはデビュー作から一貫したモチーフであるように感じます。そういった複雑に絡んでしまった関係や感情を多く歌うのは、ご自身ではどうしてだと思いますか?

シャロン:難しい質問ね......。私は自分が経験した難しい人間関係について書くことが多いわ。強くなろうとしたり、よりよくなろうと努力したり。他人の過ちを許すことで、自分自身の過ちも受け止められるようになったり......。でも結局、自分でできるだけのことをしたら、後はなるがままに任せるっていうか......。いまはすごく精神的にも落ち着いているし、良い関係のなかにいるの。いろんなことがうまくいってる。だから、いまはあまり行きづまった苦しい曲は、書かないかもしれない(笑)。

歌詞のモチーフは、個人的なものとフィクションの部分のどちらの割合が多いですか?

シャロン:基本的には個人的な経験、っていえるかな。自分だけのことじゃなく、たとえば友だちがいま経験していることっていうのもあるかもしれないけど、基本的にはいつも、「私」と「あなた」の曲を書くことが多い。それはまったくゼロから生まれてくるものじゃなく、誰とも同じレヴェルで自分が経験しているかのように感じて、語りかけるような言葉を書こうとしているってこと。

作詞の部分で影響を受けたアーティストはいますか? ミュージシャン以外でもかまいません。

シャロン:そういう意味でもっとも聴いたのは、パティ・スミスやジョン・ケイル、イギー・ポップとか。そういったニュー・ヨークのバンドとか......。そういう影響って、レコードを聴いたときにはっきりと聴こえてくるものではないかもしれないけど、無意識のなかにはすごく大きく影響しているものだと思う。

『トランプ』というタイトルは、レコーディングのあいだあちこちを渡り歩いたあなた自身のことを指しているそうですが、同時に本作の歌のテーマと繋がっている部分もありますか? 私には、ここで描かれている様々な関係や、そこで生まれる感情を「放浪」しているような意味にも取れたのですが。

シャロン:曲の多くは、そのとき自分が経験していた関係のなかで、自分自身が感じていた感情を分析したものだと思う。そのなかで、どうやって生きていくかを模索して、私は変わっていった。ある意味、その時期に自分が付き合っていた人を振り返るようなことにもなっていたけどね。ちょっとジョークでもあるわけだけど。男の人が女をTrampって呼ぶときって、決していい意味ではないでしょう?(浮気女、いろんな男と寝る女みたいな意味がある) だから、そういうのもバカらいしんじゃない? って、ジョークにしちゃう意味でも使ってるのよ。

日本から見ても、あなたの周りのネットワークというのは非常に充実しているように感じます。ボン・イヴェール、ザ・ナショナル、メガファウン、ベイルート、スフィアン・スティーヴンス......とどこまでも広がっていきますし、お互いの尊敬と愛情で成り立っている、ある意味で家族的な、親密なコミュニティができているように思うのです。あなた自身は、そこに属しているという想いはありますか?

シャロン:そうねぇ......。でも、友だちのミュージシャンたちって、みんなツアーに出てるから、全然家にいないのよ(笑)。顔を見合わせていっしょにいられる時間って、ほとんどない。でも、仲間意識みたいなものは確実に存在していると思う。誰もがみんな同じ経験をしていて、みんなそれがどんな経験かっていうのをそれぞれの場所で経験している。大変な経験だけど。ずっとツアーに出てるわけだから、どこでもホームだと思えないとね。そしてファミリーが世界中に散らばっているんだって思うことにしている。そう考えたら、すごく素敵なことなんじゃないかなって感じられるの(笑)。

私は奈良のカフェであなたの演奏を聴いたのですが、まるで時間の流れが遅くなるような濃密な体験で、素晴らしかったです。また次のライヴを観るのを楽しみにしていますが、このアルバムを携えてだと、バンド形式になるのでしょうか?

シャロン:そうね。バンドでツアーをしていくわ。いまは4ピースでプレイしてる。それでレコードのほとんどをプレイできていると思う。音を削った部分もあるけど、すごくベーシックなスタイルって、90年代のロックみたいで気に入ってるわ。いまはライヴもすごく楽しいし、いろんなことができて面白い。メンバーのふたりはいろんな楽器が弾けるから、いろんな音の幅が出ているしね。私は歌とギターに専念してるけど、みんながいろんな要素を足してくれていて、いまのライヴは、かなりロックっぽくなってるわ(笑)。

これまでも非常に充実した活動をされてきたと思うのですが、 ミュージシャンとしてチャレンジしてみたいことはありますか?

シャロン:やってみたいことは、たくさんあるわ。いま、何曲かピアノで作ってる曲があるの。それから何曲かエレクトロニックの曲も作ってる。

全然違うじゃないですか(笑)。

シャロン:そうなの。何が次に来るかはわからない(笑)。他の人とコラボレートする方法も学んだし、ヘザーといっしょに曲を書いたりもしてるし、試したいことは本当にたくさんあるわ。

取材:木津 毅 (2012年4月18日)

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Profile

木津 毅木津 毅/Tsuyoshi Kizu
ライター。1984年大阪生まれ。2011年web版ele-kingで執筆活動を始め、以降、各メディアに音楽、映画、ゲイ・カルチャーを中心に寄稿している。著書に『ニュー・ダッド あたらしい時代のあたらしいおっさん』(筑摩書房)、編書に田亀源五郎『ゲイ・カルチャーの未来へ』(ele-king books)がある。

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