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interview with Grimes

interview with Grimes

宅録女子からの一撃!

――グライムス、ロング・インタヴュー

橋元優歩    通訳:伴野由里子   Jun 06,2012 UP

ダンス・ミュージックは何か深い部分で人間くさいものに訴える音楽で、ポップ・ミュージックをみんなバカにしがちだけど、実はポップ・ミュージックって極めて人間くさいものだからこそ多くの人に受け入れられるものなんだと思うの。

ハルファザ』の曲の大部分の歌詞は、まとまった意味を構成することを意図的に避けているようにも感じますが、歌詞はあなたにとって音以上に重要なものですか?

クレア:前作よりも今作のほうがテーマがあって、歌詞にも重点を置いているわ。『ハルファザ』はほとんど歌詞を書かなかったも同然だったから。今作『ヴィジョンズ』では歌詞を書いたけど、それでも曖昧なものにとどめている。というのも、私にとって音楽はものすごく感情的なもので、そこに込めた思いを言葉で赤裸々に人に伝えるのは難しいの。

『ヴィジョンズ』の歌詞は2人称が多く用いられていて、すれ違いや孤独を生むラヴ・ストーリーが暗示されているように思われますが、どうでしょうか。「私の心はどこにもない」("ジェネシス")「ひとりで生きるのはやめられない」("エイト")「ああすべては部屋の中」("アンティオコス")などは、「愛してほしい」("シンフォニア")といいながらも孤独を避けられないものとしているようで印象的でした。

クレア:このアルバムを作っていたあいだ、いろいろなことを経験したわ。たとえば、私がミュージシャンとして成功することを歓迎しない相手と数年恋愛関係だったとか。応援してくれるどころか、逆に対抗してこようとするから、結局別れることにした、という。あと、年がら年中ツアーに出ていたから、いきなり側にいられなくなったというのもあって。長いあいだ好きでずっと付き合ってきた人との関係を続けるのか、それともすべて捨てて自分の道を進むのか、という選択に直面して、結果的には後者を選んだわけで、それが最良の選択だったと頭でわかっていても、気持ちはすごく複雑だった。
 とくにこのアルバムの前までは私は何も持っていなかったから。家賃も払えず、住所不定で、学校も退学して仕事も辞めた。恋愛も辛い関係で上手くいっていなかった。それでも信じて音楽活動を続けるしかなかった。これで成功しなかったら大変なことになっていたわ。それだけ大きな賭けだった。でも、一か八か賭けるなら今しかないとわかっていた。

『ヴィジョンズ』は引きこもっていたときに構想した作品だとうかがいましたが、どのようなことがあったのでしょうか。また、タイトルはその閉塞した場所からみえたヴィジョンということなのでしょうか?

クレア:私の作品への取り組み方を象徴している言葉だと思っている。今作は自分にとって初めてのきちんとしたアート作品だと思っている。アートというのは私にとって常に非論理的で抽象的なもので、現実から離れて言葉では説明できないものの気まぐれで存在するもので、異常なまで感情的なものなの。
 大学在学中にヒルデガルド・フォン・ビンゲンについての論文を書いたことがあって、彼女は間違いなく統合失調症だったと思うんだけど、中世の女性作曲家で、当時はまだ女性が音楽を作曲することが受け入れられていなかった。でも実は、独創的すぎるという芸術的観点から軽視されたのではなく、神に対する冒涜だと思われたからだったの。彼女は実際法王と会って話をして中世ヨーロッパでもっとも話題になった作曲家となったの。彼女は自分が神から幻視体験(ヴィジョンズ)を受けていると主張していて、自分が作る音楽、文章全ては神の指示によるものだと言うの。私はこの話にすごく興味を持ったの。果たして彼女は心からこれを信じていたのかって。実はめちゃくちゃ賢い人で自分の芸術作品を世に伝えるにあたって創作の神秘についてそう語ったのか、それとも心底そうだと信じていたのか。だからこそ頭のイカれた天才だったと思うの。
 私も自分の作品を作る上で同じことを考えてみたの。いったいどこまでが私自身が考案したもので、どこからが私を超越したものの真実で生々しい表現なのかって。実際、曲がどうやってできたのか覚えていないことだってある。何時間も、例えば14時間、15時間、ずっと制作にのめり込んで、はっと気付くと曲が出来ていて、それがどうやってできたのか言葉では説明できないっていう。

サウンドからすれば『ヴィジョンズ』は『ハルファザ』や『ガイディ・プライムス』よりもポップになっている印象があります。また引きこもっていたとはいえそれが暗鬱な調子ではなくドリーミーな曲調で表現されていることが心に残りました。そうしたポップさや明るさのあるドリーム感は意識して生まれてきたものでしょうか?

クレア:どこまでが意識的かはわからないけど、アルバムを作っている最中に思ったのは......。私が強く惹かれる、つまり別世界に連れてかれるっていう音楽が2通りあって、その一つが合唱宗教音楽で、もう一つがポップ・ミュージックなの。聞いていて凄く気持ち良くて心の琴線に触れて思わず震えてしまうっていう。おかしな話なんだけど、私をそうさせる音楽って例えばクリスティーナ・アギレラだったりするの。「もう完璧!」って、つぼにはまるの。その歌詞のせいでも、真意のせいでもなく、ただ聴いてピンとくるものがあるの。
 ダンス・ミュージックは何か深い部分で人間くさいものに訴える音楽で、ポップ・ミュージックをみんなバカにしがちだけど、実はポップ・ミュージックって極めて人間くさいものだからこそ多くの人に受け入れられるものなんだと思うの。人間の基本にあるものに訴えるからみんなが共感できる。それって素晴らしいことだと思うし、自分の音楽でも大切にしたい部分なの。音楽を作っている時に一番大事なのは、楽しんで作ること。私がポップ・ミュージックを作る理由は、その楽しさを極めた音楽を作りたいから。

ウォッシュト・アウトのリミックスは『ヴィジョンズ』の制作時と重なりますか?

クレア:あれはアルバムよりもずっと前よ。1年半くらい前かしら。

ビートのない音楽をつくることに興味はありますか? 『ヴィジョンズ』はダンス・ミュージックとして洗練されたものであると同時にアンビエント・ミュージックへと展開していくような可能性も含んだ作品だと思いますが?

クレア:考えたことは何度もあるけど、もっと歳をとってからやろうと思っているわ。そもそもドラムなしのヴォーカル・ミュージックを作るには歌をもっと鍛えないといけないし。50ものヴォーカル・パートを重ねようと思ったら、ドラムのビートなしでタイミングを合わせるのはレコーディングのオーヴァーダブにしてもライヴでも難しい技術的を要するわ。でも興味はある。純粋な和声音楽もよく聴いているわ。でも、グライムスとしての今の活動を考えると、そういうアルバムを作ってもライヴで再現できないだろうから、作るならツアーをしなくなってからじゃないかしら。或は別プロジェクトとか。いまはレーベルと契約したばかりだし、よく考えて、その時の自分が出すべき作品を出していきたい。そしていつか音楽で生計を立てる心配をしなくてよくなったら、自分をより解放した作品を出してもいいと思っている。

取材:橋元優歩(2012年6月06日)

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