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interview with Ariel Pink

interview with Ariel Pink

パティ・スミスは大嫌い

――アリエル・ピンク、インタヴュー

野田 努    通訳:伴野由里子   写真:小原泰広   Jul 24,2012 UP

シェーンベルク、ジョン・ケイジ、シュトックハウゼンなんかの前衛的な音楽も、何度も何度も聴いていればポップ・ソングみたいになってくる。曲を覚えて、曲を聴きながら次にどんな展開がくるかを覚えるようになると、それはその人にとってのポップ・ソングになるんだ。

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Ariel Pink's Haunted Graffiti - Mature Themes
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アリス・クーパーは良いですよね! ところで、ゴングあたりの音が今回のアルバム『マチュア・シームス』に大きく影響を与えているんでしょうか?

アリエル:いや、こういう音が好きなのはずっと昔からだよ。90年代に買い集めていた〈キャプテン・トリップ〉の再発盤が僕にとってすごく大切だった。〈キャプテン・トリップ〉から出ているCDを聴いているうちに僕も自分で音楽を作ってみようと思うようになったんだ。だからいままで僕が作ったすべてのレコードがそういった音楽に影響されているとも言えるね。〈キャプテン・トリップ〉は、その時代の音楽(1970年代初頭のクラウトロック)に対する日本人への再評価にも繋がっているんだよ。

へー、ところであなたはどっかの取材で、「前作(『ビフォー・トゥデイ』)が本当のファースト・アルバムである」というような言い方をしていたそうですね。たしかに『ビフォー・トゥデイ』はあなたが初めてバンド・サウンドで録音したアルバムですが、となると『ザ・ドルドラムス』などの以前の作品、もしくは今回のニュー・アルバムはどのような位置づけになるんでしょうか?

アリエル:僕が言ったのはつまり、どのレコードもファースト・アルバムみたいに感じるっていうことなんだ。僕が新しいアルバムを作って、その作品によって僕のライヴに来てくれる人が増えると、そういう新しいファンにとってはそれが初めて僕のことを見る機会になる。だからそれが初めてみたいに感じるんだ。僕はいつも(自分の)音楽を聴くとき、それを初めて聴いているつもりで聴くんだ。人びとが僕の音楽を初めて聴くときを想定してね。だから、どのアルバムもファーストみたいな感覚なんだよ。今回のアルバムだってファースト・アルバムみたいに感じるよ、ただ今回は"Round and Round"ほどの大きなヒット曲は出ないだろうと思うけどね。

ある種のMOR(中道路線)、さっき言った70年代のソフト・ロックはどれほど意識しましたか?

アリエル:君がソフト・ロックと呼んでいる音楽は、僕にとっての実験音楽だね。たとえば、トッド・ラングレンがホール&オーツのプロデュースをしたのなんかは、僕にとってはソフト・ロックではなくてエクスペリメンタル・ミュージックだ。ソフト・ロックはエクスペリメンタル・ミュージック的な発明なんだよ。スティーリー・ダンはいろいろな要素を加えてスムーズな音楽を作ったソフト・ロックの発明者だね。

ほほー、なるほど。いまあなたの言った「実験的」というタームを別な言葉で置き換えるとどのようになるんでしょう? 一般的にソフト・ロックというのは中道路線と言われますが、あなたからしたらそれは誤解で、よりエクストリームなものだということでしょうか?

アリエル:そうそう、その通り。ソフト・ロックはエクスペリメンタル・ミュージックの発明なんだ、ポップ・ロックと同じようにさ。ポップ・ロックと言われている音楽、例えば60年代のものとかも......僕はビートルズでさえ多少前衛的だと思うんだよ、ま、ちょっとだけだけどね。それこそキャプテン・ビーフハートなんて、60年代にすごく前衛的なことをやったり、いろいろなことを発明していて、それを続けていた。

つまり、あなたはそういったエクスペリメンタルな音楽に影響を受けながら、それをポップに変換しているわけですね? あなたにとってポップとはどのようなものなんでしょう?

アリエル:いや、違う。僕自身はエクスペリメンタルに比重を置いているんだ。だから僕のやっているのがポップだと思う人たちは、僕の音楽と比較している対象を間違っている!

なるほど。しかし、さっきもあなたも認めたように、今回のアルバムではあなたはわかりやすい、どこかで聴いたことあるようなメロディを意識されている。例えば"マチュア・シームス"などは僕は1~2回聴いただけでメロディを覚えてしまいました。そのわかりやすさ、覚えやすさを「ポップ」と呼んでもいいんじゃないかと思えるのですが。

アリエル:それは誤解だよ! メロディを覚えるというなら、例えばシェーンベルク、ジョン・ケイジ、シュトックハウゼンなんかの前衛的な音楽も、何度も何度も聴いていればポップ・ソングみたいになってくる。曲を覚えて、曲を聴きながら次にどんな展開がくるかを覚えるようになると、それはその人にとってのポップ・ソングになるんだ。ポップ・ソングっていうのを3つのコードで3つのヴァースがあって、3つのサビがあって......ていうものだと考える人たちもいるけど、僕にとってはそういうことじゃない。アヴァンギャルドはポップという要素を長いあいだ吸収してきているから、単純でキャッチーでわかりやすいものが必ずしもポップとは言えないと思う。

あなたにとってシュトックハウゼンもバート・バカラックも同じようなものであると?

アリエル:僕にとってはどちらも前衛的だね。どちらも芸術性が高いし、それがアヴァンギャルドのひとつの定義でもある。

取材:野田 努(2012年7月24日)

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