Home > Interviews > interview with Ariel Pink - パティ・スミスは大嫌い
ブルース・スプリングスティーンは言ってることが極端すぎる。エクスペリメンタルな精神というモノを知らない。パティ・スミスは大嫌いだね。僕にとってはでたらめばっかりで、ベタで、そして陳腐に感じられるんだ。
■なるほど、あなたの音楽に対する考えはわかりました。それでは歌詞に関してはどうでしょう? 『ビフォー・トゥデイ』がホステスから出たので、僕たちは初めてあなたの歌詞を読むことができたんですが、そうとう捻くれてますよね。たとえば金持ちを小馬鹿にした"ビバリー・キルズ"とか、政治をからかった"レヴォリューション・ライ"など相当屈折した歌詞で興味深いと思ったんですが、言葉の面で影響を受けた人物などがいれば教えてもらえますか?
アリエル:うーん......(しばらく沈黙)筋が通っている人たち......ドストエフスキーとか......。僕自身は物語っていうものにとても興味があるよ。うーん、僕はときどき歌詞を書かなきゃいけないけど、あまりそれについて深くは考えないんだ。だからあんまり深読みし過ぎて背景について考えすぎるのもどうかと思うけど......でもトーマス・ラガーディやピーター・ウィッセルゼフ(註:読み方間違っているかもしれません。このふたりの名前をご存じの方、教えてください)とかが好きだよ。
■知らないですね。その人たちは小説家ですか?
アリエル:哲学者だよ。
■思想家が好きなんですか?
アリエル:良い文章を書く作家なら誰でも好きだけど、とくにしっかりと論理立った主張をして論証をする人が好きだよ。自分自身はまったくそういうタイプじゃないけれどね。
■では、三田格的な質問ですが、フロイトとドゥルーズでは?
アリエル:(即答)フロイト!
■ほんと?
アリエル:ははは、こう見えても僕は保守的なのさ。
■強い父親を倒して逞しく成長していくアリエル・ピンクはまったく想像できないんですけど(笑)。
アリエル:僕は(精神分析家の)ジジェクみたいなんだ、悪魔の擁護者に回ってしまうんだよ。まぁはっきりとしたことは言えないけれど、そういう意味では僕はドゥルーズであるとも言える。ただ僕は究極的には、(フロイトのエディプス・コンプレックスをさして)人間はみんな性に傾倒しがちだと思うんだ、とくに男性はね。
■性に絡めていくのが良いんですか?
アリエル:僕らが最初に出てくる性的な問題を避けて、エディプス・コンプレックスを避けるようにするというのはいいことだと思う。僕自身は、ユングなんかよりもフロイトのほうがずっと信じられるんだ。僕にとってのユングは抑圧さ、性的にも抑圧されている。ユングはデヴィッド・クローネンバーグの映画(『危険なメソッド』)みたいに、「これはエディプス・コンプレックスについてであって性についてじゃない、性がすべてじゃないんだよ、フロイト!」って言うことができないから抑圧されているんだ。でも実際のところ、性っていうのは僕たちの人生にはじめから刷り込まれているものだろ?
■ははは......。
アリエル:僕がよく言うことなんだけど、みんなでたらめだらけなんだ! そしてでたらめな奴ほど説得力があるんだよ。とはいっても、良い議論っていうのはそれ自体価値のあるものだけどね。
■『危険なメソッド』は日本ではまだ公開されていないんですよ。ちなみにクローネンバーグではそれ以外の作品も好きですか?
アリエル:全部好きだよ、『ヴィデオドローム』、『クラッシュ』......。だけど『危険なメソッド』がとく好きだね、僕が観たなかでいちばんクローネンバーグらしい映画だと思う。それに彼の映画のなかでもとくに個人的な内容だ。映画のなかで提起されている問題は歴史上の物語のなかで上手く語られていて、彼自身すごくその物語に没頭してこの映画を作っていたんじゃないかと感じられるね。
■今回のアルバムにおいて、歌詞の面での変化はありますか?
アリエル:ないね、僕は歌詞のことをあまり気にしたことがないから。いつもぎりぎりまで歌詞を書かない。そのことを考えもしないで待っていて、本当にぎりぎりのところで決まった歌詞に落ち着くんだけど、それが僕のなかの世界を表現するいちばんいい方法だと思うんだよ。だからあまり歌詞のことは考えないけど、それがたぶん、いちばん良いやり方だと思っている。
■アルバムのタイトルが「Mature Themes」となったのは?
アリエル:バンドがそういう風に決めたからさ。ホントは『Farewell American Primative(昔ながらのアメリカ人よ、また会う日まで)』というタイトルにしたかった。でも、たまたまニール・ヤングとダン・ディーコンが、同じ月にタイトルに「アメリカ」って言葉の入るレコードをリリースしたんだけど、そういうのと関係があると思われたくなかった。宣伝上よくないしね。
取材:野田 努(2012年7月24日)