Home > Interviews > interview with Mala - ダブステップとキューバ、その美しい出会い
ダブステップに興味は持ってくれたね。ベースの大きさに驚いていたのは間違いないけど(笑)。エンジニアが、「こんな低い周波数をどうやって歪まないように録音するんだ?」って不思議がっていた。彼らが聴き慣れている音楽とはだいぶ違ったと思う。
Mala - Mala in Cuba Brownwood Recordings / ビート |
■実際、ハバナで体験したことについて教えてください。印象に残っていること、感銘を受けたことはなんでしたか?
マーラ:キューバでは本当に印象に残る体験をたくさんしたんだけど、例えば、僕が作ったトラックをスタジオで流していたときにダナイがそれを聴いて、「この曲私にちょうだい」というので渡したら、翌日それに合わせて歌詞を書いて来て、すぐに録音した。こういう体験だけでも、僕にとってはとても新鮮だった。これまでヴォーカリストと一緒に曲を作ったことはほとんどなかったから。しかもスペイン語で歌う歌手なんてね。彼女の歌詞の意味はわからないけど、でも雰囲気で伝わることがたくさんある。あれはハイライトと呼べる瞬間のひとつだった。
もうひとつは、ある夜にジャイルスと僕がホーム・パーティに呼ばれてプレイしていたときに、男性がやって来て「一緒にプレイしていいか?」と聞かれたんだけどどういう意味かわからなくて、MCでもするのかと思ったら、トランペットを出して来た。「いいよ、どうぞどうぞ」と言ったら、僕のトラックに合わせて演奏し出した。それがとても良かったから、「明日スタジオに来ないか?」と誘ったんだ。そしたら実際に来てくれて、アルバム中の2曲で彼のトランペットがフィーチャーされてる。もしそのパーティに僕たちが出ていなかったら、彼が参加することもなかったわけだから、特別なことだったと思う。
あとは、ドブレ・フィロ(Doble Filo)というキューバのヒップホップ・グループのエドガロ(Edgaro)とイラーク(Yrak)というラッパーの家に遊びに行ったら、小さな煉瓦造りの家で、中庭でラップトップ、ドラマー、ベーシスト、ギタリストとキーボーディストがいてリハーサルをしていた。その光景だけでもとても印象に残ったし、キューバはとてもカラフルな場所でどの場面を切り取っても絵になるし、ストーリーがある。他にも思い出はたくさんあり過ぎて話しきれないけどね!
それに、町中には、たくさんの音楽が溢れている。
■どのぐらいの滞在で、具体的にはあなたはどのようなセッションをしたのでしょうか? あなたはビートを作って、そこに現地の演奏を録音していったんですか?
マーラ:キューバには合計で3回行ったけど、毎回1週間ほどの滞在だった。1回目は10日間だったかもしれないな。3回目は最近だったんだけど、それは(制作ではなく)プレイしに行ったんだよね。
1回目のキューバ訪問の際に、ロベルト・フォンセカ・バンドが、約15種類のキューバン・リズムを僕のために録音してくれた。ロベルト・フォンセカはピアニストで、他にドラム(ラムセス・ロドリゲス)、コンガ(ヤロルディ・アブレウ)、ベース(オマー・ゴンザレス)がいた。それに、キューバの有名なティンバレス奏者であるチャンギートに参加してもらった曲もある。あと、"Calle F"という曲ではトランペット奏者(フリオ・リギル)にも参加してもらった。基本的には、キューバで彼らの演奏を録音し、それを僕が自分のスタジオに持ち帰って、僕がその素材を使ってアルバムにまとめたんだ。
■作業自体はスムーズにいきましたか?
マーラ:難しかったことはたくさんあったけど、もっとも苦労したのは、開始してから9ヶ月くらい経って、録音した素材とひとりでスタジオで格闘していたときかな。僕はこれまで、完成品のイメージを事前に持って曲を作ったことがなかった。普段はとにかくスタジオに行って、やっているうちにかたちが出来ていって曲が完成するという風に作っていた。でも、これだけたくさんの素材を前に、それから何か作らなければいけないということだけ決まっていて、実際に何をしたらいいのかわからなくなってしまった。客観性を持てなくなったというのかな。そういう体験をしたことがなかったから、新たな挑戦だった。
僕にとって音楽作りは迷路のようなもので、ゴールに辿り着くためにはいろんな経路を辿ることができる。でも、どれか道を進んでみないと、それが正しいかどうかはわからない。間違っていたら突き当たってしまい、また同じ道を逆戻りすることになる。でも、その迷路自体を自分が作っていて、自分で作った迷路のなかで迷子になってしまったような感覚だった。その過程で、何度かジャイルスや〈ブラウンウッド〉に「行き詰まってしまって、完成させられるかどうか分からない」なんて連絡したこともあったよ(笑)。そのときに、ジャイルスとも仕事をしたことがあって、僕の友人でもあるプロデューサーのシンバッドが手を貸してくれた。何度もスタジオに来てくれて、僕がやったものを聴いて客観的な意見をくれた。何曲かは共同プロデュースになっている。ミックスも一緒にやった。彼の協力は本当に有り難かった。彼のお陰でどんなアルバムにすればいいのか、より明確なイメージを掴むことができたよ。
■キューバのミュージシャン、キューバの人たちはダブステップのことを知っていましたか?
マーラ:興味は持ってくれたね。ベースの大きさに驚いていたのは間違いないけど(笑)。ロベルト・フォンセカのエンジニアが、「こんな低い周波数をどうやって歪まないように録音するんだ?」って不思議がっていた。彼らが聴き慣れている音楽とはだいぶ違ったと思うけど、ロベルト・フォンセカと彼のバンドは世界中をツアーしているから、エレクトロニック・ミュージックにも触れているし、平均的なインターネットを使えないし外国にも行けないキューバ国民より、いろんな音楽を知っている。
■アルバムの冒頭に入っている言葉は何を言ってるんですか?
マーラ:ははは。あれね、実は僕も何を言っているのかずっとわからなかったんだよ。スペイン語だしね。彼が言っているのは、「僕たちの音楽は止めようとしても止まらない、こういう風にもできるし、ああいう風にもできる......」というようなこと。この言葉を冒頭に持って来たのは、最初に「ハロー」って入っているだろ?あれを家で流したときに、息子が聞いて「ハロー」って返事をしたんだ(笑)。だからアルバムのはじまりにちょうどいいかと思って。喋っているのはコンガのプレーヤーなんだけど、実際にセッションのはじまりに、少し話しながらウォームアップしていく感じが、アルバムのイントロとして相応しいように感じたんだ。
■アルバムの曲で、あなた個人のお気に入りはなんでしょうか?
マーラ:うーん。どれかなぁ~。強いて言うと、最後に一晩で作った曲かな。他の曲のミックスダウンの途中で、その作業がとても長かったから、すこし飽きていたところだった。何か気分転換をしようと思って、おもむろにビートを作りはじめた。そうやって、ほぼ一晩で作ったのが"Ghost"というトラックだった。他の曲もすべて気に入っているけど、この"Ghost"は僕をどこか違う次元に誘ってくれるような曲。最後の最後に、どうして突然作り上げることができたのか、自分でもよくわからない曲なんだ。今年の3月に作ったばかりだよ。翌日にシンバッドがミックスを手伝いにスタジオに来たんだけど、彼にこの曲を聴かせたら椅子から転げ落ちそうになっていたね(笑)。一緒にメロディカや生のハンドクラップを足して、アルバムに加えることにしたんだ。
あとは、"Changes"という曲もすごく気に入っている。でも完成させるまでに苦労した分、すべての曲に思い入れがあるし、苦労が報われたと思えるよ。
取材:野田 努(2012年8月28日)