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interview with Shugo Tokumaru

interview with Shugo Tokumaru

会話をはじめた音たち

――トクマルシューゴ、インタヴュー

北中正和    Nov 07,2012 UP

ひとつの楽器に精通してる人はとくにそうなんですけど、それだけしか見てない感じだと思うんです。それで、そういう生き方もあるんだなって。それは「仕事にする」という感覚じゃないなと思ったんです、たぶん。それがその人にとって生きるということなんだなと思って。


トクマルシューゴ
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そのころはジャズをやっていたんですか? ジャズ・ギターが好きだった?

トクマル:ジャズ・ギターがそんなに好きになれなかったので、ジャズ・ピアニストの音楽ばかり聴いていたんですが。ジャズ・ピアノをギターで弾いてみる、みたいなことをやってましたね。

じゃあ、そのころはもう音楽を仕事としてやっていこうと思っていたわけですか。

トクマル:うーん......そうですねえ、たぶん。仕事という感覚もなかったかもしれないですけどねえ。なんか、そういう生き方ができるんじゃないかなあって......。やっぱり、アメリカに住んでいるミュージシャンたちもそういう感覚というか。見てないんですよね、まわりを。ひとつの楽器に精通してる人はとくにそうなんですけど、それだけしか見てない感じだと思うんです。それで、そういう生き方もあるんだなと思って。
 それは「仕事にする」という感覚じゃないなと思ったんです、たぶん。それが、その人にとって生きるということなんだなと思って。僕はそれができなかったんですけどね。いろんな楽器に手を出して、作曲をしたりして。

どうしてそういう興味の持ち方になったか、考えたことがありますか。

トクマル:それは、ひとつのものに執着している人を見てたからかもしれませんね。そういうことはぼくにはできないなという諦めでもあったかもしれないですけど。ほんとはやってみたかったという気持ちもあったんですけど、でもほかにやりたいこともありましたしね。作曲だとか、楽器を集めたり、弾いたり、CDを出してみたいって気持ちもあったり。

トン・ゼの影響についても耳にしてるんですが。

トクマル:もちろん好きで(笑)。変わった人が好きで、よく聴いていました。たまたまそれに影響されてるような曲が何曲か入ってたっていうお話じゃないかと思うんですが。

具体的には、どのあたりの曲なんでしょう?

トクマル:"Porker"とかじゃないですかね。ああいう、へんな音楽を追求している人は大好きで、よく聴いてますね。

ブラジルはほんとに、へんな人が多いですよね。ほかの国だと、伝統なら伝統、伝統に背くなら背く、ってはっきりしてるんだけど、ブラジルはすごく曖昧な人がいっぱいいて。

トクマル:ははは! 曖昧な人多いですよね(笑)。

あとこの、"Ord Gate"。どういう意味なんでしょう?

トクマル:「オード」は「オーディナリー」の「オード」ですね。

歌詞の世界が、カフカに通じるような気がして。

トクマル:特に何かを意識したというわけではないんですが......

トクマルさんの歌を十分理解できているかどうか自信がないんですが、イメージとしてカフカに通じる作品が他にもいくつかあるように思いました。

トクマル:(激しく咳き込んで)すみません、咳がとまらなくて。あさって雅楽を観にいくのに、こんなんじゃ追い出されそうですね......。

雅楽お好きなんですか?

トクマル:はい、すごい好きで。たまたま宮内庁で定例でやっている演奏会に行けることになったので、行ってみようと思ってるんですが、咳が出そうになって、地獄のように耐え忍ばなければならないかもしれないですね(苦笑)。

雅楽っていえば、奈良の春日大社で12月におん祭りっていうお祭りがあって、山の中にいる神様をその日だけ公園のお旅所ってところまでお招きして、民の奏でる音を楽しんでもらってお帰しするっていう日なんですけど、午後から夜10時くらいまでずーっと芸能の奉納があって。

トクマル:へえー、うんうん。

暗くなってからは雅楽とか舞楽が延々と続くんです。実際その場で聴いたのは去年がはじめてだったんですけれど、いやすごいなと思いました。あれは何なんだろうとか思いますよね。

トクマル:思いますよね。ほんとに不思議な世界です。なんか、すべてをくつがえされるような思いになります。いつも聴くと。

ああいうテンポというか、リズムがあるのかないのかわからないような世界とトクマルさんの音楽とは、いちおう対極にありますよね。

トクマル:そうですね(笑)。でもそういう「瞬間」みたいなものを取り入れることはあるんですけどね。それをフルに1曲にするということはいままでのところないですね。いつかやりたいとは思うんですけど。

今回のアルバムは、果てしなく楽器が出てくるなかで、雅楽的な音色に聴こえる部分もあったりするかもしれませんね。(封入されているイラストを見ながら)ボーナス・ディスクに入ってる楽器の中で、これは笙でしょう?

トクマル:そうですね。

以前、若いアーティストさんに笙を吹いてもらうレクチャー・コンサートを開いたことがありますが、あれはすごいですね。こんな音が出るのかって。

トクマル:あれも僕は正確な演奏の仕方がわからなくて。

電熱もってきてあたためながらね。

トクマル:そうですそうです、大変ですよね。むかしの人はどうやってたんだっていう。

(笑)。ちょっと変わった印象を受ける"Pah-Paka"ですが、クラシック風の曲ですけれども、これはどのようにしてできたんですか。

トクマル:音数の多いものを声でやったらおもしろいかなって。どうやって作ったかとなると言いづらいんですが、一瞬だけクラシックっぽい旋律を入れたりして......遊んでますね。気に入ってる曲です。

インストの曲で、"Micro Guitar Music"ですけど、この弦楽器の部分のリズムは、たとえばアイリッシュ・フォークとか意識したものですか?

トクマル:特に考えていたわけではないですが、ギターだけで遊んでみようかなって、早回しの技術も好きだったんで早回しもやってみたり、それで展開のあるような、小曲っぽい感じにしました。これもクラシックっぽいつくりで展開していくような曲ですね。

"Katachi"って曲では途中で不思議な弦楽器の音がするんですが、これは何ですか?

トクマル:シタールと大正琴の音を混ぜたらどうなるのかなと思ってやってみたら、こんな音になりました。

スタッフ・ベンダ・ビリリってコンゴ民主共和国の車椅子ストリート・バンドご存知ですか? そこに男の子がいて......

トクマル:ああ、へんな自作楽器弾いてますよね。

1弦のね。音色がちょっと、あれに近いかなと思ったりして(笑)。

トクマル:ははは!

これ、合成されたということは、発想としてはシンセサイザーと近いものがありますよね。

トクマル:ああ、そうかもしれないですね。

でも基本的には、電気よりは生の楽器の音がお好きなんですね。

トクマル:そうですね、電気を使う楽器はよく使いますけど、打ち込みってことはあまりしないですね。というか、自分で演奏してマイクで拾うというやり方をとりあえず守ってます。

何がそうさせるんでしょう。

トクマル:うーん、やっぱりそのときの空気を録りたいっていう気持ちがあるのかもしれないですね。ラインですべて済ませてしまうと、今日と明日とあさってでほぼ同じ音が録れるわけですよね。でもマイクで録ると次の日やってちがう音になる。それがやっぱりおもしろいというか......なにかあるんじゃないかって。そのときしか録れない、なにかが(笑)。

合成された音があふれてる時代に、生楽器の音のほうが好きというのは、そういう環境に育ったりしたからですか。

トクマル:いや、そういうわけではないんですけどね。いろんな人の音楽を聴いていくと、やっぱり生で演奏して生で録られた音にはっとするんですね。新鮮に思えるというか。ラインで録られたありきたりの音を聴くと、あ、これはこの音だなってすんなり入っていけちゃう。それも良さだとは思うんですけど、そうじゃないものを探しているというか、そんなところはあります。

じゃあ、機材にもこだわったり?

トクマル:わりかし、ですけど。マイクが好きでマイクを集めたりはしてますね。

奥の細道ですね(笑)。今日はどうもありがとうございました。これからも素晴らしい音楽をつくり続けていってください。

文:北中正和(2012年11月07日)

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Profile

北中正和北中正和/Masakazu Kitanaka
1946年、奈良県生まれ。J-POPからワールド・ミュージックまで幅広く扱う音楽評論家。『世界は音楽でできている』『毎日ワールド・ミュージック』『ギターは日本の歌をどう変えたか―ギターのポピュラー音楽史』『細野晴臣インタ ビュー―THE ENDLESS TALKING』など著書多数。http://homepage3.nifty.com/~wabisabiland/

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