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interview with Andrew Weatherall

interview with Andrew Weatherall

「野心はあってもいいけどがんばるな」

──アンドリュー・ウェザオール、ロング・インタヴュー

野田 努    photos by Steve Gullick   Nov 07,2012 UP

俺は若いころから注目を浴びて、多くの人から自分の作品がとれだけ素晴らしいかを聞かされていた。それがかえって俺を不信にさせた。俺の音楽キャリアの最初の5~6年はすさまじいスピードで進んでいった。そして俺は防御的になった。誰かが俺の正体を見破るんじゃないかと恐れていたんだ。「あいつは郊外出身の、服屋の店員だった男だ」ってね。


The Asphodells
Ruled By Passion, Destroyed By Lust

ROTTERS GOLF CLUB/ビート

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あなたのようなレコード愛があるDJは、PC中心になった現代のDJスタイルを複雑な感情で見ていると思いますが、最近ではむしろ若い世代がデータにうんざりしてレコードを作ったりしていますよね。あなたはそういう動きをどう見ていますか? USのアンダーグラウンドなシーンでは、ヴァイナルとカセットしか出さないレーベルもありますよね。

AW:それは自然なことなんだ。それも『ルールド・バイ・パッション、デストロイド・バイ・ラスト』に当てはまる。たとえば、子どもは段ボール箱ひとつで楽しく遊べてしまう。それをお城に見立てて遊んだりしている。そこに親がクリスマス・プレゼントで新しいおもちゃを与える。子どもは興奮し、新しいおもちゃで1日ほど遊ぶ。だけど、きっと2日後にその子は再び段ボール箱でお城ごっこをして遊んでいるだろうね。結局、人間とはそんな生き物で、新しいものには情熱を感じ欲望を感じる。だが十中八九、もともとあったものでじゅうぶんだった、という結論に達するのさ。むしろ、もともとあったものの方がよかったということも多い。とくに芸術――音楽やヴィジュアル・アート――の分野においては、いままで完璧であったものを、よりクイックで簡単なもので以前のものほどよくないものに置き換えてしまった。それに最近になってみんな気づいてきたんだと思う。
 シンセの場合もそうだ。当初、シンセのソフトウェアが出たときはみんな夢中になった。このプラグインがあるから、もうシンセは必要ない、と言っていた。それから5年後のみんなの感想はこうだった「これはいいけど、実際のシンセよりも音がよくないし、いじっていてシンセほど楽しくない」。そしてシンセを買い直していた。だから当初100ドルで買えたシンセがいまでは1000ドルになっている。われわれの時代の人間は新しいものに飛びつく。だが、その後に以前使っていたものの方がよかったと気づくんだ。それは人間性というものだからしかたない。同じことがレコードとデータでも起こっているということだと思うよ。
 俺はべつにパソコンで音楽を作ってもいいと思う。大切なのはどう聴こえるかだ。ロー・レゾリューションのMP3の音楽は、俺にとって爪で黒板をひっかくのと同じように聴こえるが、レコードを録音してパソコンに取り込み、それをWAVファイルで再生しているのなら、問題ない。手法は何でもいいんだ。大事なのは最終的なサウンド、もしくは仕上がりだ。パソコンでアートを作ってもいいと思う。そのアートがパソコン以外の世界でも存在できると感じられることができるならね。それが最近のアートの問題だ。現実味に欠ける。パソコンのなかでしか存在しないものに感じられる。たとえそれをプリントアウトしても、スピーカーで再生して聴いたりしても、パソコンの世界でしか生きられないものに感じてしまう。
 俺が好きな音楽は、たとえパソコンで作られたとしても何らかの雰囲気が感じられるものだ。どこかでレコーディングされた感じ。どこかで描かれた、撮影された感じ。そういう雰囲気を持つ芸術に興味がある。そういったことを若い人も同じように感じているのだと思う。よく若い人が俺にアドヴァイスを求めてくる。「音楽を作ったけど、音がフラットに聴こえる。どうしたらもっと生き生きとしたものにできるのか?」と。レコーディングもちゃんとやっているし、音自体も悪くない。けどフラットに聴こえる。俺はこう訊く。「パソコンから一度取り出したか?」、そうすると、していない、と言う。だから、こうアドヴァイスする。「古いテープ・レコーダーを買ってテープ・サチュレイションしてみればいい。音楽に少し息を吹き込んでから、再びパソコンに取り込めばいい」、人びとはそういうやり方に気づきはじめているのだと思う。
 俺はパソコンもアナログ機材も両方使う。アナログ機材をひとつ使うだけで、サウンドをパソコンの世界から引き離して、現実性といういち面を与えることができる。そのサウンドはパソコン以外の、外の世界を経験して再びパソコンの世界に戻っていった。最近の芸術の多くはそれがされていない。現実の世界を経験していないんだよ。

詩人ジョン・ベッチェマンがどんな人か、あなたなりに紹介してください。

AW:彼はイギリスの詩人で、20世紀のはじめに生まれて、1980年代に亡くなったと記憶している。とてもイギリス人らしい詩人で、イギリスの郊外や田舎など、とても心地よく見える情景についての詩を書いた。同時に彼には狡猾で鋭いウィットがあり、イギリスの上品で礼儀正しい生活態度は、皮をはがすと、かなりめちゃくちゃで腐敗していることを知っていた。イギリス人にジョン・ベッチェマンというと、みんな「イギリス人すぎる。ベタだ」と言ってうんざりするだろう。ジョン・ベッチェマンはイギリス人のステレオタイプを詩にしてきた人だよ。
 だけど、アルバムの"レイト・フラワリング・ラスト"はとてもダークな詩で、詩の内容は、ふたりの元恋人同士が酒の勢いでヤるために再会する、という話だ。かなりダークでいかがわしいだろ? 俺はそういうイギリスらしさに惹かれるんだ。とくにヴィクトリア朝、エドワード朝の時代はイギリスは歴史的にも最高潮に達して非常に礼儀正しく上品だった。だが、その裏では、あらゆる種類のいかがわしいことがおこなわれ、ダークな部分がたくさんあった。当時は非常に整った社会で、イギリスは礼儀正しく上品とされていたが、表面を取り除いてみると、当時のイギリスは非常にダークな世界だったということがわかる。俺はジョン・ベッチェマンのそういうところに惹かれる。彼は桂冠詩人にもなった人だ。年代は忘れてしまったけど、とにかく彼の描くイギリスの二面性というものに惹かれるね。

あなたはいろいろなスタイルのDJパーティを企画してきましたよね。『フロム・ザ・ダブル・ゴーン・チャペル』の頃は、50年代のロックンロールをかけるパーティをパブでやっていました。たしかダウンテンポの曲だけのパーティをやっているという噂を聞いたこともあります。この3年のあいだ、何かこの手のユニークなテーマのイヴェントも続けていたのでしょうか?

AW:それが〈ALFOS〉だよ。ダウンテンポばかりというか、BPM90あたりからはじめて、120BPMくらいまで持っていくんだ。3年くらい前、古い友人のショーン・ジョンストンといっしょに車でいろいろなギグに行った。そこでミッドテンポというか、少しディスコっぽくてポスト・パンクっぽい、テクノなのかハウスなのかわからない音楽にたくさん出会った。それからそういう音楽を自分たちで探して、お互いにかけたりして、ついに「こういう音楽をかけるイヴェントをやろう」という話になった。
 でも、最近はみんなもう少し速めBPMが好みだからちょっと難しいかもしれないと思った。だから規模は小さめではじめよう、と言ってパブの地下でイヴェントをはじめた。キャパは100人くらい。それが2年半前くらいにはじまって、いまはみんながイヴェントのコンセプトを理解するようになってきた。3枚セットのCD『マスターピース』は、〈ALFOS〉に行ったらどんなサウンドが聴けるかというのを表現したものだ。最近はヨーロッパの各地でも〈ALFOS〉をやっているよ。イヴェントはオールナイトでやる。10時からはじまって、朝4時に終わる。もしくは12時からはじめて6時に終わる。ひと晩かけてイヴェントをやるのが大事なんだ。テンポの変化もゆっくりだから、クラウドがイヴェントの雰囲気を理解してそれにとけこむまで時間がかかる。魔法がかかるまでには時間がかかるのさ。秘薬が効くにはたくさんのミックスを必要とする。これがいまの俺のメインのプロジェクトだ。いまでもロカビリーのDJセットやテクノのセット、ハウスのセットをたまにやったりもするが、〈ALFOS〉がメインだよ。

ちょっとロカビリー風の"ワン・ミニッツ・サイレンス"では何について歌っているんでしょうか?

AW:俺とティムはクラスターというドイツのバンドにはまっているんだけど、そのバンドの時代の特有のリズムというものがある。クラウトロックやグラム・ロックのリズムだ。俺たちはとくにそこにはまっていて、この曲を作っていたときにクラスターを聴いていたんだと思うよ。俺たちは曲を作るとき、いつもリズムとベースから入る。ドラムとベースだ。そのときもたしかティムがリズムをプログラムして、俺がベースラインを書いた。そこから曲を作り込んでいくんだ。
 曲の内容について、俺はふだんあまり話したくないんだけど、この曲は多少政治的な意味を持った曲なんだ。具体名称は出さないが、ある女性が悲劇を経験した。それに対して彼女は、政府にその行為を正式に認めることを求めていた。要は、彼女の家族がテロ攻撃の被害者となった。政治的な話になってしまうから、どの国のどちら側ということは伏せておく。彼女が求めていたものは、被害者の亡くなった記念日に自分の国で1分間の沈黙を得るということだった。ただそれだけだ。その記事を読んだときに、それだけを望んでいる人もいるのだ、と気づいた。多くの人は富や名声を望む。だが、彼女が望んだものは、遺族を思うために国民にだまってもらい、静かな時間を1分間だけくれ、ということだった。それを読んで感動したんだ。だから曲の内容はそういうことだ。
 俺はこういうふうに、新聞の記事をとって曲にする、ということはあまりしない。まじめになりすぎてしまうし、他人の苦しみや政治的な動きをポップ・ソングにしてしまうのはどうかと思う。価値を落としてしまう可能性がある。彼女の経験をエレクトロなアルバムの曲にしたことによって、その価値を落としていなければいいと願うよ。

取材:野田 努(2012年11月07日)

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