Home > Interviews > interview with Nick Cave - 魂から魂へ
ベルリンに住んでいた頃にノイバウテンのレコーディングを見に行ったことがあってね。スタジオに入ったら、彼らは「ジュルル・ジュルル・ジュルルッ!」って感じの音に耳を傾けてるところだったんだ。それでコントロール・ルームに目をやると、肉屋から仕入れて来た臓物、内蔵だのなんだのが山積みされてた。
Nick Cave & The Bad Seeds Push the Sky Away Bad Seed Ltd/ホステス |
■こんな風に緻密でさりげなく、ニュアンスに満ちたレコードを作れるバンドはなかなかいないと思います。あなたとバッド・シーズの間のケミストリー、クリエイティヴな相乗効果は現在ベストな状態にある、過去でも最高の状態だと言えるでしょうか?
NC:そうだね。このレコードを作っている時に、何かが起きていたんじゃないかと俺は思っていて......障害物が一切なかったんだよ。とにかくこう、何かしら「宿命」めいたところがあったという。かと言って夢見がちな戯言を並べるつもりはないけども、本当に俺たちは......俺たち全員の中に、とにかく「何かが起きてるぞ」って感覚があったんだ。レコードを作るのは、時として──俺はこれまで山ほどレコードを作ってきたわけだけど──時としてレコード作りというのは忌々しい「闘い」なんだよ。まさに戦場で、いろんな人間たち、様々な思惑、そしてあれこれの予定等々に対して常に闘い続けるって調子なんだ。
ところが今回はそうじゃなかった。このレコード作りにおいては何というか全員が同じ空気を吸っていた、という。うん......ある意味不思議なくらいエゴが欠けたレコードなんだよ、これは。今回はドラムがとても美しくて......トミー、トーマス・ウィドリアーがそのほとんどをプレイしている。以前は彼がドラムを担当していたけど、ジム(スクラヴノス)がそこに取って代わったわけだよね。でも今作ではドラムのほとんどをトミーが叩いているんだ。彼のドラムのタッチは非常に軽いものだから、その意味でも助けられたね。
■この繊細で侘しい作品を聴いていて、ふと「これはニック・ケイヴ&ザ・バッド・シーズにとっての『On The Beach』(ニール・ヤング/1994年)かもしれない」と感じました。
NC:まさか!(満面の笑顔)......(照れくさそうに)冗談はよせよ!!
■いや、マジな話です。
NC:(笑)わかった......最高だな。あれは俺のフェイヴァリット・レコードだからさ。
■そうなんですか、それは知らなかった。
NC:そう言ってもらえてとてもハッピーだよ。
■とくにあの作品の"Ambulance Blues"や......
NC:うん。それに"On The Beach"、アルバムのタイトル曲ね。ああ、そうだね......たしかに......嬉しいな(ひとしきり微笑む)。でもたしかに"On The Beach"という曲は、たとえば"Higgs Boson Blues"なんかのなかに何かしらの......うん、あのレコードからある程度影響を受けてる、というのは俺も感じる。だからそう言ってもらえるのはとても嬉しいよ。
■『On The Beach』のとくにアルバムB面は、ただ静かに聴き続けられると同時に聴くたび何か発見がある、そこがとても好きです。あなたの新作にもそれと同じ性質があると思いました。
NC:まあ、彼(ニール・ヤング)があれらの曲をレコーディングしたときにはあるやり方ってのがあったらしいからね。自分の作品がそれと似たものなのかどうかはわからないにせよ、彼のやり方には何というか「ファースト・テイク」めいたところがあるんだよね、本当に。だから歌のなかで何が起こっているのか、それを発見していく感覚があるというのかな。それでも曲は前へ前へと進んでいくわけで、ときたま彼が生まれて初めてこの歌を歌ってるかのように聞こえることがあるんだよ。だからとても生々しい。
で、俺たちのこのレコードもそれと同じと言いたいわけじゃないけど、たとえば"Higgs Boson Blues"はワン・テイクで録ったんだ。俺としてもあの歌がどんな風に展開していくか分かっちゃいなかったし......だから、俺たちはあの曲を前もって何度もプレイし練習したことがなかったという。
■あれはアルバムのなかでもベストな1曲だと思います。
NC:ああ。すごくいいよな。俺も気に入ってる。
■今回のアルバム・ジャケットですが、過去数作に較べ象徴的でミステリアスなものですね。コンセプトを教えてもらえますか。
NC:というか、コンセプトはないんだよ。あの写真は偶然の産物で......
■「偶然撮影された」全裸女性を含む写真、ですか??
NC:(笑)わかった、わかった。だから、写真のあの女性は俺の妻なんだ。撮影されたのは俺の自宅の寝室。妻はフランス人写真家のドミニク・イサーマンと雑誌向けの写真撮影をやっていたところでね。妻はたまにモデルもやるんだ。で、あの時彼女は撮影の合間に衣装を着替えているところで、裸だったんだ。マントを着ての撮影をやったところで、そのマントの下は全裸だったという。で、ちょうど彼女がマントを脱いだ時に俺が「ハーイ、どう、うまくいってる?」なんて調子で寝室に入って行ったんだけど、ドミニクに「あっちに行って窓を開けてちょうだい!」と命令されて。寝室の雨戸はすべて閉め切ってあったからそれを俺が開けに行って、外の光が部屋に入ってきた途端スージー(・ビック/ニック・ケイヴの妻)はまぶしそうに顔をそむけた。その光景にドミニクが「パシャ! パシャ! パシャ!」とシャッターを切っていったという。それが済むと俺は部屋から追い出されたんだけどね、彼女達は撮影を続けようとしていたから。
で、後になってドミニクの撮影したスージーの写真を見返していたら、窓を開けた時のあの写真に出くわして「おぉ!」みたいな。とても綺麗だし、かつミステリアスな、そういう類いの写真だったわけだ。そこで俺たちはこの写真をレコードに使おうじゃないか、と思いついたという。写りがいい写真だから、スージー本人としてもハッピーということでね(笑)。
それでも12歳の子供をふたり持つ身としては、彼らの母親が素っ裸でレコード・ジャケットを飾るという事実に対処し切れていないけどね(笑)! しかしまあ、うちの子供も慣れるしかないか......名の知れた両親を親に持つ弊害のひとつだよ。
■でしょうねぇ(笑)。
NC:得することだって他にあるしね。
■ここしばらくバッド・シーズ、グラインダーマンの他に映画スコア、小説執筆等様々なプロジェクトも盛んです。まだやったことのないことで、チャレンジしたいのは? オプションや機会はいくらでもあるようですが。
NC:(軽く咳払い)というか、実はその選択肢をもっと狭めたいと思っているんだ。なんというか、俺はヤマアラシか何かみたいに「それっ!」とありとあらゆるチャンスを掴んでいったわけだけど、それはただ他の連中が俺にこれをやってほしい、あれをやらないかと依頼するようになったからなんだよ。で、その多くというのは......「自分はなんでこの仕事をやってるんだ?」みたいな。
だから、たとえば俺は突如として映画脚本家になったわけ。なんでそうなったのかは自分でも分からないんだよ。何やかやでそういう風になって、いまや俺には映画脚本家としてのキャリアみたいなものまである。脚本家になりたいなんて、これっぽっちも思ったことはないのに。だから、そういったもろもろの多くを今後はやめようかと思っているんだ。間違いなく映画はそうだな......あれはもう......映画ビジネスってのは本当にひどい世界だから(顔をしかめる)。
■来年はバッド・シーズのファースト・アルバムから30周年になります。
NC:......ああ。そうなんだってね。
■何かアニバーサリーの企画はありますか?
NC:来年なんだ?
■はい。
NC:うーん......(さして興味がなさそうに)まあ、何かするべきなのかもな。バッド・シーズの30周年?
■ファースト『From Her To Eternity』は1984年リリースですね。
NC:そうねえ......でかい再結成ショウでもやる? ブリクサ(・バーゲルド)にミック・ハーヴェイに、アニタ・レーンも呼び寄せるとか(笑)。どうだろうな、もしかしたらね。ってのも、昨日誰かにそう言われるまで俺自身来年で30年になると気づいてなかったんだよ。
取材:坂本麻里子
取材:坂本麻里子(2013年3月05日)