Home > Interviews > interview with 5lack - 震災後
みんなは新しく出てくるアーティストに盛り上がってるけど、オレはまるでよくわからないアーティストばっかりなんで。日本のリスナーのハードルがそんなに高くないんじゃないかって思いますね。音楽を聴いてんのかな?って。
■少し話を変えると、3年前にインタヴューさせてもらったときに〈ストーンズ・スロウ〉から出すのが、ひとつの夢でもあるという話をしてましたよね。久保田利伸を例に出したりして、ディアンジェロみたいなブラック・ミュージックを消化して、表現したいと。その当時語ってた理想についてはいまどう考えてます?
スラック:〈ストーンズ・スロウ〉はいまは興味ないですね。オレはいまそっちじゃないですね。オレはただJ・ディラが好きだったんだなって思いますね。
野田:J・ディラのどんなとこが好きだったの? サンプリングをサクサクやる感じ?
スラック:彼のスタイルが、90年代後半以降のヒップホップのスタンダードになったと思うんですよ。
■最近、トライブの『ビーツ、ライムズ&ライフ~ア・トライブ・コールド・クエストの旅 ~』って映画が上映されてて、すごい面白いんだけど、あの映画を観て、あらためてトライブからJ・ディラの流れがヒップホップに与えたインパクトのでかさを実感したな。
スラック:セレブっぽいっていうか。音楽としてヒップホップの人が追いつけないところに行こうとしはじめると、結果的にモデルがいっぱいいるようなオシャレな音楽になっていく。そうやってブレていく人たちが多いと思う。そうなるとあとに引けなくなるし。
■それこそ漠然とした言葉だけど、スラックくんは「黒さ」に対するこだわりが強いのかなって。
スラック:黒さだけじゃないんですよ。自分もアジア人ですし。
野田:白人の音楽で好きなのってなに?
スラック:ラモーンズとかですね。
一同:ハハハハハ。
スラック:なんでも好きですよ。ピクシーズとかカート・コバーンも好きだし。
野田:ラモーンズって、けっこう黒人も好きなんだよね。
スラック:極端にスパニッシュっぽいものとかラテンっぽいものも好きです。
■いま、スラックくんが追ってる音楽はなんですか?
スラック:ディプセットとかジュエルズ・サンタナとか聴いてますね。中途半端に懐かしい、あの時代のヒップホップにすごい癒されてて。いま聴くと、オレが好きなヤツらって、ここらへんの音の影響を受けてんのかなーって思ったりして。
■シック・チームでもひと昔前に日本で人気のあったアメリカのラッパーをフィーチャーしてましたよね? えー、誰でしたっけ?
マネージャーF:エヴィデンス。
■そうそう、エヴィデンス! あのタイミングでエヴィデンスといっしょにやったことに意表を突かれましたね。
スラック:ダイレイテッド・ピープルズですね。
■そう、ダイレイテッド・ピープルズ! 日本でもコアなリスナーの間で人気あったじゃないですか。面白い試みだなと思いましたね。
スラック:だから、「これはもしかして日本人がいまちょっと来てるんじゃねぇのか」って思った。でも、いままでの日本の打ち出し方ってイケテないのが多いから、そこは慎重にかっこよくやりたいんですよ。
野田:ダイレイテッド・ピープルズに、90年代の『ele-king』でインタヴューしましたよ。
スラック:マジすか?
野田:マジ。当時はパフ・ダディがポップ・スターだったじゃない? ダイレイテッド・ピープルズやエヴィデンスは、そういうものに対するカウンターとしてあったよね。
スラック:オレの周りは年齢層も30歳ぐらいの人が多くて、ナインティーズ推し派が多いんですけど、オレはネプチューンズとかも好きなんですよ。オレはサウスが流行ってた時代に育ってるけど、その中でナインティーズっぽいことをやってた。だから、「ファレルとかも良くない?」って思う。
■日本では、90年代ヒップホップとサウス・ヒップホップの溝はけっこう深いしね。
スラック:深いし、ナインティーズ推し派の人たちはやっぱ固いっつーかコアですよね。あと、オレの世代でもまだやっぱ上下関係が残ってて、オレはそれを否定して少数派になっちゃった。だから、もうちょっとやりやすい環境を求めて、いま動き回ってますね。
取材・文:二木信(2013年3月12日)