Home > Interviews > interview with 5lack - 震災後
動じませんでしたね。だから、『この島の上で』の話に戻ると、「こういうアルバムもオレは出すんだよ」くらいでの気持ちでしたね。「このデザイン、ハンパなくない?」、みたいな。
■良い音楽を作るためにはしがらみを取っ払わないといけないときもあるよね。
野田:いや、良い音楽を作るためには独善的でなければならないときもあるんだよ。ジェイムズ・ブラウンみたいに、「おい! ベース、遅れてるぞ。罰金だ!」って言うようなヤツがいないとダメなときもある。
スラック:たしかに言えてますね。だから、人と上手くやるのって難しいですね。とくに日本のお国柄とか日本人の精神もそこにリンクしてくるから。日本はいますごい絶望的だと思うし、そのなかでポジティブに楽しんで生きていけるヤツがある意味勝ち組だと思う。社会的に勝ち組と思ってるヤツらもいきなり明日にはドン底になって動揺する可能性だってある。親父とも最近、そういう日本のことを話したりするようになって。
野田:お父さん、すごい音楽ファンなわけでしょ?
スラック:そうですね。
野田:スラックは、『My Space』と『Whalabout』を出したときにメジャーからも声をかけられたと思うのね。「うちで出さない?」って。
スラック:はいはい。
野田:それを全部断ったわけじゃん。断って自分のレーベル、高田......、なんだっけ?
スラック:高田音楽制作事務所(笑)。
野田:でも、いわゆるアンダーグラウンドやマイナーな世界に甘んじてるわけでもないじゃない。
スラック:はい。
野田:だから、「第三の道」を探してるんだろうなって思う。アメリカの第三のシーンみたいなものが、ダイレイテッド・ピープルズとかなんじゃない。
■あと、レーベルで言うと、〈デフ・ジャックス〉とかね。
野田:そう、〈デフ・ジャックス〉とかまさにね。
■〈ストーンズ・スロウ〉も精神としては近いでしょうね。
野田:まあそうだね。そのへんの「第三の道」というか、いままでにない可能性に関しては諦めてない?
スラック:うーん、どうですかね。自分の立場が変わって、シーンをもっと良くすることができる位置にきた気はします。元々の人には嫌われたりするかもしれないけど、シーンを自分の色にできる影響力を持った実感もちょっと出たし。やらないことも増えたり、変なことやるようになったり。「第三の道」っていうの探してるかはわからないですけど、元の自分のままでいることはけっこう無理になりましたね。いまの自分の立場になって、昔の自分みたいなヤツが出てくるのを見て、「オレはこんなことしてたんだ」って思うこともある。そういう経験をしてきたから、後輩には良くしようって。そういう変化をもたらすきっかけにはなれるんじゃないかなってたまに思っちゃう。
■シーンについて考えてるなー。
スラック:「なんでオレがこんなことしなきゃいけないんだよ!?」って思いながら、「オレがやってんじゃん」みたいな。
■ハハハ。
スラック:いまオレが言ったようなことをやる専門のヤツがいっぱいいたらいいのにって思う。でも日本人は、有名なラッパーに「なんとかしてください」ってなっちゃうんですよ。アナーキーくんみたいに気合い入れて自分を通してやり遂げて、曲もちゃんと書くってヤツがもっと存在していいと思う。言い訳ばかりはイヤですね。
野田:日本の文化のネガティブなことを言うとさ、やっぱり湿度感っていうか、ウェット感がある。たぶんそういうところでけっこう惑わされたのかなって思うんだけど。
■あと、派閥意識みたいなのも強いですからね。それがまた面白さなんだけど。
野田:日本人がいちばんツイッターを止められないらしいんだけど、なぜ止められないかって言うと、そこで何を言われているか気になって仕方がないというか、人の目を気にしてるからっていうさ、そうらしいよ。
スラック:ああ。
野田:自分が参加しないと気になってしょうがないんだって。二木はとりあえず、そういう人の目を気にしちゃってる感じをファンキーって言葉に集約してなんとか突破しようとしてるわけでしょ。あれだね、スラックは理想が高いんだね。
スラック:理想はたぶん、高いかもしれない。
■そういう意味でもスラックくんの存在はすごい重要だと思う。
スラック:あとオレは、カニエやファレルに負ける気で音楽は作ってないすね。
野田:カニエとファレルだったらどっち取る?
スラック:ファレルですね。
野田:あー、オレと同じだなあ。じゃあ、ファレルとカニエの違いはどこ?
スラック:まあ、いちばん簡単に言えば、最初は見た目なんですよ。あと、ファレルは最終的に音が気持ちいいし、器用だし、音楽だけに留まってない。音楽のセンスが違うところに溢れちゃってる。あの人とかもう、究極の楽しみスタイルじゃないですか。チャラい上等じゃないですけど。
野田:それって逆に言うと、実はいちばんずるい。
スラック:ずるいですね。
野田:バットマンの登場人物でいうジョーカーみたいなヤツじゃん。人を笑わせといて、実は殺人鬼っていうようなさ。
■すごい喩えだ(笑)。
スラック:ネプチューンズというか、ファレルは作る音で信用得てますよね。それは周りからのディスで止められるものじゃない。
野田:フランク・オーシャンとかはどうなの?
スラック:フランク・オーシャンは好きっすよ。
野田:オッド・フューチャーは?
スラック:オッド・フューチャーも最終的に好きになりましたね。
野田:あのへんはファレル・チルドレンじゃない。
スラック:そうですね。メインストリームの良いものを真似して、でも惑わされずに、あの世代のアングラ感やコアな感じを出してますよね。だから、信用できる。
■考えてみれば、フランク・オーシャンも「第三の道」を行ってるアーティストですよね。
野田:そうだね。
スラック:彼はなんか人生にいろいろありそうな音してますよね。
野田:そうそう。で、オッド・フューチャーにレズビアンがひとりいる。
■たとえば、日本のヒップホップで「第三の道」って言ったら、やっぱりザ・ブルー・ハーブじゃない。
スラック:よく聴いてたし、オリジナルだし、彼らのはじまりを思うとすごいと思いますね。「ガイジンもなにこれ?」って思うような、日本っぽいことをやって、それをやり通してるし。
取材・文:二木信(2013年3月12日)