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interview with 5lack

interview with 5lack

震災後

――スラック、超ロング・ロング・インタヴュー

二木 信    写真:小原泰広   Mar 12,2013 UP

オレら世代はけっこうクソ......、クソっていうか、自由を尊重する気持ちだけは育って、でも手に入れる腕もないし、趣味もなけりゃ、ほんとにみじめだなって思ったりもします。好きなことがないとかは、大変だろうなって思いますね。

E王
5lack×Olive Oil - 50
高田音楽制作事務所 x OILWORKS Rec.

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今回のオリーヴ・オイルとのアルバムには一貫したテーマは最初からありました?

スラック:まず、オリーヴさんとの組み合わせがオレは最高だったんですよね。それと個人的には旅ですね。

たしかに旅はテーマだね。

スラック:東京側にも福岡みたいな街があるっていうのを伝えたかった。東京の身内に「おまえらもちゃんとやれよ」みたいなことも説明して、身内のことをディスすることによって、みんなの環境にもリンクすると思った。

たしかに、さりげなくディスってますよね。

スラック:そうですね。けっこう身内のことばっかり否定してて、オレもカッコ悪いかもしれないけど、ただ身内だからとりあえず「カッコいい」ってなってる状態も変だと思うから。そこで調子に乗っちゃってる友だちも危ないとオレは思うから。

いや、でも、それは勇気あるディスだと思いますよ。やっぱり福岡と東京を行き来したり、旅をしながら、東京や東京にいる仲間や友だちを客観的に見たところもあるんですかね。

スラック:そうですね。もちろんどこの街に行っても同じ現状があるけど。福岡にはオリーヴ・オイルっていう素晴らしくスジの通った人がいて、そこでKさんとも出会うことができた。たまたま福岡って街も良くて、あったかくて。

へぇぇ。

スラック:運ちゃんがまずみんなめっちゃ話しかけてきて。

野田:ガラ悪いからねー。九州のタクシー。

スラック:東京って街は最先端っていうよりは日本の実験室ですよね。東京が犠牲になって、周りを豊かにしてる気がしました。

地方が犠牲になって、東京を豊かにしてるって見方もあると思うけどね。原発なんてまさにそうだし。ただ、スラックくんの地方の見方を聞いていると、生粋の東京人なんだなーって思う。悪い意味じゃなくてね。

スラック:そうですね。たとえば、揉め事があったとして、他の地域だったらその場でケリがつくんじゃないかってことも、東京は引っ張って、引っ張って、引っ張って、みたいな。音楽のやり取りでも問題が起きると、じゃあ、本人同士で話し合って、決別するならして、仲良くするならすればってところまでが複雑。すごい街だなって思いますね。

どうなんだろう、大阪にしても、京都にしても、物理的に街が小さいっていうのもありますよね。人口も少ないし。たとえば、音楽シーンだったら、ヒップホップとテクノの人がすぐつながったりするし、シーンっていうより街で人と人がつながってる感じもあるし。人間の距離感が東京より近いんですよね。

スラック:ああ。

札幌に行ってもオレ、そう感じましたよ。ともあれ、板橋の地元で音楽をやりはじめたころと、付き合いが広がりはじめてからでは、なにかしらのギャップを感じてるってことなんだ。

スラック:オレは家で勝手に音楽をやりはじめただけなのに、そこを忘れちゃうんですよね、都心に出てやってると。しかもそこが重要なのに。なんか人がどうこうとか、責任が出てきて。地元帰ってくると、「いや違う。そうじゃない」ってなるんです。都心はシンプルじゃなさすぎて。

「鳴るぜ携帯/今夜は出れない/社会人としてオレはあり得ない/理由は言えない」("BED DREAMING")ってラップもしてますもんね。

野田:ハハハハハッ。

スラック:そう、電話の束縛も超苦手で。

このインタヴューの日程決めるやり取りも超スローでしたもんね。

スラック:電話出なかったりとかで、人と揉めたりしたんですよ。

たしかに揉めると思う(笑)。

スラック:そうなんすよね。揉めたり、怒られたりしましたね。でも、オレはそういうスタイルにマインドはないんですよ。彼女だってキレてこないのにって。

「社会人として失格」とか「だらしない」って言い方されたら終わってしまう話なんだろうけど、スラックくんには強い拒絶の意思を感じますね。そこに信念がある。

野田:信念あると思うね(笑)。

たぶん「第三の道」っていうのはそういうところからはじまると思うんだよね。社会的なしがらみから自由にやりたいわけでしょ。

スラック:そうですね。だから、そこは逆にわからせたいですよね。悪気はないし、ちゃんとやってる人に敬意もあるんです。ただ、こういうやり取りのなかでは敬意を表せないって思うときがあるんです。オレは自分のペースを保ってやりたいし、ストレスはやっぱりダメですね。

野田:まあ、アメリカはすごい孤立しやすい社会で、たとえばJ・ディラみたいな人でさえも、放っとけば孤立しちゃう。日本って逆に言うと孤立し辛い社会でしょ。

スラック:そうですよね。

放っといてくれない。

野田:「オレは独りになりたいんだ」って言っても。

スラック:それはそれで幸せなんだなって思いますけどね。

野田:そうだよ。

スラック:でも、まあ、そこも塩梅ですよね。そういう意味でも上手くできるヤツといるようにしたい。一般的には難しいことなんだと思いますけど。いまは、そういうこと考えまくった上で、生きてるときは気を抜いてますね。

野田:ところで、311前に愛をテーマにした『我時想う愛』を出したじゃない? あれはなんでだったの? しかも、ジャケなしで、いわゆる透明プラスティックのさ。

スラック:あれ、裏にジャケがあったんですよ。そういう意味でも、みんな、固定概念に縛られ過ぎだよって。

野田:ダハハハハ。

虎の絵があったよね。

スラック:あれがレーベル・ロゴで、黄色い人種ってことですね。

取材・文:二木信(2013年3月12日)

Profile

二木 信二木 信/Shin Futatsugi
1981年生まれ。音楽ライター。共編著に『素人の乱』、共著に『ゼロ年代の音楽』(共に河出書房新社)など。2013年、ゼロ年代以降の日本のヒップホップ/ラップをドキュメントした単行本『しくじるなよ、ルーディ』を刊行。漢 a.k.a. GAMI著『ヒップホップ・ドリーム』(河出書房新社/2015年)の企画・構成を担当。

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