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Home >  Interviews > interview with DJ Nobu, Shhhhh, Moodman - 2013年ミックスCDの旅

interview with DJ Nobu, Shhhhh, Moodman

interview with DJ Nobu, Shhhhh, Moodman

2013年ミックスCDの旅

──DJノブ、Shhhhh、ムードマンの3人、インタヴュー

小野田雄松村正人野田 努    写真:小原泰広   Apr 10,2013 UP

この度、『Crustal Movement』なる3枚のミックスCDがエイヴェックスから同時にリリースされた。DJノブによる『Dream Into Dream』、Shhhhhによる『EL FOLCLORE PARADOX』、ムードマンによる『SF』。3人のDJのそれぞれの個性が反映されているばかりか、今日のクラブ・ミュージックの魅力を切り取った、3枚とも実にドープな仕上がり。クラブ・ミュージックの「いま」がしっかりあって、しかもミキシングの「いま」もある。

interview with DJ Nobu

キラー・テクノ ──DJノブ、インタヴュー

取材:小野田 雄

DJ NOBU
Crustal Movement Volume 01 - Dream Into Dream

tearbridge

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 ちょうど10年近く前になるだろうか。噂を聞きつけて、不案内な千葉へと初めて出掛け、デトロイト・ハウスのドン、テレンス・パーカーと盟友のスティーヴ・クロフォードをフィーチャーしたFuture Terrorで味わったのは濃厚なハウス・ミュージックだったと記憶している。その当時の片鱗は〈MOODS & GROOVES〉の音源をエディット、ミックスした2008年のミックスCD『CREEP INTO SHADOWS』で追体験出来るものの、Future Terror主宰のDJ NOBUは気が付けば、いつからか、テクノをプレイするようになっていて、2010年に日本人で初めてドイツ・ベルリンのベルクハインでプレイするまでの傑出したDJになっていた。
 そのあいだの自分はといえば、彼のプレイするパーティやFuture Terrorに足繁く通っていたわけではなかったけれど、それゆえに、4作目となる最新ミックスCD『Crustal Movement Vol.01:Dream Into Dream』は成功を収めてなお、変わらずに変わり続ける彼の音楽性とそのスタンスに大きな衝撃を受けた。そして、テクノやハウスがインダストリアルやノイズ、ドローン、ミュージック・コンクレート、ヴィンテージな電子音楽などと共振しながら描き出す美しくも危ういサウンドスケープに驚き、魅せられると同時に、久しぶりに彼の話をゆっくり聞いてみたいと思った。

はっきり言って、全体的に見たらいまの日本は出遅れちゃってるんですよ。もちろんそうでない人もいますけど。だから、マズいっていうか、「日本なんてたいしたことねえよ」って思われるのもイヤだし、負けたくないじゃないですか(笑)。だから、面白いことを考えていきたいなって気持ちが強かったというか。

2006年の『NO WAY BACK』から最新作の『Crustal Movement Vol.01:Dream Into Dream』まで、これまでリリースした4作のミックスCDを紐解くと、NOBUくんの音楽遍歴がはっきりわかりますよね。

DJノブ:その変遷はわかりやすいですよね(笑)。90年代、テクノが好きだったにも関わらず、出会いに恵まれていなかったり、面白さを感じられなくなって、一時期、DJの現場から離れるんですけど、その時期にいままで通ってこなかったハウスに触れて。もともと、ブラック・ミュージックが好きだったこともあって、その流れからハウスもすごく好きになって。DJを再開してからはハウスをプレイするなかで、スパイスとしてテクノを使うようになるんですけど、どうしてそうなっていったかというと、デカかったのは「濡れ牧場」だったりして。

「濡れ牧場」というのは、CMT、Shhhhh、UNIVERSAL INDIANNという3人のDJが東高円寺GRASSROOTSで主宰していた伝説的なアシッド・パーティですね。

DJノブ:彼らはDJを通じて、人に驚きを与えることをやってたじゃないですか。僕はおそらくもっとも濡れ牧場にゲストで呼ばれてプレイしてるDJだと思うんですが、僕も負けず嫌いなんで、例えば、ノイズを混ぜてみたり、「どうしたら面白いことが出来るか?」っていう試行錯誤をしながら、みんなで遊ぶなかで、当時の時代性もあってか、面白い作品がどんどんリリースされるようになったテクノに惹きつけられて、気づいたら、テクノが中心になっていたっていう。もちろん、いまでもハウスはプレイするんですけど、自分はテクノに完全に取りつかれてしまっているので、流れとしてはそういう感じなんですよね.

NOBUくんを魅了してやまないテクノはどこに魅力があるんでしょうね?

DJノブ:テクノという音楽はDJの力量によって、最高のものにも、最低のものにもなると思うんですね。そういう意味で、テクノはひりひりした緊張感をもって、自分がプレイヤーでいられる音楽、自分の世界を作りやすい音楽だと思うんですよ。しかも、エレクトロニック・ミュージック全般で考えた時、テクノは進化の速度も早いので、自分も飽きずに接していられる......飽きないというか、ホントに自分が頑張らないと、置いていかれちゃう世界だと思うので。

2010年にプレイしたベルクハインでの体験を振り返ってみて、いかがですか?

DJノブ:いま、思い出すと、そこで繰り広げられているスタイルを日本でやってる人と出会えてなかったんですよね。もちろん、ベルグハインのような環境がないなかで、「このレコードはこうやって使うんじゃないか?」って自分なりに考えてきた経験は、それはそれで重要だったりはするんですけど、2009年に初来日したマルセル・デットマンと一緒にやったとき、「テクノってこういうことでもあったのか。知らなかった。すみません」って感じの衝撃を受けて。さらに翌年呼ばれたベルクハインでは自分の出番が終わった後、午後4時くらいまでずっと踊って、彼らがやっていることに真剣に向き合ったことで、本当にたくさんの発見があったんです。でも、もう3年前の話なんで。

ベルクハインで目から鱗だった発見というのは、例えば、グルーヴの作り方とか?

DJノブ:いちばんデカかったのはグルーヴの作り方ですね。そのグルーヴにしても、「ベルクハインのスタイルは変わらず一貫している」って言う人も多いんですけど、去年、感じたのは、彼らは彼らで実はさり気なく変わっていて、根っこにあるグルーヴも最近は丸くなったり、変化し続けていますね。

自分は行ったことがないんですけど、世界最高峰の音響だったり、あるいは快楽追求が半端じゃないゲイ・クラウドだったり、ベルグハインのエクストリームな環境は日本には存在しないわけで、向こうのスタイルをそのまま日本で再現するのは難しいというか。

DJノブ:日本は日本で別の意味でのエクストリームな現場が存在するし、状況もシーンのあり方も全然違いますからね。とはいえ先ほどの話じゃないですけど、テクノをかける手法は学ぶ事も当時はありましたし、もちろんたくさんの刺激を受けましたね。

2010年末にリリースした前作『ON』は、そうしたベルクハインでの経験が反映されたミックスCDだったと思うんですけど、その後、2年以上に渡って、全国各地でいろんな夜、いろんなフロアを経験するなかでどんなことをよく考えます?

DJノブ:例えば、海外から来て、来日したときのDJやライヴがまったく良くなかったアーティストでも、ただ来日アーティストってことだけで、良いと思っちゃう人は相変わらず多いのかなって。もちろん、こんな人がいたんだって驚くような海外のアーティストが出てきたりもしていますけど。こないだも某来日アーティストがやってた全然面白くないライヴが盛り上がってて、そうかと思えば、UNITのDEMDIKE STAREで一緒になった京都のSTEVEN PORTERとか、KEIHINがAIRで新しくはじめたパーティ「Maktub」にライヴで出たRYO MURAKAMIくんのライヴを見たら、相当にクオリティが高いことをやっているのにそこに気づいてない人が多かったり。まぁ、それは最終的に俺の好みの問題になっちゃうんですけど、「この人は光るもの持ってるな」って思う人は日本にもいるのに知らないままでいるのは、もったいないと思うんですよ。みんな、まわりの評判やメディアの情報をただ受けるだけじゃなく、自分の感覚を信じて、能動的に面白いものを見つけられるようになったらいいんじゃないかって思うんですけどね。

ここ最近、音楽の進化のスピードがあまりに速いから、その動きに付いていくのは大変だったりもするでしょうし、まずはその夜をどう楽しむか、楽しませるかっていうのが夜遊びの基本だったりもするでしょうから、そう簡単な話ではないと思うんですけどね。

DJノブ:でも、ときには多少リスクを侵してでも、いままでの楽しみ方とは違った新しい試みを取り入れていかないと面白くないじゃないですか。だから、そのバランスはホントに難しいし、悩み続けているポイントだったりもして。新しいことをやるのと聴きやすさ、なじみ易さのバランスはつねに意識してます。

今回のミックスCDにしても、ここ最近のピークタイムを切り取った内容にするという選択肢もあったと思うんですよ。でも、そうせずに、広義の電子音楽に立ち返りながら、進化しているテクノのカッティング・エッジな流れに共鳴したところがNOBUくんらしいなと思いました。

DJノブ:いまはSOUNDCLOUDを掘れば、その辺のミックスCDよりもいい音源なんて、いっぱいあるんですよ。だからこそ、新しい感覚のものを提示していかないとなって思ったんですよね。しかも、いま、日本のテクノでそういうことをやろうとしている人も少ないですし、そう考えたら、自分はチャレンジしていかないとなって。世界のトップ・レヴェルでやってる人もいたりはしますけど、はっきり言って、全体的に見たらいまの日本は出遅れちゃってるんですよ。もちろんそうでない人もいますけど。だから、マズいっていうか、「日本なんてたいしたことねえよ」って思われるのもイヤだし、負けたくないじゃないですか(笑)。だから、面白いことを考えていきたいなって気持ちが強かったというか。

今回はヴァイナルをデータ化にしたもの、それからデータで買ったものがちょうど半々くらい。ここ最近は僕もUSBを差したCDJ-2000を使ったりもしているんですけど、今回に関しては、「ライヴ・ミックスはパーティで聴いて欲しい」って感じで(笑)、Abletonで作り込みました。

テクノという枠組みにとらわれず、広く電子音楽を意識するようになった具体的な作品やアーティストは?

DJノブ:前作『ON』でも使っていましたけど、振り返ると、ダブステップの枠をはみ出したShackletonやインダストリアルな、あるいはアブストラクトなベクトルで発展していったSandwell District、Silent Servantなんかの登場がデカかったと思いますね。その流れでRegisを聴き直したら、90年代にはわからなかった感覚がわかったり、そうやってあれこれ掘るようになったんですよね。後はSvrecaのような表現者。IORIと遊ぶようになったのも大きいです。MnmlssgsのChrisと交流を持つようになったことも大きいです。

例えば、2曲目のTod Dockstaderは昔のライブラリー音源だったり、16曲目のFrancis Dhomontもミュージック・コンクレートだったり、ダンス・ミュージック用に作られていない曲が多数使われていますよね。

DJノブ:その辺のレコードは家で聴くのが面白くて買うようになったんですけど、よくよく考えると、初めて、dommuneに出たときもターンテーブルが壊れたときにかけたのもそういう現代音楽のレコードだったんですよね。何年か前なので忘れちゃいましたけど、Chee(Shimizu:DISCOSSESSION)さんのORGANIC MUSICで買ったものだったんですよね。それ以前にも「濡れ牧場」でオブスキュアなレコードを使って、変な時間を作ったりすることはやったりしていたから、その流れが歳月を経て、洗練されたということもあるんじゃないかと思いますね。

ミックスCDの構成に関しては、どんなことを考えました? 例えば、MOODMANのミックスは、USBを差したCDJ-2000を使ったからこそ、クイック・ミックスを通じて、独自のグルーヴが出てると思うんですね。

DJノブ:今回はヴァイナルをデータ化にしたもの、それからデータで買ったものがちょうど半々くらい。ここ最近は僕もUSBを差したCDJ-2000を使ったりもしているんですけど、今回に関しては、「ライヴ・ミックスはパーティで聴いて欲しい」って感じで(笑)、Abletonで作り込みました。作り込んだものじゃなければ、自分としては売れるものにならないなって。
 だから、今回はいままででいちばん曲数を多く使って、コラージュしながら、映画を観るような、ある種のストーリーが感じられるものにしました。そういう意味では普段のDJとは頭の使い方も違いますよね。ただ、いちばん最初に作ったテイクがあまりにマニアックすぎたというか、あまりにも度が過ぎたものになってしまったので(笑)、キックが入ってくる7曲目のADMX-71あたりから自分なりに聴きやすい入口を設けたんです。

あと、ここ最近のトラックは解像度が飛躍的に上がっていると思うんですね。そういう最新のトラックとリイシューものの電子音楽が上手く混ざってるところにも、NOBUくんの上手さや鋭さを実感しました。

DJノブ:後半、2曲使ってるL.I.E.S.のロウなトラックはさておき、今回は古いものも新しいものも音がいいトラックを選びましたからね。だから、当初使おうと思っていたThe Trilogy Tapesのトラックも、もともとがカセットだったり、音質が独特なので、混ぜた時に浮いてしまって。そういう曲を省いていって、最終的にいまの形に落ち着いたんですよ。

今挙がったL.I.E.S.にしても、ハウスの領域をはみ出して、ダブステップや広い意味での電子音楽に歩み寄ってる面白いレーベルだったりしますしね。

DJノブ:L.I.E.S.のトラックは、今回、2曲使ってますけど、海外ではあれだけ話題になっているのに、日本ではいち部のDJしか使ってないし、多くの人には聴かれてもいないじゃないですか。好みの問題でもあるとは思うんですけど、何で面白いものに飛びつかないのか、自分にはよくわからないんですけどね。

だからこそ、今回のミックスCDは、カッティング・エッジなエレクトロニック・ミュージックに触れる最高のきっかけになるんじゃないかと。

DJノブ:それと同時に今回のミックスCDは長く聴き続けられる普遍性も自分なりに追求したつもりです。今回のようなアプローチのプレイもイケるところはイケるというか、土地によっては、テクノについて全く知らないキャバ嬢がガンガン踊ってくれたり(笑)。でも、それは能動的に楽しもうと捉えてくれてるからだと思うんですよ。例えば、こないだ、8年振りに徳島へ行ったんですけど、テクノ・シーンがないに等しいような土地なのに、「ここまでやっちゃっていい?」ってところまでプレイしても、付いてきてくれたし。もちろん、そのときのプレイの良し悪しにもよるんでしょうけど、チャレンジできるところではやっていきたいと思っているんですけどね。

かたや、2001年にスタートしたFuture Terrorも2011年に10周年を迎えたわけですけど、3月9日の最新回はいかがでした?

DJノブ:こないだ久しぶりにやってびっくりしたのは、あのパーティは、自分がコントロールするんじゃなく、お客さんがコントロールしてて(笑)、俺がお客さんに付いていくって感覚がいままでDJしてきて初めてのことだったんですよ。もちろん、それは不快なことではなかったし、むしろ、何のトラブルもなければ、ストレスもなかったし、すごく楽だったんですね。そう考えると、お客さんも遊び方が上手くなったり、音楽の聴き方も変化しているんだろうし、成長しながら、俺たちがやってることについてきて、さらにはDJをコントロールするわけですから、スゴい話ですよ(笑)。

はははは。そういう意味で、回数は減っても、NOBUくんにとって、進化の起点はFuture Terrorにある、と。

DJノブ:いや、例えば去年の話ですけど、進化の起点になったと感じる機会はmnmlssgsのパーティに誘ってもらって自分なりに何を表現するか悩んだり、Labyrinthで体験したBee Maskのライヴが衝撃だったり、他のパーティに、きっかけがあります。自分にとってFuture Terrorは帰る場所っていうか、俺の原点ですよね。集中力があれだけすごいお客さんが集まるパーティはほかになかなかないと思うし、自分ではじめたパーティながら、「ああ、こんな盛り上がり方してるんだ」って、他人事のように驚きましたからね(笑)。

取材:小野田雄

取材:小野田雄、松村正人、野田 努(2013年4月10日)

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