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interview with Primal

interview with Primal

性、家族、労働

――プライマル、インタヴュー

二木 信    Sep 25,2013 UP

日本ではブルジョア的なイメージが好きな人は、頑張れば自然にブルジョアになっていくと思うんです。ただ、自分は人を使うこととかがやり辛かったりするという意味で、プロレタリアート気質だなって思うんです。それだったら、そのなかでの勝ち方を探さないと負けちゃうと思うんですよ。人間の尊厳も考えた上で勝ち方を探したい。

プロレタリアートは労働者って意味ですよね。このタイトルにしようと思ったのはなぜですか? むちゃくちゃ直球じゃないですか。

プライマル:はははは。言い方が難しいんですけど、日本にはもちろん貧富の差はあると思うんですけど、どちらかと言うと、"意識階級"なのかなって思うんですよ。

意識階級?

プライマル:日本ではブルジョア的なイメージが好きな人は、頑張れば自然にブルジョアになっていくと思うんです。ただ、自分は人を使うこととかがやり辛かったりするという意味で、プロレタリアート気質だなって思うんです。それだったら、そのなかでの勝ち方を探さないと負けちゃうと思うんですよ。人間の尊厳も考えた上で勝ち方を探したい。だから、その部分で自分はかなり共産的だと思いますね。

1曲目の"MY HOME"のフックで、いきなり「コミュニスト」というリリックが出てきますよね。

プライマル:そうですね。サビは、コミュニストになるのか、自分の家族を選ぶのかっていうことをラップしてるんですよ。その曲のなかでマイホーム主義って言葉も使ってるんですけど、家族との生活を優先させて、革命をできないやつという意味で自分はマイホーム主義者だと思うんですよ。

でもプライマルさんは、自分がラッパーとして成功したり、家族が幸せに暮らせるだけでは満足できないというか、社会の幸せやより良い理想の国や社会のあり方についてどうしても考えちゃう人だと思うんですよ。

プライマル:別に政治家になるとかではないんですけど、そういうのはありますね。逆にそういうトピックしかないから、つまんない人はつまんないと思う。まあ、バランスを取って、人が気になるようなところ探してやってる感じではあるんですけどね。ただ、どうなんすかね、ラップとしてはそういうのはやっぱり無いほうがいいと思うんですけどね。

でも、そこがプライマルさんの個性のひとつだと思うんですけど。

プライマル:ただ、(キエる)マキュウとかとやると、「そういうのはあんまり面白くない」ってクリ(CQ)さんがはっきり言ってきてくれたりもしたんで。

それこそMAKI THE MAGICさんは自分の政治思想を強く持っていた人だと思いますけど、音楽には反映させないというのを、信念にしていたところがありましたよね。

プライマル:そうですね。ラッパーとしてそういうところはすごい影響されてますね。でも、俺の場合、出ちゃってますけど。

MAKIさんとはどういう関係だったんですか? 前作の"SHADOW"と"My Way"はマキさんのトラックですし、今作でも"武闘宣言2.0"を作ってますよね。

プライマル:『新宿STREET LIFE』ではじめて仕事させてもらって、MAKIさんの作った"矛盾"っていう曲のヴァースを褒めてくれていたという話を人伝てに聞いて、嬉しかったですね。『新宿STREET LIFE』に関していえば、俺はプロデュースはまったくしていないアルバムなんですよ。漢と〈ライブラ〉の社長と目崎くん(『Proletariat』のデザイナーのDirty MezA)がコンセプト考えて、トラックを決めて、という感じで。だから、俺の政治的な部分は反映されていないですね。だから、二木くんは逆に良いんじゃないですか、ははははは。

いやいやいや、そんなことないですよ(笑)。プライマルさんのソロも僕は大好きですよ。MAKIさんとはけっこう密な関係だったんですか?

プライマル:そうですね。マキュウの飲み会とかイヴェントにちょくちょく顔出すようになって、「このトラック、どう?」みたいなことを言われるようになって。

けっこう飲んだりはしてたんですか?

プライマル:かなり飲んでましたね。ある時期は月イチぐらいのペースで飲んでましたね。ソロをちょこちょこ作りはじめるのと、同時進行で「SS」っていうグループもやろうぜ、みたいな話にもなってて。

「SS」って何ですか?

プライマル:「シークレット・サービス」ってことなんですけど(笑)。まあ、ナチスの親衛隊とか、は冗談ですがいろんな意味があったんです。

はははは。プライマルさんがMAKIさんと波長というか、ヴァイブスが合ったポイントはどこだったんですか?

プライマル:なんですかね、やっぱ優しかったですね。気さくっていうか、受け入れてくれるっていうか、フツーに楽しかったですね、MAKIさんといっしょにいるのが......。

MAKIさんは、上の世代で早い段階でMSCを評価して、トラックも提供した人でしたよね。

プライマル:そうですよね。もちろん、〈ライブラ〉の人たちと仲良いというのもあって、そういう流れもあったと思うんですけど、運命的に出会った感じですかね。

"子供とママと家庭"っていう曲がありますけど、家族ができたのはやっぱり大きいんじゃないですか?

プライマル:回帰した感じですよね。自分の家族は家によくいたんで、昔は家がイヤでしたね。でも、親父が10代の終わりごろに亡くなって、引きずってた部分はあったんですけど、20代は好き勝手に生きて。でも、自分が家庭を持ったことで、また家族を意識するようになったんじゃないですかね。

それにしても、"子供とママと家庭"というタイトルもまた直球ですね(笑)。

プライマル:へへへへへ。俺、歌謡曲とかフォークが好きなんで、そういう感じで行きたいっていうのはあったんですよね。歌謡曲やフォーク系の人のリリックってかっこいいじゃないですか。今回は誰にも文句言われないし(笑)。

フォーク系というと、たとえば岡林信康とか?

プライマル:あー、そこまで濃くないと思いますね。吉田拓郎とか。

泉谷しげるとかは?

プライマル:泉谷しげるとかも好きですね。でも、やっぱり、女々しいっていうか、昔のアイドルの曲も好きですね。松田聖子とか好きですね。

松田聖子!? へー、それはやっぱり歌詞の部分?

プライマル:歌詞も好きなんですけど、なんか共感がありますね。俺は昔からあまり男臭い歌詞が書けないんですよね。

"性の容疑者"のリリックの内容は衝撃的ですよね。

プライマル:そうですね。

これは実体験というか、ゲイになりきってラップしているということですか?

プライマル:いや、もう......俺はゲイだから、といったら勘違いされるので、バイみたいになっちゃって。

それはプライマルさん自身が?

プライマル:そうですね。

え!?

プライマル:はい。だけど、二丁目にいるようなゲイにもなりたくねぇなっていうのもあって。

自分がゲイっぽいって感じるときがあるんですか。

プライマル:「ゲイっぽいって感じる」っていうか、まあ、男遊びとかしちゃいましたよ(笑)。

マジっすか(笑)。それは書いてもいいですか?

プライマル:いいっすよ。だって、この曲はそういう歌詞ですから。

僕はこの曲はフィクションかメタファーだと思ってたんですよ。

プライマル:いや、フィクションは書かないすね。だから、この曲はディスられる覚悟で作ったんですけど。

最近はフランク・オーシャンがカミング・アウトしたり、アメリカでは変化もありますけど、とくにヒップホップはゲイに厳しい文化ですよね。この曲を発表するのには、迷いもかなりあったんじゃないですか?

プライマル:そうですね。だから、ちょっとどうなるかはわかりません。

漢さんはなんか言ってました?

プライマル:この曲に関してはわからないですけど、そういう話はしたりするんで、「しょうがねーヤツだなー」みたいな感じなんじゃないすか。

そのおおらかな感じがMC漢らしくてすごくいいですね(笑)

プライマル:いや、でも、そこまでは優しく言われてないですけど(笑)。

挑戦的というか、攻めの曲ですね。

プライマル:リスクはあるんですけど、やっぱり攻めないとダメだなというのはありますよね。

リスクも大きいですけど、得るものも大きいと思います。反響はありました?

プライマル:みんな、この曲に関しては訊きたがってますね。だけど、まあ遠慮して訊いてこない人もいるし。

じゃあ、もう少し詳しく訊いてもいいですか(笑)?

プライマル:ははは。まあ、たいしたことではないんですけど......小っちゃいころから自分が男臭い部分に向き合うのを避けてたんですよ。ぜんぜん大事にしてこなかったんですけど、突如、逃げてきたその部分に感情的に囚われて、自分が見知らぬ人っていうんですか、そういうところに行ってしまう感じがあって。

自分のなかの見知らぬ人という意味ですか?

プライマル:そうですね。それって要はビッチじゃないですか。

それは、男に対してビッチだってことですか?

プライマル:そうですね。そういうのを訂正しないと自分がダメになるなぁって思って。

「容疑者」と付けたのはなぜですか?

プライマル:人と俺が繋がってる世界のなかで違反者であるっていう意味ですね。同性愛は否定しないですけど、ただ、性に奔放だから、"性の容疑者"なんです。自分のその部分は完全には否定できないんですけど、避けられない弱さでもあると思うんですよ。その部分をあえて出したかった。この曲に対してのアンサー・ソングもじつは作ったんですよ。"M男の運命"っていう曲があったんです。

"M男の運命"がもし収録されたとしたら、プライマルさんの自分の性に対しての考えが、リスナーに対してもう少し明確にわかりやすく伝わりましたか?

プライマル:わかりやすいってわけじゃないですけど、「こいつは、そういうヤツなんだ」みたいのはもう少し伝わったと思います。まあ、でも、そこまでは言う必要はねぇかなと思いましたし、その曲を入れて自己肯定になってしまうのも逆に良くないと思ったんで、入れませんでしたね。まあ家庭もありますし、自分の子供が曲を聴いて食らって、「はぁ!?」とかなっちゃうのもあれなんで。"M男の運命"を入れなかったから、謎になっちゃったのかもしれないですね。

なるほどー。

プライマル:でも、"性の容疑者"はどうしても入れたかったですね。アルバムは、"血"と"性の容疑者"、"御江戸のエリア"とかが最初に完成して、そこから改善策を探っていくっていう感じで曲を作ってたんですよね。最低のライン、最低のヴァイブスです、っていうところから、ちょっと頑張ってみます、みたいな感じでアルバムを作っていったんですよ。

"性の容疑者"を作ったのは結婚する前ですか?

プライマル:結婚してましたね。

そう考えると、"性の容疑者"から"子供とママと家庭"、 "Proletariat"、それから最後の "岐路"まで一貫した流れがありますね。

プライマル:どうしようもないですけどね、ほんと。奥さん、子供には申し訳ない。

取材:二木信(2013年9月25日)

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Profile

二木 信二木 信/Shin Futatsugi
1981年生まれ。音楽ライター。共編著に『素人の乱』、共著に『ゼロ年代の音楽』(共に河出書房新社)など。2013年、ゼロ年代以降の日本のヒップホップ/ラップをドキュメントした単行本『しくじるなよ、ルーディ』を刊行。漢 a.k.a. GAMI著『ヒップホップ・ドリーム』(河出書房新社/2015年)の企画・構成を担当。

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