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interview with Dorian

interview with Dorian

お茶畑でつかまえて

──ドリアン、インタヴュー

野田 努    Nov 15,2013 UP
E王
Dorian - midori
felicity

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 シャーマンはDMTで神様と交信するが、ドリアンはお茶をすすって野山を見る。彼の通算3枚目のアルバム『ミドリ』は、フライング・ロータスの前作をお茶の間ラウンジとして再現したような作品である。おびただしいカットアップによるポップアート、ダウンテンポのサイケデリック・サウンドなのだが、彼は宇宙を見ることもなければ、精神世界に向かうこともない。では、ただのイージー・リスニングかといえば、全然そうではなく、ほどよく甘美で、少しばかりドラッギーな音響がスムーズに駆け抜けていく。しかも『ミドリ』は、たんなる心地良い音響という感じでもない。エモーショナルだし、ユーモアもある。リズムは温かく、リスナーをさまざまなヴァリエーションで楽しませる。音は優しく、そして、リスナーにとっての心地良い場所を喚起する。個人的にドリーミーな音からはこのところ離れたんですけれど、はっきり言って、『ミドリ』はオススメです。
 本当は、言いたいことがたくさんあって、もう喉元まで出かかっているのだけれど、僕の質問が悪く、うまく言葉を引きだせなかった……以下のインタヴューを読んでいただいて、本人の控え目な言葉の背後に、何か他とは違うものを作ってやろうという、けっこうなアンビシャス、パッションがあったことを察してていただければ幸いである。 

子どものころ行ったことあるけれどもそれ以降行ってないなってところとか、こういうところが近所にあるのは知っているけれども行ったことなかったなとか、そういうところに行ってみたいなという。

じつはドリアンくんと会うのってすごく久しぶりだよね。初めて会ったのって……覚えてます?

ドリアン:リキッドルームの……。

いや、違う違う(笑)。

ドリアン:あ、違います?

あれでしょ、もう4年以上前? 七尾旅人のライヴを観に行ったとき、やけのはらが紹介してくれたんだよ。「彼はドリアンくんっていって、今度いっしょにやる」って。六本木の〈スーパー・デラックス〉の階段のところで。

ドリアン:ああー、そんなに前ですか!?

だから僕がまだ『remix』やってたころですね。

ドリアン:そうですよね。

あのころドリアンくん、まだハタチとかそれくらいじゃない?

ドリアン:そんな前じゃないですよ(笑)! 25、6とかそれぐらいだったと思いますね。

20歳ぐらいかと思っていた。とにかく、今日、お久しぶりに会えるのが楽しみだったんですよ。ていうかドリアンくん、生まれ、静岡のどこなんですか?

ドリアン:島田市です。

あ、島田なんだ。いいところじゃないですか。

ドリアン:何にもないんですけれども。山と川と……以上、みたいな(笑)。

はははは、あとちょっと、若干商店街って感じでしょう?

ドリアン:そうですね。島田市って言うとそうですね。僕はいわゆる島田市とはちょっと離れたところで。平地なんですけど藤枝寄りで。六合駅の近くですね。

僕は静岡市なんですけど、安倍川越えて用宗よりも西側ってよくわかってないんですよ。

ドリアン:そうですよね。

ただ、今回個人的に放っておけなかった理由のひとつは、やはりその静岡を訪れて作ったっていうところですよ。同じ静岡人として、その話をまずはお伺いしたいなと思ったんですけれども。

ドリアン:はい。静岡……これ、ちょっとわかりやすく書いてあるんで語弊がある部分もあるんですけど……。

今回のリリースの資料を書いた小野田雄も静岡ですからね。

ドリアン:作るために訪れたと言うよりは、子どものころ行ったことあるけれどもそれ以降行ってないなってところとか、こういうところが近所にあるのは知っているけれども行ったことなかったなとか、そういうところに行ってみたいなというのも含めつつ──まあ誰と行ったとかは書かなくてもいいんですけども(笑)──ちょっと彼女と旅行に行こうと思って。じゃあ、自分がよくわかるところで、いいところで、っていうことを考えて寸又峡なんかに行ったりしたんですけれども。

寸又峡って金谷からの電車で行くところだっけ?

ドリアン:そうですね。けっこう川根のほうで。

川根のほうだよね。いいところですよね。秘境な感じ。あの二両しかない電車も好きだな。

ドリアン:そうですね、かなり山奥で。その頃ちょっと作りはじめていて、断片なんかはチラホラ出はじめていた頃で、それが。そのときは、ただただ作るっていう感じだったんで。落としどころとか、そういうところがあまり明確ではなかったんですけれども。その旅行が1泊2日だったんで、いろんなところをレンタカーで周ったりしてるなかで、ちょっとピンと来たというか。

インスピレーションが沸いてきた?

ドリアン:はい。僕だと静岡の風景は具体的に浮かぶんですけど、聴いたひとにとっても、ある、そういう場所が浮かぶように、そういうものに沿って曲を置いていくというか。そういうものがしっくり来るんじゃないかな、とそのときピンと来たというか。

自分の故郷だけれども、遠かった場所みたいな。

ドリアン:それはあると思いますね。離れることで故郷がかなり美化された部分ってあると思うんですけど、自分で。

でも具体的に実際に行ったわけですからね。

ドリアン:はい。

静岡って中途半端に東京と離れていて、中途半端に近くて、とにかくいろんなものが中途半端じゃないですか。

ドリアン:そうですね、中途半端ですね(笑)。

都会じゃないし、ド田舎でもないから、あんま故郷って感じもなくて、東京出てきちゃうひとは、静岡に戻らないひとが多いでしょ? 「ま、いっか。いつでも帰れるし」と思いながらズルズル帰らないから。僕なんかもそうで、高校3年生まで静岡になんてべつに何の思い入れもなかったんだけど、久々に帰ってみると「あれ、こんなにいいところだっけかな」っていうぐらいの(笑)。

ドリアン:そうなんですよね。まさにそうなんですけれども、僕も。

そういう感覚ってきっと誰にでもあるんでしょうね。10代って人生で一番生意気な時代だから、自分の故郷なんかたやすく愛すことなんかできないじゃない(笑)。

ドリアン:そうですね。

若さゆえに心も広くないし。でもさ、島田って、こんなにお茶畑だらけだっけ?

ドリアン:島田はけっこうそうですね。県内でも一番生産量が多い、イコール全国で一番多い、となると思うんですけど。

そうか、牧ノ原台地か。とにかく、お茶畑の風景がドリアンくんの原風景じゃないけど、なんか見直してみたらこんなに良かったんだ、みたいな。

ドリアン:そうです、そうです。

あそこから富士山って見える?

ドリアン:見えます。これはちょっとデフォルメされすぎですけど、この半分ぐらいには見えますね。

富士山、でかいからね、当たり前だけど(笑)。で、さっき言ってたみたいに、ドライヴしながらインスピレーションを受けて、これをひとつテーマにしようと思ったんだろうけど、今回の音楽をそこからどういう風に具現化していった、曲として落とし込んでいったんでしょう? 小野田雄はドリアンが「自宅で好んで聴いていたというマーティン・デニーとかレス・バクスター云々」とかってことを書いてますけど、それはあったの?

ドリアン:ええ。そうですね……。

小野田雄、テキトーなことを書いてるわけではない(笑)?

ドリアン:いや、すごくわかりやすく言うと、そういうことだと思うんですよね。

はははは。じゃあ、いいんだ。ただ、今回のアルバムは、いろいろ言えちゃうよね。ラウンジ・ミュージックとかね。ダウンテンポとか、カットアップとか。でも、たしかに小野田雄が言う通り、景色が浮かぶ音楽ですよね。

ドリアン:ああ、そう言ってもらえると。

1曲目に使ってるのは(映画の)『男と女』のフレーズ? 「ダバダバダ~」ってやつ。(註:フランシス・レイ作曲)

ドリアン:ああー、そういうことですよね。でも、全然それではないですけど。

ただ似てるっていうだけか。

ドリアン:そう言われてみれば似てますね。でもそれとは全然関係ない、100円ぐらいで売ってるようないわゆる「ムード大全集」みたいな、そういうタイプのレコードには同じような曲しか入ってないっていう。そういうなかにあった音色というか、それを使ったというか。曲のなかでこのフレーズが良かったからこれ使おう、って感じではやってないんで。いったん全体像みたいなものとか構成とかを頭のなかでまずイメージして作って、紙か何かに書いて、で、曲のキーやテンポやコード進行なんかも決めて、こういう音色でこういうコードがいいってことを決めてからサンプル回すってことをやってたんで。

なるほど、では制作する上で今回すごくキーになったことって何かある? ひとつはサンプリングのやり方みたいなもの?

ドリアン:やり方もそうですし、サンプリングそのものですね。僕いままで、サンプリングを主体にした作り方っていうのをほとんどしてこなかったので。ファーストとか、それより前もそういうことはしてこなかった、っていうのはあったので。

ドリアンくんのイメージってディスコとか、ダンス・ミュージックって強かったから。今回はガラリと方向性を変えましたよね。言うなれば、ドリアンくん流のイージー・リスニングだよね。小野田雄は「エキゾチカ」とか「チルアウト」とか、いろいろと書いてますけどね。イージー・リスニングみたいなものは自分のリスニング経験としてはあったの? 

ドリアン:ほんとここ1年、2年の話ですね。

たとえばボサノヴァのギターも入ってたりするじゃない。ああいったブラジル音楽的なものとかさ。

ドリアン:ボサノヴァに関しては、10年ぐらい前に少し興味を持ったことがあって。そんな詳しい話ではないんですけど、少しなぞった程度に名盤みたいなものを買っていろいろ聴いてた時期があって。「いつかこういうのがやれたらいいな」ってことは頭の片隅にはあったんですね。だから音楽の、なんていうか楽典的な部分というか、そういったものはかなり高度な音楽だとは思うんですよね。そういうものもその当時は追いついてなかったっていうのもあって、やろうにもできない部分もあったりとか。今回こういうものを作るにあたっていろいろとピンと来たものがあったので。そのなかで思い出して、「あ、いまだったら、あれができるかもしれない」みたいなことも思って。

ちょっとネオアコっぽいところも好きだな。

ドリアン:あ、ほんとですか。

意識した?

ドリアン:ああー、ネオアコとかそういったものに関しては、僕はかなり通ってないですね。たしかに、そういったことを言われるんですけど、いままでも。たとえば一番近くのやけさんなんかにも、「そういう感じあるよ」っていうことを言われて。だけど本人はとくに通っていないという。

取材:野田努(2013年11月15日)

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