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interview with Dorian

interview with Dorian

お茶畑でつかまえて

──ドリアン、インタヴュー

野田 努    Nov 15,2013 UP

ダンス・ミュージックだろうがJ-POPだろうが、けっこう共通して同じような質感になってきてるなって。それでいいのかな、みたいなことは思ってましたけど。いいならいいんですけど、僕は「それはちょっとな」って思ったりとか。

E王
Dorian - midori
felicity

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ドリアンくんは最初からダンス・ミュージック?

ドリアン:本っ当に一番最初を言うと、小室哲哉とかTMネットワークとか……。中学生で、小室哲哉ぐらいしか指標がなかったんですけど、そのころ。知識もないし田舎ですし、やっていることを聞いているとtrfをやってたりして。そういうののリミックス盤が出てたりして。要はレイヴみたいなものをそこから知っていった、みたいなことがあったりして。基本的にはそこからジュリアナのコンピとかを借りたりして……。

それはすごい(笑)。

ドリアン:で、そのなかでカッコいいものを吸収して、「ああー、これか」みたいな。ハウスみたいなものとか、ジャングルであったりとか。そういう風になっていったんですけど。

なるほど。直球でダンス・ミュージックだったんだね、ほんとに。では、こういったエキゾチック・ミュージックっていうかさ、イージー・リスニング的なものっていうのは、ほんとにごく最近のドリアンくんのモードなんだ?

ドリアン:そうですね。でも、そのきっかけみたいなものをほんとに掘り下げていくと、中学校のときに隣の席の女の子が好きだったんですけど。僕そのころ打ち込みをはじめてて、たぶん優越感を感じてたんだと思うんですけど、ほかのひとがやってないから。

はいはいはい。

ドリアン:で、僕は音楽を詳しいはずだと思い込んでて。その子に「どういう音楽聴くの?」ってそういう話をしたら、「私テイ・トウワ好きなんだよね」ということを言われて。「ヤバい、何にも知らないぞ」みたいなことを思って。

シャレてるねー。

ドリアン:「新しいの全然聴いてないから、貸してもらえる?」みたいなことを言われて、知ってる体で。「これは……」みたいなことを思って。もしかしたら、そこが最初かもしれないですね。もし、これと共通するものがあるとしたら。

なるほど、なるほど。たしかにテイさんの音楽にはそういう要素もあるもんね。それはテイ・トウワのどのアルバムだったの?

ドリアン:借りたのは、『Sound Museum』だったんですけれど、帯の裏にはファーストも出てるよ、みたいなこともあったと思うんですけど。「そうか、これを知らないとほんとに知らないことになるからマズいな」と借りに行ったりしたんですけど。『Future Listening!』とか。

へえー。やっぱりそれは、打ち込みをはじめたばかりの少年の耳でテイさんなんかを聴くとショッキングなものなの?

ドリアン:そうですね。

どの辺りが? やっぱりサンプリング?

ドリアン:サンプリングもそうですし……サンプリングはサンプリングでも、あのジリッとした質感とか、ビットの低いものであったりとか。サンプリングっていうとヒップホップの要素があると思うんですけど、ヒップホップのイメージしかなかったので、たとえばファンクだとかソウルだとかジャズだとか、そういうものをサンプリングするものなんだっていう固定観念はあったので。「あ、べつに何でもいいんだ」ってことを思ったりはありましたね。

ああー、なるほど。

ドリアン:あと楽典的な知識もかなり少なかったので。ドミソとかそういうものぐらいしかわからなかったんですけど、4つとか5つの和音が普通に入ってて、「この響きは何だ」とかそういうものはありましたけれども。

とにかく、ずっとダンス・ミュージックで来て、ここ1年ぐらいでこういったイージー・リスニングというかね、今回のアルバムみたいなモードのきっかけはあったんですか?

ドリアン:まずは、いままでみたいな感じのものに対する疑問は、2枚目(『studio vacation』)ができた辺りからちょっと感じてたんですよね。もうちょっと違うラインを模索したいなっていう気持ちはけっこう大きくなっていて。そのおかげでいろいろとお話をもらったりとかはあって、それはありがたいことなんですけど。

まあ仕事として。

ドリアン:そうですね。だからそういうものも作っていたんですけど。

それは何? ダンスに疲れたっていう感覚なの?

ドリアン:ダンスに疲れた……? もちろんクラブに行って、遊んで踊ってっていうのは変わらず好きなことではありますし、これからも自分のなかでは続いていくことだとは思うんですけれども。やっぱり家でそういうものに向き合うのは正直ちょっとしんどくなってきた。

(笑)あ、でも逆に年取ると、家でしかそういうものと向き合いたくなくなってくるよ。俺ぐらいにまでなってくると(笑)。

ドリアン:(笑)行きたくなくなってくるってことですか?

気持ちにカラダが付いていかないんだとね。夜の2時まで起きてられるのがやっとというか。悲しいことに……いや、悲しくはないんだけど、全然。

ドリアン:あとは、やけさんのライヴは僕もいなければできないみたいな形になってるんで、やけさんのライヴでいろんなところへ行っていろんな方面でやるようになったりすると、それで忙しくなったりもして。やっぱ、クラブの比率っていうのがけっこう少なくなっていたっていうのもあって。バンドでやったりとか、まあバンドに限らずダンス・ミュージック以外のいろんなところでやることも増えて。やっぱり、自然と聴き方とか受け取り方とかもどんどん変わっていったと思いますね。

なるほど、幅が広がったということですね。作り手としてそこは意識しました?

ドリアン:それももちろんしましたね、はい。

アゲる音じゃなくて、落ち着かせる音じゃないですか、今回は。

ドリアン:そうですね。

で、そういう平穏さっていうのはドリアンくん自身のなかでも求めてたようなところはあるのかな?

ドリアン:そうですね、はい。基本的にもう……疲れてるから。

ははははは!

ドリアン:そういうところはありましたね。

自分自身がそういうものを求めているからっていう。

ドリアン:そうですね。あと、これがすごく独特で、個性的で、他にはないものっていう風には思わないですけど。こういうタイプの音楽っていうのは、世のなかには他にも全然あると思うんですけど。それにしたって全部同じような曲ばっかりだよな、みたいなことは思っていて。世のなかが。そういうことも思ってましたね。曲のタイプっていうことに限らず、なんかもう質感そのものが全部同じに聞こえるなっていうのは思ったんですよね。

なるほどね。

ドリアン:ダンス・ミュージックだろうがJ-POPだろうが、けっこう共通して同じような質感になってきてるなって。それでいいのかな、みたいなことは思ってましたけど。いいならいいんですけど、僕は「それはちょっとな」って思ったりとか。

僕は静岡という中途半端な街とはいえ、飲み屋とかパチンコ屋とか映画館が並んでいる歓楽街で育ったので。街って全然嫌いじゃないんですけども。でも渋谷とか、東京の街が最近すごくうるさくなったじゃないですか。宣伝カーとか、電子広告とかね。ほんとにやかましいな、っていうのがあって。若いひとたちが最近、自分たちの感覚でこういう「反やかましくない音楽」をやりはじめてるのが僕は興味深いなとずっと思ってたんですよね。

ドリアン:渋谷歩いていて入ってくる音に関しても、全部お金が絡んでいるように思えて。

まあ実際そうだしね(笑)。

ドリアン:すごいなあ、って。

街宣車と同じぐらいうるさいよね、音楽がんがん鳴らしてる宣伝のトラック。

ドリアン:ほんとにそうなんですよね。もう、すでに音楽でもないっていうか。そう思っちゃいますよね。こんなエラそうなこと言っていいかわかんないですけど。

ガンガン言いましょうよ。

ドリアン:(笑)

『midori』っていうこのタイトルは、たぶんだけど茶畑の緑から来てるの?

ドリアン:いやこれは、個人的には意味があるようなないような、なんですけど。ほんとはもっと他のタイトルも考えてたんですけど。いままでのように、「なんとか・なんとか」みたいな。ちょっと説明的な。そういう感じで考えてたんですけど、かなり迷路に入ってしまって。それでどうしようかって考えると、曲を作っていたときに頭にぼんやり浮かんでいたイメージが大体緑色のものだったんですよ。なんか音楽やってるひとっぽい言い方でヤですけど。

ははははは!

ドリアン:(笑)共通してそういうイメージがあったんで、じゃあこれは「緑」だろう、と。そんなにイチイチ説明する、これは具体的に○○ですとか、いうようなものじゃなくてもいいと思って。なんかもう、ありとあらゆるものが、「これは●●です」、「これは△△です」ってわからないとダメみたいな。

わからないって良いよね。徹底してわからないってことは重要だよね。

ドリアン:「だからもうちょっと、自分で考えろ」みたいなことは思うんですよね。

小野田雄が書いてるように、現代のマーティン・デニーって言い方もあるのかもね。でもさ、イージー・リスニングは当時はバチェラー・パッド・ミュージック──「独身者の音楽」って言って、50年代から60年代にかけて、小金があってまだ結婚していない独身の男が家に帰って酒を飲みながらリラックスして楽しむみたいなものだったから、セクシーな女がジャケットに載ってたりするでしょ。でも、この『midori』は、そういう独身者の音楽でもなければニューエイジでもなければ美化された日本でもなく、新幹線から見えるすごく平凡な日本の「緑」って感じがして、それがいいなって。

ドリアン:ツツジなんかも植え込みとかに普通に生えてますもんね。

そういうことも考えてやられたのかなって。

ドリアン:いま言われると思いますけど、そこまで考えてなかったかもしれない。なんかでも、ジャケットのイメージとしては実際にとある場所があるんですけど。そこをモチーフに手を加えてって感じになりましたね。

これは大井川鉄道でしょ?

ドリアン:これ大井川鉄道ですね。ほんとならこの辺に走ってるはずなんですけど。

ははははは。

ドリアン:そういう位置関係ですけど。

とにかく、マーティン・デニー風なセクシーな女性があってもおかしくはない音なわけじゃない。商品としてはそれでも成り立つと思うし。でも、『midori』の新しさって、この絵が象徴してるかなって。

ドリアン:たしかにそれぞれの曲の風景のなかで、ひとが出てくることはないですよね。詞があるわけじゃないから一概にそういうことは言えないし、そういうことを言ってしまうことで聴くひとに固定観念を与えてしまうのもちょっと怖いんですけれども、個人的には主人公から見た景色でしかないので。ひとが登場することはない。

このサイケ感ってけして60年代的なサイケ感ではないし、ああいうイージー・リスニング的なスタイリッシュなものも拒否してるし、もうちょっとリアルな感じが……リアルと言ったらサイケな感じとまったく矛盾してるけど(笑)。

ドリアン:わかりますけどね(笑)

日常と地続きなサイケ感がよく出てると思ったんですよね。そこが僕は好きです。

ドリアン:ありがとうございます。

そこは狙ったんでしょ?

ドリアン:はい、そうですね。サイケ感……それはまあ、結果的にそういう風に見えるっていうところがあるんですけれども。何て言ったらいいんですかねえ……狙ったような……。

じゃあ意図せずに、気がついてみたらこうなってたって感じなんだ?

ドリアン:イメージとしてはこういうジャケットがいい、っていうのが漠然とあった。以上。みたいなところがあるんですけれども。

直感的だったんだ。

ドリアン:はい、そうですね。女のひと的なことを言ったらこっちのなかに入ってますけど。

何が?

ドリアン:いや女のひとが。

(笑)あ、アー写にね。このアー写いいよね。

ドリアン:そうですね。静岡だし、お茶だし、ということですね。構図とか設定だとかは、写真を撮ってくれている寺沢美遊ちゃんが考えてくれて。

へえー、なるほどね。なんか、お茶割を飲みたくなりますよね(笑)

ドリアン:あ、ほんとですか(笑)。それは飲んでください。

取材:野田努(2013年11月15日)

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