Home > Interviews > interview with Kindan no Tasuketsu - 怪奇骨董“偽物”音楽箱
■音楽雑誌の記憶
■なぜか3.11以降……
■偽物談、地名談。
■ガブリエル世代のポップの裏表
■禁断の組織論!
■日本脱出
なぜか3.11以降……
ちょうど3.11から年末まで止まってたんです。その間はほぼ聴いてない。そのときまでの知識で作ったのが前のアルバム(『はじめにアイがあった』)です。
それまではさまざまな音楽雑誌やラジオ、レコード・ショップまでもう何もかも、ひととおり網羅していた自信はあったんですよ。音源をハードディスクに入れられるという喜びも覚えて、大量に入れていたんですね。それが、3.11以降やらなくなっちゃって……。
■それは、不思議なきっかけですね。
ほうのき:はい。あの出来事があってファースト・アルバム(『はじめにアイがあった』)ができたんです。(東京から)富山に帰ったし。だからあのアルバムにはそのときまでに得たものが反映されているんです。
■へえー。3.11以降、なぜか情報を細かく追うことをやめちゃったんですね?
ほうのき:そうなんです。僕、Tumblrが好きなんですね。あの頃Tumblrをばーって見てたら、なんだっけ、あのコンサルみたいな人……
篠崎:大前研一じゃない?
■ええっ?
ほうのき:そうそう、大前研一が「人間、変わろうと思ってもそんなスグに変われるもんじゃない」みたいな感じのことを言ってたんですよ。人間が変わるには3つくらいしか方法がなくて、早起きすることと、付き合っている人間を変えることと、引っ越すことだ、みたいな(※)。僕もう、そうだな、ほんとだなと思って(笑)。
※「人間が変わる方法は3つしかない。ひとつ目は時間配分を変えること。ふたつ目は住む場所を変えること。3つ目は付き合う人を変えること。どれかひとつだけ選ぶとしたら、時間配分を変えることが最も効果的なのだ」(『時間とムダの科学』プレジデント社)
■ははは! 啓発されちゃったんですか。
ほうのき:ははは! 僕、それまですごく中途半端に音楽やってたんですよ。3.11まではほんとに。だけどその後、本気でやろう! って思ったんです。それが3.11と結びつく理由がどっかにあったんですけど……なんか、思い出せないですね。
■なるほど、でも3.11がきっかけで富山に戻られたということなんですね。
ほうのき:そうですね、3.11がきっかけで戻ったのと、あとは大前研一……。
(一同笑)
■(笑)あ、なるほど、そのとき何かを変えたいって思ったんですね。それで、住むところを変えるっていう大前研一の言葉にも触発されて。
ほうのき:そうそう、ちょうどTumblrでその言葉が流れてきて。でも、変わりたいというのは前から思ってたんですよ。たまたまそのときにその話を知って、3つとも当てはまって、これ自分だ!ってなったっていうだけで。
■ははあ。たしかに3.11っていうのは、陰に陽に、人々に変化のきっかけを与えるものとして働いた部分があるみたいですね。一見関係ないけど離婚した、とか。
ほうのき:ねえ?
■はい。被害が出た出ないということと別のところで、人と人との関係とかムードを変えるタイミングだったりもしたわけですけれども……。それがほうのきさんの上に、音楽にまつわる変化として現れてきてもおかしくないですよね。
ほうのき:それで、その年の年末ですかね。僕、ele-kingさんのとかPitchforkだったりとか、いろんなところで年間ベストで挙げられている音源をほぼすべて落とした(ダウンロードした)んですよ。真面目な話、橋元さんとはかなり気が合うんです。
■わー、そうなんですね。
ほうのき:はい。で、2011年の末にベスト音源を全部落としたあと、少しずつまた聴くようになったんですね。日々掘って、日々聴いて、っていうことはなくなりましたけど、まとめて聴くようにはなって。そしてそのときに、ドリーム・ポップとかチルウェイヴみたいなものがばーっと入ってきたんです。一気に。年間ベストのをまとめて聴くわけだから。それで、うわ、これおもしろい、と思って。
■たしかに、2011年の末はドリーム・ポップ的なトピックが連続してました。 ※前号の特集が「シンセ・ポップふたたび」、前前号の特集が「現実逃避」
ほうのき:ちょうど3.11から年末まで止まってたんです。その間はほぼ聴いてない。そのときまでの知識で作ったのが前のアルバム(『はじめにアイがあった』)です。ララージとか、アンビエント系のものから、カフェ・デル・マーのコンピとかも好きで、そういうの全部入れようって思って作ったんですけど。で、それを作り終えた頃に年末号があって、おもしろかった。だから、1枚めはチルウェイヴとか意識しないで作ってたんですけど、出した後にみんなにけっこう「チルウェイヴ」って言われて、なんかそれがうれしくて。
■へえ!
ほうのき:まとめて聴くのはいまも続いていて、正直Hi-Hi-Whoopeeさんとかの教えてくれるおもしろい音とかも全部保存してあるんですけど、全部聴けてない(笑)。フォルダにたまる一方で、いつか聴くつもりなんですけど、そのままなんです。たとえば、tofubeatsがいいって言っていて、Hi-Hi-Whoopeeもいいって言っていたらその場で聴きますけど……。
■わかりますよ。たまる問題の病理はリアルなトピックですよね。しかし、3.11のお話はおもしろいです。どちらかというと政治性とも結びつきやすい話題ですし、下手をするとすごく型にはまった窮屈な議論にもなってしまうので、アーティストさんとかに振りにくい話題なんですけど、ほうのきさんのその、謎の影響と謎の空白時間は興味深いです。チルウェイヴがその空白の後に入り込んできたのは偶然ではないですよ。現実逃避ってことにポジティヴなマナーを与えた流れでしたから。後っていうか、本当は同機してたわけですしね。
ほうのき:ああ……、なるほど!
■まあ、でもこういういわゆるバズワード的なものは、たまたまでっちあげられたものでもあるわけで、それが偶然3.11後のタイミングで音として興味深く自分のなかに入ってきただけなのかもしれないですけどね。
ほうのき:3.11に関して言えば、あれだけ大きなことだし、僕もそんなに好んで発言したいわけじゃなくて、自然と変化が起きたってことなんです。だからおっしゃるとおり、偶然なんです。
偽物談、地名談。
ブライアン・イーノは僕のなかでフェイク感なんです。ロバート・フリップは本物感。
■前作の話ばっかりで恐縮ですけど、わたし“透明感”って言葉にビビッときたんですよね。「透明」じゃなくて「透明感」っていうところが、すっごく生きてきた時代を象徴的に切りとってるなって思いまして。偽物なんですよ、透明の。透明「感」だから。
ほうのき:ああ、そうですね(笑)。たしかに。
■その偽物っていうところを素直に肯定する感性……。偽物ってことにちょっと屈折したカッコよさを感じていたりする感じじゃなくて、です。その偽物ばっかりになっている場所とか世の中を、とくに斜めから見ることなく、生まれたときからそうあるものとして肯定していく、楽しんでいくというか。そういう感覚がひとつ禁断のキャラクターというか特徴なんじゃないかなと思いました。 「偽物」とかってどうです? そういう感覚あります?
ほうのき:ありますね。ラウンジ・リザーズ。僕、ジョン・ルーリーがフェイク・ジャズって自分たちのことを言うのがすごく好きなんですよ。あと、サム・ライミ。『死霊のはらわた』とかも好きなんですけど、彼らの作った言葉に「フェイク・シェンプ」っていうのがあるんですよ。役名のない役のことをフェイク・シェンプと呼んだそうです。フェイクというのはなにか、好きなのかもしれません。よくわかりますね! 今度飲みにいきましょう。
■わー!
ほうのき:フェイクと本物で必ず思い出すのがキング・クリムゾンがなんです。キング・クリムゾンになれない感。
■キング・クリムゾンになれない! ……音楽的に? 存在として?
ほうのき:ギタリストに、「この曲、ロバート・フリップみたいに弾いて」っていつも言うんですけど、絶対にそうならないんで。でも、ならないなりに、ブライアン・イーノは褒めてくれるかなって。ブライアン・イーノは僕のなかでフェイク感なんです。ロバート・フリップは本物感。
(一同笑)
■いや、何か伝わりましたよ。いまフェイクじゃなくてすごいなって思える人とかいますか?
ほうのき:あ、そうですね、うーん……
■その、フェイクっていうのが、ほうのきさんのなかの倫理みたいなものなのか、あるいは趣味なのか。それともとくに意識してない部分なんですかね?
ほうのき:フェイクじゃないもの……。スカーレット・ヨハンソンが出ている新作で、こっちにはまだ来てないですけど、『アンダー・ザ・スキン』っていう映画。そのトレーラーがすごくて。ペンデレツキみたいな不協和音とか、新幹線がトンネル入った瞬間の「スヴォー!」っていう感じの音だけで構成されたトレーラーなんですよ。そういうのに鳥肌が立ちます。でもこれもフェイクかな……。あと、ちょっと関係ないかもしれないですけど、アニマル・コレクティヴは僕、本当に衝撃を受けて。
■ああ、きた……
ほうのき:だいぶ衝撃でした。あの人たちはフェイクじゃないと思います。
■フェイクやれないから、いまポルトガルとか行っちゃったのかもしれないですね。
ほうのき:ああ、パンダさんですか?
■あ、エイヴィー・テアのほうが好きでした?
ほうのき:僕、エイヴィー・テアが好きですね。両方好きですけど。
■わたしもひとつの原点ですよ。それこそチルウェイヴ的なものの始原でもあると思いますし。けっこう直接的な意味で。
ほうのき:あ、僕もそう思います。
■はい。それに、ロック寄りのシーンだと、彼らが出てくるまではそれこそロックンロール・リヴァイヴァルとかポストパンク・リヴァイヴァルとか、「リヴァイヴァル」っていう批評的な音ばっかりが溢れていたじゃないですか。そこへかなり素直に、サイケデリックっていうものをいまやるとこうなる、っていう超おっきな例をドーンと出してきたのがアニコレだと思うんですよ。
ほうのき:ああー。
■そしてシーンはどんどんとドリーミーに、サイケデリックに。それまでストーンドなノイズを出してた人たちもニューエイジっぽくなっていったりして。みんなアンビエントになって。
ほうのき:メディテーションな感じになって。
■そうですよ。ジャンル関係なく眠りのムードに突入して。
ほうのき:僕、2010年くらいに京都のメディテーションズってお店が大好きだったんですけど、まさかいま大人気なお店になるなんて思ってもみませんでした。
■ははは! 駆け込み寺的な。何でも早いですよね。……ええと、フェイクの話に戻りますけど、これ、何なんですかね。これ、このアー写の。それこそアニコレ的というか、ちょっとあの頃のブルックリンの偽物みたいな感じじゃないですか!
篠崎:(ぼそっと)フェイクですね。
ほうのき:ははは! これちょっと、見てください。影もおかしいんですよ。
■ああ、気づきませんでした! だから(笑)、いまこれをやるとしたら超遅れてきたブルックリン主義者か、なんかわざと偽物をやっている人たちじゃないと理解できないというか。
(一同笑)
ほうのき:説明になっているかどうかわからないんですけど、『アラビアのロレンス』をやりたかったんですよ、まず。
■ああー! そうか。
ほうのき:それで、まず砂漠を探そうと思って。そしたら千葉にあるっていうから、千葉なんですよ、これ。どこだっけ……
尾苗:館山。
ほうのき:ああ、そうだそうだ。ミケランジェロ・アントニオーニの『砂丘』って映画で、砂丘で何組ものカップルがスワッピングをしてるんですけど、それをやりたかったっていう。このコラージュは、写真を撮ってくれた江森(丈晃)さんがやってくれたんですけど。
■ああ、そうなんですね。いろんな偶然も重なりつつ、でも基本は『アラビアのロレンス』だったと。ほんとにアラビアとは思いませんけどね。
ほうのき:そうですよね(笑)。
■いえ、否定じゃなくてですね。今回、曲にいろんな世界の地名が出てくるじゃないですか。でも、どれもちょっとふざけた感じというか、生のその土地じゃなくて、やっぱりちょっとフェイクというか。電脳空間にしかないような、情報の断片みたいな感じで国とか土地名が使われてませんか?
ほうのき:あ、合ってます、合ってます。
■ちょっと怪しげですよね。“勝手にマハラジャ”とかだって、シタールとか入れてもっとベタにインドっぽくしたってよかったわけじゃないですか。だけど、エレクトロ・マハラジャって感じの、言っといてそれほどインドでもないというアレンジで。そういうあたりのコンセプトについて訊きたくて。地名に何か狙いはあるんですか?
ほうのき:ああ、それはバックパッカー感を出したかったんです。バックパッカーに憧れていて。いや、憧れるってほどでもないんですけど。
■ぜんぜん駄目じゃないですか。丘サーファーならぬ……
篠崎:丘パッカー。
■丘パッカー(笑)。基本丘ですけどね。なんていうか、脳内パッカー?
ほうのき:ああ、そうだ。じぇじぇ。
■出た(笑)。
ほうのき:まあ、詞も僕が書いてるんで、このときはバックパッカー感を出したかったんですね。
篠崎:“ワールズエンド”とかも出てきますよ。
■ああ、そうか! 国の名前を列挙してますよね。
『世界の車窓から』。僕はテレビ局に電話かけてました。曲名を見落としちゃって。あれ、ちゃんと教えてくれたんですよ。
ほうのき:兼高かおるさんの世界旅行のとか好きで。ああいうのをやりたいというのもありました。バンドっていう括りであんまり考えていなくって、とにかくおもしろいことがしたかっただけで。その手段としての音楽なんですよ。で、ラッキーなことに富山出身者が4人集まっていて。
■そこ、すごいとこですよね!
ほうのき:そうなんですよ……この話、関係ないか。
(一同笑)
ほうのき:バックパッカー感を出したいというのは、音の部分だけじゃないんですよ。基本的には、やっていること全部のなかにあって、それが音にも出たという感じです。
■なるほど。でも、それなら『世界の車窓から』みたいな、イイ感じの音楽、もっとその土地のそれらしい雰囲気を出していくという選択肢もあったわけじゃないですか。
ほうのき:ああ、『世界の車窓から』も好きです! ハードディスクにためていた音源のなかには、あの番組で紹介されていた曲もたくさん入ってます。あれはけっこうマイナーな音楽が流れるんですよ。探せないのもけっこうありましたね。
■あ、そうなんですね。篠崎さんも?
篠崎:メモったりする程度ですけどね。
ほうのき:僕はテレビ局に電話かけてました。見落としちゃって。ちゃんと教えてくれたんですよ。いまはネットで紹介されてますけど、昔は何時何分に流れたやつ何ですか? って電話で訊いたら、教えてくれたんです。
■あはは、すごいですね! いや、でも、そういうもっともらしさとか本格へ向かわないじゃないですか、禁断の多数決は。そこがいいなと思って。いろんな知識があって、音の趣味も幅広いのに、モノホンなセッションをやりたい、本格的に民俗音楽をやりたい、みたいにはならないでしょう?
篠崎:まったくないんじゃない? そんな話、出たことがない。
取材:橋元優歩(2013年11月26日)