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interview with Takuma Watanabe

interview with Takuma Watanabe

音楽の新しいチューニング

──渡邊琢磨、インタヴュー

松村正人    Jan 28,2014 UP

ハリウッドの映画音楽は好きですよ。もうちょっとつっこんでいえば、アメリカの音楽家がヨーロッパの影響を受けた音楽ですね。


渡邊琢磨 (COMBOPIANO)
Ansiktet

インパートメント

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オーケストラにはいろいろ楽器がありますが、琢磨くんは楽器の音色をおもに聴くタイプなんでしょうか。

渡邊:音色っていうのもありますけど、オーケストラの音色でいうと、僕は割とオーソドックスなものが好みですね。オーソドックスというのも語弊がありますが。楽器法的に独特なマーラーとか、水と油のようなものを合成したオーケストラ曲にも興味はあるんですけど、今回は楽器の組み合わせにしても音色にしてもオーソドックスな管弦楽に聞こえるものをあえて選んだつもりです。ドラムが入ったり、厳密に考えると普通とはいえませんが。

オーソドックスな手法にしようとシバリを設けた?

渡邊:元来そういうのが好きだということですね。原理主義的なことではありません。オーケストラは聴いていてもおもしろいですけど、オーケストラを書くという動機づけにおいて、ベートーヴェンを聴くとかブルックナーを聴くとか、そういったことではなく、それこそビヨンセを聴いてオーケストラを書きたくなる、どちらかといえばそういうモチヴェーションのほうが強いんです。古典的じゃなきゃいけない、楽典に則った響きでなければならないということでもないんです。

しかし古典を否定するわけでもない。

渡邊:そうですね。今作なんかは、ハリウッドの映画音楽史の中で発展してきたシンフォニックな響きに特化してつくったりもしてます。

この作品にかぎってみるとアメリカの音楽だと思ったんですね。

渡邊:ヨーロッパではないと思いますね。

さっきおっしゃったように琢磨くんが聴くのは、クラシックにかぎってもわけへだてないと思うんだけど、今回はそういった意図が明確にあったんですか?

渡邊:ハリウッドの映画音楽は好きですよ。もうちょっとつっこんでいえば、アメリカの音楽家がヨーロッパの影響を受けた音楽ですね。

そういうこんがらがったところは昔からそうですもんね。

渡邊:(笑)以前、ジム(・オルーク)が何かのインタヴューで、アメリカ音楽の巨匠たち、例えばチャールズ・アイヴスなどが信奉しているアメリカ音楽というのも実のところ彼らが直接的に吸収したものではないんだと、彼らがいうアメリカ的なものはもう存在しないんだ、というようなことをいってましたが、アメリカ産の音楽にはそういうことが多々あると思います。ヴァン・ダイク・パークスなんかもそうですね。そこらへんかなり入れ子型になっていると思いますし、ジョン・ウィリアムスや『ダークナイト』の音楽を手掛けたハンス・ジマーなどの映画音楽の巨匠たちが、イギリスの作曲家ホルストから影響受けてたり、あからさまにパクッたりしますが、それが映画といっしょになるとハリウッドという非常に帝国主義的な――

産業もふくめて――

渡邊:金かかっていそうなものになる。僕はそれをひとりでつくりたいのかなと(笑)。

巨大なスタジオにフルオケを入れるような音楽をひとりでつくっている?

渡邊:けれども、映画音楽はまだしも、制作プロセスに関しては納得いかないことが多々ありますね。ハンス・ジマーが『スーパーマン』のアップデイト・ヴァージョン『マン・オブ・スティール』の音楽をやっていて、そのサウンドトラックでジム・ケルトナーをはじめ名だたるドラマーを10数名スタジオに集めたんですよ。それを聞いて、なんだそれ、キップ・ハンラハンのディープ・ルンバみたいじゃん、と思ったら、なんのことはないティンパニの代わりみたいなものでした。

昔、武満徹さんがインタヴューで、黒澤明がいつもティンパニをバンバン鳴らしてくれとリクエストするもんで、ケンカになったといっていましたね。

渡邊:アタック音がほしいんですかね(笑)。

ハリウッドには琢磨くんが〈アメリカン・クラーヴェ〉の連中とやってきたようなリズムのコンテクストはなさそうですからね。

渡邊:それはそうでしょうね(笑)。

そういう意味で、『Ansiktet』でオーケストラをやるのだとリズム的に欲求不満になったりしませんでしたか?

渡邊:いや、それはまるでなかったですよ。じっさいに演奏してもらったのはほとんど学生さんだったんですけど、ほとんど彼らのニュアンスをイキにしていないんです。

PC上で微調整したということですか?

渡邊:微調整どころか全部バツバツに切っています。たぶん縦(譜面上の縦の位置関係=リズム)がそろっていないところはほとんどないですね。すべての音符を自分の趣向に沿って精確な位置に落としているので、その点、自分の好きなグルーヴ、リズムになっているとは思います。それがふつうのオーケストラだとそういうふうにはならないという要因のひとつです。そのそうならない感じもオーケストラのおもしろさのうちだとは思うのですが、この仮想オーケストラの場合リズムに関しては異常に精確に縦割りになっていると思います。

そうなると事後的な作業には時間がかかりそうですね。

渡邊:そっちの方が作業時間としては長かった。でもそこがおもしろかったですね。素材集めでは演奏者と、「なにをやらされているんですか?」と険悪なムードになることもあったんですが。「なにとかじゃなくて、とりあえずやって」って。

録音はどこで行ったんですか?

渡邊:録れる機会があればどこへでもラップトップとハンディのレコーダーをもっていって録りました。サステインのためにいち音だけ録ったり、機会があれば集音していました。同じパートで一小節のなかで演奏者が3人も変わっている曲もありますよ。フィールド・レコーディングみたいなものですから。

集音の環境はちがいますよね。録った音源は最終的にトリートメントするんですか?

渡邊:デフォルトのイコライジングとコンプ(コンプレッサー)の設定があって、そのなかにとにかくブチこむんですよ。そうすると上と下が削れてフラットになるんですね。それで演奏者のニュアンスや個性が削ぎ落とされるんです。

そのひとたちにとっては、じゃあオレらでなくてもいいじゃんってことにもなりますよね。

渡邊:5人くらいからそういわれました。

そういう場面ではどう返すんですか?

渡邊:うーん。音を録りだした時点ではリリースするかどうかも微妙だったし、ゴールもなかったので、きっとこれ完成したらおもしろいと思うよ、くらいしかいえませんでした。

フワッとした話ですね(笑)。総勢何名かかわっているんですか?

渡邊:20人くらいなんですけど、「誰それのヴァイオリンの音がほしい」のではなくて「ヴァイオリンの音がほしい」だけだったので、そういう意味ではあまりパーソナルを尊重していないですね。

それはソフトウェアではダメだったんですか?

渡邊:ソフトウェアでまかなっている部分もあります。ソフト・シンセの音を下地にしてその上に生楽器を重ねているところもけっこうありますよ。

生音とシミュレートした音の優劣はつけなかったということですね。

渡邊:ダイナミクスなどはオートメーション化して僕がほとんど書いています。それも不自然な点だと思うんですね。この前、チェリストの徳澤青弦くんと飲んだときに、ちょっと聴いてよと聴かせたら、彼にはこんなふうにはオーケストラは鳴らないとはいわれました。おかしいよって(笑)。演奏者からすると違和感があるんでしょうね。

音像も最終的にPCのなかで組み立てていくんですよね。

渡邊:そうです。DTM上に並んでいるセッションがフルスコアと同じ働きをするんですけど、けっこうたいへんでした。大型ディスプレイ3台くらい並べて作業していましたから。

構想、スケッチの段階と音を集め、再構築する段階でイメージにズレは生まれなかったですか?

渡邊:ほとんどなかったです。音色もリズムも、徹底して、ほぼイメージ通りです。

その作業に2年ほどかかった、と。

渡邊:生の音がいいのかサンプリングの音がいいのか、そういうことを検討する時間も含め2年くらいですね。

それで、どちらがいいという結論はでたんですか?

渡邊:生音が良いに決まっているじゃないですか、といいたいんですが、録った生音のクォリティと楽曲のニュアンスによりますね。サンプリングの方がよい場合もありましたから。フラットに下地をつくっておいてポスト・プロダクションによって輪郭をつくっていくというような作業でした。

オーケストラ曲の輪郭をつくることは作曲家の仕事ではないですよね。

渡邊:楽曲の解釈という点では指揮者ですよね。作曲家兼指揮者、たとえばブーレーズのようなひとなら綿密にスコアをアナライズして、オーケストラを相手にこと細かにやっていくんでしょうけど。僕の場合、作曲家とオーケストラの通常の関係性とも異なるのかな、と。ひとりひとりの音楽家と個々の関係性、個別の作業になるから、もうちょっとフラットに弾いてなどと注文をつけられるわけです。

いま音楽をつくっていくなかで、ポスト・プロダクションはみすごすわけにはいかない部分ですよね。

渡邊:ひと口にコンポーズといっても何段階もあって、以前、中原(昌也)さんは「作曲家(コンポーザー)って梱包(コンポー)するひとのことでしょ!」とおっしゃっていましたが、梱包するだけではないですね。

でも大きな意味ではそういった包括的な立場に作曲家はなってきていると、琢磨くんの話を綜合するといえそうじゃないですか?

渡邊:そうなんですけど(笑)。

私がなぜフォローするかはわからんですが(笑)。

松村正人(2014年1月28日)

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