Home > Interviews > talking with downy & Fragment - 十六月からはじまる話
着地点の予想がつくものにはしたくなかったんですよね。 (kussy)
downy - 第五作品集『無題』リミックスアルバム Felicity |
青木:だから、つねに自分たちの曲をリミックスしている感覚はあるね。“十六月”はその継続のなかで形作られたもので、だからオリジナルといえばオリジナルかもしれません。CDとして出すタイミングがひとつのリミットになっているというか。
kussy:俺らも途中経過に参加している感じでしたよね。どれがオリジナルかということはあまり意識しない状態から作りました。あくまで素材として接していて。
青木:うん。ほぼ素材だけで渡していたからね。
■なるほど。ちなみに“十六月”というイメージや意味をめぐってはどうですか?
青木:意味は……ないっすよ。
■ええっ(笑)、ないんですか。
kussy:俺らもないっすね(笑)。音だけというか。
■ははは。ビートにはずいぶんと隙間を持たせていますよね。ちょっとジャジーに仕上がっていて。
kussy:すごくヒップホップにしようと思って。
青木:かっこいいよね!
kussy:着地点の予想がつくものにはしたくなかったんですよね。声の使い方にしても、スクラッチしてみるのがいいかなって。ロビンさんの声こすったらおもしろいなというふうには思いました。それくらい、素材として使わせてもらう感覚でしたね。
■downyの音世界には、すべてが心象風景として立ち上がってくるような、インナーな圧力をものすごく感じるんですが、Fragmentのリミックスはそれを文字どおり脱構築するというか。「素材」という視点の、ある意味でのドライさがすごく特徴的だと思います。
青木:お願いしたかったことが具現化されていましたね。たしかに、解釈もヒップホップだし。
■そのあたりでは、olive oilさんだったり、やけのはらさんだったりの参加も目を引きますね。やけのはらさんのあの本当に元のグルーヴやテンションを脱臼させる手つきとか。
kussy:あれもよかったですよね。
青木:オリーブくんも完全にオリーブくん節だよね。
kussy:そうですね。リミキサーをどうするかという話のときも、僕がオリーブくんを提案しようとしたら「もう頼んである」って言われたんですよ。
青木:〈zezeco〉で同じイヴェントでライヴをしたり、あとはMission Possible(olive oil×ILL-BOSSTINO×B.I.G.JOE)。来沖した際に紹介してもらったりというつながりがあったりもしたんだけど、downyとして何かをお願いするのは初めてですね。
kussy:本当に「olive oil」でしたね。
青木:もはやオリジナルだよね(笑)。
■人選にあたっては、シーンを見渡してというようなバランス感覚も働いているんでしょうか。それともより感覚的な部分を優先されたのでしょうか。
kussy:たとえばオリーブくんに関して言えば、彼のスタンスというか、あのブレなさに、完全にdownyと近いものを感じてました。勝手にですけど。音としてもそうですね。俺らからしてみればDownyのことも好きだし、olive oilのことも好きだし、尊敬しているし、迷いないところです。
青木:素晴らしい。
kussy:はい(笑)。いろんなトラックメイカーがいて、いい人もたくさん出てきているんですけど、そういうことよりはdownyに愛がある人選がいいんじゃないかなと思っていましたね。「売る」ということを考えたら、もう少しいろいろあるんでしょうけど。
あの曲のドラムがすげぇなっていう話をしていて。 (deii)
リミックスとなるとどうしても変拍子は厳しいんですけど、チャレンジしてみたいなと思った。 (kussy)
■Fragmentさんは“十六月”の他に“㬢ヲ見ヨ!”にも取り組まれていますが、どうして“㬢”だったんです?
deii:あの曲のドラムがすげぇなっていう話をしていて、そこを俺らなりにどう崩せるかな、という思いがあったんですよね。ちょっと挑戦してみたいなと。
kussy:リミックスとなるとどうしても変拍子は厳しいんですけど、チャレンジしてみたいなと思っちゃったことがいちばんの理由ですね。オリジナルのなかでもいちばんすごい曲だと思ったし、「やってみたい」って言ったら「いいよ」ということにもなって。
青木:なんか、挙手制だったよね(笑)。
kussy:ロビンさんも、最初は「カブってもいいじゃん」って言っていましたよね。最終的にうまく収まりましたよね。
青木:よく選んだなって思ったよ(笑)。あれ(“㬢ヲ見ヨ!”)はみんな選ばないだろうなっていう曲だったから。
■といいますと?
青木:本当に難しいと思うし、うわずみだけ取って四つ打ちにするというようなイージーすぎるやり方だと成立しないだろうし、あのぐしゃぐしゃした感じも残さなきゃいけないだろうしね。
■グルーヴを削いでハーシュノイズを注ぎ込んで、むしろあの曲の内側に渦巻いていたものを外に出したというような印象を受けました。
kussy:そこを汲み取るというよりも、いかにロビンさんに「おっ」って言ってもらえるかということを考えていたように思いますね。好奇心というか。
■なるほど! それはいちばんのモチヴェーションかもしれませんね。ちなみに「㬢」って漢字読めました?
kussy:いや、読めなかったですね。
──私もです(笑)。あのリミックスはまさに、読みを知らない状態のあの字をビートとノイズで組み直したらこうなるのかよ、みたいな仕上がりだと思いました。
kussy:そう言えばよかった(笑)。いや、オリジナルが本当に熱すぎるから。
青木:いやいや、出来上がったの聴いてすぐ電話したよ。「超かっけえ!」って。
kussy:僕らはロビンさんの電話がくるまで、マジで緊張しましたけどね……。
■ああ、それは緊張するでしょうね……。あとは、「ア」音を大事にされているなとも思って。ヴォーカルのなかから、あの部分を抜いたのはどうしてです?
青木:あ、それ俺も訊きたい。「兄弟」とかもね。
■そうそう! そこも気になりました。「兄弟」って言葉が鮮やかに切り取られていて。
青木:ヤバイよね(笑)。なんでそこやったんや!? って。
(一同笑)
deii:両方ともいちばん耳に残る部分ではありましたから。
kussy:音としておもしろいかどうかというところの判断ですよね。
青木:まあ、ちゃんと歌詞が聞き取れる部分があのへんしかないということもあるよね(笑)。だいたいが何を言っているかわからないからさ。
■そんな(笑)。わたしには、このジャケットのアートワークの赤も、あの「ア」のイメージで感じられますけどね。「㬢」の「ア」の。
kussy:ああ……。
青木:ジャケ、かっこいいよね。あのリミックスは、僕らが“十六月”をやらないなら、ぜひ1曲目にしたいと思っていたくらいなんですけどね。僕らはバンドでやっているんで、途中に入れ込むと音が引っ込んじゃうというか。そういうこともあったので、まあ、オープニングというようなところで、最初に入れましょうということになったんです。
取材:橋元優歩(2014年3月25日)