Home > Interviews > interview with ROTH BART BARON - アンユージュアルなふたり
スタジオ・ワークが好きなんですよ。変な音が入っているのがすごく好きで。ビーチ・ボーイズとかもそうだけど、スタジオでしか作れない音のすごさというか、そういうものが生み出すマジックとかが好きですね。(三船)
■東京のどちらですか?
三船:僕は目黒ですね。
■おお、目黒。
三船:とっても微妙な……、サンマぐらいですね。
■ははは! 西東京の文化みたいなものともちょっと離れていますよね。
三船:うん、そうですね。
■でも、小さいころの目黒の思い出が鳴っているという感じでもないですしね。知らないうちに、彼らの音と土地と国との関係の仕方に、自分たちにはないものを感じとって惹かれたのかもしれませんね。
三船:音楽的な土壌の豊かさ。それからアイディアの豊かさですかね。音色の感覚とか。子どもの工作のような感じで作っているところにときめくのかもしれません。
■ローファイへの憧れってそんなに強くないですよね。きちんと録られていて、構築されていて。
三船:スタジオ・ワークが好きなんですよ。変な音が入っているのがすごく好きで。ビーチ・ボーイズとかもそうだけど、スタジオでしか作れない音のすごさというか、そういうものが生み出すマジックとかが好きですね。そういうところはあるかもしれません。
■その妙味はありますよね。曲作りは基本的に三船さんですか? 中原さんは、三船さんの世界観や音楽性のなかで、とくにここを強調したい、ここを展開したいというようなところはありますか?
中原:先に歌詞があって、それに対しての解釈やイメージをふくらませるという場合もあるんですけど、もっと単純にサウンドとして自分の気持ちいい部分にはめていくということが多いですかね。
■それをまたフィードバックして──
中原:そうですね。いっしょにスタジオに入って、これはいいね、悪いね、という判断をしていきます。
■そこで2人組というところの特徴も出てくると思うんですが、音楽性を伸張していくというだけなら、単純に人数を増やすということも考えられるわけじゃないですか。2人以上はとくに必要ではない?
三船:必要なんですけど、気の合う友だちがいなかったということですね。シャイだし、僕ら。それに、音楽をやろうっていうことで集まったわけじゃなくて、もともと友だちだったふたりだから、よけいに近づきづらいんじゃないですかね。中学生の頃から続いているんですよ。
中原:最近は少しつながりもできてきましたけどね。
中原鉄也
■でもたしかに、バンド同士のつながりとか、それが生むライヴ・シーンのなかから浮上してきたという感じではないですもんね。ちょっと独立したあり方だと思います。
三船:そうなんですよね(笑)。
■ふたりで籠っているからこその雰囲気や音楽性というのはありますから。
三船:まあ、あんまりよくないなあとは思いながら……。
■へえ? そうですかね? ライヴはそこまで頻繁にはやっていないんでしょうか。
三船:最近は、ちょこちょこと。がんばってはいます。
■そうですよね。とくに意図的にライヴをしなかったというわけではないですよね。
三船:そういうわけではないですね。最近はとくに、頭の中で鳴っている音を外に出そうとすると、どうしても手が2本じゃ足りないなって思うことが多くて。それで、ゲストを呼んだりはしていますけどね。
■『化け物山~』の生っぽさ、ある意味でのラフさは、今回はわりときれいに削られて構築性が高くなっている。そのことがこの『ロットバルトバロンの氷河期』の物語性や想像力をより生かしているというふうに感じるんですが、そのへんには意図があったりしますか?
三船:僕は、より生々しくなったなと感じるんですけどね。
中原:うん。
三船:前のほうが、ビニールを一枚かぶっていたというか。
中原:そうだね。
三船:膜が張られていたというか。それを破っていく感じでした。
■なるほど、「生っぽさ」の解釈ですね。一発録りとか、ローファイとか、そうしたものが「生っぽさ」の記号になりすぎているかもしれません。──丁寧に手をかけられたプロダクションによって、テーマの生々しさがきちんと彫りだされている、と思いました。
三船:それはそうかもしれませんね。ただ、「洗練」ということに関しては観念的にしか言えなくて。前よりももっとプリミティヴになって、純度が上がったことは間違いないと思います。
中原:音にもっと隙間も生まれていますし。埋めてないです。
■なるほど。
三船:余分なものが混ざっていないですね。引き算の美学を導入したわけではないんですが、前よりも油っ気がないというか(笑)。
■油っ気(笑)。それはミュージシャンとしてのひとつの成長だったりするわけですか?
三船:うーん、なんか、前より楽しくなりましたね。というか、楽しい瞬間がそこにいっしょにレコードされてたらいいなって思っていました。そこは意識したつもりではありますね。だから、テクスチャーとかコンセプトをがちがちに決めていったのではなくて、スタジオで起きるハプニングとかを大事にしていて。大きなスケッチは見えていたけど、ディテールとかその場で起きたアクシデントを収めた一枚という感じなんですよね。
■たしかに、まさに「隙間」がありますよね。
三船:台本がある感じにはしたくないな、というか。
■はい。音としての豊饒さが目指されているのはとてもよく感じられます。
取材:橋元優歩(2014年4月22日)