Home > Interviews > interview with Fennesz - “アフター”の音響
僕はアナログのサミングのファンなんだ。ミックスはすべて、APIミキサーとコンプレッサーを通してやっているんだ。それが深みと明瞭さを生むんだよ。
■前作に比べて、強靭で、かつ解像度の高いノイズが暴れまくり、耳を刺激し、聴きながら恍惚となってしまいました。今回のアルバムにおいて、何か特別な意思を持ってノイズ・サウンドに取り組みましたか?
CF:何年もかけて機材のより効率的な使い方を学んだんだ。それから、スタジオも以前よりもっとハイエンドになった。僕はアナログのサミングのファンなんだ。ミックスはすべて、APIミキサーとコンプレッサーを通してやっているんだ。それが深みと明瞭さを生むんだよ。
■この作品に限らずフェネスさんの作品は「記憶」を刺激されてしまいます。フェネスさんにとって「記憶」とはどのようなものでしょうか?
CF:記憶といっしょに制作することは僕にとってとても重要なことだ。僕の音楽を聴いて、みんなそれぞれ自分の記憶を見つけ出してほしい。僕はずっとクリス・マルケルという映画監督の大ファンで、彼の作品から多くのことを学んできたと思う。
■まるで電子のウォール・オブ・サウンドのように、一度では聴ききれないほどの音が高密度に重ねられおり驚きました。
CF:何重にもサウンドを重ねていくと、ときどきメタ・メロディのようなものが生まれてくるんだ。倍音のことだね。それが好きなんだ。それについては探求すべきことがまだたくさんあるよ。
■ノイズの要素と同じくらい、今回のアルバムではフェネスさんのギターがとても生々しく感じられました。
CF:ギターはいつも僕にとっていちばんの楽器なんだ。今回はそれを比較的加工しないままにしたんだ。そのとき、そうすべきだと感じたんだ。
■フェネスさんは、以前、好きなギタリストにジョージ・ハリスンとニール・ヤングを挙げておられましたが、彼らのプレイのどんなところには惹かれますか?
CF:彼らはふたりとも音色がすばらしい。ジョージ・ハリソンはポップで「数学的な」スタイルで、一方のニール・ヤングは完璧なエモーション。アコースティック・ギターを弾く彼の右手はすばらしいと思う。
■“スタティック・キングス””““ザ・ライアー”“パラス・アテネ”という曲名について教えてください。
CF:“スタティック・キングス”は大切な友人のマーク・リンカスへのオマージュなんだ。悲しいことに、彼は2010年に自ら命を絶ってしまった。僕たちはノース・カロライナにある彼のスタジオでよく仕事をしたんだけど、そのスタジオの名前が“スタティック・キング・スタジオ”だったんだ。
“ザ・ライアー(嘘つき)”。それは僕のことだよ。“パラス・アテネ”は19世紀につくられたユーゲント・シュティールのドアの上部分に書かれていて、その先にはここウィーンの僕のスタジオがあるんだ。
■“パラス・アテネ”はまるでバロック音楽が電子音響化したようなサウンドでした。フェネスさんは西洋の古楽(バロック音楽/ルネサンス期の音楽)は聴かれますか?
CF:ああもちろん。バッハ、ヘンデル、モンテベルディ、ヴィヴァルディ、ダウランド。
■ほかによく聴いていた音楽などはありますか?
CF:制作中には何も聴かなかったね。さもなければ、聴きなれた音楽、ジャズやブラジル音楽、アフリカ音楽を聴くよ。ザ・ネックスが大好きなんだ。〈タッチ〉と〈エディションズ・メゴ〉からリリースされているものはすべて聴いているよ。
■今回の『ベーチュ』には『エンドレス・サマー』以来、ポップ・ミュージックの遺伝子を感じました。フェネスさんにとってポップ・ミュージックとは?
CF:ポップ・ミュージックはいまでも大好きだよ。いかにもな、クリーンなポップ・アルバムを作りたいとは思わないけれど、そのエッセンスには興味があるよ。
■“Sav”はアルバム中でも穏やかなサウンドでしたが、冒頭から鳴っているカラカラとした乾いた音にも惹かれました。あの音は何の音なのでしょうか? また、“Sav”とはどのような意味なのでしょうか?
CF:「Sav」はハンガリー語で“アシッド”という意味なんだ。あの音は、セドリックが彼のモジュラー・シンセを通してラップトップで演奏したインプロヴィゼーションだよ。
■即興と作曲の違いとは、どのようなものでしょうか?
CF:僕の作品の多くは即興演奏の産物だ。作曲は、そのなかから使えそうな破片や部分を見つけたところからはじまるんだ。
■フェネスさんの作品は、つねに音質がいいので何度聴いても飽きません。今回の『ベーチュ』でもさらに高解像度になっており非常に驚きました。フェネスさんにとって「音のよさ」とは、どのようなものですか?
CF:自分にとってその重要さは日に日に増しているよ。最近のデジタル機器は、高解像度のサンプルやビット・レートのおかげで以前よりも格段にすばらしいものになっているね。
僕のホームタウンであり、浮き沈みはあるけれど普段は豊かな生活を送ることができる。生活水準は高く、文化生活も最高だね。
■「ウィーン」という土地に対する思いが強くアルバムに出ているように思います。フェネスさんにとってウィーンという街は、どのような思いのある土地でしょうか?
CF:僕のホームタウンであり、浮き沈みはあるけれど普段は豊かな生活を送ることができる。生活水準は高く、文化生活も最高だね。
■マーティン・ブランドルマイヤーさんのラディアン、トラピスト、もちろんフェネスさんなど日本の音楽ファンにはウィーンの音楽シーンが気になっている人も多いのですが、現在のウィーンのエクスペリメンタルな音楽シーンはどのような感じですか?
CF:正直なところよくわからないんだよ。クラブにはほとんど行かないんだ。「シーン」のなかで知っているのはブルクハルト・シュタングル、マーティン・ジーベルト、マーティン・ブランドルマイヤー、そしてもちろん、ピーター・レーバーグ。
■リリースが〈タッチ〉から〈エディションズ・メゴ〉になったことで、アート・ディレクションがジョン・ウォーゼンクロフトさんからティナ・フランクさんになりました。彼女と久しぶりにアートワークを制作するにあたって、何かコンセプトのようなものはありましたか?
CF:いや、彼女の好きなようにやってもらった。信頼しているから。
■日本盤にはボーナストラック“アラウンド・ザ・ワールド”が収録されていますが、この曲の成立過程などについて教えてください。
CF:当初はデイヴィッド・シルヴィアンに歌ってもらう予定だったんだ。でも、彼が声を悪くしてしまって、結果的にスロウなギター・トラックになったんだ。
■フェネスさんはライヴなどで世界中を訪れていると思いますが、印象に残った国などはありますか?
CF:これはお世辞でもなんでもなく、日本に滞在するのは大好きだよ。食べ物や人、文化がね。イタリアもすごく好きだね。最近ではロンドンもかなり楽しんだよ。
■今後のご予定を教えてください。
CF:まずは休みを取る予定だよ。来週、ギリシャに行くんだ。夏にヨーロッパでいくつかショウがある。それから秋にヨーロッパと日本(11月22日、東京の〈UNIT〉)を回る予定なんだ。冬にまた新しい作品に取り掛かるかもしれない。今回はあまり間を開けないつもりなんだ……。
■『ベーチュ』は本当に素晴らしく、その圧倒的なクオリティと音楽性の高さに、心から感激しました。この作品はフェネスさんの音楽人生において、どのような位置づけになりますか?
CF:ありがとう。ただ自分のいちばん新しいレコードという位置づけだね。いまは次の作品に取り掛かるのを楽しみにしているんだ。
デンシノオト(2014年5月30日)
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