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interview with Dorian Concept

interview with Dorian Concept

スピリチュアル・ジャズ・エレクトロニカ

──ドリアン・コンセプト、インタヴュー

野田 努    通訳:青木絵美  写真:小原泰広   Oct 29,2014 UP

Dorian Concept
Joined Ends

Ninja Tune /ビート

ElectronicaSpirtual JazzAmbient

Amazon

 ドリアン・コンセプトが最初にフィジカルのアルバムを出したのは2009年、オランダの〈Kindred Spirits〉という、当時はビルド・アン・アークやフランシス・モラのリーダー作を出したりと、90年代クラブ・カルチャーとスピリチュアル・ジャズとの接点となりうる作品を出していたことで知られる玄人好みのレーベルからのデビューだった。
 そういえば、〈Kindred Spirits〉は、セオ・パリッシュの力を借りながら、サン・ラー・リヴァイヴァルを促したレーベルでもある。それなりの目利きで、ドリアン・コンセプトは、ほとんど新人に近い存在ながら、マニアが一目置くレーベルから登場し、ジャズに造詣の深いリスナーをも「すごい!」と唸らせた若者だった。
 腕前がすごかった。「朝起きたら、ハムと卵を食べる代わりにコンピュータの前に行くこと」が日課だった、と当時の彼=オリヴァー・トーマス・ジョンソンは話しているが、彼はピアノが上手に弾けるだけの青年ではなかった。彼は、小型のシンセをジェフ・ミルズがターンテーブルを操るように演奏した。つまり、スウィッチ類も、鍵盤である。
 彼はヒップホップのビートも更新した。そもそもビートメイカーの筋から注目された人だった。当時、ウィーン在住の若きベッドルーム・ビートメイカーにとって気になる作品があるとしたら、フライローの『ロサンジェルス』だったのではないだろうか。

 『Joined Ends』は、彼にとってのセカンド・アルバムにあたるが、前作から5年も経っているので、いままでの印象を捨てて向き合ったほうがいい。この作品は、エレクトロニカ・リヴァイヴァルともリンクしているし、同時に彼のバックボーンであるクラシックとスピリチュアル・ジャズ(70年代のひとときの至福な瞬間)の色合いもけっこう出している。『You're Dead!』が動ならこちらは静、『サイロ』がジャングル+IDMならこちらはスピリチュアル・ジャズ+IDM、と喩えられるだろう。メロウで、クラシックの響きもある。さすが音楽の都=ウィーンの人だ。そして、ふだんはドイツ語を話すであろうオリヴァー・トーマス・ジョンソンは、ドイツ人がよく話す素朴で丁寧な英語で答えてくれた。

人間的に成長した結果、ノスタルジックになったりセンチメンタルになったりもします。その一方で、音楽的にも成長して多くの場所へ行けるようにもなりました。なので、今回のアルバムはその異なる感情のミクスチャーだとも言えるでしょう。

いまもウィーンにお住まいですか?

ドリアン・コンセプト(以下、DC):はい、オーストリアのウィーンに住んでいますよ。

すっとウィーンに住んでいるんですか?

DC:3年間ザルツブルグの学校に通っていたとき以外はずっとウィーンに住んでいますね。父親がアメリカ人ですが、僕自身は生まれも育ちもオーストリアです。

引っ越さない理由は、ウィーンという街に特別の愛着があるからですか?

DC:理由はいくつかありますね。ウィーンには家族や友人もいます。10代のころを過ごした場所が自分のホームとなると聞いたことがあるのですが、僕にとってはその街がウィーンです。週末によくライヴをするんですが、街のサイズも大きすぎず小さすぎずで移動しやすく気に入っています。

ウィーンはクラシックの都であり、ヨーロッパの古い文化が残っている街だと思いますが、そういった背景とあなたの音楽には関係があると思いますか?

DC:ウィーンでは一般の学校でもオーストリアのクラシック音楽の歴史が教えられています。さらに僕はピアノのレッスンも受けていたので、その分オーストリアの伝統的な音楽からも影響があると思います。ですが、僕が育った90年代には素晴らしいエレクトロニック・ミュージックがあったので、それらからも影響を受けました。例えば〈メゴ〉のようなレーベルからです。彼らは国際的にも注目を集めていましたが、90年代後期のウィーンではドローン、アシッド・ジャズ、ダウンビートのムーヴメントがありました。クルーター&ドーフマイスターなどをよく聴いたものです。オーストリアには内向的な気質もあるんですが、日本にも似たようものを感じとても落ち着きますね(笑)。

当時〈メゴ〉やクルーダー&ドーフマイスターのような地元のシーンと何か繋がりがあったんですか?

DC:個人的にはUKやアメリカなどの海外のエレクトロニカから強く影響を受けていました。UKの〈ニンジャ・チューン〉や〈ワープ〉、アメリカだと〈ゴーストリー・インターナショナル〉やシカゴの〈ヘフティ〉などです。僕が16歳の頃はまだインターネットがそれほど発達していなかったので、情報源はおもにレコードでした。その情報も曖昧なものだったので、「どうしてコーンウォールのアーティストはこんな音を作るんだろう?」と想像力を働かせていました。当時はそういった海外の音楽のミステリアスな部分に魅せられていましたね。

あなたを有名にしたYouTubeにアップされたコルグのシンセサイザーをジミヘンのように弾く動画は、いま見てもすごいと思います。あれはやはり相当練習したんですか?

DC:あれはかなり自然な流れでやったものです。僕は15歳からジャズ・ピアノを習っていました。マイクロ・コルグを買ったのは20歳のときです。ですがシンセサイザーが欲しかったわけではありません。そのときはザルツブルグとウィーンを往復することが多かったので、持ち運びができるキーボードを探していました。それと同時にライヴで簡単にオクターヴを変更できる機能などが必要だったので、それに応じてテクニックを磨いていたんですよ。

ジェフ・ミルズがターンテーブルでやっていることを、あなたはシンセサイザーでやっているように思えました。

DC:僕はヒップホップ・カルチャーに親しんだ世代でもあります。DMCチャンピオンシップなどもありますが、この文化において競争とは大事な要素のひとつです。テクニックとクリエイティヴィティも求められます。僕はジャズを勉強していたので、その過程で習得した即興性も自分のプロダクションに取り入れています。子供が友だちと競い合いながらビデオ・ゲームを練習していくのと同じですよ。これらは違うジャンルに見えますが、僕なかでは重要な要素です。

まさにそういう意味では、最初のフィジカル・リリースである『ウェン・プラネッツ・エクスプロード』はあなたのテクニックが全面に出ている作品です。それから5年の歳月を経て今作『ジョインド・エンズ』はリリースされました。アーティスト名を聞かされなかったら、あなただとはわからないくらい印象が違うアルバムだと思います。

DC:そうですよね。前作と今作の間で僕は満足に音楽をリリースすることができず、自分の成長や変化をリスナーたちと共有することができませんでした。定期的に作品をリリースすることは大事だと知りましたね。ですから今作までの期間にどういう音楽を作っていたのかをまとめた作品を出すかもしれません。ファースト・アルバムをリリースしたあとの変化はアーティストには付き物ですが、僕にも同じことが起こったんだと思います。

力作だと思います。そういえば、ドリアン・コンセプトとは、ドリアン・スケールから取られた名前ですが、新作のメロディやハーモニーも前作とは違います。また、前作はヒップホップの影響からビートが打ち出されたと思いますが、今作は三拍子の曲があったりとか、ヨーロッパ的なテイストも強く感じました。そう言われて違和感はありますか?

DC:一般的なヨーロッパの芸術や音楽に共通することなんですけど、簡潔性というものを追求している面がありますが、そのシンプルさが衝撃を与えることもあります。今回のアルバムは部屋ではイージー・リスニングのように聴こえるかもしれませんが、ヘッドフォンで聴くといくつものレイヤーが見えてくるような作品にしたいという意図がありました。そういう点で前作とはかなりことなる作品だと思います。

1曲目のシーケンスはとてもミニマルです。アルバムを最初に聴いたとき、2曲目の“アン・リヴァーMN”と4曲目の“クラップ・トラック4”が素晴らしい曲だと思いました。とくに“アン・リヴァーMN”はシンセやリズム、曲のムードから今回のアルバムを象徴しているように思います。

DC:20代になったばかりの頃はミニマリストの反対のマキシマリストだったんですけどね(笑)。その意見は興味深いです。僕も2曲目をとても気に入っています。あなたが言うように、全体の雰囲気から考えて、この曲はアルバムのコアになっていると思うんです。最後の曲も好きな曲です。レーベルと相談しながらアルバムの曲順を決めていきましたが、このプロセスはとても大変だったんですよ。

通訳:この曲名の「MN」はアメリカのミネソタ州のことですか。

DC:はい、そうですね。

なるほど。自身のことをロマンチストだと思いますか?

DC:音楽や映画に関して、僕はロマンチストでしょうね。センチメンタルという言葉が正しいかもしれません。このアルバムを発表するまでの間で、僕は人間的に成長した結果、ノスタルジックになったりセンチメンタルになったりもします。その一方で、音楽的にも成長して多くの場所へ行けるようにもなりました。なので、今回のアルバムはその異なる感情のミクスチャーだとも言えるでしょう。また、映画的な側面も持っているかもしれません。

質問:野田努(2014年10月29日)

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