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Home >  Interviews > interview with Arca - ベネズエラ、性、ゼンとの出会い

interview with Arca

interview with Arca

ベネズエラ、性、ゼンとの出会い

──アルカ、インタヴュー

高橋勇人   
訳:高橋勇人  photos : Daniel Sannwald  
Oct 31,2014 UP

一生カミングアウトしないつもりでいたね。結婚して自分が夫としての役割を果たす姿をずっと思い描いていたかな。思い返せば、ゲイをやめたいって祈ってた。自分がどうかストレートになれますようにってね。

E王
Arca
Xen

Mute / トラフィック

ElectronicaExperimental

Amazon

 カミングアウトのあと、ゲルシはアーティストとしての大躍進を経験し、アルカが生まれた。その名義で作られた初期の作品を人気づけた奇妙で闘争心に溢れた声は、これから彼がやろうとしていることの文字通り、頭の中の残響音だった。「それは完全に別物の声で、自分の魂や心のまったくちがった部分から出てきたもの。この混みあった部屋(頭)でお互いがシャウトしまくっていた。自分の体に性的な意味で慣れていく感じだよ。柔軟性と弾力性がふんだんにあって、感情的な方法でそれらの声を包み込むんだ」
 よりダークで複雑に発展していく彼の曲のように、ゲルシが初めてニューヨークのパーティ〈GHE20G0TH1K〉へ行ったことによって、彼自身の社会的領域も広がりはじめた。このパーティは多文化主義や同性愛者、そして狂気的に弾けたポップ・ミュージックのスモークで充満した祭典として、アンダーグラウンドのシーンでは知られている。そのパーティの主催のひとりであるシェイン・オリヴァーによる学校でのインターンも彼をより前進させることになる。オリヴァーはカルチャー・ジャミングとアヴァン・ギャルドを特徴とするファッション・ブランド、フード・バイ・エアーの立案者だ。ゲルシは、パーティのもうひとりの立役者であるプロデューサー、フィジカル・セラピーを経由して、やがて「ストレッチEP」をリリースすることになるレーベル〈UNO NYC〉のチャールズ・ダンガと出会う。のちに〈GHE20G0TH1K〉のさまざまなシンガーとのコラボレーションも続いた。このプロジェクトが2011年にはじまってから、アルカはミッキー・ブランコ、ケレラ、そしてオリヴァーにも楽曲を提供している。そして、人生を変える一通のメールがオリヴァーの友人であるマシュー・ウィリアムズから届く。彼はファッション・ブランド、トリルの創設者であり、カニエ・ウィストの長年のコラボレーターだった。

 「(カニエに)数曲送ってほしいと頼まれただけで、その通りにしたよ。そのとき持っていた最強に奇妙な曲を送ったら、カニエがすごく喜んでくれたんだ」とゲルシは言う。『イーザス』の制作におけるゲルシの冒険はいくつかの点において厳しいものだった。
 「一日の終わりに(みんなが作った音楽を)カニエ本人がチェックすること以外に、決まりごとは本当にないんだ」と彼は言う。世界中のミュージシャンとのレコーディングや、何十人もの制作チームとの共作は家での制作とはかなり異なるものだった。「自分でいままで試みたり、考えたりしたことのない類いのものだった。でもね、僕の人生に変化をもたらした出来事であったことはたしかだよ。恐いもの見たさで極度のプレッシャーのなかに身を置いていたからね」
 その経験を振り返ると、カニエの制作指揮者的なヴィジョンがいちばん印象に残っているとゲルシは言う。「たくさんのことがデザインといっしょに浮かんでくるんだ。謎解きみたいな感じでね。もし曲がアグレッシヴさを求めていたら、頭のなかにあるその瞬間で最良の解決方法をデザインするのは、3、4人の仕事にかかっている。みんながそれぞれ完璧に違ったアプローチをとるんだけど、最終的にすべてを編集するのはカニエ自身なんだ。変な方法だけど、彼はそうやってプロデュースをしている。選ぶだけじゃなくて、カニエはスタイルを作るんだよ」

 神話と化した『イーザス』のセッション以降、アルカはすでにシーンの裏側の多くの強烈な個性たちの共犯者となっていた。ビョークとのコラボレーションに加えて、ロンドンのR&Bシンガー、FKAツイッグスのソウルフルなセカンドEP全体を手がけたのもアルカだ。ルールを壊すことへの愛情は、彼が信頼の置ける実験的なアーティストであることを明確にしたのだが、他人の曲のなかから自分らしさを消すことができる能力が、いちばん役に立っているという。
 「長年考えていたことで、けっこう恥ずかしく思っていたんだけど、僕って強烈な個性を持っているひとといっしょにいると、彼らのような喋り方になっちゃうんだ。もしだれかの方向に引き寄せられると、自分たちのあいだに橋渡しをしてしまう。それでたまに相手の視点から世界を見るようになるのかもしれないね。長い間それは怖いことでもあった。自分にはアイデンティティがないことや、もしくは自分のアイデンティティは未完のままだということを、その現象が表しているのかもしれないって考えていたからね。でも歳をとるにつれて、それが強みだと思えるようになった。自分を一時停止させて相手に完全に開いた状態にすることは、自分の共感能力のすべてを使って誰かを覗き見したり、相手の哀愁を感じることにつながる。これは本当に強烈だよ。だってさ、その人の良さとか健康さとかを超越したものを抱え込むことになるんだからね」

 ロンドンでゲルシと過ごしているあいだ、出会った半数以上の人びととののやりとりから、彼にはその傾向があると気づいてしまった。『ゼン』をリリースするレーベル〈ミュート〉のプロジェクト・マネージャーである、パディ・オニールの誕生日を祝うために、わたしたちはダルストンのパブに向かったのだが、彼がその夜の終わりにバーからこっそり離れ、誰も見ていない間に勘定を済ませようとしていることに気がついた。通りに出て、ベンジーBが長年オーガナイズしているパーティ〈デヴィディエーション〉に行こうと集まっていると、ゾンビみたいな男がわたしに近寄ってきて「エクスタシーをくれ」と言ってきた。ゲルシはすぐさまわたしを守ってくれ、反射的に自分の身体でわたしたちのあいだにバリアを作ってくれた。その男が立ち去るとゲルシは皮肉とともに緊張を解き放ち、「だけど、ヤツはアリーヤのTシャツ着ていたよね」と言った。彼がすこし生意気なときは、彼のかすかなスペイン語のアクセントがいつもよりも強く出てくるとわたしは気づいた。

 ここにゲルシに関するいくつかの覚え書きがある。人ごみのなかで、彼はいつもその場をパーティみたいにする人間だ。夜明けの2時45分くらいになると〈デヴィエーション〉のパーティで高いところによじ登り、パーティ・ピープルのヒラヒラしたシャツの海で、メッシュのボディスとハーネスを身にまとって踊り出す。この都会かぶれなフロアは、わたしたちのお目当てであるLAのエレクトリック・デュオ、ングズングズの良さがわからないだろうと言うと、ゲルシは「すべてのよいDJたちは、フロアをいかに整えるかをしっているはずだよ」と答えた。そして、どこからともなく近づいてきた女性を、彼は立ち止まってクルクルと回しはじめた。

 「アレハンドロがどれだけ爆竹みたいなやつなのか、みんな知らないと思うな。彼といっしょにいると、いつもベビーサークルのなかで、子どものころの友だちと遊んでいる気分になる」と、フード・バイ・エアーのシェイン・オリヴァーは後日、電話で教えてくれた。たしかに、半年に及ぶ『ゼン』で行なわれた即興的なレコーディングのプロセスについてゲルシが語るとき、彼がその無邪気さを創造的な気質へと昇華させていることを感じる。
 「何もコントロールすることができない状態で僕はこのアルバムを作ったよ」と彼は言う。「最初のアイディアこそが最良のアイディアみたいな考えだね。座って作業をするまで、自分が何を作るのかさえ知らなかった」。ゲルシのアイチューンズをちらっとのぞくと、この自由な連想から作られたというたくさんの曲が並んでいる。
 「ハッピーになれる曲を作っているときはいつもなんだけど、1、2回聴き返しただけだと自分の曲だってわからないんだよね。あとね、その状態だと子どものころの自我とつながって、より穏やかで女性的になった気がするんだ。ゼンは男の子でもなければ女の子でもない。彼女の素の存在は冷淡さと魅力を同時に備えている。だから、大きく目を見開いて口が空きっぱなしの大勢の人びとが、スポットライトの下の彼女を見ている様子が想像できるんだよ」

 この作品は自身の潜在意識の旅のようなものであると彼は言う。耳障りな音のストロボから、肉が溶け出しているようなシンセの曲線、半音階のストリングスのセクション、さらにはよろめきながら進むフラメンコのリズム。多くのパートには、それらの間を跳ね回るような、かなり緊迫したリスニングのポイントがある。“シスター”のようにもっとも耳に響く曲においては、ヘッドフォンの右側のチャンネルでランダムに明滅する静かなノイズの壁によって、ふいに足をすくわれる。そのような力をこのアルバムは持っている。
 しかし『ゼン』には同じように愛情にあふれた瞬間もある。彼の声がロボットのうめき声のように奇妙に鳴り響くときや、“サッド・ビッチ”や“ヘルド・アパート”のような曲で一瞬だけ流れるメロディは、彼自身が弾くピアノを伸縮させたものなのだ。豊富な楽器の色彩がダンス・ミュージックと融合しているのだが、『ゼン』はその頼れる波形の地図に執着しない。心を打つメロディが膨らんでいく一方で、良質なポップ・ミュージックのフックを作る能力を誇示することに対して、なんのこだわりもないようだ。そのかわりに、麻酔的な、あるいは情緒的な表現のために高い技術を活用している。それはまるで子ども時代の自分の分身を蘇らせることによって、10代のころに学んだシューマンとメンデルスゾーンへと舞い戻っていくようでもある。『ゼン』は、ロマン派的だがビートも存在するという、自由奔放な表現度をもって展開していくのである。

 より受け入れられやすい『&&&&&』は、彼がポップの革新者として表現できる世界を見せているように思える。その一方で『ゼン』においては、彼の芸術性が、内を向いた美学によって知性や理性を超えた場所へといくぶん押し進められている。その点において、ゲルシが崖から飛び降りたもうひとつの実例として『ゼン』を理解することができるかもしれない。彼が内に籠ろうとしているので、リスナーや知人たちはゲルシの居場所にまで会いにいくことを要求される。同じことが『イーザス』以来初となるインタヴューを受けた彼の決心にも当てはまる。音楽に音楽を語らせることを望んでいるのだ。自分自身を新しいことに挑戦させるよう駆り立てたと彼は言う。なぜなら「作品がそれを必要とする」からだそうだ。外から傍観している者の視点からは、自身を大いにさらけ出そうとしている彼を目撃することは興味深くも恐ろしいことである。迷いもなく、詫びることもなく、自分自身になろうと勇気を奮い起こすとき、外部の現実がふたたび深い恐怖をもたらすリスクが付きまとうものだ。それは、自身をさらけ出したら他者は自分の望むようには反応してくれない、または、そのさらけ出した自分から他者が遠ざかるという恐怖だ。創作のレベルにおいて、それこそが本来の用語的な意味における実験的な音楽を作る危険やスリルである。それまで耳にしたことがないものを享受できるようになる前に、リスナーは聴き方そのものを何度も学ばなければならない。

 『ゼン』を聴いているといつも立ち上がって踊りたくなると彼は言う。わたしがニューヨークに帰る前夜、イースト・ロンドンにある天井の低い地下のパブでゲルシのDJを見たとき、彼はまさにそんな感じだった。彼は手の込んだ拘束衣を身につけていたのだが、夜が進むに連れてその上着のジップはゆっくりとひとりでに開いていくようだった。ダンスフロアは満員で、ゲルシはDJブースの後ろで、ベネズエラのパーティ・ミュージックに合わせてひと言ひと言漏らさずにハミングし、向こう見ずな手首使いでピッチを上げると、もう何曲か歌をつづけた。クラウドがピークに達すると、彼はボーイフレンドに熱いハグとキスをし、わたしはその週のはじめにどういうわけか、映画『ホーリー・モーターズ』に出てくる女曲芸師の話をゲルシとしていたことを思い出した。わたしも彼女のファンだと知ると、彼は興奮して自分のパソコンへ向かい、カンヌのレッド・カーペットで、解剖学上は理解できないポーズをしている印象的な一連の写真を見せてくれた。「おー、彼女は自分が何をやっているか完璧に把握している」と彼は言っていた。それこそが、恐れを知らない女性性を持った人物について話すときに彼が必ず使う言葉だった。ゼンについて同じように述べていた可能性も十分にある。

(C) 2014 THE FADER, INC. ALL RIGHTS RESERVED


文:エミリー・フライドランダー(2014年10月31日)

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Profile

髙橋勇人(たかはし はやと)髙橋勇人(たかはし はやと)
1990年、静岡県浜松市生まれ。ロンドン在住。音楽ライター。電子音楽や思想について『ele-king』や『現代思想』などに寄稿。

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