Home > Interviews > interview with Daniel Miller - お年玉企画(1)──ダニエル・ミラー
絶対的な自信があったのに、しかし売れなかたのは、レネゲイド・サウンドウェイヴだった。彼らはしょっちゅうケンカしていて、最終的にはメンバーの仲の悪さが原因で空中分解してしまった。バンドのポテンシャルはものすごかったんだよ。
■あなたが昔やっていたザ・ノーマル名義の作品はリリースしないんですか?
DM:シンプルに答えよう。ノーだね(笑)。
■(笑)でも当時はヒットしたし、グレイス・ジョーンズがカヴァーもしました。だから、あなたが音楽を続けなかった理由がいまひとつわからないんです。
DM:自分のことをミュージシャンやソングライターだとは思っていないんだ。自分はアイディアを出してそれを形にしただけであの作品はできた。曲を作るよりも、アーティストと仕事をしているほうが楽しかった。
■シリコン・ティーンズも自分のなかで満足しているんですか
DM:シリコン・ティーンズはそれとはまた違って、たまたまの流れでできたもの。シンセを手に入れて曲を作っていたんだけど、それがすごく楽しかった。いろんな既存の曲のカヴァーを遊びでやっていて、そのうちのひとつが“メンフィス・テネシー”だったんだよ。それとは別に、当時の〈ラフ・トレード〉の店員と話していたときに、そのカヴァーの話になって聴かせてみたら、みんなが気に入ってくれてリリースしようという流れになった。だからザ・ノーマルとは違ったプロジェクトにしなきゃいけなかったから、コンセプトを考えてみた。それは近い将来に音楽をはじめるきっかけがギターとかドラムみたいにバンドなんじゃなくて、シンセサイザーになるんじゃないかってことだったんだけど、それがいま現実になってきているよね。そういった未来を思い描いていて、「10代のための音楽アルバム」というサブタイトルをつけた。リリースためのアルバムのジャケも将来のエレクトロ・ミュージックを想像しながら完成させたんだ。
■いままで多くのリリースがありましたが、あなたの自信作でありながら思っていたほど売れなかったものはありますか?
DM:それはいっぱいあるけど、ひとつ挙げよう。絶対的な自信があったのに、しかし売れなかたのは、レネゲイド・サウンドウェイヴだった。彼らはしょっちゅうケンカしていて、最終的にはメンバーの仲の悪さが原因で空中分解してしまった。バンドのポテンシャルはものすごかったんだよ。音楽的にも素晴らしかったし、歌詞もとても知性を感じるものだった。ルックスも、カリスマ性も充分にあった。私はものすごく期待していたんだが、うまくいかなかった。
■レネゲイド・サウンドウェイヴのメンバーは現在何をされているんですか?
DM:ひとりはどうなったか全然わからない。ダニー(・ブリオテット)はまだ音楽を作っているけれど、大学で国際関係の学位をとって国連で働いているんだ。専門はバルカン半島だったな。カール(・ボニー)はフランスに住んでいて、ホテルか宿をやっているらしい。
■いまもUKにはインディ・レーベルがたくさんありますが、あなたが〈ミュート〉をはじめた頃、〈ファクトリー〉、〈チェリー・レッド〉や〈4AD〉、〈サム・ビザール〉など、多くの個性的なレーベルがありましたね。現在のインディ・レーベルのシーンはどう見ていますか?
DM:個性あるレーベルもあると思う。1978年の初めに、僕は最初のシングルを出して、同じ年に〈4AD〉もスタートした。僕たちはみんなラフ・トレードにシングルを置かせてもらって、毎週のようにお店に集まっていたね。当時はどこかのインディ・レーベルがそこでシングルを出すと、ガーっと一気に話題になって、気付けばみんなが自主レーベルをはじめていた。でもインディ・レーベルで溢れていたけれど、すべてが個性を持っているわけではなかったよ。簡単にレコードが出せたから、みんな飛びついたんだ。現在はネットによってそれがもっと簡単な時代になっただけで、状況は昔とあまり変わっていないじゃないかな。
■現在のUKシーンは元気だということですか?
DM:以前と変わらず元気だよ。いまはもっと多様になってきたと思う。もちろん、ずっと好調なわけではないし、波はあるよ。ただ、私はブリット・ポップのときはそんなに興奮しなかったんだ。私はシーンごとに音楽をみたりしない。国を意識することは好きじゃないからね。そういう意味で一般的に見ても、現在のUKは健全なんじゃないかな。ゴミもたくさん混じっているけどね。
■1991年かな、僕はロンドンの〈リズム・キング〉のオフィスを訪ねたことがあって……。
DM:そこが〈ミュート〉だよ(笑)。
■ええ、ですから、〈ミュート〉へ行ったことがあるんです。現在の〈ミュート〉もああいったサブ・レーベルを作って、よりカッティング・エッジなアーティストをリリースしていくという噂を耳にしたのですが本当でしょうか?
DM:実はもうやっているよ。それが〈リバレーション・テクノロジーズ〉だね。12インチとダウンロードのリリースを展開している。是非聴いてみてほしいね。
■どんなアーティストがいるんですか?
DM:キング・フェリックスのデビュー・シングルが最初のリリースだね。Sndのマーク・フェルも出している。
■日本人のアーティストのリリース予定はありますか?
DM:ノー・プランだね。でもドミューンのフェスに出ていたアーティストで面白いミュージシャンを見つけたんだよね。ギャルシッドっていう女性ユニットだよ。
■DJはよくやるんですか?
DM:いいかい、人生においては、いつかDJをする段階が訪れるんだ。〈ミュート〉をはじめる前は何年かDJをしていた。リゾート地でヒット曲をかけていたよ(笑)。私の好きな曲はかけられなかったけど、楽しい仕事だったね。15年くらい前には〈ノヴァミュート〉をやっているセスと一緒にやっていたよ。数年前には友人のテクノDJのリージェスがベルリンのベルクハインにDJとして呼んでくれた。すごく楽しい夜だったね。いまは年間10本くらいセットはやる。私にはエージェントがついているんだよ(笑)。そのお陰で今年は東京にも来れたから嬉しいね。またDJとして戻ってくるよ!
■はははは。あなた自身は踊るんですか(笑)?
DM:DJは踊らずに音楽を流すからDJなんだよ(笑)。すごく酔っ払ったときは別だけど。
■90年前後のダンスが空前のブームだったときにあなたはDJをしていたわけではないですよね?
DM:当時のダンス・ミュージックは面白いと思ったけど、やっていなかった。私にとって、レコードでDJするのは難しかったしね(笑)。いまは曲に専念できるようにソフトを使っているよ。
■人生でいろんなことを達成してきたと思うんですが、いまも持っている夢や目標があれば教えてください。
DM:〈ミュート〉は僕が〈EMI〉に売ってからそのままだったんだけど、4年前に買い戻してからインディに戻った。〈EMI〉との最後の時期はとてもフラストレーションが溜まっていたから、いまはレーベルの再建にとてもやりがいを感じているよ。ニュー・オーダー、アルカ、ゾラ・ジーザスなど面白いアーティストと契約して、日本では〈トラフィック〉から出ているしね。
■音楽以外では何かありますか?
DM:カメラが趣味なんだけど、写真家になりたい(笑)。カメラがよくても腕がないと意味がないから磨いていきたいな。写真には情熱をもって取り組める。この歳で世界をDJとして回るのも不思議な話だけどね(笑)。
■いまのUKの政治には関心がありますか? 先日は、スコットランドの独立の投票もあったし、UKのEU脱退問題とか、国が揺れ動いていますほね?
DM:もちろん政治は関心がある。スコットランドの独立は間違いだよ。もし自分がスコットランド人だったら独立がもたらす結果に疑問を抱くと思う。通貨はどうなるとか、EUとの関係とかね。スコットランドでは投票という民主的な形で独立しないという結果が出たわけだけど、独立の影響がでるUKの他の地域に投票権がなかったことは非民主的だったと思う。
EUに関しては、コンセプトは評価している。ヨーロッパでは歴史的にずっと戦争があって、それをもう終わりにする理念がEU(欧州連合)にあるわけだからね。だけどその方針に100パーセント賛成できるわけではない。非常に官僚的な国がEUの中心で動いていたりするからね。でもイギリスとしては連合に居続けて、中から制度を変えていってもらいたい。ヨーロッパでこれだけ平和が続いているのはEUの存在が大きいし、旧ソ連から独立した国々とも連合を組もうとする姿勢も肯定的に思っている。
取材:野田努(2014年12月29日)
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