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interview with Low Leaf

interview with Low Leaf

地球と生命への供物

──ロウ・リーフ、インタヴュー

質問作成・文:小川充    翻訳:髙橋勇人 写真:Kelly McEvoy   Jun 30,2015 UP

LOW LEAF
AKASHAALAY

Pヴァイン

JazzElectronic

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 2000年代よりロサンゼルス周辺の音楽シーンはおもしろく刺激的なサウンドを作り出してきたが、とくに近年はフライング・ロータスをはじめとした〈ブレインフィーダー〉勢の活躍がクローズアップされることが多い。フライ・ローも参加したケンドリック・ラマーの『トゥ・ピンプ・ア・バタフライ』、同作やフライ・ローの『ユー・アー・デッド』でも演奏したカマシ・ワシントンの『エピック』、サンダーキャットの最新EP「ザ・ビヨンド / ホエア・ザ・ジャイアンツ・ローム』など、今年の話題作もLAが中心だ。
 そんなLAから、またひとり注目すべきアーティストが登場した。フィリピンの血筋のロウ・リーフは、ハープ、ギター、ピアノなどを演奏し、またビートメイカー、シンガー・ソングライターとマルチな活動を行う若い女性アーティストだ。彼女の名前が知られるきっかけとなったひとつに、フライング・ロータスの2010年作『コスモグランマ』でのキーボード演奏がある。また、2014年はマーク・ド・クライヴ=ロウの『チャーチ』でハープを演奏し、キング・ブリットとの共作「ア・ライト・ウィズイン(A Light Within)」も出している。自身でも自主のEPやアルバムをいろいろ発表しており、2011年の『クリサリス(Chrysalis)』はLAのビート・シーンにも通じる要素を持つ作品で、たとえば〈ブレインフィーダー〉のティーブズなどに共鳴するところも感じさせていた。また、〈ロー・エンド・セオリー〉でもライヴをし、ラスGなどとロンドンの〈ボイラー・ルーム〉に出演するなど、LAのビート・シーンとはいろいろ繋がりも見られる。

 今回、日本デビュー作となるアルバム『アカシャーレイ』のリリースを機に、ロウ・リーフへのメール・インタヴューを行った。そこでLAシーンの話などもいろいろ訊こうと思ったのだが、どうやら彼女自身は「ある特定のシーン」にカテゴライズされることを望んでいないようだ。マーク・ド・クライヴ=ロウらとの共演にしても、LAという土地が作用したのではなく、彼女いわく「同じ原子が自然に惹かれ合った」とのこと。その出で立ちからしてそうなのだが、どうもスピリチュアルなライフ・スタイルを持つ人のようだ。また他者との比較で、LAで活動する中国人女性アーティストで中国版ハープにあたる古典楽器の古筝演奏家ベイ・ベイや、女流ハープ奏者の先人でフライング・ロータスの大叔母にあたるアリス・コルトレーンや、ドロシー・アシュビーなどの話題を振ろうと思ったのだが、そうしたことも避けられてしまった。彼女のアーティストとしてのスタンスとして、他者との比較や関係性で音楽を評価されるのではなく、あくまでオリジナルな存在としてありたい、そんな自身にこだわる姿が言葉の端々から伝わってくる。

■Low Leaf / ロウ・リーフ
LA を拠点とし、ハープ奏者、ギタリスト、シンガー、ビートメイカーとして活動する女性マルチ・アーティスト。フライング・ロータスの『コスモグランマ』にはキーボードで、マーク・ド・クライヴ=ロウの『チャーチ』にはハープで参加、最近ではラスG など、一時期を“LAビート・シーン”とのつながりを深める。2012年のセルフ・リリース・シングル「GiGA GAiA ‎」以降、いくつかの作品リリースによってゆっくりと注目を集めている。先般、2014年に発表されたものの、アナログ・メディアと配信でしかリリースのなかった作品『アカシャーレイ』のCD盤が日本盤としてリリースされた。

思いつくかぎりのどんな血統なんかよりも、木や植物や自然が私の同族のように最近は感じる。

ロサンゼルスのフィリピン系アメリカ人とのことですが、どのような環境で育ち、音楽を作るようになったのでしょうか?

ロウ・リーフ(Low Leaf、以下LL):ロサンゼルから30分ほど離れたヴァレイというところで育ったの。クラシック・ピアノを弾いていて、曲はギターで書いてテープレコーダーで録音していて、それからすぐにパソコンに移行したけど、それは私が16歳のとき。18歳のときには独学でビートを作っていたわ。

アメリカで活躍する東南アジア系の女性アーティストでは、マレーシア出身のシンガー・ソングライターのユナなどがいます。また、LAなどカリフォルニアにはフィリピンはじめ東南アジアやアジア系の人も多く、とくにフィリピン系ではターンテーブリストのDJ Qバートが有名です。あなたもそうしたコミュニティから出てきたアーティストと言えるのではないかと思いますが、自身ではルーツであるフィリピンという国について、どのような意識を持っていますか?

LL:まず私自身は神の創造物であり、この現世では一時的な身体の中に収められたものだけど、そもそも人間も動物も神聖な存在なのよ。自分の直接の先祖たちには申し訳ないけど、思いつくかぎりのどんな血統なんかよりも、木や植物や自然が私の同族のように最近は感じる。だって私はたしかに過去の出来事から生まれたわけだけれど、それに縛られているわけじゃないでしょ。私は曲を毎日書いていて、自分の本当のルーツは16世紀にスペインのフェリペ2世が、フィリピン諸島をそう名づけるよりずっと前の宇宙に拡張していくわけ。そして、ロサンゼルスでは人間や思想に多様性があるから、とても興味深い場所だと思う。自分はここに身を落ち着つけていて、周囲の人との繋がりも感じるんだけど、同時にどこか外国にいるような気分にもなる。

ハープ、ギター、ピアノなどを演奏し、またビートメイカー、シンガー・ソングライターとマルチな活動を行っていますね。ピアノは幼少時代のクラシックのレッスンで身につけたそうですが、それ以外はほぼ独学で身につけたのですか?

LL:クラシック・ピアノを習っていて、時間がたつとバッハやベートーベン、ショパンを弾くようになったの。ギター、ハープ、それとビート・メイキングの方法は、曲を作っていくなかで独学で身についたものよ。

その頃に影響を受けた音楽、好きだったアーティストなどは?

LL:う~ん、そのときにとくに聴いていた曲を限定するのは難しいわ。いままで私が聴いてきたものすべてが、自分の耳をかたちづくって拡張もしてくれたのよ。だから、特定の誰から影響を受けたというわけではないわ。


深く聴けば聴くほど、ひとりのアーティストと他のアーティストたちとのちがいは、けっしてシンプルなものじゃないってわかるでしょう?

ロサンゼルスの外部の人間が、よく「LAビート・シーン」とラベル付けしてしまう偏見や憶測についてどのように感じますか?

LL:それって外国とのインタヴューでよく訊かれるトピックなのよ。外からの視点だと、革新的でクリエイティヴな部分に目がいきがちで、そうしたことがたくさんあるように映るものなの。それでエレクトリック・ミュージックの音楽家をひとつにまとめてしまうことは仕方ないかなって思う。これはロサンゼルスに限らず、世界のどこでも同じだと思う。
そして、どんなジャンルでもいいんだけど、深く聴けば聴くほど、ひとりのアーティストと他のアーティストたちとのちがいは、けっしてシンプルなものじゃないってわかるでしょう? ジャズの世界だと、熟練した耳がなければプレイヤーのちがいが聴き分けられないようにね。同じような音を持ったアーティストが山ほどいることもたしかだけど、どんなタイプの音楽にも深く聴けるものって絶対にあるよね。たとえそれが、ある人たちからは嫌われているタイプのものだとしてもね(笑)。

あなたの作品を振り返ると、2012年の「GiGA GiGA」はエレクトリックなビート感が強く、同年の「アルケマイジング・ドーン(Alchemizing Dawn)」はフォークなどの要素が強いオーガニックな作品集で、2013年の「アンアースリー(UNEARTHly)」はスペイシーなエレクトロニカ・サウンド、2015年の新作『Diwata Mantraz vol. I』はメディテーション・ミュージックという具合に、作品ごとにさまざまなスタイルを見せていますね。どれもがあなたの世界だと思いますが、どうしてこんな多彩な音楽が生まれてくるのでしょう?

LL:いちばん新しいリリースが、いつもそのときどきの「私」にもっとも近い音なんじゃないかな。いまままでリリースしたものは、当時の私のスピリチュアルな成長の記録にすぎない。だからその意味では、それらは永遠に私の音だとも言えるし、もうそうじゃないとも言える。地球上で生きているかぎり、新たなヴァイブレーションが巻き起こり、そこで私は実験を繰り返して音楽を作っていくと思う。


地球上で生きているかぎり、新たなヴァイブレーションが巻き起こり、そこで私は実験を繰り返して音楽を作っていくと思う。

2014年に制作された『アカシャーレイ』は、“Umaga”に代表されるように、あなたの持つ民族的、土俗的な要素がもっとも色濃く表れたアルバムではないかと思います。また、“Bahay Kubo”や“2b1wd Eternal”などフィリピンのタガログ語で歌う作品もあり、アルバム・タイトルはサンスクリット語でエーテルを意味する「アカーシャ」と、タガログ語で捧げものを意味する「アレイ」から来ています。フィリピンに捧げた作品集とのことですが、それによって土着的なモチーフの作品が生まれてきたのでしょうか?

LL:『アカシャーレイ』はフィリピン人へのヴァイブレーションに満ちた貢物にしたかったの。2012年にフィリピンの森で超自然的な体験をしたんだけど、そのときから自分自身のフィリピン人としてのルーツが何なのかを明らかにしたいと渇望するようになって、そこからインスピレーションを得た。市街地から離れて探検をはじめてしまえば、森はとても神秘的な場所だったわ。だからアルバムはいまもまだ生きている、そしてもうこの世にはいない両方の先祖に捧げているの。

“Rise Up”や“2b1wd Eternal”は民族音楽やミニマル、そしてサイケやクラウト・ロックなどの要素がミックスされたユニークな作品です。カリフォルニアはそもそもサイケ発祥の地で、あなたにもそうした要素が自然に備わっているのでしょうか?

LL:それはちがう。サイケデリックな様式だとかドラッグなんかじゃ、私の音楽が生まれてくる場所のほんの表面にしか触れることができない。そこは天国のようなとても神聖な領域で、そこから私の音楽はインスパイアされて湧き出てくるのよ。そして、私もまだ完璧にそこへ辿り着いたわけでもない。

『アカシャーレイ』はフィリピン人へのヴァイブレーションに満ちた貢物にしたかったの。

 サイケについての質問は、サンフランシスコ出身のピーキング・ライツにも共通するものを感じたからだったのだが、ロウ・リーフのスピリチュアリズムは一般的なサイケ感覚とはまったく異なるものだということがわかるだろう。『アカシャーレイ』全体を見ると、民族的モチーフをエレクトロニック・サウンドに取り入れることに成功しており、近年の作品ではクラップ・クラップの『タイー・ベッバ』、モー・カラーズの『モー・カラーズ』、イベイーの『イベイー』などと同列で語ることができるものだが、もちろんロウ・リーフの中にはそんな観点など存在しないだろう。そして、“セット・ミー・フリー”や“アズ・ワン”はシンガーとしての魅力が詰まった曲で、とくに“アズ・ワン”にはポップなフィーリングが感じられる。“Kami Ang Mga Tao”の歌声はビヨークを感じさせるものだ。同世代の女性アーティストでは、ハイエイタス・カイヨーテのナイ・パーム、ソニームーンのアンナ・ワイズなど、ポップ性と実験性、それと牧歌性や幻想性を同居させる人がいるが、ロウ・リーフもそうしたユニークな個性を持つシンガーだ。“アセンション(Ascension)”にはサン・ラーを思わせるコズミックで混沌とした世界があり、最後は牧歌的な“ライフ・イズ・ピース”と、『アカシャーレイ』はロウ・リーフがいままで発表してきたアルバムの中でも、極めて幅広い表情を見せてくれる作品集となっている。また、自然や宇宙などをより意識した作品集で、その点ではシアトルのジーサティスファクションなどに近い雰囲気を感じる。

 いずれにしても、彼女はそうした比較を好まないので直接的な質問はしなかったが、そのかわりに最近よく聴くもの、インスパイアされるものとして、自然界の音、クリスタル・シンギング・ボウル(メディテーション用のお椀のような楽器)、ワールド・ミュージックなどを挙げていた。そして、次回作についてもすでに制作を進めているようで、〈フレッシュ・セレクツ〉から夏の終わりか秋の頭ぐらいリリースする予定とのこと。彼女いわくいままでで最高傑作になるとのことなので、そちらも期待したい。

質問作成・文:小川充(2015年6月30日)

Profile

小川充 小川充/Mitsuru Ogawa
輸入レコード・ショップのバイヤーを経た後、ジャズとクラブ・ミュージックを中心とした音楽ライターとして雑誌のコラムやインタヴュー記事、CDのライナーノート などを執筆。著書に『JAZZ NEXT STANDARD』、同シリーズの『スピリチュアル・ジャズ』『ハード・バップ&モード』『フュージョン/クロスオーヴァー』、『クラブ・ミュージック名盤400』(以上、リットー・ミュージック社刊)がある。『ESSENTIAL BLUE – Modern Luxury』(Blue Note)、『Shapes Japan: Sun』(Tru Thoughts / Beat)、『King of JP Jazz』(Wax Poetics / King)、『Jazz Next Beat / Transition』(Ultra Vybe)などコンピの監修、USENの『I-35 CLUB JAZZ』チャンネルの選曲も手掛ける。2015年5月には1980年代から現代にいたるまでのクラブ・ジャズの軌跡を追った総カタログ、『CLUB JAZZ definitive 1984 - 2015』をele-king booksから刊行。

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