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interview with Roots Manuva

interview with Roots Manuva

ぐいぐいやる

ぐいぐいやる──ルーツ・マヌーヴァ、インタヴュー

   訳:原口美穂 photo by Shamil Tanna   Dec 14,2015 UP

 彼女は俺の心を開き
 俺をウィードのように巻いて吸い
 そして、もぬけのからにする
“ミー・アップ!”


ROOTS MANUVA
Bleeds [帯解説・歌詞対訳 / ボーナストラック2曲収録]

BIG DADA/Beat Records

Hip HopReggaeUK Soul

Amazon

 あの爆音、あのベース、あのバリトン、そして、あのヘビー・プレッシャー(重圧)……
 デビュー作『ブランド・ニュー・セカンドハンド』のリリースから16年、ロドニー・スミスが最新アルバム『ブリーズ』と共に帰ってきた。このアルバムは、1999年以来6枚目、もしくはコンピレーション・アルバムの『ダブ・カム・セイヴ・ミー』、『オルタネイトリー・ディープ、スマイル&ヴァージョン』、『ダッピー・ライター』をカウントすると9枚目の作品となる。ロドニー・スミスとは、レフトフィールド、ゴリラズのアルバムに参加した男であり、ビートルズ『イエロー・サブマリン』の自身のヴァージョンを発表した男であり、そして、ニュー・アルバムでバリー・ホワイトとマックス・リヒターの両方をサンプルしている男のことだ。

 UKでは、ディジー・ラスカルがヒットを放ち、ワイリーがドンと構え、クレプト&コナンが大西洋をまたぎ、JMEは暴走、そしてストームジーとスケプタが勢いを増している。そんな中、ルーツ・マヌーヴァは崇高とリスペクト、そしてルーツを兼ね備えている。ルーツ・マヌーヴァとはroots manoeuvre 、つまり、ルーツを巧みに操る男ということ。
 その名が全てを語っているのだ。自分よりも8年先にデビューしたマッシヴ・アタックのように、ルーツ・マヌーヴァはサウンドシステムの精神を引き継いでいる。スラム街で育まれ、あらゆる音楽がその周辺に漂うサウンドシステム。ジャマイカン・ファミリーの歴史におけるその精神と崇高の全てが、彼が放つ音とラップに注ぎ込まれているのだ。

俺はいまだに、“ジャマイカ生まれのイギリス人としての自分とは何か”を定義しようとしているし、それがいったい何なのかを追求している。アメリカのラッパーたちは、自分たちが一体どんな存在なのかを即座に答えることが出来るだろう。例えばカニエ・ウエストは“俺は中流階級のパプテスト派だ”と答えると思う。でも俺は、自分が労働者階級のペンテコステ派だと明言は出来ないんだ。何故なら、俺は教会に行かないからね。

 「ひとりひとりバックグラウンドが違うだけで、俺たちは皆、同じスピリットのなかに生きているんだ」
 ゆったりと腰掛け、サウスロンドンの冬の空をサングラス越しに見上げながら彼は言う。「俺はいまだに、“ジャマイカ生まれのイギリス人としての自分とは何か”を定義しようとしているし、それがいったい何なのかを追求している。アメリカのラッパーたちは、自分たちが一体どんな存在なのかを即座に答えることができるだろう。例えばカニエ・ウエストは“俺は中流階級のパプテスト派だ”と答えると思う。でも俺は、自分が労働者階級のペンテコステ派だと明言はできないんだ。何故なら、俺は教会に行かないからね。でも同時に、ペンテコステ派の教会に通っていたバックグラウンドはある。自分が一体何者なのかを定義出来るようになるには、あと15年はかかるだろうな」

 瞑想的でありながらも自信に満ちた歌詞を通して、ロドニーは、彼が与えられるもの、もしくは、自分が与えることを許されたものを人びとに提供している。そして大抵、それはありふれた風景の中に潜んでいるのだ。彼は“敢えて”お茶目でワルな部分を前面に出しながらも魅力とユーモア溢れるラッパーであり、皆を招き入れつつも“俺を怒らせるなよ”と警告している。その内容は、普遍的でありながらもパーソナルなものでもあるのだ。パトワによって暗号化された言葉の数々は、意識の流れとして届けられる。懺悔、信仰、信念、正義、救済、贖罪、倫理、誘惑、疑念、不正、罪……その全てがニュー・アルバムという1枚の布に織り込まれているのである。
 
 「この作品は、経験の数々が織りなす多層構造。ダークなユーモアがありながらも明るいユーモアもあり、悲劇もあるが安息もある」と彼は語る。「俺は痛みを表現するのが好きなんだ。痛みを感じるというのは良いことだし、痛み以外にも喜びや愛だって表現されている。俺はライターだから、ただただ書き続けるんだ。でも、その書いている内容が、一体どこから来たものなのかは俺にはわからない。大抵の場合、自分とその内容に繋がりさえ感じないんだ」

 これまでにリリースされたアルバムからのトラックを聴いてみよう。 “ウィットネス(ワン・ホープ)”、もしくは、まるでペンテコステの教会でダブル・ブッキングされてしまい、同じ空間の後ろでドレクシアが同時にプレイしているような“レット・ザ・スピリット”のドクドクと脈打つベース音。そこには光と暗闇、昼と夜といった感情のミックスとコントラストが常に存在し、これでもかという重低音、深いローエンドの周波数がそれを支えている。
 「俺はいまだに「ダブ・カム・セイヴ・ミー」を聴くんだ」
 自身の過去の作品を聴くかという質問に、彼はこう答えた。「昔、『ブランド・ニュー・セカンドハンド』が大好きな女友だちがいて一緒にアルバムを聴いていたんだけど、聴くたびに最高だと思ったね。でも彼女と一緒に時間を過ごさなくなってから、あの素晴らしさを感じることができずにいるんだ(笑)」

俺は運が良かったわけじゃないんだ。働いて働いて、働きまくってきた。いま手にしているものは、得るべくして得たもの。何をするか、いくら稼ぐかは問題じゃない。凛とした態度で、尊敬の念を持ちながら働くことが大切なんだ。適当にダラダラとやっていれば、リスペクトなんてこれっぽっちも得られないさ。

 最新アルバムのクリエイティヴ・チームには、フォー・テット、ウィズ・ユー(スウィッチ)、マシンドラム(日本盤)といったメンバーが名を連ねている。フレッド・ギブソンもそのひとりであり、彼は、ブライアン・イーノ/カール・ハイドのアルバム『サムデイ・ワールド』への貢献でもっともよく知られている。
 「ルーツ・マヌーヴァ(というプロジェクト)は、ロドニー・スミスだけで成り立っているわけではない」と彼は言う。「このレコードには、俺のヒーローたちが集まっているんだ」
 〈On-U sound〉との繋がりがアルバムによりまとまり感を与えているのには頷ける。プロジェクト・マネージャー的役割を果たしたエイドリアン・シャーウッドは、多くのトラックにおいて、タックヘッドのキース・ルブラン、スキップ・マクドナルド、ダグ・ウィムビッシュ(“俺はただのベース・プレイヤーではない。俺はサウンドシステムなんだ”と自身のウェブサイトで語っている)のサウンドをレコーディング。このトリオは、〈Sugar Hill Records〉からリリースされた「ザ・メッセージ」と「ホワイト・ラインズ」でも共演している。

 「エイドリアン・シャーウッドは、このアルバムの制作担当だった」と彼は説明する。「俺は14トラックのアルバムを作ろうと提案したんだ。でも彼らが、“ダメだ。14トラック・アルバムは作らない。お前が作るのは10トラック・アルバムだ。気持ちはわかるが、そうした方がいい”と言ってきた。結果、UKではアルバムに10曲が収録されて、日本盤にはそれに2曲が追加されたんだ」
 「アルバムを聴いたとき……」と彼は続ける。「作品としては仕上がっていた。でも、あれは俺のチョイスではなかったんだ。もし俺に決定権があれば、15曲は収録されていただろうな(笑)」
 
 「アルバムはワンテイクでレコーディングした。天才だよな(笑)。それに、何よりも満足したのは、ローファイに仕上げたこと。このアルバムはなんというか……」
 ここで彼は一旦口を休め、微笑み、セールスマンの声を真似て、両腕を大きく広げた。「“スタジオへようこそ。ここで何が出来るのかをお見せしましょう! この上下にスライドする78チャンネルをご覧あれ。0.17秒の箇所のステレオ・エフェクト、お次にコーラスの最初の箇所に入ってくるエフェクトをご試聴下さい”。座っていられるから良いんだ。俺はただ、自分が好きなサウンドが出てくるまで待っていればいいだけだからね」

俺のひい爺さんが俺たちに何を望んでいたかっていう話をいまでも聞くんだ。俺の爺さんが俺たちに何を必要としていたかという話も聞く。俺のお袋が1年半前に亡くなったから、いろいろな話が出てきたんだ。おかしな話だよな。母親が死んでから、生きていたとき以上に彼女を知るようになった。

 アルバムは、“ハード・バスターズ”の「Most broke cunts are all true bastards. And most rich cunts are even more bastards(金のないアホどもの殆どが真の出来損ない。そして金持ちのアホどもの殆どは、それにも増して出来損ない)」という歌詞ではじまり、「この曲は号泣のツールキットだ」と彼が微笑みながら語る“クライング”に続く。
 そして3曲目、フォー・テットがプロデュースした“フェイスティ2:11”で、リスナーは奇妙で風変わりな、そして不思議な世界に引き込まれていく。この曲を、彼は「“ウィットネス(1ホープ)”の従兄弟のようなトラック」と表現している。「ボートレース」という言葉を優雅にリピートするコーラスが特徴的なこの曲では、「フロウェトリー」という動きの流れが表現されている。スラング、ジャマイカ語、英語という遊び場を言葉が駆け回り、文化を絡め、つなぎ合わせているのだ。「これはラップについてのラップで、俺はラップに関してラップするのが好きなんだ」と彼は言う。「フェイスティ」は、ジャマイカ語のスラングで無礼で横暴な人を意味する。
 「俺には、スペインに住んでいる息子がいるんだ。今朝彼と話をしていた時、息子と話す時の言葉に気をつけなければと本気で思った。スラングを使って話したら、息子は俺が何を話しているのかさっぱり分からないだろうからね。彼に理解してもらうには、言葉をハッキリと発音しなければならない。一方で、イギリスに住んでいる長男に対しては、自分の両親が俺に話していたのと近い話し方で会話するんだ。イギリス訛りをより多く使う。息子はあまりその訛りを理解してはいないけど、俺は理解出来るようになって欲しいんだ」
 “ドント・ブリーズ・アウト”の歌詞には美しい感受性と楽観性が含まれ、“ワン・シング”では「When I shake my tambourine, I shake that ever so keenly/I do my best to get a Lamborghini/My girlfriend love snakeskin bikinis(タンバリンを振る時は、精一杯振りまくる/ランボルギーニを手にするためなら何だってやる/俺の彼女はヘビ皮のビキニが好きなんだ)」という笑いを誘う歌詞もあり、言葉のリズムが、ペンテコステのタンバリンのピュアな精神と消費者主義の増強した誘惑を結びつけている。
 「ランボルギーニは欲しいよ」と笑いながら彼は言う。「でも、100万ポンド貯まるまでは買わないだろうな。そんな大金程遠い(笑)人生で100万ポンドなんて手にすることはないだろうし。金ができたら絶対に買うけどな」
 微笑みながら彼は続けた。「でも、必要ってわけじゃないんだ。俺はそんな考え方はしない。自分が得てきたもののために仕事がしたいし、それを得るために仕事をしてきた。俺は運が良かったわけじゃないんだ。働いて働いて、働きまくってきた。いま手にしているものは、得るべくして得たもの。何をするか、いくら稼ぐかは問題じゃない。凛とした態度で、尊敬の念を持ちながら働くことが大切なんだ。適当にダラダラとやっていれば、リスペクトなんてこれっぽっちも得られないさ」

息子たちといるとき、俺がラガ・ミュージックを聴いていると、あいつらが毎回「親父、頼むから俺たちの言語の音楽をかけてくれない?」と言ってくる。いつも文句を言っているんだ。「何で俺の両親はこんなダサい音楽が好きなんだろう!?」ってね。

 「俺のひい爺さんが俺たちに何を望んでいたかっていう話をいまでも聞くんだ」と彼は続ける。
 「俺の爺さんが俺たちに何を必要としていたかという話も聞く。俺のお袋が1年半前に亡くなったから、いろいろな話が出てきたんだ。おかしな話だよな。母親が死んでから、生きていたとき以上に彼女を知るようになった。お袋若かったときの話、彼女が何をしてきたかという話を聞いた。苦労したけど、彼らは同時に人生を楽しんでいたんだ。お袋はいつも、俺が彼女ほど苦労というものを理解していないと言っていた。でも俺は、彼女が素晴らしい人生を送っていたということを知ったんだ。俺と違って、彼女にはポケットマネーがあったからな(笑)
 俺のひい、ひい、ひい爺さんは、運良くキューバへ引っ越した。彼は、ジャマイカから初めてキューバへ行ったジャマイカ人のひとりだったんだ。そこでせっせと働いて、金を稼いだ。俺たちの出身地からすると、その場所はかなり田舎で、何の変哲もないところだった。でも、いま自分のルーツを振り返ると、彼らは昔よりも断然裕福なんだ。いまや、俺の家族は何軒か店を持ってるんだぜ! すごいよな。店のオーナーなんだ。なかには違法なことをやってる親戚もいるけど、そのことに関してはあまり話さないでおこう(笑)」

 アルバムのラスト・トラック“ファイティグ・フォー”を、彼は「家庭内での葛藤、家族の人間関係」についてだと表現している。何度か結婚し、息子も数人いる彼にとって、家庭内での葛藤は、“ファイティング・フォー”の境界を余裕で超えているのだ。
 「息子たちといるとき、俺がラガ・ミュージックを聴いていると、あいつらが毎回“親父、頼むから俺たちの言語の音楽をかけてくれない?”と言ってくる。いつも文句を言っているんだ。“何で俺の両親はこんなダサい音楽が好きなんだろう!?”ってね」
 しかし彼は、息子たちがルーツ・マヌーヴァとして活動する父親を誇りに思っているのは知っている。「(ルーツ・マヌーヴァの音楽を)好きは好きなんだ。でも、あいつらは、いまのままじゃ物足りないらしい。“親父、そろそろアデルとコラボしたほうがいいぜ。デイヴィッド・ゲッタとか! 期待してるんだから、頼むよ!”だってさ」
 これこそ“ヘビー・プレッシャー”(重圧)だ。


文:ジョン・レイト(2015年12月14日)

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