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Interview with METAFIVE

Interview with METAFIVE

ハイブリッド&メタ!なスーパー・グループ

──METAFIVE(TOWA TEI、小山田圭吾、砂原良徳)、 インタヴュー

聞き手・文:北沢夏音    Jan 22,2016 UP

質問:元をたどればここにいるO/S/Tの皆さんが……。
TOWA TEI:吸収合併されました。


META
METAFIVE

ワーナーミュージック・ジャパン

Synth-PopElectro FunkYMO

Amazon

 昨年、ele-king編集部からMETAFIVEの取材をオファーされたとき、ぼくが手にしていた情報は、歌詞やクレジットなどの記載が皆無なアルバムの音源と、高橋幸宏、TOWA TEI、小山田圭吾、砂原良徳、ゴンドウトモヒロ、LEO今井からなる6人編成のバンドであるという、この二点のみだった。
 何も考えずに音源を再生した瞬間から、1曲目“Don’t Move”のインパクトにまずやられ、2曲目“Luv U Tokio”の遊び心いっぱいの仕掛けに思わず笑みがこぼれ、収録された12曲をすべて聴き終えたあとの心地よい興奮は、期待をはるかに超えていた。
 その期待値の超えかたは、ジョージ・ミラー監督やジョルジオ・モロダーといった、老境に入って久しいはずの巨匠が放った破格のカムバック作(前者は30年ぶりのマッドマックス・シリーズ最新作『マッドマックス/怒りのデス・ロード』、後者はソロ名義としては30年ぶりのニュー・アルバム『Déjà vu』)から受けた衝撃や驚嘆、あるいはデヴィッド・ボウイが癌と闘いながら珠玉の復帰作『ザ・ネクスト・デイ』(13年)に続いて、彼らしく尖鋭的な新作『★(ブラックスター)』(16年)を遺し、鮮烈な印象とともにこの世を去ったことへの深い感動とはまた別の意味合いで、伊達に年齢を重ねていない者たちの底力がどれほどのものかを思い知らせてくれた痛快事であった。
 平均年齢47歳のMETAFIVEは、日本のみならず世界のポップ・ミュージック史に大きな足跡を残した偉大なるバンドのメンバーを含む、一騎当千のミュージシャンの集合体である。楽曲制作に関してはプロダクションからポスト・プロダクションまでの全工程を担えるプロデューサー集団でもあり、ヴィジュアルの表現にも長けている。各人各様の才能と個性が見事に融合したMETAFIVEには、キャリアを重ねた者が自己の可能性をさらに拡張するための叡智がそこかしこに散りばめられている。そして、その進化の秘訣は、「メタ」という本作のタイトルにも使われたキーワードに集約される。
 “meta-”はギリシャ語に由来する接頭辞で、「後続」;「変化・変成」;「超越」「高次の」「抽象度を高めた」などの意を表わす。
 このバンドの言わば発起人となった高橋幸宏によると、METAFIVEというネーミングの由来は、“メタモルフォーゼ(変身、変態)”の「メタ」と、かつて細野晴臣がYMOのテーマとして提唱した“メタ(超)・ポップス”の「メタ」から来ているという。ちなみにYMOの2ndアルバム『ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー』(79年)の仮タイトルは、「YMO の音楽は超突然変異のポップスである」という意味合いを込めた『メタマー』であった。

 これからの世の中は、ひとまず表面的なものは全部捨てちゃって、人間が変わってゆかなけりゃ、解決しないような危機感がある。だれも先が読めないし、否定的な世の中だ。そんなときに、売れればいいような音楽ばかり作っていたら、まず自分がダメになってしまう。
 イエロー・マジック・オーケストラのテーマはメタ(超)・ポップス。
トミー・リピューマ(※YMOと契約を結んだアメリカのA&Mレコーズの名プロデューサー)に、プロモート用のメッセージを送ったんだ。内容は、「自分としては、この音楽をメタ・ポップスと呼びたい。われわれの目標は、メタマー(変形態)」。
──細野晴臣『レコード・プロデューサーはスーパー・マンをめざす』(79年/CBS・ソニー出版)

 細野晴臣は、この「メタマー」というテーゼについて、「ディーヴォの逆なんだ」と前掲書の中で語っている。
 1972年にアメリカのオハイオ州ケント州立大学(※70年5月4日、同大学構内で開かれたヴェトナム反戦集会の参加者に対して、警備に就いていた州兵が発砲し、死傷者が出るという「May 4th事件」が発生。それをきっかけにニール・ヤング作詞・作曲によるクロスビー、スティルス、ナッシュ&ヤングの名曲「オハイオ」が生まれたことで知られる)の美術学生、マーク・マザーズボーとジェラルド・V・キャセールが出会い、彼らが中心となって74年に結成されたディーヴォ(DEVO)は、「人間は進化した生き物ではなく、退化した生き物だ」という人間退化論に基づき、“De-Evolution”を短縮した“DEVO”をバンド名に冠し、コンセプチュアル・アートとしての音楽活動を開始した。
 ディーヴォはエレクトロニクスを取り入れたバンドの元祖的存在であり、クラフトワークとともにYMO に大いなるインスピレーションを与えたが、METAFIVEのメンバーをつなぐ接点となったロキシー・ミュージックやトーキング・ヘッズ、デヴィッド・ボウイらと、ブライアン・イーノを介してリンクしているといえる。つまりディーヴォの人間退化論を裏返した新たな人間進化論こそ、METAFIVEがめざす地平であり、しかもそれがけっして単なる理想論ではないことは、今作『META』の成果をみれば明らかである。

 《常に変化してゆくこと。ひとつひとつがすぐれていて、しかも際限なく、どんどんよくなってゆく。可能性が広がってゆくっていうのが、このグループ全体のコンセプトなんだ。このコンセプト以外に、レコーディング前に決まっていたのは、3人のメンバーが、それぞれ、3曲ずつ作品を書くこと、そして、レコーディング・スケジュールだけだった。》

 《考えてみたんだけど、音楽の魔術というのがあるんだね。もちろん、音楽だけで生きてゆくことはできないんだけど、人間の潜在意識に働きかけて、緊張させたり、悲観させたり、そういう現実的な力があることを思い出した。(中略)
 つきつめてゆくと、超感覚的なものを身につけてゆくようにしないと、ダメだと思った。すると、いまの自分じゃダメだ。病気じゃダメなんだ。歌を歌うにも、病気じゃ、それが聴いている人にうつってしまう。
 それくらい、音楽には力がある、と思ったんだ。だから、自分が健康なだけじゃダメで、もっと強い波動を持たなけりゃと思ったんだ。他人に売る曲を書くにも、無理に作ったんじゃなくて、ほんとうに自分の中から出てきたもの。何もいわなくても、必然的に人が動かされる、そういうものを作ろう。まず、そういうものを底辺に持とうと思った。》

 前掲書から引用した細野晴臣の思弁は、時を超えてMETAFIVEのメンバー全員の意識とおそらく共振するものであろうし、METAFIVEというスーパー・グループがYMOの根幹にあったコンセプトを引き継ぎ、発展させようという想いを内に秘めていることも、想像するに難くない。
 METAFIVEがYMOの再現ライヴを起点に誕生したことは、メタフィクション(※小説というジャンルそのものを批評する小説)のように「何かを取り込んだ何か」や「何かについての何か」といった自己言及的な方法論を用いているという意味で、最初からメタ的なはじまりかたであったが、理想的なメンバー構成のもと、正しき時と場を得ることで目覚めた理力(フォース)は、驚くべき「メタ(超越する、高次の)進化」をもたらすことを、今作で見事に証明してみせた。
 イエロー・マジック・オーケストラというバンドは、細野晴臣の構想によれば「ブラック・マジック(黒魔術)とホワイト・マジック(白魔術)、善と悪の対立ではなく、トータルな統合された世界」をめざすところからはじまったが、地球全体が当時危惧した以上の混乱に覆われ、文字通り存亡の危機に瀕しているいまとなっては、METAFIVEも、そしてぼくらも、「トータルな統合された世界」の実現は、少なくとも現実世界においてはほぼ不可能であろうというところからはじめざるをえないのではないか。
 ここにきて、ディーヴォの人間退化論がいよいよ真実味を帯びてきたといえるが、何が善で何が悪なのか判断不能な世の中においても、METAFIVEが示してくれたように、ひとりひとりが散り散りばらばらになるのではなく、有機的につながることで超えられるものは確かにあるのだ。
 今作を何度もリピートしながら原稿を書いていると、高揚のあまり、前説の範疇を超えて、話がスター・ウォーズ・サーガのようにめったやたらに広がってしまう。そろそろMETAFIVEの最年長(高橋幸宏)と最年少(LEO今井)の中間に位置する3人のメンバー、TOWA TEI、小山田圭吾、砂原良徳とのミーティングに移ろう。

TOWA TEI:幸宏さんが僕の家がある軽井沢にちょくちょく来て、いっしょにYMOのレコードを聴いたりするんです(笑)。
小山田:幸宏さん、YMO聴くの好きだよね。

METAFIVEのデビュー・アルバム『META』がいよいよ2016年1月13日にリリースされます。元をたどればここにいるO/S/T(Oyamada/Sunahara/TEI)の皆さんが……。

TOWA TEI(以下、TT):吸収合併されました。

M&Aの産物なんですね(笑)。では、その辺りから訊いてみたいと思います。お三方は、O/S/T名義で高橋幸宏さんのトリビュート・アルバム『RED DIAMOND 〜Tribute to Yukihiro Takahashi』(12年)に参加していますが 、O/S/Tはどのような経緯で結成されたのでしょう?

TT:結成とかそういう感じじゃないよね(笑)。はじめようとしていたのは、もう10年くらい前じゃない?

砂原良徳(以下、砂原):そうだね。オフィシャルなバンドっていうより、組合的な……っていうかレジスタンス的なもの(笑)。

TT:個人商店の組合ですよね。「3人で何かやれたらいいね」って10年くらい言ってたんですよ。幸宏さんにO/S/Tで(リミックスを)やってくれって頼まれる前に何かやったっけ?

砂原:やってないんですよ。でもテイさんのソロとかではあったよね。

TT:そうだったね。ふたりに「なんかやってよ」って声をかけて、「As O/S/T」として曲を出してたね(“SUNNY SIDE OF THE MOON”as O/S/T、6thアルバム『SUNNY』収録/11年)。

それが幸宏さんのトリビュートでいよいよ実体化されたわけですね。

砂原:打ち合わせとかやったよね。テイさんの事務所へ行ってさ、どういう風につくろうかって。

小山田圭吾(以下、小山田):あー、リミックスのときね。何を話したかあんま覚えてないけど。

楽曲は自分たちで選んだのですか?(“Drip Dry Eyes”O/S/T with Valerie Trebeljahr [from Lali Puna])

TT:そうですね。

ミーティングでは3人の意見は近かった?

TT:うん。でもぶっちゃけ、あれはまりんがたくさんやってたよね。それを僕と小山田くんで「いいね!」って言ってただけだし。「これもいいけど、ひとつ前のヴァージョンの方が良かったかな」とかね。

砂原:そんなことないよ(笑)。

TT:でも“Drip Dry Eyes”を選んだのはこのふたりで、僕じゃないんですよ。僕が提案したら決まっちゃいそうだったからね。O/S/Tでいつか6曲くらい作ろうと思っていました。そのくらいの曲数でもクラフトワークの初期を考えればアルバムといえるかなと。そうやって話していたんですが、全然具体化していなかったんです。まりんは「小山田くんは歌わない方がいいね」って言っていたよね。

砂原:そっちの方が3人でやりやすいと思ったんだよね。毎回フィーチャリングで誰かに歌ってもらって、僕ら3人がバックでやるのを考えてた。

TT:最初は誰に歌ってもらうか決まっていなかったんですが、幸宏さんとLEO(今井)くんに歌ってもらう方向で考えていました。幸宏さんからLEOくんとゴンちゃん(ゴンドウトモヒコ)とO/S/Tの3人で何かやろうと言われた時点で、「あ、吸収合併されたな」って思いました。それで良かったと思います。

その6人になってから最初の音源は、小山田くんがサントラを担当した『攻殻機動隊ARISE border:4 Ghost Stands Alone』(14年)のED曲、“Split Spirit”ですよね?

TT:そうですね。あの頃は、まだ名義は高橋幸宏&METAFIVEだったかな。

そのときの音源制作のやりかたは、最初に小山田くんがラフなデモを作って、みんなで回して、最後に小山田くんと幸宏さんとLEOくんとゴンドウさんで歌入れをしたという流れだったと。

小山田:うん。そういう意味では、バンドというよりは、まだ僕のプロデュースっぽかったかな。僕が言い出しっぺだったしね。だから一応、自分でやんなきゃなと。

ライヴも何回かやって、バンドが温まってきたから、フル・アルバムを作ることになったのですか?

砂原:最初はライヴだけをやっていて、そこからじょじょに曲も出来上がっていくんです。最後にライヴをしたのが去年(14年)の11月で、科学未来館というところなんですが、そのときは演奏も良かったし、映像も良かった。ライヴを録音してもらったんですけど、その状態もすごく良かったんです。だから、このままじゃもったいないと言いつつ、そこから活動をしていなかったんですけど。

TT:それで、その後の2月にメシ会を開くんです。

砂原:そこで誰かがアルバムを作ることを決めたんだよね。でも誰がアルバムを作るって言い出したのか覚えてないんですよ。

TT:水面下で幸宏さんのマネージャーの長谷川さんが動いているという話は聞いてたから、幸宏さんがそう考えていそうだとは思っていました。(当初の名義は)高橋幸宏&METAFIVEだったけれど、そこで幸宏さんは自分をM&Aして、6人のバンドにした。だからMETAFIVEに関しては幸宏さんありき、なんですよね。

砂原:ライヴをやるにしてもレパートリーがほとんどなかったので、YMOのカヴァーからはじめたんですよ。だからそこで持ち曲がほしいなと思っていました。

小山田:あとはテイさんのソロで、幸宏さんが歌った流れもあったよね。“RADIO”(TOWA TEI with Yukihiro Takahashi & Tina Tamashiro、7thアルバム『LUCKY』収録/13年)とか。

TT:そうだ。幸宏さんが“RADIO”をやりたいって言ってくれたんだ。(幸宏さんは)自分のコンサートでこの曲はやらないから、小山田くんがギターを弾いてこのメンバーでやれたらいいなと。最初は僕のヴァージョンでやっていたけど、途中からはまりんのリミックスを土台にして、ゴンちゃんのアレンジ、小山田くんのギター、LEOくんの歌を入れたらだいぶ変わった。

小山田:“Turn Turn”とかはテイさんがやっていたりするから(※細野晴臣と高橋幸宏によるSketch Showが02年に発表した1stアルバム『AUDIO SPONGE』に収録されたオリジナル・ヴァージョンの編曲にテイトウワが参加、07年の『細野晴臣トリビュート・アルバム-Tribute to Haruomi Hosono』にコーネリアス+坂本龍一によるカヴァーを収録)、いろんな曲が混じっているなかでMETAFIVEへの伏線があったりする。

その後、まとめ役は幸宏さんからテイさんへ移ったとか?

TT:全然そんなことないですよ(笑)。2番目に年長というだけで、幸宏さんとやりとりすることもあります。(幸宏さんが)僕の家がある軽井沢にちょくちょく来て、いっしょにYMOのレコードを聴いたりするんです(笑)。

小山田:幸宏さん、YMO聴くの好きだよね。

砂原:昔は聴けなかったと思うんだけど、時間が経ったから大丈夫なのかな。

TT:いつもは家でターンテーブルを2台触ることってめったにないんですよ。でも、(YMOの)“Ballet/バレエ”をかけて、幸宏さんの曲をそこに繋いだりとかしてました(笑)。けっこう面白かったです。プロダクションに関しては、METAFIVEの推進力はまりんだと思いますね。

砂原:いやいや。みんなが推進力になっている部分もある。でもLEOくんの存在はけっこう大きいですね。やっぱり若いやつが先頭を走るというか。そこにみんなが引っ張られているのもあると思うんですよね。

TT:LEOくんはプロダクションもやるし、詞も書けるからね。

聞き手・文:北沢夏音(2016年1月22日)

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