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interview with Yo Irie

interview with Yo Irie

新世紀リズム歌謡伝

──入江陽、インタヴュー

聞き手:磯部涼    構成:編集部   Jan 29,2016 UP

シンガー然として入り込んで歌うわけではなく、むしろ……ぜんぜん入り込めないというか。だから、歌っている自分につねに違和感を感じていますね。

弾き語りではなくハンドマイクで歌うことには慣れてきましたか?

入江:最初よりは慣れてきましたね。2月、3月のレコ発ではもっと慣れた姿を見せられるかと思います(笑)。だいぶ楽しめる感じにはなってきました。

入江さんはキャリアの途中でシンガーになったわけじゃないですか。先程、ポピュラーなものを目指しつつ、隠しきれないオルタナティヴさがあるという話をしましたけど、実際、ナチュラル・ボーン・シンガーというわけではない。歌がすごくうまいので、ついそう思ってしまうのですが。

入江:楽器ばかりやっていたので、本当は楽器だけでやりたいんですけど、歌ったときのほうが反応がよかったので、そこは需要に合わせていこうと。自己啓発本的に言うと「置かれた場所で咲きなさい」的な(笑)。好きなことより、需要があることをしなさいという。そういう感じでやっているので、シンガー然として入り込んで歌うわけではなく、むしろ……問題かもしれないですけど、ぜんぜん入り込めないというか。だから、歌っている自分につねに違和感を感じていますね。

内面を掘り下げたり、文学性にこだわるのではなく、ライミングで遊びながら歌詞をつくるのもそういった理由からですか?

入江:それはありますね。自分の歌い方で超シリアスな歌詞だと聴いていられないというか(笑)。「歌は本格的なのに、歌詞にはこんなのが入っているの?」っていうのが楽しいというか。

でも、リスナーとしてはディアンジェロみたいなオーセンティックなものも好きなんですよね?

入江:たしかに矛盾してますね。でも、ディアンジェロみたいになりたかったら筋トレをしているハズですし(笑)。正直、ブラック・ミュージックはそんなに掘っていないというか。ディアンジェロは本当に好きだけど、ブートまでチェックしたりというわけではなくて、ある曲のある部分の展開が好きという感じなので。……よくも悪くも浅く広くが好きなところがあって。ラップもそうですし。

ラップに関して言うと、昨年、菊地成孔さんに歌詞についてのインタヴューをした時、「ポップスとラップは言葉の数が一番の違いですよね。僕が目指すのはその二つを融合していくことで、ポップスにおける歌のフローや音程が、ラッパーのライムと同じくらいの細かさで動いていくということが、ネクスト・レベルじゃないかなと思っているんです。今のポップスのメロディって変化が大らかじゃないですか。でも、ラップのフローはもっと細かいですよね。で、ジャズのアドリブなんかも細かいわけで、ああいう感じでラップにもうちょっと音程がついたものというか……そうやって歌えるヴォーカリスト、そうやって作詞できるソングライターがこれから出てくるんじゃないかと」と言っていました(SPACE SHOWER BOOKS、『新しい音楽とことば』より)。入江さんの歌はそれに近いというか、最近のラップが歌に寄っていく一方で、入江さんの場合は歌からラップへと寄っていっていますよね。

入江:それは自覚的にしていたところはありますね。

それは、やはり、ラップが構造的に見ておもしろいから?

入江:構造や技術に興味があるのはその通りですね。今後はルーツというか、自分がどういう音楽が好きだからどんな音楽をやるのか、ということにも取り組みたいんです。でも、『SF』に関しては「そのときに思いついたこと」という美学でやっていました。無意識的に生じているものの方に可能性を感じているというか。

ルーツは、じつはクラシックが大きいですね。

では、自身のルーツは何だと思いますか?

入江:ルーツは、じつはクラシックが大きいですね。大学のアマチュア・オーケストラでオーボエを吹いていましたから。ただ、それを歌で掘っていっても、“千の風になって”みたいになってしまうので避けたいなと(笑)。

アルバムは打ち込みが中心ですが、オーケストラを使ってみたいと思ったりもする?

入江:生楽器のアンサンブルを使いたいとは思いますね。『SF』の反動でいま聴いているものがキップ・ハンラハンとかなんです。

キップ・ハンラハン! 意外ですけど、いいですね。ちなみに、現在、バンドはサックスやトラックに大谷さん、ギターに小杉岳さん、ベースに吉良憲一さん、ドラムスに藤巻鉄郎さん、キーボードに別所和洋さんというメンバーですが、それは固定?

入江:しばらくはあのメンバーでやっていこうと思っています。編成にウッドベースとトラックが入っているので、生感と生じゃない感が混じるのがおもしろいなと。

ライヴ盤の制作は考えていないんでしょうか?

入江:それはちょっと考えています。いまのバンドは、メンバー全員、ジャンルの出自が少しずつズレていて。たとえばドラムとウッドベースの2人はジャズやポストロックなんですけど、ギターの小杉くんはロックしか弾けないので、全体のアンサンブルとしてはジャズへいけないっていう縛りがあるんです。逆にあんまりロックの方にもいけないので、そこらへんがおもしろいんです。あと、大谷さんのリズムのクセがすごく強いので、それがバンドに必ず入ってくるっていうか。みんな器用なのか不器用なのかわからないキャラクターというか(笑)。

『SF』にはさまざまなタイプの楽曲が入っていますけど、考えてみると、butajiや粗悪ビーツとのコラボレーション、そして、バンドと、それぞれ、試みとしてベクトルがバラバラですよね。ヴォーカルが強いのでどれも入江陽の歌になっているんですが。

入江:悪いことばしか出てこないんですけど、「浅く広く」とか「飽きっぽい」とか「ミーハー」な部分が自分にはすごくあるんです。

共作が好きなんですか?

入江:好きですね。

『SF』のつくり方もそうですが、「入江陽と○○○」みたいな名義がこんなに次々と出るシンガーソングライターも珍しいなと。

入江:「入江陽と○○○」はシリーズ化したいと考えてますね。他のシンガーソングライターのみなさんの性格って、もっと一貫性があって内省的だと思うんですけど、ぼくはぜんぜん違って。飽きっぽくて、いろんなひととやってみたいというか。あんまり自分と向き合うタイプではない。ただ、今回、歌詞に関してはゲストなしで、自分で書いてみました。だからといって私小説的なアルバムなわけではないですけどね。

先程から、内面を掘り下げることに興味がないというような発言が多いですね。

入江:それが強いんですが、今後は内面を掘り下げていこうと思っていて。

「今後は内面を掘り下げていこうと思っていて」って、自然じゃない感じがありありですね(笑)。

入江:そこが他のシンガーソングライターと違いますよね(笑)。リスナーとして聴いたときに、泣き言的なものが出てくるのが個人的に苦手なんです。もっと楽しませてほしいというか。私小説的なアルバムもいつかは作ってみたいですけどね。

私小説的なアルバムもいつかは作ってみたいですけどね。

地元の新大久保について書いてみたり?

入江:新大久保のストリートについて(笑)。やっぱり住んでいると色々と思うことがあるので、そういうことに関しては書いてみたいですね。

ただ、現状でも、入江さんの歌に漂う猥雑さみたいなものからは、何となく新大久保の雰囲気が感じられます。

入江:それはすごく影響している気がしますね。発砲事件があったりとか、ビルからひとが落ちてきたりとか、そういうことを何度か体験したので。僕自身はリアルに治安が悪いところに住んでいたわけじゃなくて、ぜんぜん安全なところに暮らしていましたけど、それでも垣間見えたことはすごくありましたからね。

最近の新大久保は綺麗ですけど、ぼくは20歳くらいのときに、駅から大久保通り沿いをちょっと行ったところにある雑居ビルで出会い系サイトのサクラの仕事をやっていて。あの頃の街にはまだまだ猥雑な雰囲気が残っていて、いつもそれにあてられてげんなりしてました(笑)。

入江:マジっすか。ぼくはあの近くの喫茶シュベールとかの近くに防音室を見つけてしまって。

スタジオも新大久保なんですか?

入江:そうなんですよ。かつては世田谷に住んでいるひとに憧れていたので、「何で自分は新大久保に生まれたんだろう」と思ってたんですけど(笑)。汚いところではなくても、きれいなところでもないですからね。それで、飯田橋や神楽坂の方に住んでみたんですけど、ちょっと刺激が足りなくて。そんなときに新大久保にワンルームの防音室を発見したので戻ってきました。


嘘でもいいから、聴いている間はすごく景気がいいとか。そういうもののほうがいいかなと。

しかし、今回、お話をきいて、『仕事』のインタヴューで疑問を持った「ポピュラリティについてどう考えているのか」という部分に合点がいきました。もちろん、ポピュラリティど真ん中の音楽を目指してはいるものの、まるでディラのビートのようにズレが生まれてしまう。それこそが入江陽の面白さなんだと。

入江:ぼくにとってポピュラリティのあるものが好きというのは愛嬌みたいなもので、それがないと遊び心は生まれないような気がして。実際には、ポピュラリティのある音楽というと「多くのひとに聴かれている~」って意味ですよね。だから、言葉のチョイスが間違っていたのかもしれないです。

また、内省的な表現に距離を置いてきたというのもなるほどなと。そこでも、洒落っ気だったり、はぐらかしが重要で。

入江:私小説的なものやシリアスなものを避けてきたというよりは、フィクションだったり愛嬌のあるものにどちらかというと興味があるというか。嘘でもいいから、聴いている間はすごく景気がいいとか。そういうもののほうがいいかなと。あと、かわいいものが好きなのかもしれません。最近も思いつきでDSを買ってポケモンをやっているくらいなので(笑)。気持ち悪いかもしれませんが、喫茶店でプリンとかがあったら絶対に頼むみたいな。今回の歌詞にしても、かわいい物好きの面が出ているんじゃないでしょうか。

……そうでしょうか?(笑)

入江:「カステラ」って言うだけでもかわいいなって(笑)。自分がかわいくなりたいというわけではなくて……一概に言うのは難しいんですけど。

ポピュラリティのあるものを目指して金をかけたのに失敗してしまったものが面白い、と気付いたのも収穫でした。

入江:そこに感じているのも愛嬌であって。あるいは、成功しているものでも……。たとえば、ダフト・パンクとかも好きなんです。音楽的にあれだけ高度なのに、一貫してエンタメで。ジャケからアー写からすごく遊び心がありますし、サービス精神を感じる。そういう心の豊かさに惹かれるんです。相手への思いやりを持つ余裕を感じるというか。変な言い方ですけど(笑)。

(笑)。まぁ、余裕がない時代ですからね。

入江:そうかもしれません。

音楽メディアの年間チャートを総嘗めにしたケンドリック・ラマーのアルバムなんかも、メッセージにしてもラップのスタイルにしてもまったく抜きがないところが、現在を象徴しているのかもしれません。一方で、そういったチャートにはまったく出てこないフェティ・ワップみたいな緩いラップも売れているんですが、音楽好きはシリアスだったり密度が濃かったりするものを評価しがちで。

入江:リスナーとしてはシリアスなものも好きですが、自分がつくる場合は、どちらかというと愛嬌がある表現の方が得意かもしれません。以前、女性シンガーソングライターの作詞の仕事を引き受けたことがあって、そのひとがすごくシリアスなひとだったんですよね。厳しい環境で育って、親子関係でも苦労して……みたいな。で、彼女の曲の作詞を偽名でやってほしいと。それがぜんぜんできなくて。すぐにふざけたくなっちゃうんです(笑)。それは自分の出自がおめでたいというのもあるのかもしれないんですけど、実際にツラいひとにツラいものを聴かせても……って思ってしまうというか。

その話を訊くと、入江さんの歌詞の、ダジャレのようなライミングの印象も変わってきますね。

入江:それはよかったです。本当にダジャレはくすっと笑ってほしいくらいの感じなので(笑)。

まとめると、前作『仕事』は比較的曲調に統一感があったからこそ、今回の『SF』はカラフルなつくりにしてみた。それは、変化したというよりは、対になっているような感じだと。

入江:そうですね。今作のような内容「だけが」やりたかったわけではなくて、これ「も」やりたかった感じです。

ただ、ポリュラリティという観点から考えると進化だと思いますし、売れるんじゃないでしょうか。

入江:そうなるとうれしいです(笑)。

入江陽 - UFO (Lyric Video)


UFO(live)/入江陽バンド@渋谷WWW


入江陽 "SF" Release Tour 2016

【京都公演】
2016年2月6日(土) @ 京都UrBANGUILD
OPEN 18:30 / START 19:00
ADV ¥2,800(+1D) / DOOR ¥3,300(+1D)
w/ 山本精一、もぐらが一周するまで、本日休演

【名古屋公演】
2016年2月7日(日) @ 名古屋今池TOKUZO
OPEN 18:00 / START 19:00
ADV ¥2,300(+1D) / DOOR ¥2,800(+1D)
w/ 角田波健太波バンド(角田健太(vo.g)、服部将典(ba)、渡邉久範(dr)、j­r(sax)、tomoyo(vo.key) )
※角田波健太波バンド「Rele」入江陽「SF」ダブルレコ発

【東京公演】
2016年3月30日(水) @ 渋谷WWW
OPEN 19:00 / START 19:30
ADV ¥2,800(+1D) / DOOR ¥3,300(+1D)

聞き手:磯部涼(2016年1月29日)

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Profile

磯部 涼磯部 涼/Ryo Isobe
1978年、千葉県生まれ。音楽ライター。90年代後半から執筆活動を開始。04年には日本のアンダーグラウンドな音楽/カルチャーについての原稿をまとめた単行本『ヒーローはいつだって君をがっかりさせる』を太田出版より刊行。

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