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interview with agraph

interview with agraph

その“グラフ”は、ミニマル・ミュージックをひらいていく

アグラフ、インタヴュー

取材:橋元優歩    Feb 05,2016 UP

普通のポップ・アルバムとして聴ける要素を残したいし、(抒情的なピアノが用いられていることは)ポピュラリティのある作曲家としての矜持なのかもしれないです。

さて、ではアルバムの話に戻りまして。冒頭の曲のタイトルなんですが、“reference frame”っていうのは何の「基準」なんですか?

agraph:「こういうアルバムですよ」っていう。

ははは! すごい。

agraph:これからいろんなことを言いますけど、こういうグラフになってますよ、という。x軸とy軸がこう引かれてますよ、基準点はこれですよと。

なるほど。では、その基準点にピアノが鳴っていることの意味を考えたりとかしていくのは、ちょっとちがいますか?

agraph:なるほど、そこは、配置のひとつというか。今回はひとつひとつの楽器自体にそれほど意味はないんですよね。

冒頭でピアノが出てきて旋律が奏でられると、つい叙情的なアルバムの幕開けと考えてしまうというか。

agraph:いえいえ、それもそうだと思うし、さっきの快楽性の話もそうですけど、普通のポップ・アルバムとして聴ける要素を残したいし、ポピュラリティのある作曲家としての矜持なのかもしれないです。もちろんどう取っていただいてもかまわないんですけどね。僕自身としては、よくピアノのことを指摘されはするんですが、そんなに意識していないんです。というか、あんまりピアノを弾いていたときの意識自体が残ってないかも。今回、構造のことを考えた記憶はあるんだけど、ひとつひとつの音のことを覚えていないんですよね。
 僕はこの5年間のうちに、一度アルバムを放棄しているんですけど──『equal』のつづきになるからやめよう、って思って捨てちゃったものがあるんです。で、今回はそれをコンクレートでいうテープみたいなものとして使ってつくっているんですけど、そうすると5年前の自分のことなんて覚えていないから、本当に再配置という感じだったんですよね。演奏しているときの細かい意識のことは覚えていない。

ピアノ弾きみたいな意識はないんですね。なるほど。

agraph:いろんなひとに出会う中で、僕よりピアノに思い入れのある人はいっぱいいるなあって思って。じゃあ僕はいっか! と。音に対するフェティシズムはあるので、使っている音はいっぱいあるんですけどね。

同心円状に広がる時間はきっとあると思うんですよね。そうだ、「時間」は今回の裏テーマだったと思います。

“asymptote”という曲ですけれども、「漸近線」というとこれは「基準」たる“reference frame”に対して漸近していくという?

agraph:“reference frame”でxとyを引いて、ああ漸近していくんだなあという。

交わらないという。その交わらなさって何のことなんですかね?

agraph:あれは、終わらない曲なんですよ。もちろん時間で切ってますけれどね。そういうふうに極限にいたる、というか。同心円状に広がっていくっていうイメージのお話もしましたけれど、この曲は、その先がどこまでもどこまでも、極限まで行くんだろうなって思ったんですよね。有限ではあるんだけど果てがない……そんな意識をつくっていこうとした曲ですね。

終わらない時間というのは、なにか、リニアなものとしてのびていくイメージでいいんですか?

agraph:同心円状に広がる時間はきっとあると思うんですよね。そうだ、「時間」は今回の裏テーマだったと思います。音楽って時間芸術であって、時間以外に音楽を特徴づけるものはないというか、時間しか持っていないということが音楽の唯一の特徴だと──僕はそう考えるので。“inversion/91”では時間の使い方に発展や発見があったけど、“asymptote”も「終わらない、極限にいたる」というところで、時間に対する意識が強かったですね。逆に1分くらいの曲もつくってみたいと思ったけど(笑)。

そういえば終わらないわりに短く切られている。

agraph:「終わらない」と「始まらない」は同じかなと。

抒情的でロマンティックな部分というのはやっぱり要素なんですよね。自分がピアノを弾いているときの気持ちは封入されているんだけど、それはすべてもう息をしていない。

「すべての要素をドライに配置しただけ」というふうにおっしゃいますが、その語りの中にもしかしたらトリックがあるのかもしれないですけど、でも一方で、もっと普通にドラマチックな、エモーションの幅を感じるようなところもあるんですが。

agraph:それはね、いま思い返すとなんですけど、アンドレアス・グルスキーの、ジャクソン・ポロックの絵を撮った作品があるんですけど、僕はその写真がすごく好きで。ポロックのああいうアクション・ペインティングみたいなものって、すごく熱量をもって描かれるものじゃないですか。関連して、「絵の中にいるときに絵なんか意識しない(=自分が何をしているかなんて意識しない)」っていうような言葉もあったと思うんですけど、そんなふうにつくられるものの、その写真を撮るっていうのはすごい残酷なことだなと思ったんですよね。ポロックの無意識とか、絵の中にいるというすごくエモーショナルな状態をパッケージしてしまう。封をしてしまう。真空にしてしまう。その行為ってすごく力のあることだなと思って。それで、僕の音楽をエモーショナルに聴けるというのは、さっきの話のように、ひとつひとつの要素としてピアノを弾いているし、盛り上げるためにエフェクトを使っているし、叙情的な部分も含んでいるからなんだけど、それを一歩引いてパッケージするということでもあったかもしれない。だから、抒情的でロマンティックな部分というのはやっぱり要素なんですよね。自分がピアノを弾いているときの気持ちは封入されているんだけど、それはすべてもう息をしていない。

撮られて配置されている。なるほど……こんなふうに作者に解題を求めるのって、はしたないことなのかもしれないですけど、やっぱり聞いておもしろいこともあると思うんですよね。

agraph:いや、僕もなるべく言いたくないんですけどね。文章家じゃないし、伝わり方だっていっぱいあるし。でも音楽雑誌とか批評で自分の評価が辛いと、わー、伝わってなーいって思いますね(笑)。

あはは!

agraph:傷ついて帰って、枕を濡らすんですよ。

そんな抒情的なシーンがあったとは(笑)。

すごく悔しいんですけど、OPNには耳を更新されたという気持ちがあって。

一方で、部分や要素で聴くと“reference frame”のマレットというか、マリンバみたいな音が出てくる部分は、一瞬OPNみたいになったりもするじゃないですか。

agraph:ギャグですけども(笑)。

「ニヤッ」て言うとちょっとやな感じですけど、すごい同時代のものが聴こえてうれしいというか。

agraph:すごく悔しいんですけど、OPNには耳を更新されたという気持ちがあって。今回リュック・フェラーリを聴いていた時期とOPNやヴェイパーウェイヴを聴いていた時期があるんですけど、後者については誰もべつにメロディもコードもリズムも聴いていないと思うんですよね。僕自身はそうで。そこに立ちのぼっている湯気のような世界観だけを聴いている。リュック・フェラーリもそうなんです。それから、とくに理由もないままリュック・フェラーリとベーシック・チャンネルを聴いたりもしていたんだけど、ベーシック・チャンネルもそうだしアンディ・ストットもそうだと思って。テクノとかハウスとかも、それからカールステン・ニコライにしても、僕はテクスチャーと世界観を眺めているというか、それが好きだと思って聴いていたんですよね。僕の聴取体験の中では、歌える部分や踊れる部分に惹かれて聴いていたこともあったけど、いまはそういうことがないなと思いました。そういう気づきのきっかけにはなりましたね。

OPNを似たようなアーティストと分けているのはコンセプチュアルなところかなと思いますね。アルカとかはその点、一時の若さで成立しているものでしかなくて、それが美しくもあるけど圧倒的に弱いというか。

agraph:彼もまた構造的なんだと思うんですよね。一つ一つの要素には、どうしても読み取らなきゃいけないような意味はない。そこには勝手に共感を覚えるんです。アラン・ソーカル事件はご存知ですか? アラン・ソーカルというひとが、ある哲学論文を評論誌に送るんですけど、それは文学とか哲学にすごく難解な数学とか物理とかを結びつけて書かれた、まったくでたらめな意味のないものだったんです。当時はそういうものを結びつけるのが流行っていたので、彼はわざとそういうことをして、そのでたらめさが見破られるかどうか試したわけなんですよ。でも、評論誌には「そういうものを結びつけるのはよくない」という意見に反論する論文としてそれが掲載されてしまったので、ほらやっぱり意味がないじゃないかということになった。……という時代に、まさにフランスの現代思想を数学と結びつけていた急先鋒である女性哲学者がいるんですが、OPNが彼女のことをフェイヴァリットに挙げているのをたまたま見て。僕は彼とも話したんだけど、彼はこの事件のことを知らないと言いはっていた。でも、たぶん嘘じゃないかって(笑)。

ははは! ええ、だって……

agraph:そう、だって、あんたがやっていることがアラン・ソーカルじゃないか、と。

いや、お話の途中でオチが見えましたよ。たしかに。

agraph:僕はそこに勝手に共感するんですよね。いや、本当に知らないんだと思うんですが(笑)

agraphさんご自身がたとえ時代やシーンを意識していなかったとしても、OPNがいたりagraphさんがいたり、それぞれの点が結びたくなってしまうように存在しているんですよ。その意味で時代性のあるアーティストさんなんだと思うんですが。

agraph:いやー、早く見つけてほしいですよ。

ヴェイパーウェイヴは、90年代の文化、っていう具体的な形をテープにしてるんだと思うな。あれは写真に近いんじゃないかな。すごく偽悪的な。

しかし意外だったのがヴェイパーウェイヴをちゃんと聴いていらっしゃるというところで。いったい、牛尾さんにヴェイパーウェイヴなんて必要なんですか?

agraph:ヴェイパーウェイヴは単純に質感がよかったです。流行った頃は好きでした。もうけっこう経ちますよね。

でも、あれこそはサンプリング・ミュージックの──

agraph:いや、僕はあれコンクレートだと思う。

なるほど。とすると、インターネットという環境からの?

agraph:うーん、90年代の文化、っていう具体的な形をテープにしてるんだと思うな。あれは写真に近いんじゃないかな。すごく偽悪的な。

へえ! 表面的な行為としては、「ネット空間からゴミをたくさん拾ってきてどんどん奇怪なものをつくりました」ってだけのイタズラか遊びみたいなもので、でもそのこと自体が時代の中で批評的な意味を帯びて見えたわけですよね。ただ、ご指摘のように、引っぱってこられるネタがなぜかしら特定の年代や国に固執しているのはたしかで。それで盛り上がったんだという部分も否定できない。

agraph:そうそう。おもしろいんですよ。それに、もっと僕の個人的な趣味嗜好の部分で言うなら、シンセサイザーの音色について発見があったということですね。90年代の前半の音がわりと使われているじゃないですか? 僕は83年生まれなので、ちょうどそのころは意識が芽生えはじめた時期なんです。だから、そういう音がいちばんカッコ悪く感じられる。絶対にさわっちゃいけない音色だったし、シンセサイザーだったんだけど、それを忘れていたところに放たれたカウンター・パンチだったんですよね、ヴェイパーウェイヴは。あの時期「~ウェイヴ」はいっぱいあったけど、僕はそのなかでいちばんおもしろかったかな。在り方が。

結局ジェイムス・フェラーロとかは現代美術館にまで入りこみましたからね(東京アートミーティングⅥ “TOKYO”──見えない都市を見せる http://www.mot-art-museum.jp/exhibition/TAM6-tokyo.html)。

agraph:そうですよね。それもわかるんですよ。ただ──さっき触れたように、彼らの求めるテープの先が90年代なのだとすれば、きっと、社会だったり文化だったり人類だったり、「ひとの営み」に視座があるじゃないですか。僕の趣味からすれば、そこには興味がないんですよね。

なるほど、構造と、あとは音だったと。

agraph:リュック・フェラーリは2007年に亡くなっているんですけど、作品はいまも出ているんですよ。それは彼が遺した作品の中に、このテープを使って何かやれっていうようなものがあるようで。たとえばそれで、奥さんであるブリュンヒルド=マイヤー・フェラーリさんが作品をつくられたりしている。その構造と同じかなと思うんです。僕は奥さんも音楽家としてとても好きなんですけどね。

僕は詩に対する理解がまったくないんです。

ところで、「言葉」っていうレベルにはとくに探求しようという欲求はないんですか? 言葉というか……ライヒとかには、たとえば“テヒリーム”みたいなものがあるわけじゃないですか。ルーツにつながるヘブライ語の中に降りていくというか。今回の作品の中にも声とか言葉を持った部分がありますけど、今後そういうテーマなんかは?

agraph:あれはすごく迷いました。人間を描くのがいやなので、発声をどうしようかなと思って……音楽を規定するときに詩が入ってくるのがすごくいやなんですね。僕は詩に対する理解がまったくないんです。大学ではケージの『サイレンス』の詩を扱ってもいるんですけど、でもやっぱり自分でつくるというのは難しかったですね。セカンドで円城塔さんに文章をお願いしたのは、あの方だったら意味にとらわれない複素数平面を音楽と言葉でつくれるんじゃないかと思ったからで……。なかなか難しいですね。

そうか、前作には円城さんが添えておられますよね。でも、「詩」というと複雑になりますけど、「言葉」というともうちょっと算数や科学で扱えそうな対象になりませんか。

agraph:それはまだ僕の能力不足ですね。群論的な──言葉が指し示すことができる領域とそうでない領域があるという、そういう複雑系の話から使えるものは出てくるかもしれないですけど、理解も足りないし。

いやいや、五・七・五・七・七って、もう千何百年も残ってきた韻律ですけど、あれとかをagraphさんが微分積分してくださいよ。

agraph:あれはおもしろいですよね。「タタタタタ・タタタタタタタ・タタタタタ」……。僕は子どものころからああいう韻律をぜんぶ変数にして、たとえば「タタタタタータ」っていうリズムがあったとして、そこに何を入れるのがおもしろいかっていうのを考えていたんですよね。「ハシモトユーホ」とか、入りますね(笑)。韻律っていうものにはすごく興味があるんだけど、でも自分の中ではなかなか解決のつかない要素が多いから、いつかは。

agraphさんがやってくれないと。楽しみにしていますね!

5年間で、過去3日だけ霧がかかった日に巡り会えて、いまのところその3日は逃さず写真を撮りに行っているんですよ。

最後に、今作のジャケットについてうかがってもいいでしょうか。アートワークとして用いられているのは、ずばり渋谷です?

agraph:あれは●●●●です。内緒です。

内緒ですか(笑)。

agraph:特定できるものを何も残したくないんですよね。インタヴューでこんなに話しておいて言うことでもないですが(笑)。「何だろう?」って思ってほしくって。アルバムをつくるときに杖の代わりになるような写真を撮ることがあって、その中の一枚です。

「何だろう?」って思いましたよ。ご自身で撮られた写真なんですね。

agraph:そうです。

最近は、アー写ひとつとっても、ミュージシャンがどこの街で写ってたら画になるんだろうというのがわからなくて。渋谷下北ではないし、どこで写ってたとしても「たまたま」というだけで。そもそも地理が何も語らないというか。

agraph:ないですよね。

あのジャケは、だからといって「どこでもなさ」を表している感じでもなくて。

agraph:この5年間で、過去3日だけ霧がかかった日に巡り会えて、いまのところその3日は逃さず写真を撮りに行っているんですよ。それでたまたま撮れたものなんですが。

構造の上に霧のように立ち上がる世界っていうイメージにもつながりますね。

agraph:もやっとしたもの。それに、器に注ぐ水が「shader」(=影なすもの)であるという、作品のコンセプトも出せればなと思いました。

では記事の中でもぜひ数枚ご紹介させてくださいね。本日はありがとうございました。

agraph - the shader(ティザー)

取材:橋元優歩(2016年2月05日)

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