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interview with Mark Pritchard

interview with Mark Pritchard

UKテクノ的ロマン主義

──マーク・プリチャード、インタヴュー

質問:野田努    通訳:伴野由里子   May 11,2016 UP

初めて日本に行ったのがたしか90年代半ば頃だったと思うんだけど、何に驚いたかというと、イギリス西部の何もないど田舎で育った者がいきなり渋谷みたいな場所に行くと、それまで自分が知っていた世界とは圧倒的に真逆の場所だった。人の多さやネオンや高い建物に囲まれた喧騒に圧倒されながらも、不思議とストレスを感じることはなかった。


Mark Pritchard
Uner The Sun

WARP/ビート

ElectronicaAmbientTechnoFolkExperimental

Amazon

歌があり、詩があります。このアルバムには音のコンセプトだけではないが意味や主題があると思うのですが、そのことについてお話しいただけますでしょうか?

MP:アルバムを通してコンセプトがあるわけではなく、言葉に関しては、フィーチャーしたアーティストにすべて一任した。ぼくの方からガイドラインを出すことはなく、曲を聴いて、彼らが感じたままにやって欲しかった。ビビオの場合、トラックを送ったら彼の方からいくつかヴァースやサビのアイディアを返してくれて、それに対して「最高だ。そのまま続けて」とぼくから返した。とくにハーモニーを聴いたときはすごく気に入って「もう思い切りなんでもやってくれ」と言ったよ。トム・ヨークにしても「感じたまま好きにやってくれていい」とだけ伝えた。リンダにしても、ビーンズにしても。だから、言葉に関しては彼らがすべて貢献してくれたんだよ。

“Beautiful People”から“You Wash My Soul ”、“Cycles Of 9”にいたる展開が素晴らしいと思ったんですが、安らぎのようなものがあるというか、全体的にゆっくりとした時間が流れていて、とくに中盤にはその心地よさを感じます。このような感じ方は、あなたが意図したところでしょうか?

MP:アルバムはさまざまな感情のあいだを行き来するものにしたかったのと、ヴォーカルが入った曲を全体に散りばめたかった。曲順を決めるのは非常に重要であり、非常に難しい工程だ。パートナーのローナや友だちにも何パターンか曲順を提案してもらったりした。当然自分でもやってみた。アルバムをどう始めたいかはわかっていたし、ヴォーカル・トラックを散りばめたかったのもわかっていた。人を飽きさせないようにと、前半にばかりヴォーカル曲を集めことはしたくなかった。むしろ、驚きや、様々な展開を持った作品にしたかった。
 1曲目の”?”はパワフルかつムーディーだ。で、おそらくアルバムで一番明るい曲がビビオの曲で、それ以外2曲目に持ってくるのは無理だった。1曲目のヘヴィーさからすくい上げられなきゃいけないと思ったから。そのあとにダーク目の曲があって、そこから美しく、穏やかな中盤になる。ぼくとしては、同じような感情、ムードを続けざまに並べるのは違うと思った。”Beautiful People”は美しい中にもの悲しさがあって、”Cycles Of 9”はややポジティヴで、”Where Do They Go, The Butterflies”もそう、そうやって変化を持たせたかった。そこからよりダークで不気味な感じへと後半展開していく。そして最後にまたそこから抜け出す、という。
 悲しいものばかり続けざまに並べると、印象も薄れてしまう。変化をつけることが必要だ。曲順には凄く時間をかけたよ。曲間の間もね。何度も変更したし。最後の曲(Under The Sun)なんて、冒頭4曲のどこかに入るとずっと思っていた。でも、あえて最後に持ってきたことで最高の締めくくりになった。パートナーからの助言は大きかった。彼女はラジオDJで、クラブDJでもある。自分だと近すぎて見えないものが、他の人に渡すことで見えてくる。人に渡すことで、自分だったら絶対に並べなかった曲同士を並べたりする。ローナなんかは余計な先入観もなく、曲を聴いて感じた印象をもとに判断するんだ。人に曲順のアドヴァイスをもらうことを、アルバムを作る人には是非勧めるよ。とくにラジオDJはいいよ。

“You Wash My Soul ”についてですが、ひょっとしてギター・サウンドを試みたのははじめて?

MP:え~っと…………、そうかもね(笑)。ギター・サウンドを断片的に使うことはこれまでも何度かあったと思う。でも、アコースティック・ギターの音に、他の楽器を重ねた構成は初めてだろう。若い頃にギターをやってて、いまもギターを持っているから、曲のなかで少し弾いたりしたことはこれまでもある。でも今回は友人にアコースティック・ギターを弾いてもらった。ぼくよりも上手いからね。ぼくよりいいギターを持ってて、録音するのにいいマイクも持ってたから。Skypeを介してセッションをしたんだ。画面の向こうで彼がいろいろなことを試してくれて、「なんとなくこんな感じで」っていうのが決まったら、彼の方で録音して、それを送ってくれて、そこにぼくが他の要素を加えて、それをリンダに送った。ここまでストレートなアコースティック・ギターの音源をトラックで使ったのは初めてだね。

アナログシンセサイザーを多用したということですが、全体的に温かい印象を受けますし、とくにいくつかの曲(“Sad Alron”や“Cycles Of 9”など)で見られるフルートのような音色は全体に牧歌的な雰囲気を与えていると思いますが、その牧歌性のようなものはどのくらい意識して作られたのでしょうか? 

MP:あの辺の音のほとんどはメロトロンで出しているんだ。いい感じのローファイで懐かしい感じの音の質感が気に入っていて、曲を書く段階から使っている。フルートの音は昔から好きで、フルートやクラリネットのほかに、生チェロやフレンチ・ホルンの音も“Cycles Of 9”では使っている。そういうのの多くがメロトロンから出した音を重ねている。この曲はたしかに牧歌的な雰囲気があるよね。イギリスの田舎特有の雰囲気がね。
 他にも、トラディショナルなフォーク(つまり民謡的ということでしょうか)のメロディを指摘された。サウンドに影響されてそういうメロディになったのだろう。”Sad Alron”も、シンセだけど、フルートっぽい音に仕上がっていて、メロディがフォークっぽい。なぜそうなったのかはわからないけど、ぼく自身、フォークもトラディショナル・フォーク・ミュージックも大好きだ。珍しいトラディショナルならではのコード(和音)も昔から好きなんだ。エイフェックス・ツインやプラッドやBalil、初期のThe Black Dogの音楽からも聴き取れる。彼らには、彼らの影響元があったんだと思うけど。無意識に出てくるものだと思う。

“Cycles Of 9”など魔法めいた曲名ですが、サマーセットというケルティックな土地柄との関わりはありますか?

MP:サマーセット以外にもデヴォンとコーンウォールに住んだことがあって、オーストラリアに来てもう11年になるけど、イギリスのあの地域が恋しいと思うことはたしかにある。オーストラリアにも似た場所はほんの少しあるけど、基本的にはまったく違う環境だから、あの辺のことを思い浮かべることもある。ニュージーランドにはデヴォンと雰囲気が似た場所があるんだ。ああいう場所で育ったということが関係しているのはあると思う。
 Jonathan のアートワークにも、何点かあの辺を思い出せせてくれたものがあった。例えばなかに浮いた岩のとかね。おそらくもっとSFっぽいイメージで、(イギリスの田園とは)全く関連性はないんだと思うけど、ああいう岩石を見ると、コーンウォールやデヴォンやサマーセットの辺りを思い出す。だから、あのアートワークを見たときは嬉しかったよ。「つながってる」と思ったね。

マザー・グースの子守唄は、人によるでしょうけど、イギリス人にとってどんな空想をかきたてられるものなのでしょうか?

MP:子供の頃によく聴いた思い出がある。アルバムで唯一使っているサンプルなんだけど、聴いたのは結構前なんだ。何度か使ってみたんだけど、形にすることができなかった。で、数年前にまた試みたら、あの曲ができた。あれを聴いてぼくがまず思い浮かぶのは、昔のディズニー作品なんだよね。ものすごく初期のディズニー作品の音楽が好きなんだ。どこか不穏な響きがあるのと、音の質感が好きなんだ。声もわざとピッチを上げているらしい。前に読んだんだけど、録音の時にテープの回転速度を落としたり、早めて、歌を録音してから、普通の速さに戻した。だから、不気味で異世界っぽさがあった。昔からそれが好きだった。
 あの曲でぼくがやろうとしたのもそれだ。ジュリー・アンドリュースの声にもそういう雰囲気がある。歌詞にしても、すごくインパクトがあるよね。そこに描かれている世界観も好きなんだ。しかも、オリジナルは18世紀に書かれたんだよ。あの歌の成り立ちを調べてみたんだ。18世紀中期に書かれて初版が世に出た。アルバムのタイトル曲でもあるんだけど、最初はタイトルにするのを躊躇したんだ。Under The Sun(太陽の下)というと、みんな「天気のいいオーストラリアに移住してさぞかし日光を浴びる生活を満喫している」という内容だと勘違いしてしまうんじゃないかと恐れたんだ。実際はこの2年間完全に夜行性の生活を送っていて、太陽なんて見てない。極たまに早朝家に帰る時に見るくらいだ。でも、あの引用があったお陰でアルバムがまとまったと思う。あの世界観が好きで、アルバムのタイトルにした。アルバムを聞いてくれれば、その意図もみんなわかってくれるだろうと思った。アートワークにしても、ジャケットの絵柄を最初に見た時に、すべてが腑に落ちた。Jonathan にしても、ぼくにしても、作品を作る時は、全てを作品の中で語るのではなく、受取手が想像力を膨らませられるよう、ヒントをいくつか仄めかしつつ、曖昧なままにしたかった。自由に解釈してもらいたい。

日本はあなたが思っているほど良い国ではないないのですが、あなたは日本のどんなところがそんな好きなんですか?

MP:初めて日本に行ったのがたしか90年代半ば頃だったと思うんだけど、何に驚いたかというと、イギリス西部の何もないど田舎で育った者がいきなり渋谷みたいな場所に行くと、それまで自分が知っていた世界とは圧倒的に真逆の場所だった。人の多さやネオンや高い建物に囲まれた喧騒に圧倒されながらも、不思議とストレスを感じることはなかった。慣れ親しんだ穏やかな田舎からいきなり、情報過多の喧騒に放り込まれたら、普通だったらストレスを感じでもおかしくないのに、日本ではそう感じたことがない。全てのものが正しく機能していて、落ち着いているという印象を受けた。
 そこから、何度か日本を訪れていくなかで、いろいろなことに気づくわけで、まず気づいたのが、人を敬う文化だ。忙しいなかにも、他人への思いやりや気配りを感じる。お辞儀の習慣もいいと思った。日本に行くのは大好きだよ。他では見たことがないものを見ることができる。音楽的な部分でも、日本の人からは音楽への強い愛を感じる。幅広い音楽に興味を持ち、一度好きになったものはとことん掘り下げる。そういうところも好きだね。フットワークの時だって、日本人のクルーまでが一緒に踊りたいと言ってくれたんだ。踊りを覚えたいってね。他の国ではあまり体験しないことさ。日本の音楽ファンの情熱が好きだ。もちろん世界中に音楽はファンはいるけど、日本のファンはとことん突き詰めて、勉強する。そういうところが好きだ。食べ物も好きだし。Taico Clubで行った時に、日本の田舎も少し見る機会があったんだけど、最高だった。1日しか滞在できなかったけど、本当は1週間くらいいたかった。
 日本の芸術にも興味がある。日本の伝統音楽についてもっと知りたいんだ。次に日本に行ったときは、歌舞伎や能の音楽にも興味があって、YouTubeで舞台見ているんだけど、日本に行ったら本物を見たいと思っている。そうやって日本に行くときは、ライヴ以外にも、4、5日オフをとってレコード屋に行ったり、ギャラリーに行ったり探索するのを楽しみにしている。もちろん、日本のオーディエンスの前で演奏するのも大好きだ。東京でのライヴはいい思い出のものばかりだ。一度、クラブ・ミュージック以外の曲のDJセットをやったことがあるんだけど、オーディエンスはみんな床に座って、目を閉じて最後まで聴き入ってくれた。立って人と話したりすることなく、音楽の世界に没頭してくれて、ぼくの意図を完璧に理解してくれた。そこまでしてくれる観客って多くはいないんだよね。
 最後に日本でプレイしたのはたしかエレクトラグライドだったと思うけど、スティーヴ(・ホワイト/Africa HiTechの相棒)もいて、その時もジャングルをかけたり、フットワークの曲を差し込んだりすると、いちいち観客が盛り上がってくれてね。そこまでコアな選曲とまでは言わないけど、ある程度の年齢でなければ知らない曲だったりもするわけで。スティーヴと曲をかけながら、珍しい曲をかけても、みんな反応してくれて、イギリスでかけても、そこまでの反応は得られないかもしれないっていう(笑)だから、いつも日本に行くのを楽しみにしているんだ。

質問:野田努(2016年5月11日)

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