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interview with Sherwood & Pinch

interview with Sherwood & Pinch

ダブ最強コンビ、最新成果と機材話

──シャーウッド&ピンチ、インタヴュー

取材・文:Yusaku Shigeyasu    通訳:原口美穂 Photo by Marc Sethi   Mar 07,2017 UP


Sherwood & Pinch
Man Vs. Sofa

On-U Sound/Tectonic/ビート

DubDubstep

Amazon Tower HMV

 ロンドンから北西に向かったハイ・ウィコムという街で10代の少年エイドリアン・シャーウッドはレゲエと出会った。彼はほどなくしてDJを始め、その後、音楽業界に関わるようになり、20歳になるころにはレコード店を運営するようになっていた。UKダブの歴史に名を刻むことになる伝説の始まりだ。

 流通会社を立ち上げたほか、複数のレコード・レーベルを運営したシャーウッドは、1980年になると、プロデューサー・エンジニアとして独自のダブ・ミックスを、ジャズからインダストリアルまであらゆる音楽へ積極的に施していった。彼が関わったプロジェクトの数は圧倒的だ。彼のディスコグス・ページを見るだけでも、その膨大さがわかるはずだ。アフリカン・ヘッド・チャージとのサイケデリックなアフロ・ダブ。デペッシュ・モードのリミックス。リー・スクラッチ・ペリーとのスタジオ作品。タックヘッドとのエクスペリメンタル・ヒップホップ。ほかにもプライマル・スクリーム、ナイン・インチ・ネイルズ、マシーンドラムなど、挙げればきりがない。そんな彼が近年活動をともにしているのがDJピンチだ。

 ピンチは2005年にレーベル〈テクトニック〉を設立。ブリストルを拠点にダブステップの先駆者としてシーンを牽引した。ダブステップがメインストリームな音楽になっていき、定常化した音楽となっていくなかで、彼はテクノ、インダストリアル、グライムなどほかのジャンルへダブステップを拡張していき、新鮮なサウンドを提供し続けてきた。00年代後半にはファースト・アルバム『Underwater Dancehall』を発表。以降も〈コールド・レコーディングス〉の設立や、シャクルトンやマムダンスとの共作など、常に革新的な音楽を志向し続けてきた。

 シャーウッド&ピンチは2013年に2枚のEP「Bring Me Weed」と「The Music Killer」を発表したものの、プロジェクトへ本格的に着手することになったのは、2013年におこなわれたSonar Tokyo公演でライヴ・パフォーマンスをおこなうことになってからだった。そして2015年に発表したファースト・アルバム『Late Night Endless』から2年、待望の新作『Man Vs. Sofa』が先月発表されたばかりだ。同作はこの2年間に生まれた変化を見事に反映したアルバムとなっている。作品の背景を聞き出すべく、リリースに先駆け東京公演のために来日していたふたりにインタヴューをおこなった。

以前は〈Tectonic〉ミーツ〈On-U Sound〉みたいなサウンドだった。でも今回のアルバムは、俺とピンチというアーティストの融合なんだ。俺たちが、よりひとつになれている。 (シャーウッド)

新作の発表おめでとうございます。前回の『Late Night Endless』からこれまでの2年間、ふたりはどのように過ごしてきましたか?

ピンチ(Pinch、以下P):この新作を作っていたよ(笑)。

エイドリアン・シャーウッド(Adrian Sherwood、以下S):アルバムを5分で作ることはできないからね。この2年間をかけて少しずつアルバムを仕上げていったんだ。例えば“戦場のメリークリスマス”のカヴァー(『Man Vs. Sofa』の収録曲)は、『Late Night Endless』の制作時に作り始めていたけど、なかなか満足できなかった。だから、今回のアルバムでいちばん古いのはあの曲で、それ以外の収録曲はすべてこの2年で作ったよ。

“戦場のメリークリスマス”をカヴァーしようと思ったのは?

S:以前からあの曲のメロディが好きだった。坂本龍一も好きだし、“Forbidden Colours”ヴァージョンのデヴィッド・シルヴィアンの歌も好きだったからカヴァーすることにしたんだ。歌詞を入れてみようと試したり、何種類か違う方法でレコーディングしたりして、やっとパーフェクトなものが完成したよ。

P:よりサイケデリックな仕上がりになったから、前回のアルバムよりも新作によりフィットすると思う。前回のアルバムは、もっとトライバルでリズミックだったからね。ニュー・アルバムは、もっとサイケデリックでダイナミックなんだ。今回は、俺のスタジオで作ったものをエイドリアンのスタジオに持っていって、そこから発展させていって作ったトラックが多いね。でも表題曲の“Man Vs. Sofa”は、エイドリアンのスタジオでノイズができたところから始まった。今回のアルバムでは、そういうふうにしてエイドリアンのスタジオで作り始めた曲もあるし、それぞれにアイディアを持ち寄ってそれを組み合わせた曲もあるんだ。ふたりで作ったトラックがたくさんあって、その中から今回のアルバムにフィットするものを選んでできたって感じだね。

アルバムにしようと意識して制作するようになったのはいつ頃ですか?

S:2年前だね。

というと『Late Night Endless』をリリースした直後ですか?

S:いや、そういうわけじゃない。ファースト・アルバムをリリースしてから1年後にまた一緒にスタジオで作業しようって決めたと思う。

P:待って。それだと2年前に作り始めたことにならないだろ? エイドリアンの計算って、ときどきおかしいんだ(笑)。

S:そうなんだよ(笑)。1年じゃなくて、2、3ヶ月かな。スタジオに戻って、ピンチが俺に送ってきたトラックをもとに作業を始めたんだ。

P:ファースト・アルバムが2015年の春で、そのあと同じ年の冬くらいにセカンドのために作業を再開したんだと思う。

ファースト・アルバムと今回のアルバムでは、どちらの制作期間が長かったんでしょうか?

S:ファーストの方が制作期間は長かったね。

ふたりが出会ったのは2011年ですよね? ピンチがファブリック(ロンドンのクラブ)でやったイベントへエイドリアンをブッキングして、そこから親交を深めていったそうですが、『Late Night Endless』はその時点から作り始めたんでしょうか?

P:俺たちが最初にリリースした作品は12インチの「Bring Me Weed」で、出会った時からアルバムを作ることを考えていたわけではないんだ。

S:「Bring Me Weed」が最初の12インチで、そのあとEPの「The Music Killer」を出して、アルバムはその後だな。

P:アルバムのために曲を作り始めたというよりは、ライヴのために曲を作ったり、スタジオで曲を作ったり、時間がある時にふたりでとにかくトラックを作っていた。

さっき、ファースト・アルバムの制作期間について尋ねたのは、『Late Night Endless』よりも、『Man Vs. Sofa』のほうが作品に一貫性を感じたからなんです。

S:そうなんだよ。ふたりで制作を始めた頃は、ふたりで何ができるのかを模索していて、サウンドシステムの人がエクスクルーシヴのダブプレートを持っているみたいに、自分たちだけにしかプレイできないトラックを作ろうと思っていた。そうやって何曲か作っているうちに、アルバムを作っている感じになったんだ。でも今回は、マーティン・ダフィが参加していたり、一貫性のある雰囲気になっていたりと、サウンドをまとめる要素がたくさんある。俺とピンチがしっかりと混ざり合っているね。正直、『Late Night Endless』は違うものが色々と入っている感じだった。

かなり小さい時からエイドリアンの音楽を聴き続けてきたんだ。だから、彼のインパクトや影響は自分にとってすごく大きい。その影響が、俺とエイドリアンの共通点に繋がっていると思うんだ。様々な音楽要素を取り入れ、色々な方向に進みながら、ムードのある自分の音楽を作る。エイドリアンも俺の音楽からそれを感じ取ってくれたと思う。 (ピンチ)

なるほど。前回と比べて、制作環境は変わりましたか?

P:エイドリアンが、以前よりも広くて新しいスタジオ・スペースに移ったんだ。前回と比べて制作環境が良くなったと思う。あと、古い機材をたくさん手に入れて使ったんだ。

S:環境は今回の方が良かったと思うね。俺の家と息子の家の間にスタジオを作ったんだよ。だから庭と庭の間にスタジオがあるんだ。面白いだろ?

P:本当に変わっているんだよ。エイドリアンの庭を歩いて、もともと塀だったところをくぐると違う家なんだ(笑)。

S:機材に関しては、ずっと探していたけどなかなか手に入らなかったものを手に入れて使うことができた。

P:俺はいつもデジタル的な考え方で音楽にアプローチしてきたんだけど、エイドリアンに説得されて、自分のスタジオでも前よりアナログのものを使うようになったよ。

逆に、エイドリアンがピンチの影響を受けてデジタルになった部分はありますか?

S:必要なのはPro Toolsくらいだな。あと、それを操作してくれる人。俺は年だから、あまりそういうのは操れないんだよ(笑)。ものすごく怠け者だからな(笑)。でも、俺のエンジニアのデイヴ・マクィワンが最高なんだ。できることならどこにでも彼を連れていきたいくらいだよ。

機材について詳しく教えてもらってもいいでしょうか?

P:ライヴではAbleton Liveを使っているけど、トラックを作る時はLogicを使っている。あとはVSTや色々なエフェクトを重ね合わせたものをコンソールに戻してアナログ機材を通じてさらに加工する、というのが俺の作業の流れだね。

S:俺は、イギリスのAMSっていう会社のファンだったんだ。そこの製品はもう作られていないんだけどね。俺はAMSのディレイとリヴァーブをずっと使ってきた。あとアメリカの機材も好きだよ。今年はOrbanのEQとスプリング・リヴァーブを買ったよ。高くないし、ずっと欲しかったんだけど、なかなか手に入れられずにいたんだ。しかも安いんだ。あとは、Fulltoneのテープ・ディレイも買ったな。もう1台欲しいと思っていたんだ。いちばん重要なのがEventide。俺はEventideの大ファンなんだ。Eventideも高くないよ。EventideのH9は本当に素晴らしいマシンで、みんなにオススメしているよ。あと何年も探していたのがLangevin。ここのEQは〈タムラ/モータウン〉の作品すべてで使われているし、キング・タビーやサイエンティストのEQスイープでも使われている。彼らのレコードを聴いていると見事にLangevinが使われている場面がけっこうあるよ。普通のEQとは違って独特の回路になっているんだ。

P:ハイハットとかに向いているね。

S:あとリヴァーブやドラム・サウンドにも向いている。このEQでかなりのドラム・サウンドを加工したよ。

最新作のプレス・リリースに、サウンドシステムで今回のアルバムを聴くとボディーブローのように身体に効くサウンドでありながら、ヘッドフォンで聴くと意識を没頭できる音楽だと書いてありました。アルバムを聴いて確かにそうだなと思ったのですが、どのようにしてそういったサウンドを作り上げたんでしょうか?

P:そのふたつのアイディアをミックスダウンの時に忘れないようにすることかな。サウンドシステムで聴くと身体で感じられるサブベースが、ヘッドフォンではそこまで伝わってこない。例えばブリアルなんかの音楽だと、ディテールがすごく緻密で微細だけど、それをサウンドシステムで鳴らしても、そのディテールがわかりにくい。サウンドシステムの大きなボリュームに比べて音がさりげなさすぎて聴き取りにくいからね。だからミックスダウンの時に、サウンドシステムから感じられる音のパワーと、ヘッドフォンで聴いたときに意識を没頭できる細かいディテールの両方を兼ね備えたスペースを作ることが大事なんだ。

前作と比べて、今回はヴォーカルを使ったトラックがかなり減っていますね。

S:それは意識してやったことなんだ。以前は〈Tectonic〉ミーツ〈On-U Sound〉みたいなサウンドだった。でも今回のアルバムは、俺とピンチというアーティストの融合なんだ。俺たちが、よりひとつになれている。ヴォーカルを入れすぎてしまうと、その俺たちらしさが薄れてしまうだろ? 今回はふたりのポテンシャルを追求しているんだ。

そういった中でもリー・スクラッチ・ペリーやスキップ・マクドナルドの声が使われているのは、歌としてというより、音の要素のひとつとして彼らのヴォーカルが使われているのでしょうか?

S:ちょっとしたフックとして使っているだけだね。

P:例えば、リー・ペリーが参加しているトラックも、最初から最後まで歌声が入った普通のヴォーカル・トラックじゃない。もっと音楽が呼吸できるスペースがある。タズにしたってそうだ。タズのスタイルはもっとグライムっぽいけど、ずっと声を発しているわけじゃないし、歌モノになっているわけでもない。声によるテクスチャーとして使っているんだ。

取材・文:Yusaku Shigeyasu(2017年3月07日)

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Profile

Yusaku ShigeyasuYusaku Shigeyasu
2001年からDJを始める。出音や変化のひとつひとつがボディに対してダイレクトに訴えかけるようなミックスを目指し、既成概念にとらわれない多様な楽曲を積極的に自身のセットに取り込む。近年は”既存から外れていくものとしてのテクノ心”とドープな感覚をくすぐられダブステップ、ドラムンベースに傾倒。DJ活動と並行してトラック制作にも取り組んでおり、田中フミヤ主宰の[TOREMA RECORDS]よりリリースされた「FC CHAOS EP」に参加。多くのブッキング・企画に携わりながら活動を続けている。

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