Home > Interviews > interview with jan and naomi - とてもとても静かな声とともに
janの声は独特で、音程がなくても成立するような感覚があって。ひとりで活動していた頃やjan and naomiの初期にはそういう曲がけっこうあるんですが、音程が合っていないないというかズレているのかな、というのも含めて味にするような歌声と歌い方もできる。
jan and naomi Fracture cutting edge |
■先ほどデモは各人で作っていくと言っていましたが、その後のふたりのキャッチボールってどうやっているんでしょう?
n:普通のバンドと違うところだと思うんですが、僕たちはデモをつくったら基本的にはそれで完成というイメージ。今回は、その後レコーディング・スタジオで録っていくなかで、もう一方がその上でいろいろと遊ぶ、みたいな感じでした。家で8割9割仕上げて、スタジオでしか録れないものを録り直したというようなやり方が多かったですね。
j:その遊び方もまったく定形があるわけじゃなくて。例えばお互いが作った曲について、演奏的にはほぼ何もしてなくても、意見をひとつの楽器として織り交ぜていく、というか。例えば俺が演奏して歌ったものに、naomiさんが「ああしたほうが良いと思う、こうした方が良いと思う」と言うことが、jan and naomiの音楽の色というか、ひとつのフィルターとなっていると思います。
■細かなアレンジとかもほぼ作曲者の主導で?
n:俺の曲はそうでした。janのものは、弾き語りのデモが用意してあって、セッションしながらレコーディングしていく、みたいな感じでしたね。
j:割合コラージュっぽく部分的に、っていうのが今回はとくに多かったかな。
■一般的な、Aメロ固めて、Bメロ固めて、構成作り込んでいって、プリプロ作って、スタジオにもっていって、録って、ラフミックスして、みたいな感じで作っていないのだろうな、というのは感じました。音の差し引きなども当意即妙にその場でやっているのもけっこうあるんだろうだとうな、という。非常に作り込まれているのに一方でセッション感もあるという、不思議なバランスだなと思いました。
j:ミックスがはじまってから音を足すこともありましたね。
■ミックスはエンジニアさんと?
j:メールベースで意見を言い合ってという感じですね。
■音像の部分でも、一聴して全体にすごく深さと広がりがありつつ、曲ごとの緩急もあって、構成的なこだわりも感じました。
j:最近になって思い出したのは、互いの曲が徐々にビルドアップされていく上で、この曲はEQ的にビルドアップしたから、あの曲のこの部分をちょっとマイナスしてみようとか、そういうことがあったな、ということ。例えばnaomiさんがある曲のなかでシンセサイザーにリバーブを深くかける判断をしたときに、俺のこの曲のリバーブは逆にもう少しカットして、マットな曲の響かせ方にしようかな、とか。それがレコーディング~ミックスのプロセスのなかで多くあった気がしますね。
■それぞれすごく空間的な処理なんだけど、1曲1曲の粒立ちというか個性みたいなものがちゃんとありますよね。曲ごとでBPMに幅があるとかじゃないのに、そういう各曲の個性がある。
j:たしかに自然とbpmだけはそんなに離れていない形になりましたね。
野田:音響はすごく独特ですよね。俺も聴いて思いますね。
■「ダーク」といえばいいのか……重いけど広がりのある空気感というか。おふたりの音楽的趣向が音響デザインに反映されてるんでしょうか?
j:あまり何かに影響されてこうなったというのはないかな。それより、日々naomiさんとライヴをして一緒にお酒飲んだりとか、そういう普段の生活のなかから得たことが大きいかもしれない。大概そういうことって歌詞にしか影響しないと思うんだけど、お酒を飲んでいるところでかかっていた音楽とかが無意識に影響しているのかも。
■もともとおふたりは、渋谷の百軒店で別々で活動している中で知り合ったらしいですね。例えば学生時代に出会って、とかいうような場合、お互いどんな音楽が好きとか話をする中でバンドに発展するというのが一般的かなと思うのですが、おふたりの場合は、どういう形で音楽的ルーツの共有といったことが行われたのでしょうか。
j:「これが好き、あれが好き」っていう音楽の話をする前に、曲を一緒につくる機会があって。それで出来た曲がいい感じだったんです。
n:もともとjanの音楽が好きだったし、janももしかしたら俺の音楽を好きでいてくれたのかしれない。だから最初に曲を一緒に作ってみても上手く行ったということなんじゃないかな。
野田:性格的に気があったとか?
n:俺のほうが年上で、ちょうど良い年の離れ方だったっていうのもあるかもしれないですね。物事を決める時にもケンカしないし、素直に譲れるし、janも譲ってくれることもあるし。
野田:性格を陰と陽に分けるとすると、どちらがどちらですか?
n:場面によるんですけど、基本的には通常時はjanの方が陽で俺が陰。でもお酒を飲むと俺のほうが陽になる。janは逆にお酒を飲むとどんどん陰に向かっていく(笑)。
野田:そういう観点からもバランスが良いんですね。お互い陽になっちゃうとね(笑)。
j:取り留めのないことに(笑) 3年に1回くらい稀にふたりとも陽になるときもありますけどね(笑)
■ふたりとも歌声の面でもまったく違った個性を持っていますよね。naomiさんはハイトーンヴォイス。janさんは、レナード・コーエンなども思わせるような低い声。お互いの歌声の魅力を挙げるとしたら?
j:naomiさんの声は怖いくらい透き通っていて、そのホーリーな感じに感動します。
n:janの声は独特で、音程がなくても成立するような感覚があって。ひとりで活動していた頃やjan and naomiの初期にはそういう曲がけっこうあるんですが、音程が合っていないないというかズレているのかな、というのも含めて味にするような歌声と歌い方もできる。今回は歌い方を試行錯誤してヴォーカルのテイク数も重なっていきましたが、以前は1回録っても5回録っても全部OKという感じだった。厳密に言うと外れているけど、それがむしろ良い、っていう。
j:今回のように抽象性が薄い曲の場合、いままでの歌い方だとどうしても説得力がなくて、歌い方を変えた曲もありました。
■ちなみに、技術的な影響を受けているかどうかは別として好きなシンガーっていますか?
j:エルヴィス(プレスリー)かな。
■おお、意外な気がしつつ……でもわかる気もする……。
野田:ほんとに? 冗談とかではなくて(笑)?
j:本当ですよ(笑)。子供の頃から好きで、いまも変わらず好きかな。
■どんなところが好きですか?
j:なんといえばいいか……聴いた瞬間に自然とゾワッとするというか。神聖なときもあれば、すごく悪魔的なときもある。そういったものに魅了されるんです。そういった振れ幅があるものは、エルヴィスに限らず好きですね。でも、エルヴィスはその究極形といえる歌声だなあと個人的に思います。
■どこかでjanさんの歌声が「スコット・ウォーカーを思わせる」と評されいてるのを見ましたけれど、彼の歌にもそういう振れ幅がある気がしますね。
J:そうですね。でもスコット・ウォーカーの歌声も美しくて好きなんですが、甘さがないかな、と。エルヴィスにはそれもあるな、と感じます。
■naomiさんは?
n:玉置浩二。
■また意外な。
n:あとASKA。
■おお……。
n:歌がいいって思う人って誰かなあ、っていまずっと考えてて。一番最初に出てきたのが玉置浩二。
■それは親の影響で聴いていたとか?
n:2年くらい前に、僕らがよくいく渋谷の「カラス」でケヴィンさんっていう常連さんが、玉置浩二をずっとかけて歌の魅力を店中の人に語っていた夜があって。安全地帯含め玉置浩二の存在は知っていたけど、「歌が良い」っていう耳で聴いたことはなくて。で、「ああ、良いな」と。
■ASKAは?
n:ASKAの歌もやっぱり本当に独特で、歌い出して2秒で「あ、これASKAだ」って思わせる声の独特さ。歌上手い人っていうのはたくさんいるけど、玉置浩二も含めその人だけの「節」があるな、っていう人に憧れる。
■自分の声の帯域に近いとかは関係なく……その人だけの個性がある歌声が好きということですね。
n:正直ジェイムス・ブレイクとボン・イヴェールのヴォーカルの差とかわからないですよ。好きな人はわかるんでしょうけど。自分の歌に関しても、「あれだったら誰が歌っても一緒じゃん」ってなったら嫌だな、っていうのはあります。
野田:jan and naomiを聴いて日本的だとは全然思わなかったし、言われなければ日本のアーティストだって気づかずに聴いてしまえると思うんですよね。だからいまの「玉置浩二の歌が好き」っていうのは無理して言ったんじゃないかなと疑っていますけどね(笑)。本当はジェイムス・ブレイクやボン・イヴェールが好きでしょ! ライバル心があって言えないんじゃないんですか(笑)?
n:いや、そんなことないですよ(笑)。
j:でも今回のアルバム、外国人の友達に聞かせると、「アニメっぽい」って言うんですよ。
■へえ~。
j:微妙な細かいところに、アニメ的にニュアンスがある、と。
■無意識で出てしまう日本固有の土着性みたいなことなんでしょうか……?
j:おそらく。歌謡曲感ということの延長線上なのかもしれないですけど、アニメっぽいメロディだったりピアノのフレーズが入っていると言われて、確かにそういう耳で聞き直したら、そうなんですよね。ジブリっぽさというか…久石譲的なものを連想させる要素が意外と入ったりしているのかもなあ、と思いました。
取材:柴崎祐二(2018年6月20日)