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Home >  Interviews > interview with South Penguin - サイケデリック新世代が追い求める「美しさ」とは

interview with South Penguin

interview with South Penguin

サイケデリック新世代が追い求める「美しさ」とは

──サウス・ペンギン、インタヴュー

取材・文:柴崎祐二    写真:小原泰広   Aug 08,2019 UP

家の中でずっとアイドルの動画を観ているみたいな、一般的にはどろどろしてて気持ち悪いみたいに思われているような人の切なくて儚い感じ。そういう人の心の中にも美しさってあるよなっていう。僕はガチ恋おじさん大賛成。

各曲について話を聞かせて下さい。M1の“air”はネオ・ソウル風なベース・ラインが印象的ですが、一方でコナン・モカシンや、アンノウン・モータル・オーケストラとか、10年代後半以降のメロウなフォーク・ロック~サイケデリック・ロックに通じる美学を感じました。

アカツカ:ベースはスライ&ザ・ファミリー・ストーンの“Thank You For Talking To Me Africa”をオマージュしているんです。全体的にはあまりソウル的なものはイメージしていないけど、メンバーの通ってきた音楽のフィルターを通すことによってこういったテイストになっているんだと思います。僕がデモ作りでよく使う GarageBand の Rock Kit さんていうAIのドラマーがいるんですけど、のっぺりしたロックっぽいフレーズが礒部のフィルターを通すとブラック・ミュージックっぽいドラミングに変換される、みたいな。彼と宮田くんと宮坂くんは学生時代にブラック・ミュージック系のサークルに所属していたってのもあるし、今回の録音ではメンバーそれぞれの個性が出てきているのかなって気がしますね。

Dos Monos の荘子it さんのラップをフィーチャーしようと思ったのは?

アカツカ:サポート・メンバーのみんなともそうだし、僕は基本的に誰かと一緒に何かをやるっていうのが好きなんです。今回のアルバムは自分達的にリスタートの気持ちが強かったから、より一層外的な刺激っていうのを求めてて。僕は偏った音楽しか聞かないからヒップホップやブラック・ミュージック自体もそんなにちゃんと知らないんですが、いま日本で面白いことやっている人がいるんだったらそういう人を交えてなにがしかの化学反応が起きたら嬉しいなっていう気持ちだったんです。Dos Monos は元々知り合いではなくて、彼らの音源を聴いたときに、これはすごいかっこいいって思って。そこから声をかけた感じですね。

Dos Monos も同世代ですよね?

アカツカ:そうですね。デザインや映像など含めて、今回のアルバムに関わってくれている人って同世代が多いんですよね。ことさら意識したわけじゃないんですけど、やっぱり自分は同世代でやっているかっこいい人達に惹かれるってのがあるんだと思います。

M2“head”。

アカツカ:この曲は初めて Rock Kit 以外のドラマーでデモを作ったものです(笑)。プリンスの“All the Critics Love U in New York”という曲のドラムをサンプリングしてループさせただけのオケを僕が作って。それがめちゃくちゃかっこよかったんで「あー、このまま出したいな」と思ってたんですけど、それはさすがに難しいんで(笑)、礒部に頑張ってもらいました。

山田光さんによるフリーキーなサックスが印象的です。

アカツカ:激烈ですよね。ジェイムズ・チャンスとか、ファラオ・サンダースのような……。

宮坂:スタジオで「サウンドのイメージとして昇り龍みたいな感じ」とか言ってましたよね(笑)。

この強烈な反復ビートからはダンス・ミュージック的な肉体性も強く感じます。一方でポスト・パンク的というかNYノーウェーヴ的なアヴァンギャルドさもある。

アカツカ:僕は元々ニューウェーヴ大好きっ子なんです。ふつふつとミニマルに盛り上げいくこういう曲に関しては、やっぱりトーキング・ヘッズの影響が大きいですね。そういうアヴァンな一面とかいろんな側面を再始動のアルバムとして出したいなっていう気持ちがあったんで、こういう飛び道具的な曲を収録しました。

M3“alaska”は過去曲のリメイクですね。冒頭のドラム・マシン? の音が印象的です。

ニカホ:岡田くんと ACE TONE とかの昔のリズム・ボックスっぽい音を入れたいねって話をしてて。でも昔のリズム・ボックスってテンポも揺れたりするから実際にレコーディングで使うのって割と難しいんですよ。なので、岡田くんにプロツールスでループを作ってもらって。元々は“Space Commercial”っていうエディ・ハリスの曲から発想を得て。

制作にあたってのそういうリファレンスみたいなものについても日々みんなでコミュニケーションする?

ニカホ:いや、アカツカくんとはあんまりしないです(笑)。サポート・メンバー内や岡田くんとは結構話すかも。これはエディ・ハリスに加えてもう一個リファレンスがあって、Mild High Club の“Skiptracing”も意識しましたね。

M4“ame”。これも過去曲のリメイクですね。あえてリメイクを収録するのはどんな意図があるんでしょう?

アカツカ:単純にファーストEPの時点では音楽的に未熟だったし、いまのメンバーでこの曲をやったらもっと良くなるだろうっていうのが大きいですね。繰り返しになりますが、今回のファースト・フル・アルバムで再スタートを切りたいっていうのがあったので、現時点の自分たちのベスト的な内容にしたいというのもあって。

M5“idol”。曲名が印象的ですが、いわゆる日本のアイドル文化も視野に入っている感じなんでしょうか……?

アカツカ:はい、あやや(松浦亜弥)とかを賛美するつもりで作りました。

ニカホ:本当に?(笑)

MVが不思議ですよね。曲名から連想させるように実際に女の子が出てくるんだけど、そこへ銃火器の映像が挿入されたりと、支離滅裂な感じに批評性を感じて。最近よくある「可愛い女の子出しときゃいいでしょ」的なMVへのアンチテーゼなのかなと思いました(笑)。

アカツカ:そうですね……でもまあMVに関しては監督の Pennacky くんに任せちゃった部分もあるのでなんともいえないのですが。この曲は曲名通り偶像崇拝的なことをテーマにしている曲なんですけど、歌詞も他の曲よりは分かり易く書けたかなと思っていて。アイドル自体についての歌というより、そういう偶像に本気ですがっている人の歌。

ガチ恋おじさん。

アカツカ:あ、まさに。曲名「ガチ恋おじさん」にすればよかったな。

宮田:身も蓋もないな(笑)。

どことなく切なさと美しさを感じます。

アカツカ:そうなんですよ。アルバムのテーマとして考えていた「美しさ」がこの曲にも強く反映されていると思います。家の中でずっとアイドルの動画を観ているみたいな、一般的にはどろどろしてて気持ち悪いみたいに思われているような人の切なくて儚い感じ。そういう人の心の中にも美しさってあるよなっていう。もちろん馬鹿にしたりしているわけじゃなくて、むしろ僕はガチ恋おじさん大賛成。そういう刹那的な美しさみたいなものがこの曲におけるキーになっていると思います。

この曲を聴いて泣いちゃう人もいるかも。

アカツカ:ああ~、その涙が一番美しいですねえ。

日本のオタク文化いじりってどうしても愚弄的だったり自己憐憫的なものが多いけど、そこにある儚さをすくい取ろうとしている感じが素晴らしいですね。トッド・ソロンズの映画に通じる美しさというか。

アカツカ:そういうアイドルオタクの人たちが「避けるべき存在」みたいになってしまうのがすごく嫌で。女性アイドルや男性アイドルだけじゃなくて、みんなすごく好きなミュージシャンとか、いろんな趣味とか、そういうものに過剰に入れ込んで自分の生活の全てになっているような人ってたくさんいると思うんですけど、それって普通の恋愛と変わらないと僕は思うんです。

しかしMVに出ている雪見みとさん、可愛いですねー。ついフルでリピートしてしまいました(笑)。

アカツカ:いや~、本当ですよね。例えば、このMVをきっかけにあの子のことを本気で好きになってくれる人が出てきたら、曲の世界が全うされるなって(笑)。彼女、京都の子なんですけど、先日京都にライヴしに行くってことになったとき「せっかくだからライヴへ遊びにきなよ」って誘ったんですけど、そのときは残念ながら予定があわなくて。メンバーに「みとちゃん来れないっぽいよ」って言ったら、宮田くんが「じゃあ僕京都行かないです」って(笑)。

宮田:だってそんなの行く必要ない……。

アカツカ:そういうところで、「あ、バンドじゃなくてサポート・メンバーなんだなあ」って(笑)。

すごく好きなミュージシャンとか、いろんな趣味とか、そういうものに過剰に入れ込んで自分の生活の全てになっているような人ってたくさんいると思うんですけど、それって普通の恋愛と変わらないと僕は思うんです。

M6“alpaca”。アフロとブラジルの中間を行くようなリズムがカッコいい。

アカツカ:このリズム・パターンを作ったのも Rock Kit さん(笑)。かなりいじった記憶があります。でも僕はドラマーの足や手の動きっていうのを全然理解してないんで、それを礒部になんとかやってくれって頼んで。

礒部:必死にコピーしましたよ。かなり難しかったですね。

でもそれをたんとプレイできるのがスゴイですよね。いわゆるインディー・ポップ的な範疇からはみ出すダイナミズムを感じました。

ニカホ:彼は元々中南米音楽、特にレゲエに思い入れがあるプレイヤーですしね。

アカツカ:これはベース・ラインも僕が作りました。アルバム全ての中で一番僕が主導権を握った曲かもしれないですね。だから手柄は僕のものです。褒めて下さい。

(笑)。M7“spk”は打って変わってマイナー調。メロウだけどヘヴィーという。アルバム後半にかけて割とダウナーな展開になっていきますよね。

ニカホ:あ、いま気づいた。本当だ(笑)。

アカツカ:曲名にもしているんですけど、SPK という精神病患者とその看護師がやっていたオーストラリアのグループからインスピレーションを受けていて。後にその元患者は自殺しちゃうんですけど……SPK って元々はノイズとかインダストリアル系なんですけど、なぜかその死の前にめちゃくちゃポップになってエレ・ポップ路線になったり、相当不思議な魅力のあるバンドで。自分のルーツ的な音楽ですね。ここでは SPK の曲調とかは意識していないんですけど、そういうやるせなさや切なさは意識していますね。

確かに歌詞も鬱々としていますね……。

アカツカ:そうですね。「病葉」って言葉が出てくるんですけど、ユーミンの曲で知った言葉なんです。病床で木から病葉が落ちていくのを見るっていうかなり切ない描写の曲があって、そのイメージが精神病患者が抱いているかもしれない心理と一致して。

M8“aztec”。これもメロウだけどどこか苦い味わいもある。曲順についてはどのように決めていったんですか?

アカツカ:曲順については……あまり正直に話したくないんですけど実は今回曲名の頭文字が「a」の曲が多すぎて。それを固めるんじゃなくてバラけさせたかったというのがあります(笑)。それと、やっぱり全体にちょっと暗い感じの曲が多いなって印象があったんで、このあたりにビートは重めだけどポップな曲をちょっとクッション的に入れておこう、と。

実に美メロだな、と。メロディーメイカーとして個人的に好きなアーティストって誰かいますか?

アカツカ:やっぱりユーミンはメロディーメイカーとしても大好きですね……。他の曲は海外のアーティストの曲を参照して作っているんですが、この曲はわりと日本のポップスを意識しているかもしないですね。

なるほど。いわゆる「ニュー・ミュージック」的なテイストも感じました。

アカツカ:そうですね。そういう日本のポップスに加えて、MGMT の『Congratulations』のタイトル曲も結構意識しましたね。そのふたつの要素を融合したイメージですね。元々この曲はバンド結成の頃一番最初に作った曲なんです。今回そのときのリズムも大きく変更して。

宮田:元々は倍のビートだったんですよね。

アカツカ:この曲は当初上手くアレンジがまとまらなくて、最後まで入れるかどうか迷ってて。そこで MGMT を僕がひっぱりだしてきて、こういう感じでやったらどうかなって提案したんですけど、それがいい感じにハマって。最初にこのアレンジが形になったときは嬉しかったですね。

M9“happy”。終盤にかけてのドラムの音が凶暴で、それこそドゥーム・メタルみたいな……。

アカツカ:(笑)。この曲は他に比べてかなりヘヴィーで凶暴な音の処理になってますね。“aztec”が South Penguin として一番最初に作った曲で、これが一番最後に作った曲なんですが、“aztec”でいままでの僕らを終わりにして、一番新しく作った曲で最後締めることで、これからこのバンドを再びやっていくぞっていう気持ちを込めています。かなり暗い感じだからこれで終わらせるのはどうかなあと思って。だからせめて曲名だけでも“happy”にしました(笑)。ハッピーエンドですね。

そういうことだったんですね(笑)。曲調的に全然ハッピーじゃないよなと思っていました。これまでアカツカさんと話していて面白いなと思ったのが、いろいろ細かいところまで詰めていくのと、他人に任せてしまってあえてタッチしないということ、もっというならテキトーな感じとの不思議なバランス感です。没入して作り込むみたいなところから距離を取りたいという心理があるんでしょうか?

アカツカ:うーん、結構その心理はある気がしますね。それこそ岡田さんとかを見てて思うんですけど、自分の作品も凄く作り込むし、人の作品でももちろん手を抜かないし、すごいプロフェッショナルな仕事をしてくれる人だな、と。そういうのって本当にすごい体力だなって思うんですけど、僕は全然そういうのができない。まあ、それは生まれ持ったものなんで、諦めている部分もあるんですけど。

でも、そういうおおらかさみたいなものって、それこそアカツカさんが尊敬するコナン・モカシンにも通じる気もします。

アカツカ:そうですね、彼の活動にはそれを感じますね。ガチガチじゃないちょっとゆるい雰囲気というか。そっちの方が自分にあっていると思うし、無理のない形でやらないとかえって良いものはできないって常に思っているんで。

だからといって、パーティートライブ的に「ウェーイ!」って感じでもない。

アカツカ:まあ僕は夜な夜なクラブで遊び倒してますけどね。それはもう大変。夜はアヴィーチーしか聴きませんから。

ニカホ:なんでそんな嘘つくんだ(笑)。

ギークやナードな感じへも美しさ見出しつつ、おおらかな美意識を表現していくって稀有なことだと思います。なんだろう、今日のインタヴューではアカツカさんの器の大きさみたいなものを強く感じました(笑)。

アカツカ:いや~、常日頃みんなにそう言われますよ。

ニカホ:そんな場面見たことないけどな(笑)。

South Penguin
ライヴinfo.

・8/12 (mon) @江ノ島東海岸
TENGA PARK 2019
w/ Helsinki Lambda Club / and more...
start:11:00 close:16:00
Charge Free!!!

・8/31 (sat) @渋谷7th FLOOR
ARAM presents 『リスニング・ルーム』
出演:ARAM / 安楽 / South Penguin
open:18:00 start:18:30
adv:¥2,200 door:¥2,500 (各+1drink)

・9/16 (mon) @下北沢basementbar
Group2 presents『的(TEKI) Vol.3』
出演:Group2 / South Penguin / No Buses
DJ:鳥居正道 (トリプルファイヤー)
open:18:00 start:18:30
adv:¥2,500 door:¥3,000 (各+1drink)

取材・文:柴崎祐二(2019年8月08日)

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Profile

柴崎祐二/Yuji Shibasaki柴崎祐二/Yuji Shibasaki
1983年、埼玉県生まれ。2006年よりレコード業界にてプロモーションや制作に携わり、これまでに、シャムキャッツ、森は生きている、トクマルシューゴ、OGRE YOU ASSHOLE、寺尾紗穂など多くのアーティストのA&Rディレクターを務める。現在は音楽を中心にフリーライターとしても活動中。

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