ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. interview with Larry Heard 社会にはつねに問題がある、だから私は音楽に美を吹き込む | ラリー・ハード、来日直前インタヴュー
  2. Columns ♯5:いまブルース・スプリングスティーンを聴く
  3. The Jesus And Mary Chain - Glasgow Eyes | ジーザス・アンド・メリー・チェイン
  4. interview with Shabaka シャバカ・ハッチングス、フルートと尺八に活路を開く
  5. interview with Martin Terefe (London Brew) 『ビッチェズ・ブリュー』50周年を祝福するセッション | シャバカ・ハッチングス、ヌバイア・ガルシアら12名による白熱の再解釈
  6. claire rousay ──近年のアンビエントにおける注目株のひとり、クレア・ラウジーの新作は〈スリル・ジョッキー〉から
  7. interview with Keiji Haino 灰野敬二 インタヴュー抜粋シリーズ 第2回
  8. Beyoncé - Cowboy Carter | ビヨンセ
  9. 壊れかけのテープレコーダーズ - 楽園から遠く離れて | HALF-BROKEN TAPERECORDS
  10. Larry Heard ——シカゴ・ディープ・ハウスの伝説、ラリー・ハード13年ぶりに来日
  11. Free Soul ──コンピ・シリーズ30周年を記念し30種類のTシャツが発売
  12. Jlin - Akoma | ジェイリン
  13. Jeff Mills ——ジェフ・ミルズと戸川純が共演、コズミック・オペラ『THE TRIP』公演決定
  14. Bingo Fury - Bats Feet For A Widow | ビンゴ・フューリー
  15. まだ名前のない、日本のポスト・クラウド・ラップの現在地 -
  16. tofubeats ──ハウスに振り切ったEP「NOBODY」がリリース
  17. Jeff Mills × Jun Togawa ──ジェフ・ミルズと戸川純によるコラボ曲がリリース
  18. R.I.P. Amp Fiddler 追悼:アンプ・フィドラー
  19. interview with Keiji Haino 灰野敬二 インタヴュー抜粋シリーズ 第1回  | 「エレクトリック・ピュアランドと水谷孝」そして「ダムハウス」について
  20. Rafael Toral - Spectral Evolution | ラファエル・トラル

Home >  Interviews > interview with You Ishihara - 君はこの音楽をどんな風に感じるのだろうか?

interview with You Ishihara

interview with You Ishihara

君はこの音楽をどんな風に感じるのだろうか?

──石原洋、インタヴュー

取材:野田努    写真:小原泰広   Mar 04,2020 UP

今回のテーマは無関心とかアノニマスとか。そういうことはすごくありましたね。雑踏のなかに含まれている。「あのさー」とか喋っている人たちがスマホひとつで日々を送っている。そういった膨大な情報、データが背後にずっとあって。そうはいかなかった自分というのがそのなかに混じっている。

では、今回の作品に戻りますが、作業的にもっとも時間を要したのはどこですか?

石原:ミックスですね。演奏の部分は3日か4日で終わっています。雑踏のトラックが30〜40あるんですよ。細かく刻まれた雑踏をいろいろ録ってきたやつが。で、それを全部自分の家で聴いて(笑)。

雑踏は録った場所には意味がありますか?

石原:そういう意図が入らないように、いろんな人に声をかけて、録ってきてって頼んだんです。そうしたら、渋谷とか新宿とかいろんなところに行って、みんなが録ってきてくれました。それでも足りなくて、けっきょく最後は自分で行きましたけど(笑)。それをパソコンに入れて、聴いて、使う箇所を決めて、それを全部スタジオに送って……。

使える雑踏と使えない雑踏があるんですね。

石原:ありますね。まず音楽が入っているのはダメだし。有名な曲とかが流れているとかね。使えないものがすごくあった。音が小さすぎて聞き取れないとか。

でも東京はすごくうるさい街です。

石原:それをはじくのが大変でしたね。一昨年から録りはじめて、去年の春前からレコーディングに入りました。ミックスを半年やっていましたね。

ちなみにバンドの演奏はどうやって録ったんですか?

石原:普通にスタジオで。ピース・ミュージックですよね。中村(宗一郎)さんのスタジオですよね。

バンドでは何曲録ったんですか?

石原:7、8曲録りましたね。ボツになったのが2曲くらいあって。実際雑踏と混ぜたら使えないというのがありましたね、楽曲と雑踏のスピードの齟齬がキツすぎて。とくにアクセントがウラに入っている曲は使えなかった。

今回は全部を2曲にまとめましたよね。1曲のなかにもいくつかの曲がある。それはなぜ?

石原:実質1曲なんですよね。最初から最後までで1曲なんです。アナログ制作をまず考えたので、1回切れて、B面みたいなイメージ。そこでフェードアウトするんじゃなくて、カットアウトするということがすごく重要だったので、最後にブツっと終わる。その間の曲が1曲2曲3曲というふうな考え方はしていなかった。

全部で1曲。つまり1曲ですよね。

石原:その前があるかもしれない。うしろがあってもいいんだけど、ここだけを切りとったものが作品になったという感じですね。

この感覚を共有できる人がいるかどうかみたいなところはどう考えました? つまりこれをおもしろがってくれるのかどうかという。

石原:難しいなというのはわかりますけど、作品って自分が思ってもみなかった楽しみ方、思ってもみなかったような使われ方でもいいですけど、そういうことが起きるかもしれない。僕はこう思っているけどそうではない捉え方をする人がいればそれは面白いし聞いてみたいなと思います。
できてしばらくしてから、ウォークマンみたいなやつにこれを入れて渋谷のスクランブルから歩いてみたことがあるんですよ。どれが現実の音でどれが録音された音なのか本当に混ざってけっこうおもしろかったですよ。

死んでいくロックを描いたという言い方はできるんでしょうか?

石原:僕の感じでは更新という意味では83年くらいに死んでいるので、いまさら感があるんですけど。遠ざかっていくロックという気はしますよね。すでに実際には終わっているんだけど、記憶のなかからすらも遠ざかっていくものがあるじゃないですか。忘れ去られはじめている。

逆説的に言えば、石原さんがそれだけすごくロックに執着されているということですよね。

石原:それはそうですね。クラブ・ミュージックにいけなかった自分のコンプレックスとは言わないですけど、なぜ純感覚的にそっちにいった人がいるのに、自分はとどまらなきゃいけなかったんだろうというのは一時は自問自答していましたね。

ロックでなければいけない理由が石原さんのなかにはあったわけですよね。

石原:自分との関係性があまりにも一方的に深かったということがありますね。

しかしなぜすべてを1曲に? 全部で8曲という構成でもよかったんじゃないのかなという気がします。

石原:曲単位で曲を聴くというのが習慣としてあると思うんですけど、1曲目が良かったとか2曲目が良かったとかになると、もう一回聴いて、ちゃんと曲の構造、例えばベースのこのラインとバスドラの何拍め位置が、とかを聴きとろうとするようになっていく。そこが主眼ではなかったので。そういう聴かれ方はしたくなかった。
とにかく、こういうものが作りたかったとしか言えないです。曲単位で、3曲目がいいとか4曲目がいいという感じではない。

物語性がまったくないですよね。

石原:物語性がなるべく出ないようにしました。それでも多少は出てしまっている。

それはなぜ嫌なんですか?

石原:そういう質問をされるのはすごくわかります。ある種のヒューマニズム的なものに対する自分のなかでの折り合いのつかない感覚がずっと子どもの頃からあるんですよ。パンクのなかでもクラッシュとか、そういうのがいまひとつダメだったし。クラッシュが好きな人と話が合わなかった。僕はそっちにいかなかったんですよ。

クラッシュが好きだった人の音楽ではないですよね(笑)。

石原:今回のテーマは無関心とかアノニマスとか。そういうことはすごくありましたね。雑踏のなかに含まれている。「あのさー」とか喋っている人たちがスマホひとつで日々を送っている。そういった無数の人たちの発信受信する膨大な情報、データが背後にずっとあって。そうはいかなかった自分というのがそのなかに混じっている感じですよね。すでにその一部になってるのかもしれないけれど。

アイロニーはないんですか?

石原:アイロニーではないです。本当にリアルですね。これ(スマホ)に入ってないものは世界ではないと言われる可能性があるということでしょ。

────────

 最後に。このアルバムを聴く場合は、間違ってもPCなんかで聴いてはいけないし、安っぽいイヤフォンも避けたほうがいい。家のスピーカーで聴くのが最善である。

取材:野田努(2020年3月04日)

123

INTERVIEWS