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interview with Little Dragon (Yukimi Nagano)

interview with Little Dragon (Yukimi Nagano)

世界を魅了した歌声、北欧エレクトロニック・ポップのさらなるきらめき

──リトル・ドラゴン、インタヴュー

質問・文:小川充    通訳:滑石蒼 photo: Ellen Edmar   Mar 26,2020 UP

私たち人間は地球という同じ惑星にいて、生きて、死んで、そして違う生命に生まれ変わるけど、地球に生きる生命であることには変わりがないということね。

これまで〈ピースフロッグ〉 〈ビコーズ・ミュージック〉から作品をリリースし、今回の新作『ニュー・ミー、セイム・アス』は〈ニンジャ・チューン〉からのリリースとなります。アルバムに先駆けて2018年に「ラヴァー・チャンティング」というEPをリリースしているのですが、〈ニンジャ・チューン〉へ移籍したきっかけは何ですか?

YN:〈ビコーズ・ミュージック〉との契約を終える段階で関係者の人たちと話をしていて、〈ニンジャ・チューン〉でA&Rをやってるエイドリアンと繋がったの。彼は本物の音楽オタクなのよね。音楽の仕事をする相手に真の音楽好きを選ぶのは、すごく大切なこと。〈ニンジャ・チューン〉は私たちの音楽をサポートしたい、もっと多くの人のもとに届けたいって言ってくれた。インディペンデントなレーベルだから直接的にサポートしてもらえるし、今後がすごく楽しみだわ。

『ニュー・ミー、セイム・アス』というタイトルにはどのような意味が込められているのでしょう? 「新しい私、変わらない私たち」という逆説的な言葉なのですが。

YN:潜在的な意識の話なんだけど、自分は変わったと感じたとしても、身体は変わらないってこと。たしか7年で身体の細胞は入れ替わるらしいんだけど、それでも身体自体は同じ。年を取っていくだけ。まずはそれが、人間全般に対しての『ニュー・ミー、セイム・アス』の意味ね。それからバンドとしての意味は、10年前の私たちとは全然違うんだけど、一緒に音楽をやっているという事実は変わらないってこと。あとはもっと深い意味で言うと、私たち人間は地球という同じ惑星にいて、生きて、死んで、そして違う生命に生まれ変わるけど、地球に生きる生命であることには変わりがないということね。

レーベルからのインフォメーションによると、自立と前進を促す “ホールド・オン”、失われた愛についての “ラッシュ” はじめ、“アナザー・ラヴァー”、“サッドネス” とポジティヴなものから悲しみを歌ったものまで、心の動きをなぞった歌詞が多いです。アルバム全体を通して何か訴えたかったものはありますか?

YN:全体をひとつの旅として聴いてほしい。アルバムのトラック・リストはみんなで慎重に考えたものなの。最近は曲単体で聴く流れになってきてるから、曲順とかをあまり気にしない人も結構いるけど、アルバムをひとつの作品として考えたい。私たちはオールド・ファッションな人間だから。“サッドネス” の曲調は明るいけど歌詞は暗い。そのあとにはダンス・ララバイの “アー・ユー・フィーリング・サッド?” が来るわよね。「心配しないで、心配しないで、うまくいくから」って歌詞で、子守歌なんだけどダンス・トラックになってる。“アナザー・ラヴァー” のトラック自体は昔から持ってた曲だったんだけど、歌詞は付けてなかったのね。それである日マジック・マッシュルームをやったときにすごく効いて、とてもサイケデリックな体験をしたの。泣いて、泣いて……そしたら突然、一緒にいた人の痛みを私が感じたのよ。感じられるはずないのにね。そのときのことを歌詞に書いて “アナザー・ラヴァー” に付けたの。ヴォーカルをレコーディングするときにも涙が止まらなくて、鼻水も止まらなくて、ぐちゃぐちゃになって、なぜかすっごく感情的になっちゃった。だから制作過程自体がエモーショナルだったのよね。

『ナブマ・ラバーバンド』ではロビン・ハンニバル(クアドロン、元ライ)が共同プロデュースで参加し、デ・ラ・ソウルのデイヴ・ジョリコーが作曲にも加わっていました。『ニュー・ミー、セイム・アス』はメンバー4人のみですべて作っていて、その面では初期のプロダクションに近いわけですが、アルバム制作に関してこれまでと何か違う点などありますか?

YN:色々な人が携わっていると、「何か忘れているんじゃないか」「もっとできることがあるんじゃないか」って、被害妄想的になりがちなのよ。デイヴはいいミュージシャンだから音楽的にもすごく助けてくれるし、ロビンは敏腕プロデューサーで、彼のアレンジで曲が流れるようにスムーズになる。アルバムを商業的に成功させるのに、いいプロデューサーが必要なのは事実だしね。でも今回は、その妄想を払拭することに決めたの。売れるアルバムを作るのが目的だったら、もっとメインストリームな曲を作るようにするわ。もちろんメインストリームな曲がいい曲じゃないって言ってるんじゃなくてね。多くの人に好かれるのは嬉しいことよ。でも、売るためにアルバムを作るのはやめた。「マックス・マーティンに気に入ってもらえれば、ラジオでたくさん流してもらえるかも」なんて、いまはそれを望んでないのよね。音楽を作るっていうのは取捨選択的で、自分たちらしい音楽を作るか、コマーシャル・ミュージックを作るかなのよ。ミュージシャンがそれを選ぶの。だから今回、私たちは決めたの。「これを気に入ってくれる人もいれば、そうじゃない人もいる」って。「自分たちの好きな音楽を作ろう」ってね。

“ホエア・ユー・ビロング” と “ステイ・ライト・ヒア” にサックスとギターで参加しているジョエル・ウェストバーグはどんなミュージシャンですか? 確か『シーズン・ハイ』でも演奏していましたが。

YN:昔からの友人で、素敵なミュージシャンよ。ドラマーであり、サックス奏者であり、プロデューサーでもある。サー・ワズっていう名前でもやっていて、長年私たちのライヴのサポートもしてくれているの。昔からいろいろなところから声がかかるような、優れたミュージシャンなのよ。それなのにあるときを境に、何ヶ月も自分の部屋にこもるようになった。「何してるのよ?」って訊いたら、「自分の音楽を作ってるんだよ」って。聴かせてって言っても、後でね、後でねって全然聴かせてくれなくて(笑)。最終的には公に出す勇気が出たみたいで、演奏もヴォーカルも自分でやってる曲をリリースしたわ。彼のことを誇りに思う。ミュージシャンとして尊敬してるから。それで今回のコラボレーションは彼から申し出てくれたの。サックスがうまいから、私たちの曲に良いエッセンスを加えてくれたわ。

ある日マジック・マッシュルームをやったときにすごく効いて、とてもサイケデリックな体験をしたの。泣いて、泣いて……そしたら突然、一緒にいた人の痛みを私が感じたのよ。感じられるはずないのにね。

エレクトロ・ポップと形容されることが多いリトル・ドラゴンですが、その中にはインディ・ロック、オルタナティヴR&B、ハウス、ニュー・ディスコ、シンセ・ブギー、ダブステップなどさまざまな音楽がミックスされています。『ニュー・ミー、セイム・アス』に関してはどんな音楽の要素が強いと思いますか? 個人的には “ホールド・オン” や “サッドネス” などダンサブルな曲がまず印象に残り、『99.9%』(2016年)に参加したケイトラナダの作品に通じるものを感じたのですが。

YN:難しいわね。私たちにジャンルは関係ないのよ。音楽ライターにとっては大事かもしれないけどね!(笑) ジャンルにはめて説明しないといけない仕事だから。でもごめんね、ミュージシャン自身が自分の音楽をジャンルに当てはめるのはもったいないと思ってるのよ。ポップです、ロックです、ヒップホップです、っていうのはちょっと違うの。音楽は説明するものじゃないわ。ティーンエイジャーだったら、自分のレコード・コレクションのためにラベル付けが必要なのかもしれないけど(笑)。私たちはもっと折衷的でありたいし、聴く人を混乱させたい。だから、あまり説明したくないの。例えば「エレクトロ・ポップだよね」って言われたとしても、「そうね」としか言わない。そう思うんなら、そうかもって。ジャンルは気にしないわ。他の国よりもアメリカで人気があるのは、そのせいかもしれない。新しいもの好きで、典型的なものを好まないリスナーが多いから。

エリック・ボダンが演奏するメロディ・ハープ(簡単にメロディを奏でられる小型のハープ)が多くの曲で使われていて、その円やかでキラキラした音色がアルバムのカラーにも影響を与えていると思います。どのようなアイデアでこの楽器を取り入れたのですか?

YN:最初は冗談だったのよ(笑)。スタジオにたまたまあって。珍しい楽器が目の前にあると、弾きたくなるのがミュージシャンの性分だから(笑)。それで弾いてみたら、「いいね、レコーディングしよう!」って。最終的にはほとんどの曲で使って、このアルバムの象徴みたいなサウンドになった。曲と曲を繋ぐ役割を果たしてくれていると思う。

後半は “ホエア・ユー・ビロング”、“ステイ・ライト・ヒア”、“ウォーター” とメロウで内省的な曲が続くのですが、この流れは何か意識したところがあるのですか?

YN:バンドの間にそういう感情が漂っている時期があるのよね。内省的で、回顧的な感情が。生死とか、変化について考えたりとかね。だからこのあたりの曲には、バンドのそういう雰囲気が反映されてる。その一方で “アー・ユー・フィーリング・サッド?” とか、“ホールド・オン” とか、明るい曲もある。そのバランスを見るようにはしたわ。前半は明るくて、後半は暗い。A面とB面みたいな感じで、両方楽しめるようになってるの。

最後にニュー・アルバムに関してどんなところを聴いて欲しいかなど、ファンに向けてのメッセージをお願いします。

YN:アルバムを最初から最後まで、トラック・リストどおりに聴いてほしい。人生を旅してるような気持ちでね。意味は自分で作ってもらって構わない。私も自分にとっての意味を心の中に持っているし、自分なりの意味を持つアルバムを聴くのは、安心するものだから。

質問・文:小川充(2020年3月26日)

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Profile

小川充 小川充/Mitsuru Ogawa
輸入レコード・ショップのバイヤーを経た後、ジャズとクラブ・ミュージックを中心とした音楽ライターとして雑誌のコラムやインタヴュー記事、CDのライナーノート などを執筆。著書に『JAZZ NEXT STANDARD』、同シリーズの『スピリチュアル・ジャズ』『ハード・バップ&モード』『フュージョン/クロスオーヴァー』、『クラブ・ミュージック名盤400』(以上、リットー・ミュージック社刊)がある。『ESSENTIAL BLUE – Modern Luxury』(Blue Note)、『Shapes Japan: Sun』(Tru Thoughts / Beat)、『King of JP Jazz』(Wax Poetics / King)、『Jazz Next Beat / Transition』(Ultra Vybe)などコンピの監修、USENの『I-35 CLUB JAZZ』チャンネルの選曲も手掛ける。2015年5月には1980年代から現代にいたるまでのクラブ・ジャズの軌跡を追った総カタログ、『CLUB JAZZ definitive 1984 - 2015』をele-king booksから刊行。

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