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interview with Wool & The Pants

interview with Wool & The Pants

東京の底から

──德茂悠(ウール&ザ・パンツ)、インタヴュー

取材・文:野田努    写真:トヤマタクロウ   Jun 17,2020 UP

大きかったのはスライでした。スライの作品にはすべてあるじゃないですか。ヒップホップ、テクノ、ダブ、スワンプ的でもある。それで、スライ的なことを別のスタイルでやってみようかなって思いはじめた頃に、バンド名をWool & The Pantsにする。

Wool & The Pantsは独自のサウンドを持っているけど、“Edo Akemi”なんかはその独自なところがすごくよく出ている。完全に自分のサウンドにしちゃってる。

德茂:(陣野俊史の)『じゃがたら』って本を大学生のときに読んだんですが、江戸アケミさんにすごく感情移入した時期があったんです。じゃがたらの1st(『南蛮渡来』)がめちゃくちゃ好きで。ただ自分が音楽をやるうえでは、絶対に真似はしたくないというのがあって。オリジナリティはずっと意識してました。ニュー・エイジ・ステッパーズが好きなのは、ダブだけどダブじゃないからです。ジェームス・チャンス、ESG、KONKのようなNY勢もそうですよね。ファンクでありファンクじゃない。僕が好きな音楽はみんなそうですね。オリジナルな解釈を持っている。

このアルバムを聴いたときに、ひき籠もってる感じ? もってる音色、ドラムの音にしてもそういうものを感じたし。それは意識してるんですか? このくぐもったような音とか。

德茂:もちろん、くぐもったような音は狙ってやっています。もともと僕の声が籠もっているんで、籠もった声でドラムだけクリアになってても合わないので。ただ、完全にフィーリングだけでやってます。

ミキサーはあるわけでしょ?

德茂:ないです。MC-909のなかで全部やってます。録音からミックスまで。歌録りは家にあるギター・アンプにマイクつないでそれのアウトから入れてます。でもどうでもいいんですよ、めちゃくちゃに録っても最終的にどうせ絞っちゃうんで。

機材を増やそうとは思わないんだ?

德茂:うーん、でもMC-909のジャンクじゃないものが欲しいっていまだに思ってますね。これしか使えないんで。

そういう意味でいうと、まさに德茂くんの生活から生まれた音だね。金をかけて作った音楽ではないっていうか。

德茂:アルバム出すために、スタジオで録音する、これくらい必要だ、お金稼ごう、みたいなのがしっくりこないんですよね。家にあるものだけでも面白いものはできると思うので。

ワンルーム・マンション?

德茂:ワンルームです、めちゃくちゃ狭くて、機材とベッドって感じです。4万円くらい。それ以前は3万円で、天井が落ちてきて引っ越しました(笑)。"Bottom Of Tokyo"ですね。

最近はUSのヒップホップではスタンディング・オン・ザ・コーナーにハマってるんだって?

德茂:そうなんです。3年前くらいに友だちが教えてくれたんですよ。「ちょっと似てるんじゃない?」って。たしかにやってることは違うけど音質が近い。スタンディング・オン・ザ・コーナーの音って、ロフト・ジャズの音。屋根裏の音っていうか、僕は地下だけど、メインステージにはどっちもいないっていうか。サン・ラについての曲があって、サン・ラは「別の場所へ行こう」って、グレイト・エスケープ的なことを歌っていたじゃないですか。だけど、サン・ラの曲をパロディしながら「僕らの世代はもう行く場所も無くなっている」っていうことを歌っているんですよ。“エイント・ノー・スペース”って。

そういう同世代の音や言葉って気になる?

德茂:気になるし、新しい音楽は好きですね。

次の新しいアルバム作ってるの?

德茂:作ってます。いまも点けたまんまですね、機材。

停電とかしたらやばいね。

德茂:めちゃくちゃヒヤヒヤしてますね。でもよくあるんですよ、落ちちゃって。年末から来年頭には出したいってずっと思ってます。

働いているとき以外は曲作ってるの?

德茂:いや、それもそれで疲れてきちゃって。働いて、家帰って本読んで、寝るって感じで。土日に曲作るって感じです。

曲のインスピレーションっていうのはどこからくるの?

德茂:普段の生活からですかね。大げさなものは嫌いなんですよ。過剰にドラマチックに演出するのも嫌いだし、過剰に壊滅的に絶望的な歌とかも苦手で。自分の生活に近い淡々とした感じというか。自分の温度の音楽を作ってる感じです。

いま作っているものって、アルバムとして作る最初の作品になるわけだけど、テーマとかコンセプトはあるの?

德茂:あります。前作は結果としてダブとファンクが中心に出来たものだと思っていて、次のアルバムもダブは引き続き残るんですけど、JAZZとヒップホップを混ぜたものになるかなと思ってます。あと最近歌い方がようやく定まってきた気がしてます(笑)。

好きなヴォーカリストっているんですか?

德茂:います。マッシヴ・アタックは客演も含めてヴォーカルが良い曲が多いと思います。声でいったらMFドゥームとかメソッド・マンも好きですね。

今回のアルバムのなかで、アルバムを象徴している曲名は何だと思いますか?

德茂:“Bottom Of Tokyo”ですかね。

ちなみにこの緊急事態宣言のときは家から出ないでいたの?

德茂:仕事が週3日あったので。それ以外は散歩だけですね。

音楽以外で楽しみってなに?

德茂:本が好きで。小説ですね。宇野浩二とかミシェル・ウエルベックとか。最近は金子薫って人も好きで読んでます。

 こんな感じで、彼との1時間半ほどのお喋りは終了した。始終と淡々と喋っているが、若い世代らしく会話のなかでは、ロバート・グラスパーなんてダサいとか、思い切りが良い言葉がどんどん出てくる。敵を作りそうなことは言わない、優等生ばかりが目立つ昨今のインディ・シーンにおいて、こういう性格は浮いてしまうのだろうけれど、いままでレコードでしか聴けなかったWool & The Pantsのデビュー・アルバムがこの6月にはCDとして流通することになった。すべては作品で判断されるだろうし、「なぜ(why)」彼はその音楽を演り、「どう(how)」表現するのかにおいての「なぜ」の部分も、年内もしくは年明けにリリースされるセカンドで、より明らかにされることを願っている。

※WATPのインスタはこちらです。https://www.instagram.com/woolandthepants/

取材・文:野田努(2020年6月17日)

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